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「OVERLOUD Comp LA」製品レビュー:往年のコンプレッサー2機種を再現し独自機能を追加したプラグイン

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2A/3Aモードを切り替え可能 付加した倍音の量をメーターに表示

 Comp LAは、真空管回路を備えたTELETRONIX LA-2Aとソリッド・ステート回路を採用したUREI LA-3Aという歴史的なオプティカル・コンプレッサーをモデリングし、一つに搭載したプラグインです。今までさまざまなメーカーがこの2機種をモデリングしてきましたが、それを1つのプラグインにまとめたものは今回が初めてではないでしょうか。  それではプラグイン画面を見てみましょう。Comp LAには2Aモードと3Aモードの2つがありますが、ノブの配置や仕様はどちらも同じです。画面上段の左端にはLIMIT/COMPRESSの切り替えスイッチがあり、これでレシオ値を変更することができます。その右側にはGAINノブがあり、リダクション後のゲイン量を調整することが可能です。そして、中央のメーター画面を挟んだ反対側にはPEAK REDUCTIONノブが備わっています。これは、通常のコンプレッサーで言うとスレッショルド値をコントロールするためのノブ。これでどの程度コンプレッションするかを決めることができるのです。  画面中央にあるメーターの下段には、4つのボタンを搭載。INは入力音量、GRはコンプレッションの量、OUTはGAINノブ通過後の出力音量、HARは原音に対して付加された倍音の量という設定で、メーター表示を切り替え可能です。HARボタンに関して言うと、今までこのような機能のあるプラグインに出会ったことがなかったので斬新に感じます。実際同じ設定にした2Aモードと3AモードでHARボタンを押して比較してみると、チューブ・タイプである2Aモードの方が倍音が多く付加されているのがメーターで確認できました。  

M/Sプロセッシングにも対応 HARMONICSノブで倍音成分を調整

 次はプラグイン下段を見ていきましょう。左から2A/3Aのモード切替スイッチ、インプット・レベル・ノブがあります。もともと実機のLA-2AとLA-3Aには入力ゲイン調整が無いため、入力が大き過ぎるとPEAK REDUCTIONの値が小さくても大きくコンプレッションされてしまうことがあり、少々使いづらいところがありました。またGAIN値次第で倍音の出方が大きく変化するため、なるべく大きくしたい場合においても、インプット・レベルが下げられると調整しやすくて便利です。   [caption id="attachment_82540" align="aligncenter" width="650"]▲MID-SIDEモードを選択したときに出現する画面。ステレオ・トラックにインサートした場合にのみ有効になり、M/S処理が可能となる。画面内のラック上段がミッド成分、中段がサイド成分を処理する ▲MID-SIDEモードを選択したときに出現する画面。ステレオ・トラックにインサートした場合にのみ有効になり、M/S処理が可能となる。画面内のラック上段がミッド成分、中段がサイド成分を処理する[/caption]  インプット・レベル・ノブの右側には、ステレオとM/S処理のモード切替スイッチを装備。MID-SIDEモード選択時はマスタリングなどで用いられるM/S処理が可能となります。こちらもスイッチ一つで行えるのでありがたいです。  このスイッチの右側上段にあるHARMONICSノブでは、倍音の付加具合を調整することができます。オリジナルの質感はもちろん、より豊かな倍音を付加したり、よりクリアなサウンドにすることが可能です。HARMONICSノブの下段にあるLF SENSノブは、トリガー信号へのローカット・フィルターとして機能します。続いて、右隣に並ぶPARALLELノブはパラレル・コンプレッションを、OUTPUTノブは文字通り出力レベルの調整が可能です。  普段、筆者は主にボーカルにLA-2A系プラグインを使っており、“コンプレッション感はちょうど良いけれど、もう少しひずみ成分を減らしたいな”と思うときがこれまで幾度とありました。しかし、Comp LAではその調整が可能なのでとても実用性が高いと思います。サウンドの質感も他社のLA-2A系プラグインよりナチュラルな傾向で、元音のニュアンスをより生かしたサウンド・メイキングが行えるでしょう。  また2Aモードと3Aモードの切り替えがスイッチ一つでできるのは、普段2Aモードをセレクトしがちな場面でも3Aモードだとどうかな?ということを気軽に試せるので良かったです。プラグインの差し替えは、ものの数クリックとはいえ意外と手間ですからね。  Comp LAは、LA-2A/3A系モデリング・プラグインとしては後発組なだけあってより洗練され、便利な機能が盛り込まれている印象。特に一番主役のボーカルやベースなどに有効です。使用方法も難しくないので、ぜひ皆さんに使ってみてほしいと思います。ミックス時の必須アイテムの一つとなるプラグインでしょう。   (サウンド&レコーディング・マガジン 2019年12月号より)

ACOUSTIC REVIVE クロス・レビュー「導通向上クリーナー」

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第18回「導通向上クリーナー」

ACOUSTIC REVIVE代表 石黒謙、氏の技術解説

ECI-50は、接点をクリーニングすると同時に導通性も向上させ、さらに接点の保護と安定化を実現する“一石三鳥”の効果を備えています。ECI-50は、高分子オイルの中にナノレベルのダイヤモンド・カーボン粒子を含んでいます。これが接点の点接触の部分に集まっていく“量子効果”と呼ばれる作用により、接点を増大させ、時間の経過とともに導通性がみるみる向上。24時間後には安定状態となり、効果は長期にわたって継続します。 例えば、コンピューターのLAN端子などに塗布すると、転送速度が最大で20~30%も速くなるなど効果絶大です。また、ほかの接点材のように接点を汚すこともなく、樹脂を破壊する界面活性剤や絶縁材となるポリマーなどを使用してもいないため、安全にクリーニングと導通特性の向上を実現。音質的副作用の発生もありません。 ビンテージ・アウトボードなどは、経年劣化によりあらゆる接点に接触不良が発生しています。ガリの発生などは接触不良の最たるものですが、大きなノイズにつながらずとも微細な接点の接触不良は各所で発生しており、これがシステム全体のS/Nやひずみ率などを悪化させています。ECI-50は、これらの接触不良を完全に解消しますので、低ひずみで高S/Nなエネルギー感にあふれた音質へと、劇的なクオリティ・アップが可能となります。 <Price> ●ECI-50(容量50ml):8,800円  

Cross Review

Engineer 三好敏彦 M <Profile>HAL STUDIOを拠点とし、ビンテージ機器やケーブル類まで造詣が深いエンジニア。Superfly、Little Glee Monster、坂本真綾、安野希世乃などを手掛けてきた。

低〜中低域が充実しビッグな音に 液体が透明なのも現場向けの特徴

アウトボードなどビンテージ機材の多いスタジオでは接点復活剤が必需品で、我がスタジオも25年前の発足当初からいろいろな製品を使ってきましたが、このECI-50はほかと一線を画す革命的な接点復活剤と言えるでしょう。 通常ナノカーボン系の接点復活剤はとても導通が良くなるので、アタックのスピード感がアップしつつ鮮明度や解像度も上がるのですが、どうしても音の厚みが減りスリムになる傾向があります。極端に例えると、肉から脂肪の旨味が落ちたように、何か大切な音が失われるところも出てきます。しかしECI-50は、それらが失われたり犠牲になるところが一切ありません。 低域はキックのアタック感が出つつ、低域〜中低域が充実してビッグな音に。とは言え高域が減ることはなく素直に伸び、中域〜高域は解像度が上がりつつ、ピーク感やひずみ感が和らぎます。全体として、音楽制作の現場で求められている音が、変質したりやせたりすることなくワンランク上の音像になる印象です。またナノカーボン系の製品は液体自体が黒いので、汚れと見分けが付かず接点が汚くなるのが欠点ですが、ECI-50は液体が透明で、現場で重宝されるものになっています。 今回はさらに、ACOUSTIC REVIVEのライン・ケーブルXLR-1.0TripleC-FMを同時に使ってみました。色付けが少なくワイド・レンジで、高域の広がりと空気感が好印象。また低域の力強さや中低域の肉付きをダブつかせず、ソリッドに鳴らす感じです。極端な音質変化は無いのに、確実に一級品の音像になり、まさにベスト・マッチ。私にとっても久々に出会えたとても良いオーディオ製品です。     Engineer 清水裕貴 S <Profile>マルニスタジオを経てフリーに。音楽プロデューサー島崎貴光の作品で録音&ミックスを多数担当し、MiL Studio 目黒のチーフに。キノコホテルなどを手掛ける。

音に芯と安定感が出て EQによる変化も分かりやすくなる

ECI-50による変化を確実に体感すべく、ステレオのコンプとEQを使い、通した音を録って比較。ECI-50を塗布し24時間経過後にチェックしてみたところ、塗布前の音像が散って聴こえるほどのまとまり感で、特に中~低域が素晴らしいと感じました。芯と安定感が出て、EQによる変化も分かりやすくなったのです。トランジェント特性も改善されたようで、塗布前の音&波形よりも立ち上がりが良くなっています。さらにライン・ケーブルを同社のXLR-1.0TripleC-FMに替えてみると、高域に余裕が出て伸びやかな音に。サンプル・レートを一段階上げたような印象です 次に歌録りでチェック。同一のマイク、プリアンプ、コンプを2セット用意し、片方にのみECI-50とXLR-1.0TripleC-FMを使用しました。キュー・ボックスで歌い手本人にも切り替えができるようにしてみたところ、ECI-50を使った方が歌いやすいと好感触。声の立ち上がりと語尾の余韻感をコントロールしやすくなったようで、明らかに表現力が上がり良いテイクになったことが筆者にも分かりました。     Composer/Arranger 益田トッシュ TM <Profile>映画の『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』挿入歌の作編曲、NHKオンライン『みいつけた!』のエンディング曲「グローイングアップップ」の編曲などを手掛ける。

原音には無い雑味が減り クリアかつ低重心なサウンドに

DAW内の音をアナログ出しするミックスやマスタリングを想定し、単体機のDAおよびADコンバーター、アウトボードの入出力とライン・ケーブルを含めた接点のすべてにECI-50を使用。DA出力はもう一つのDAWシステムにアナログ入力し、録音しました。ケーブルは同社XLR-1.0T ripleC-FMと普段自分が使っているものを用い、各ケーブル、接点含めてECI-50あり/なしの2パターンを比較。試聴したところ“接点ってこんなに大切なんだ!”と気持ちを新たにしました。これほどの差が出るとは正直驚きです。 ECI-50を使うと音のクリアさが増し、重心が下がり、ノイズっぽさというか雑味が減ります。この雑味は一聴すると派手さのようにも感じられるのですが、実は原音には無い成分。アナログ出しすると付帯してしまうのかな?と今まで思っていたのですが、ECI-50使用後の音が真実でした! XLR-1.0TripleC-FMはエッジの効いた音なのに耳に痛くなく、大変ファットでスピード感と力強さがあります。細部の表現に優れ、仕込んだ音のすべてが聴こえました。     <製品概要> ACOUSTIC REVIVE ECI-50 (導通向上クリーナー) (本稿はサウンド&レコーディング・マガジン2019年12月号からの転載となります)

「SOFTUBE Chandler Limited Curve Bender」製品レビュー:EMIのアナログ・コンソールTG12345を祖に持つプラグインEQ

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周波数ポイントの数が多く M/S処理やチャンネル・リンクに対応

 このプラグインのモデルとなったTG12345 Curve Benderは、1969年に開発されたアナログ卓EMI TG12345のEQを2000年代にアウトボードとしてリイシューしたもの。アビイ・ロード・スタジオ75周年を記念し、CHANDLER LIMITEDのサーキット・デザイナー、ウェイド・ゴーク氏とアビイ・ロードのエンジニア、ピーター・コビン氏が現代的なマスタリング・スタジオに向けて機能を追加し作り上げました。その元になったTG12345は、EMIの技術者が設計/製作し、アビイ・ロードの第2スタジオに納入されたオール・トランジスターの卓です。ザ・ビートルズ『アビイ・ロード』やピンク・フロイド『狂気』などが、これを使ってレコーディングされています。  TG12345 Curve Benderに新規搭載された主な機能は、ハイパス・フィルターとローパス・フィルター、そしてより多くの周波数ポイントです。パネル上部には周波数ポイントを設定する赤いノブが並び、その周りに白色と黄色の数値が書かれています。白い数値はオリジナルのTG12345にも採用されているポイントで、黄色の方はリイシューにあたり追加されたものです。今回レビューするプラグインは、このTG12345 Curve Benderを精緻にモデリングしつつ、M/S処理モードやチャンネル・リンクといった機能を新搭載しています。  詳しく見ていきます。画面中央には4つのスイッチがあり、それぞれLchまたはミッド・チャンネルのオン/オフ、Rchもしくはサイド・チャンネルのオン/オフ、それからM/Sモードやチャンネル・リンクといった機能のオン/オフです。M/SモードがオンのときはLch(画面左側)のEQでミッドを、Rch(画面右側)のEQでサイドを制御する仕様。チャンネル・リンク機能は、通常のステレオ・モード時にはL/Rchをリンクさせ、M/Sモード時はミッドとサイドをリンクさせます。これらのスイッチの下には0.5dBステップの出力ゲイン・ノブがあります。   [caption id="attachment_82550" align="aligncenter" width="650"]▲︎各チャンネルのEQは4バンド。一番左に位置するのがBASSと呼ばれる低域用EQで、一番右が高域用のTREBLEだ。それらの周波数ノブ(赤色)の傍らには、カーブ切り替え用のトグル・スイッチを配置(シェルビング/ベル)。BASSとTREBLEの間に配置されているのは、PRESENCE 1/2という2つのEQだ ▲︎各チャンネルのEQは4バンド。一番左に位置するのがBASSと呼ばれる低域用EQで、一番右が高域用のTREBLEだ。それらの周波数ノブ(赤色)の傍らには、カーブ切り替え用のトグル・スイッチを配置(シェルビング/ベル)。BASSとTREBLEの間に配置されているのは、PRESENCE 1/2という2つのEQだ[/caption]  各チャンネルのEQは4バンドです。BASSとTREBLEの2つのバンドはシェルビングとベルの2種類のカーブを切り替えて使用でき、あとの2つ(PRESENCE 1/2)はベル固定です。周波数ポイントは赤いノブで選び、BASSには35/50/70/91/150/200/300Hzという選択肢がスタンバイ。その隣のPRESENCE 2は0.3/0.4/0.5/0.8/1.2/1.8/2.8/3.6kHzで、さらに隣のPRESENCE 1は0.8/1.2/1.8/2.8/3.6/4.2/6.5/8.1kHz、TREBLEは3.6/4.2/6.5/8.1/10/12/16/20kHzというバリエーションです。既にお気付きの方も居るでしょうが、各バンドでかぶっている周波数ポイントが多いです。これは使いやすさにつながっており、例えば6.5kHzと12kHzを触りたいならPRESENCE 1とTREBLEを併用すればOK。またTREBLEをシェルビングにして3.6kHz以上を上げ、PRESENCE 1で8.1kHz辺りだけを下げるようなことも可能です。昨今のDAWに備わっているパラメトリックEQなら簡単に行えるコントロールですが、周波数ポイントが連続可変でないEQ(例えばAPI 550Aなど)では難しい場合が多く、このプラグインが名機の再現にとどまらず、現代のニーズに合わせた追加の設計をしていることが分かります。   [caption id="attachment_82551" align="aligncenter" width="625"]▲ハイパス・フィルター(上)とローパス・フィルター(下)。下は20Hzから、上は30kHzから切ることができ、スロープは共に−6dB/oct ▲ハイパス・フィルター(上)とローパス・フィルター(下)。下は20Hzから、上は30kHzから切ることができ、スロープは共に−6dB/oct[/caption]  ハイパス・フィルターのポイントは20/30/40/50/60/80/100/160/200/320Hz、ローパスは30/20/18/14/12/10/8.1/5/3/2kHzで、スロープはいずれも−6dB/oct。特に、このパス・フィルターのポイントが多いので、ビンテージ的な音でありながら現代でも使いやすいです。マスタリング時の微細な設定だけでなく、積極的な音作りも行えます。  

増減幅を±10dBと±15dBから選択可能 大胆な設定にしても音色が崩れにくい

 周波数ノブの下にある黒いノブは、ブースト/カットに使用します。その下のトグル・スイッチは増減幅を設定するもので、ブースト/カット・ノブの表記は−5〜+5dBなのですが、トグル・スイッチを下にしたとき(×1モード時)は1dBステップで±10dBの調整が行え、上にしたとき(×1.5モード時)は±15dBのコントロールが可能。   [caption id="attachment_82552" align="aligncenter" width="300"]▲各バンドの増減幅を変えるためのトグル・スイッチ。上にすると±15dB、下に合わせると±10dB。中央のOUTはバイパス・モードだ ▲各バンドの増減幅を変えるためのトグル・スイッチ。上にすると±15dB、下に合わせると±10dB。中央のOUTはバイパス・モードだ[/caption]  例えば、ノブを+5の位置に設定すると×1モードでは+10dB、×1.5モードだと+15dBになります。このトグル・スイッチがユニークなのは×1.5モード時にQ幅が狭くなるところで、×1モード時と同じ増減量にしても音は別物です(BASSとTREBLEはベル・カーブ選択時にQ幅が変化します)。また、トグル・スイッチを真ん中の“OUT”に合わせると、各バンドを個別にバイパスすることが可能です。  筆者は既にUAD-2のChandler Limited Curve Bender Mastering EQをかなりの数のミックスに使ってきましたし、とても気に入っています。用途は、マスターにインサートしてミックスを整えるというもの。今回のChandler Limited Curve Benderも、マスターやドラム・バスへ使うのに良いと思います。また、ピアノやボーカルといった各トラックにも非常に使いやすく、素早く設定できて良い感触。どの帯域を調整しても“EQしています”という感じにならず、自然な雰囲気でまとまります。極端に持ち上げたりしても、その楽器の音色が破たんしにくいように感じました。高域を上げたときは耳に痛い音にならず自然に持ち上がり、低域ブースト時もダブつかず音色全体が良い質感になります。  使い勝手が良く、筆者好みの質感(例えばザ・ビートルズの後期のような感じ)になってくれるので、今後も使い続けると思います。高品質なプラグインEQを購入検討している方は、候補に入れてみるといかがでしょう。   (サウンド&レコーディング・マガジン 2019年12月号より)

「EASTWEST Hollywood Pop Brass」製品レビュー:名プレイヤーたちの演奏フレーズを収録したポップス系ブラス音源

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サステインや特殊奏法など アーティキュレーションを8セット収録

 HPBに収録されたサンプル素材はハリウッドのEASTWESTスタジオにてレコーディングされ、多くのグラミー受賞歴を誇るエンジニアのムーギー・カナージオによって監修されているとのこと。筆者は日ごろからEASTWESTのソフト音源を幾つか愛用しているが、音色はもちろん、収録場所であるスタジオの響きもリッチで気に入っている。またクラシックとポップスで分けた場合、ブラスはほかのパートと比べて奏法などが大きく異なるため、クラシックに特化した音源をポップスに併用するといったことが難しいことが多い。これまで筆者はポップスに特化したブラス音源をいろいろ探し求めてきたので、今回のHPBには興味津々である。  HPBには数種類のサステイン・アーティキュレーションを収録した“Sustain”、スタブやスタッカート/マルカートなどのショート・アーティキュレーションをまとめた“Short”、フォールやトリルといった特殊奏法を含んだ“Effects”、モジュレーション・ホイールを使って複数のアーティキュレーションをコントロールできる“MOD Combo”、そのほか“Legato”“Phrase” “Licks” “Keyswitch”の合計8フォルダーが格納されており、さまざまな演奏スタイルに対応することが可能だ。   [caption id="attachment_82564" align="aligncenter" width="627"]▲左上のMixerタブ(赤枠)をクリックすると、インジケーターを伴ったチャンネル画面が現れる。より細かくミックスを行いたい場合に便利だ ▲左上のMixerタブ(赤枠)をクリックすると、インジケーターを伴ったチャンネル画面が現れる。より細かくミックスを行いたい場合に便利だ[/caption]  HPBは、同社専用再生エンジンであるEASTWEST Playに読み込んで使用する。Playerタブでは画面右側のミキサー・セクションに5つのチャンネルが用意され、それぞれ音量やパンニング、ソロ/ミュートなどの調整が可能だ。これらのチャンネル振り分けは、選択したパッチによって自動的に設定される。ちなみにPlayerタブの左隣にあるMixerタブをクリックすると、画面にインジケーターを伴ったチャンネルが出現する。より細かいミックスを行いたい場合は、こちらのタブで作業することがお勧めだ。  

近年の洋楽ポップスで聴かれるような リアルでワイド・レンジな響き

 それではSustainフォルダーのパッチをロードし、試奏してみよう。サウンドは、近年の洋楽ポップスで聴かれるブラス・サウンドのようにワイド・レンジな響き。過度にEQ処理されたような感じもなく、プレイヤーのリアルな演奏をコントロール・ルームで聴いているような印象も受ける。ちなみにミキサー・セクションにある5つのチャンネルの振り分けは、左からトランペット/トロンボーン/サックス/ルーム/サラウンドとなっている。  またブラスの表現に欠かせないクレッシェンドにおいては、音の長さ別に3種類のパッチが用意されているほか、モジュレーション・ホイールでダイナミクス間のクロスフェードが行える“Xfde”専用パッチも装備。まさに自由自在だ。  次にLegatoフォルダーのパッチを試してみる。オーケストラに特化した同社のソフト音源=Hollywoodシリーズで蓄積されたであろうレガート技術が、HPBのコンセプトでもあるポップスに特化した形で磨きがかけられているように感じた。  続いてPhraseフォルダーもテスト。ここには名プレイヤーたちが演奏したフレーズが、さまざまなキーやボイシングでテンポ別に収録されており、楽曲内で使用すればさらに躍動的な印象を与えることができるだろう。また、ここにはほかのパッチよりも厚めの音色が収録されている傾向だ。  Licksフォルダーには120BPMで演奏されたショート・フレーズが収録されており、それらはDAWのテンポに追従する。さらに、MIDIノートでルート音を指定したり、モジュレーション・ホイールでボイシングをコントロールできるというユニークな仕様にもなっている。  HPBを駆使すれば、米国のファンク/R&Bバンド、タワー・オブ・パワーのようなグルービーでリアルなブラス・サウンドが表現可能だろう。惜しい点を挙げるとすれば、Sustainのパッチにてノートを1つ押すとオクターブ・ユニゾンで再生されるところ。これで3声などを組むと、オクターブで音が重なってしまうのだ。恐らくEASTWESTは、録音時の響きや空気感に重点を置いているためあえてこうしたのだと思われる。いずれにしても、世界レベルのホーン・プレイヤーの息吹を詰め込んだHPBは、歌モノにはもちろん、CM音楽、劇伴、テーマ・パークの音楽などあらゆるシーンにおける音楽制作の現場で活躍することだろう。   (サウンド&レコーディング・マガジン 2019年12月号より)

「SPITFIRE AUDIO Symphonic Organ」製品レビュー:3,721本ものパイプが作り出す音をサンプリングしたオルガン音源

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手鍵盤とペダルを1鍵で同時発音可 美麗な残響で生音とのなじみも良好

 Symphonic Organは、NATIVE INSTRUMENTS Kontakt 5 Playerをエンジンに採用しており、Mac/Windowsに対応しています(AAX/AU/VST/NKSまたはスタンドアローンで動作)。音源を起動すると、Symphonic OrganとWarpsという2つのパッチ、Advancedというフォルダーがあります。まず、メイン・パッチにあたるのがSymphonic Organで、基本的にこれを呼び出しておけば間違いありません。ちなみにこのパッチは、マニュアル(手鍵盤)やペダル(足鍵盤)が1つの鍵盤で鳴るようになっているので、さくっとモックアップを作りたいときにとても便利です。僕が使用してきたこれまでのパイプ・オルガン音源ではそれらが別々でしか収録されていないものも多く、打ち込みの際に手間になってしまうことがありましたので、ここはお気に入りポイントです。さらに良いのが、マニュアルやペダルがそれぞれ個別にも収録されている点です(後述のAdvancedフォルダーから呼び出せます)。このおかげで打ち込みにこだわりたい人に向けてもすきが無い出来になっており、まさにユーザー・フレンドリーなSPITFIRE AUDIOの真骨頂といったところでしょうか。  音を鳴らしてみてまず思ったのが、とても素直な鳴りをしているということです。残響もとても奇麗ですので、SPITFIRE AUDIOのほかの音源はもちろん、他社製の音源や生音とも違和感なく溶け込みました。マイクは遠近で6種類用意されており、中でも一番クローズなものは非常にデッドです。これはスタジオ収録など比較的デッドな空間で録音された生音と混ぜる際に、とても使いやすいのではないでしょうか。一番遠いマイクでも残響はそこまで長くなく、あくまで自然なものになっていますので、リバーブのノリがとても良いです。またそれぞれのマイク音量を調整しブレンドして使うということも可能なので、残響にこだわりたい方は徹底的に追及できます。  打ち込む際も鍵盤ごとのアタックの違いなどは全然感じませんでしたので、どんなフレーズでも柔軟に使えます。そのお陰もあり、ベタ打ちでもかなり本物のように鳴りますね。  

独自エンジンEDNAでのシンセ的音作り 鐘の音など即戦力のサウンドも収録

 次にWarpsというパッチです。これは収録しているオルガンの音を用いて、いわゆるシンセ的な音を再構築して鳴らせるというものです。EDNAエンジンによる50種類のWarpsプリセットの中から幾つか音色を触ってみたところ、パッドやテクスチャー寄りのものが多く、適当に鍵盤を押さえているだけでもインスピレーションが湧き出てきます。エンベロープやゲート、FXなども充実しており、つまみを適当にいじっているだけでも楽しく、まるでアナログ・シンセサイザーのようです。このような特色から、シーンによってピンポイントでの活用がとても有効だと思いました。ハマったときの効果には、ほかの音源では得られないものがあると思います。   [caption id="attachment_82573" align="aligncenter" width="626"]▲SPITFIRE AUDIO独自のサンプル・シンセサイザー・エンジンEDNAを採用したWarpsの画面。フィルターやエンベロープ、ウォブルなどと組み合わせて、2つの音色を混ぜ合わせたりモジュレートさせることで、サウンドに変化をつけることができる ▲SPITFIRE AUDIO独自のサンプル・シンセサイザー・エンジンEDNAを採用したWarpsの画面。フィルターやエンベロープ、ウォブルなどと組み合わせて、2つの音色を混ぜ合わせたりモジュレートさせることで、サウンドに変化をつけることができる[/caption]  最後にAdvancedフォルダーですが、ここには前述したマニュアルやペダルごとのパッチやFXが収録されています。マニュアル16種類、ペダル13種類、追加の低音、8種類のアンサンブルから音色選択も可能ですので、打ち込みを追及したいときはこれらを組み合わせて使用するのがよさそうです。  Advancedファルダーの中で個人的にヒットしたのが、FXパッチです。この中にはストップ・ノイズや鐘の音色が収録されており、この鐘がとても秀逸で鳴らすだけで雰囲気抜群。薄暗い教会でバンパイアがコウモリに変身して飛び立つようなイメージです。文字で書くと伝わりづらいですが、これは一聴の価値があると思います。このような飛び道具が大好きな僕としては、うれしい誤算になりました。僕の今後の楽曲でもし鐘が鳴っていたとしたら、それはSymphonic Organだと思ってください。   [caption id="attachment_82574" align="aligncenter" width="650"]▲Advancedフォルダー内のFXパッチ。選択した音色が赤枠の部分に表示される。スウェル、リリース、タイトネス、エクスプレッションなどのパラメーターで音色を調整可能 ▲Advancedフォルダー内のFXパッチ。選択した音色が赤枠の部分に表示される。スウェル、リリース、タイトネス、エクスプレッションなどのパラメーターで音色を調整可能[/caption]  オルガン専用音源というとどうしてもそろえるのが後回しになりがちで、総合音源のものを使っているという人も多いと思います。今回のSymphonic Organは、値段とクオリティの両方を考えた圧倒的コスト・パフォーマンスの良さから、そうした方の最初の一つにとてもお薦めです。  またプロ・ユースとしても、オルガン音源はひとまずこれを持っておけば当分良いかなという印象です。SPITFIRE AUDIOの音源は新作が出るたびチェックしており、今回紹介したSymphonic Organが僕の新たなお気に入りに加わったことは言うまでもありません。   (サウンド&レコーディング・マガジン 2019年12月号より)

「SENNHEISER IE 400 Pro/IE 500 Pro」製品レビュー:7mm径ダイナミック型ドライバーを搭載したインイア型イアフォン

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外音も聴こえる適度な遮音性とフィット感 立体的な音像で高域の立ち上がりが速い

 両モデルとも筐体は同じプラスチック製で、イア・アダプターはシリコン製のものとフォーム・タイプのもの、それぞれS/M/Lサイズが同封されています。僕は耳の穴が少し小さい方なのでフォーム・タイプのSサイズを装着してみました。即座に感じたのは“自然”の一言に尽きます。無理なく耳にフィットしつつ、カナル型イアフォンにおいてよく感じる耳の中が真空になったような圧迫感もありません。そして何より、とても軽いのです。IE 400 Proはケーブルがラバー・チューブ製でフワフワ、IE 500 Proはいわゆるツイスト・ケーブルになっており、絡むこともなく取り回しが非常に楽です。ライブで演奏中に首を傾けたりするとよく起こる、どこかに引っかかったような感覚もあまりありませんでした。  僕はドラマーですので当然装着しながらドラムをたたくわけですが、生音がかすかに聴こえてくる方がたたきやすいのです。IE 400 ProとIE 500 Proは、適度にマスキングされたドラムの音がほんの少し聴こえてくるような、全く違和感の無いちょうど良い遮音性を実現していました。  さて、次は大切な音の印象について話しましょう。両モデルとも共通して、立体感のある非常に聴きやすい印象です。低域から中域が少し丸みを帯びた質感で、高域に上がっていくに連れて立ち上がりが速くなっていくような音像でした。  IE 400 Proの方は、中域の塊が心地良く耳に入ってきます。イアモニをするライブではほぼ必ず同期と共にクリックが進行するので、クリックとトラックの混ざり具合がドラマーにとってはとても重要です。両モデルとも、多少クリックのボリュームを上げてもピーキーに感じることもなく、カウベルのような音色はむしろ聴き心地良く鳴ってくれます。  IE 500 Proに至っては、IE 400 Proに比べてグッと音の距離感が近くなります。丸みを帯びながらもコシのある低音と、高音はそのままの質感で再現されて聴こえてきます。クリック音もIE 400 Proに比べるとタイトな響きで、立ち上がりが速くなった印象です。聴いているうちに“もっと縦を気にして演奏しなさい”とイアモニに言われているような気さえしてきました。先述の通り両モデル共にとても軽いので、長時間装着したまま演奏していても耳が疲れません。   [caption id="attachment_82583" align="aligncenter" width="626"]▲付属品は両モデル共通。イア・アダプターはシリコン製のS/M/Lとフォーム素材のS/M/Lの2タイプ×3サイズで用意されている。ほかには、クリーニング・ツールとステレオ・フォーン変換アダプター、ケースも付属されている ▲付属品は両モデル共通。イア・アダプターはシリコン製のS/M/Lとフォーム素材のS/M/Lの2タイプ×3サイズで用意されている。ほかには、クリーニング・ツールとステレオ・フォーン変換アダプター、ケースも付属されている[/caption]  

自然な響きで汎用性が高いIE 400 Pro 高解像度でミックス向きのIE 500 Pro

 今度はライブの現場から離れて、リスニングおよびミックス作業に試してみました。両モデルとも、非常に定位がハッキリしています。IE 400 ProとIE 500 Pro共に何の楽器がどこにあるのかが分かりやすく、左右のパン、低域から高域までの音のレイアウトが耳の中で鮮明に聴き分けられます。特にIE 500 Proの方は、より一層の高解像度です。耳に近いところで立体的に迫ってきます。例えば、EDMやエレクトロニカなどの音楽を聴いていると、その情報量に驚かされるほどです。  一方、IE 400 Proは立体感もありますが、よりマイルドな感触で音の塊として耳に入ってきてくれます。なので、普段のリスニング用としてはIE 400 Proの方が耳が疲れずに長時間聴いていられるのではないかと思いました。また、アコギを主体としたアコースティックな曲を聴く際はIE 400 Proとの相性がとても良いと感じます。ボーカルとトラックとの一体感もナチュラルな質感の音で感じられるので、“こういう風に聴こえるように仕上げたんだろうな”と作り手やミックスの意図も伝わってくると感じました。高域になればなるほど、徐々に音が軽めに響く印象を受けますが、リスニング用としてはそこも聴きやすさの一助になっているのではないかと思います。  IE 500 Proはミックスやポストプロダクションなど隙なく追い込んで行く作業の際に、そのポテンシャルが十分に発揮されると思います。真ん中あたりで強く響くキックから、ハイハットなどの高音系が一気にサイドに広がっていくような印象です。とても立ち上がりの速い音像で、音楽が立体化されていくような感じがしました。  今回は両モデルとも、ライブ、リスニング、ミックスと異なる状況での比較を行いました。共通しているのは“自然な聴き心地”が下地にあることです。それを踏まえて、プロ・ユースでありつつ普段のリスニングなど幅広い用途を考えて購入するならばIE 400 Proをお薦めします。通勤時でも同期もののライブでも十分に機能するでしょう。一方、IE 500 Proは、ミックスで定位やバランスを丁寧に追い込んでいきたいときなど、より一層シビアな作業でとても重宝すると思います。特に打ち込みでは、グリッチ・ノイズの繊細なレイアウト、ボーカル・トラックのトリートメントなどニュアンスを細部まで確認したい際に、その魅力が最大限に発揮されるはずです。   (サウンド&レコーディング・マガジン 2019年12月号より)

さまざまな現場で多様性を見せるデジタル・コンソール=YAMAHA TF Series

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第1回 TF3×time Tokyo

マルチタッチ対応のタッチ・パネルを採用し、それに最適化された直感的なワークフローを特徴とするTFシリーズ。YAMAHAが2015年に発売したPA用デジタル・コンソールで、昨今さまざまなジャンルの現場に導入され、活躍を見せている。そのTFシリーズの使われ方をレポートするのが本連載。今月は、東京のライブ・ハウスtime Tokyoに常設された24チャンネル・フェーダー/48インプットの機種=TF3にフォーカスしてみるとしよう。

アナログ卓のようにストレートな設計で 各種操作がストレス無く行える

京王堀之内駅から徒歩3分という立地のtime Tokyo。大阪・難波のライブ・スペースartyard studioの系列店として2018年9月にオープンしたワンフロアのベニューで、スタンディングで140名を収容する。音楽ライブやDJイベントはもちろん、ミュージック・ビデオの撮影などにも対応しており、あらゆる場面でTF3を活用中だ。 オーナーの滝本ハルオ氏によると、YAMAHAの製品は堅牢(けんろう)性に優れ、メインテナンスに関するサポートも親切。こうしたことがartyard studioの営業を通して実感できていたので、time TokyoにもYAMAHAのコンソールであるTF3を導入したそう。では実際の運用については、どのような手応えを感じているのだろう?「とにかく扱いが簡単ですね」と話すのは、time Tokyoのオペレートを務めるPAエンジニア荻野創太氏だ。 「ボタンやノブが極端に少ないので、初めて見たときには正直“操作しづらそう”と思ったんですが、実際に使ってみるとさすがはYAMAHAのコンソール、やっぱり良いんですよね。操作子が少ないだけに、シンプルなんです。例えば複雑なデジタル・パッチ機能などはありませんので、起動したときに一瞬“あれ? なんで音が出ないんだろう?”と迷うことがない。アナログ・コンソールのようにストレートな設計です。もちろんデジタルの旨味を生かした部分もあり、イコライジングの際にタッチ・パネルでQ幅を調整しつつノブでゲインを決めるといった直感的なオペレートが可能です。そのノブはTOUCH AND TURNと呼ばれるアサイナブルなノブで、タッチ・パネル上で何らかのパラメーターに触れるとただちに割り当てが完了します。僕は普段、バージョン4.0のファームウェアで追加になったSelected CH VIEW画面を愛用していて、選択中のチャンネルの要素を俯瞰できるのですごく便利なんですよ。それとTOUCH AND TURNノブの組み合わせでスピーディに音作りできるところが気に入っています。調整したいパラメーターへたどり着くまでに何階層も経る必要がなく、操作が煩雑でないためストレスフリーなんですね

Feature #1 TOUCH AND TURNノブ

[caption id="attachment_82703" align="alignnone" width="650"]▲タッチ・パネル右下の銀色のノブがTOUCH AND TURN。パネル上で任意のパラメーターに触れると、それがすぐにアサインされて調整できるようになる。直感的なプロセスが魅力だ ▲タッチ・パネル右下の銀色のノブがTOUCH AND TURN。パネル上で任意のパラメーターに触れると、それがすぐにアサインされて調整できるようになる。直感的なプロセスが魅力だ[/caption]

バス送りするまでのプロセスも軽快 マイクが多いときに有用なAUTOMIXER

クイックな操作性は出力系にも表れている。例えば、各インプット・チャンネルのバス送りの音量をフェーダーで調整できる機能=SENDS ON FADERへのアクセスだ。 「マスター・フェーダーの右側にAUX1〜8、AUX9/10〜19/20、FX1〜2という計16個のボタンがあって、例えばAUX1を押すとチャンネル・フェーダーがすぐさまAUXバス1への送り用フェーダーに切り替わるんです。この“目的のバスのボタンを押してフェーダーを触るだけ”というワークフローは非常にクイックで、仮にAUX1の出力にステージ・モニターがつながっていたとすると、ミュージシャンから次々に要望が出てきてもスムーズに対応できます。“ちょっと待ってくださいね!”と言う機会が減るんですよ」

Feature #2 バス選択ボタン

[caption id="attachment_82704" align="alignnone" width="650"]▲マスター・フェーダー右にはAUXおよびFXバスを選択するためのボタンがスタンバイ。調整したいバスを選ぶと、チャンネル・フェーダーがバス送り用のボリュームに切り替わる(SENDS ON FADER機能) ▲マスター・フェーダー右にはAUXおよびFXバスを選択するためのボタンがスタンバイ。調整したいバスを選ぶと、チャンネル・フェーダーがバス送り用のボリュームに切り替わる(SENDS ON FADER機能)[/caption] time Tokyo以外の現場でもTFシリーズを使うことがあるという荻野氏だが、最近になって試してみて“良いな”と感じた機能もあるそう。 「AUTOMIXERですね。Ch1〜8の音量配分を自動的に調整してくれる機能で、8人組のアイドル・グループのライブPAに使ってみたところ非常に便利。大勢が一度に歌って踊ってとやっていると、誰がどのマイクを使っていて、どれが大き過ぎるのか小さ過ぎるのかといったことが、瞬時に判断しづらいんです。そんなときに各マイクのバランスをオートで取れるわけですし、精度から考えても現場で十分に使える性能だと思います。アイドル・グループが十何組も出演するようなイベントに有効活用できますね」

Feature #3 AUTOMIXER

[caption id="attachment_82705" align="alignnone" width="650"]▲Ch1~8のフェーダー後段にはDAN DUGAN SOUND DESIGNのオートマティック・マイク・ミキサーが控える。複数のマイク・ゲインの配分を自動設定する優れもの ▲Ch1~8のフェーダー後段にはDAN DUGAN SOUND DESIGNのオートマティック・マイク・ミキサーが控える。複数のマイク・ゲインの配分を自動設定する優れもの[/caption] ほかにも、AUXバス1〜8およびマスターに内蔵されたグラフィックEQや各社のマイクに向けたプリセットなど、魅力的な部分を紹介してくれた荻野氏。「とにかく使いやすさにたけている。そこに尽きますね」と語る。 「デジタル・コンソールを使ったことがない人やデジタルを不得手と思っている方でも、ミックスの経験がある程度あれば、すぐに使えるようになると思います。性能に対して価格も手ごろなので、いろいろな方にお薦めできますね」

Interviewee 荻野創太

[caption id="attachment_82706" align="alignnone" width="300"]▲インタビューに答えてくれた荻野創太氏。フリーランスのPAエンジニアで、time Tokyoのほか各地のライブ・スペースや商業施設などで音響を手掛ける ▲インタビューに答えてくれた荻野創太氏。フリーランスのPAエンジニアで、time Tokyoのほか各地のライブ・スペースや商業施設などで音響を手掛ける[/caption]

TF Series Overview

直感的な操作性を特徴とするPA用デジタル・ミキサー。TF1(250,000円前後)、TF3(300,000円前後)、TF5(350,000円前後)の3機種をそろえ、さらにリーズナブルな価格となった。機能的にはベーシックなプロセッサーのほか、マイク用プリセットやオート・ミキサーを搭載。Mac/WindowsマシンとUSB接続すれば、付属のSTEINBERG Nuendo Live 2などに最大34trの録音が可能だ。(文中価格はオープン・プライス:市場予想価格) TFseries

ラインアレイの特性を生かしたポータブルPAシステム=YAMAHA Stagepas 1K

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第1回 近藤祥昭氏が語る製品の基本仕様

YAMAHAから8月に発売されたStagepas 1K(オープン・プライス:市場予想価格120,000円前後/1セット)。12インチ径サブウーファーと中〜高域再生用のラインアレイ・スピーカーにミキサーを組み合わせたポータブルPAシステムで、中小規模の音楽ライブから各種イベントでの拡声、音楽再生までさまざまなシーンに対応する。この連載ではStagepas 1Kの有用性に迫るべく、さまざまな切り口からチェックを行う。初回の今月は、サウンド・エンジニア近藤祥昭氏に製品の基本的な仕様を解説してもらおう。 [caption id="attachment_82716" align="alignnone" width="300"]▲Stagepas 1Kについて解説してくれた近藤祥昭氏。大友良英、カヒミ・カリィ、非常階段などを手掛けてきたサウンド・エンジニアだ ▲Stagepas 1Kについて解説してくれた近藤祥昭氏。大友良英、カヒミ・カリィ、非常階段などを手掛けてきたサウンド・エンジニアだ[/caption]

Bluetooth対応の5chミキサー 埋もれた音を際立てられるワンノブEQ

まずは製品の構成を見ていく。音声入力部からたどると、内蔵のデジタル・ミキサーにはモノラル3系統+ステレオ1系統の入力端子がスタンバイ。モノラルの入力は、マイク/ライン・インが1つとマイク/ライン/Hi-Zインが2つというラインナップだ。ステレオの方はライン・インL/Rに加えBluetooth受信機を有するため、対応機器の音声をワイアレスで立ち上げることも可能。各インプットにはレベル・ノブ(出力音量)やワンノブEQが備えられ、モノラル入力は内蔵のSPXリバーブへのセンド・ノブも装備する。「ワンノブEQは中央に合わせるとフラットで、左に回せばローカット、右に回すと低域と高域が持ち上がったバタフライ・カーブになります」と近藤氏。 「このバタフライ・カーブは、音響の専門知識を持たないユーザーのこともよく考えた設定だと思います。ありがちなのは、あるパートが埋もれているからと言って基音を上げると、ほかのパートが聴こえづらくなり、今度はその基音を上げて……とやっていった結果、トータルの中低域〜中高域が過剰になってしまうという状態。埋もれさせたくないなら、基音ではなく低域と倍音の成分を少し足すのが有効だったりします。このバタフライ・カーブも、そうやって使うものだと思うんです。かけると全体の音量(チャンネルのレベル)が上がるため、その分をレベル・ノブで下げるのはお忘れなく。マスターの“MODE”というツマミでも同様のイコライジングが行えますが、ブロック図によるとEQとマルチバンド・コンプを併せたエフェクトのようですね」 [caption id="attachment_82717" align="alignnone" width="630"]▲ミキサーのパネル。各チャンネルにレベル・ノブやワンノブEQがあり、ch1~3にはリバーブへのセンド・ノブ、ステレオ・チャンネルにはライン・イン(ステレオ・ミニ)やBluetoothペアリング・スイッチを備える。Bluetooth機器からの信号は、端子に入力された信号にミックスして出力可。マスターには用途に応じて音の特性を調整できるMODEノブなどがある ▲ミキサーのパネル。各チャンネルにレベル・ノブやワンノブEQがあり、ch1~3にはリバーブへのセンド・ノブ、ステレオ・チャンネルにはライン・イン(ステレオ・ミニ)やBluetoothペアリング・スイッチを備える。Bluetooth機器からの信号は、端子に入力された信号にミックスして出力可。マスターには用途に応じて音の特性を調整できるMODEノブなどがある[/caption] MODEツマミの上には、リバーブ・タイプ(ホール、プレート、ルーム、エコー)の選択とリバーブ・タイム(残響の長さ)の調整を一括して行えるノブが備わっている。 「左に回し切った状態がタイム最短のホール・リバーブで、右に回していくとタイムが長くなります。そのまま回し続ければプレートに切り替わり、タイムもまた短いところからの出発。ルームやエコーに切り替わる際も同様です。本機をステレオ・ペアで使用すると、左右の広がりを感じられやすいでしょう。また、ステレオならマイクを最大6本接続できるし、専用のアプリを使うことで定位の調整も可能です」 [caption id="attachment_82718" align="alignnone" width="300"]▲音声入出力。ch1にマイク/ライン・イン、ch2と3にはマイク/ライン/Hi-Zイン(いずれもXLR/フォーン)が用意され、ステレオ・チャンネルにはライン・インL/R(フォーン)がスタンバイ。そのほかステレオ・ペアで使用する際に必要なリンク・インおよびアウト、モニター・アウト(いずれもXLR)などがある ▲音声入出力。ch1にマイク/ライン・イン、ch2と3にはマイク/ライン/Hi-Zイン(いずれもXLR/フォーン)が用意され、ステレオ・チャンネルにはライン・インL/R(フォーン)がスタンバイ。そのほかステレオ・ペアで使用する際に必要なリンク・インおよびアウト、モニター・アウト(いずれもXLR)などがある[/caption] 会場後方まで大きな音を届けられ 天井などからの反射の抑制も可能 続いてはアウトプットの部分について尋ねてみよう。 「119dBという最大出力音圧などから、アコースティック・ライブを縦6間(約10.8m)×横4間(約7.2m)以内の空間で行うような現場に向くでしょう。ロック・バンドのライブにはより大きな音量が求められますが、歌とアコギにカホンを加えたような編成であれば十分な音量感を得られると思います。また、ジャズ・ライブで客席向けのPAと演奏者のモニターを兼ねる用途などにも良さそう。2台用意し、1台をアップライト・ベースのアンプとして使用すれば、ベーシストの耳の高さに中〜高域用のスピーカーを設置できるため、演奏のタッチまでモニターできると思います。また、その中〜高域用スピーカーはラインアレイと呼ばれるタイプなので、ハウリングの面でも有利でしょう」 近藤氏はStagepas 1Kの中〜高域用スピーカーについて「ラインアレイの特性がきちんと出ています」と言う。 「1.5インチのユニットを縦に10基並べた設計で、その範囲の分の線状音源が生成されます。一般的なポイント・ソースのスピーカーに比べて距離による音量の減衰が小さく、理論上は10m離れた場所で20dBほど減衰するところを10dBくらいに抑えられる。つまり会場の後方にも、より大きな音量を届けられるんです。また垂直方向の指向角が30°と鋭いため、天井などからの反射が減ります。水平方向に関しては170°と広く、部屋の長辺側にステージを設置する会場ではエリア・カバーの面で有利です。クロスオーバー周波数が240Hzなので、それより上の帯域について、こうしたラインアレイの恩恵が生かされることになりますね」 近藤氏はStagepas 1KをセルフPA向け、つまりミュージシャンや音響専門でない店舗スタッフが自らPAするのに向いた製品と見ているが、ラインアレイの部分を拡張できれば活用の機会がさらに増えそうだと語る。 「現状はラインアレイが1セットにつき1台のみで、高さを稼ぐ際にはスペーサーを下にかます仕様ですが、その部分にもう1台ラインアレイをセットできれば、垂直方向のカバー・エリアを拡大できます。スピーカー手前に着座しているお客さんもカバーしやすくなるので、エクステンション用のラインアレイが発売されるとなお良いなと思いますね」 [caption id="attachment_82719" align="alignnone" width="377"]▲付属のケースに収納したところ。手前のポケットにラインアレイとスペーサー、中央にサブウーファーが入る。コンパクトなので運搬も容易! ▲付属のケースに収納したところ。手前のポケットにラインアレイとスペーサー、中央にサブウーファーが入る。コンパクトなので運搬も容易![/caption] [caption id="attachment_82720" align="alignnone" width="650"]▲iOS/Android対応のリモート・コントロール用アプリStagepas Editor。アプリからの遠隔操作は、デバイスとStagepas 1KをBluetooth接続して行う。カフェ・ライブなどに使う場合、お店のスタッフがバー・カウンターからミキサーを調整するようなオペレートも実現できる ▲iOS/Android対応のリモート・コントロール用アプリStagepas Editor。アプリからの遠隔操作は、デバイスとStagepas 1KをBluetooth接続して行う。カフェ・ライブなどに使う場合、お店のスタッフがバー・カウンターからミキサーを調整するようなオペレートも実現できる[/caption]  

ACOUSTIC REVIVE クロス・レビュー「アコースティック・コンディショナー」

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第19回「アコースティック・コンディショナー」

ACOUSTIC REVIVE代表 石黒謙、氏の技術解説

ルーム・チューニング材には、大きく分けて吸音系と反射(拡散)系が存在します。それらを使った結果、吸音し過ぎてきゅうくつな音になったり、残響音が増え過ぎて定位があいまいになったという経験を持つ方は多いかと思います。 ACOUSTIC REVIVEのRWL-3WS-1は、理想的な吸音と拡散を実現する唯一のルーム・チューニング材です。RWL-3は拡散、WS-1は吸音を主な目的にしたものですが、共通するのは表面に天然シルクを用いていること。天然シルクはあらゆる繊維の中で唯一、糸の太さがランダムです。このため、表面のシルク生地だけでも抜群の拡散効果を発揮することが可能。また天然シルクは、一般的なルーム・チューニング材に使われる化学繊維のような固有の帯域の偏りや、ドライな音色/質感になることがなく、極めて自然で滑らかな音色と質感を実現。モニター・スピーカーはもちろん、録音ブースに使用すれば、これまで実現できなかった極めて質の高い楽器や声の収音が可能となります。 <Price>RWL-3(写真左):88,000円/1台 ▪外形寸法:665(W)×1,160(H)×90(D)mm ▪︎重量:2.6kg ▪︎付属品:自立用台座、壁かけ用金具 ※高さなどの特注可 ●WS-1(写真右):15,800円/1枚 ▪外形寸法:290(W)×32(H)×290(D)mm ▪︎重量:180g  

Cross Review

Guitarist/Producer 鳥山雄司 TORI <Profile>ギタリスト。TBSテレビ番組『世界遺産』のテーマ曲「The Song of Life」など多数作曲。アレンジャー/プロデューサーとしては、葉加瀬太郎らを手掛ける。

設置位置などで音色が変化 楽器のレコーディングに活用

僕は、RWL-3とWS-1の両方をプライベート・スタジオで活用しています。まずRWL-3は、モニター・スピーカー用のチューニング材として使うというより、楽器をレコーディングする際の音色調整に使っているんです。例えばアコースティック・ギターを録る場合、ボディの横に立てたり、座った状態で背中の後ろに設置したりすると、音が明らかに変わります。ラージ・ダイアフラムのコンデンサー・マイクでアコギを収めると、録り音の超低域が膨らみ過ぎてしまうことがありますよね。そうしたときにRWL-3を立てると、下の方がまとまってくれる印象です。低域に限らず高域がまとまる場合もあるし、変化の仕方はさまざまなので、いつもベストなポジションを探して設置していますね。 葉加瀬太郎さんをプロデュースした際に、同じ部屋で彼のバイオリンと僕のギターを録音したことがあったんですが、そのときにも重宝しました。せーので録らなければならないものの、ミックスのことを考えると各楽器をある程度アイソレートしせねばならず、試しにRWL-3を立ててみたんですね。そしたら、どちらの楽器も非常にうまくまとまってくれて、扱いやすいサウンドが得られました。場合によっては音がこぢんまりしてしまうこともあるのですが、それも演奏の仕方や設置ポジションによりけり。得意なソースとしては、どちらかというと大音量のものよりは、アコースティックな楽器に向くと思いますね。 WS-1については、10枚くらい所有しています。この製品は、ある程度の枚数をそろえた方が、効果を発揮すると思います。使い方は、部屋の中で低音などがたまりやすいポイントに集中的に張るんです。効果はRWL-3とよく似ていて、音の暴れを抑えるイメージ。枚数や設置場所によって、音のニュアンスが変わってくると思います。 僕はルーム・チューニング・ツールとして、他社の吸音材なども使っているのですが、ACOUSTIC REVIVEの製品はもっと繊細なイメージ。また、一概に“こういう使い方が良い”と言えないところが魅力です。音楽が作りやすくなるので、レコーディングの良き相棒ですね。     Recording/Mixing Engineer ニラジ・カジャンチ NJ <Profile>エンジニアとしてNYやLAで活動し、ボーイズⅡメンやマイケル・ジャクソンなどに携わる。日本へ移住後は三浦大知や[Alexandros]、アニメ・ソングなども手掛ける。

デッドでもなくライブでもない “リアルな音”が得られる

ACOUSTIC REVIVEのRWL-3アコースティック・コンディショナーは、よくある普通の音響パネルではありません。何人かの友人にオススメされたので、僕も自分のスタジオNK SOUND TOKYO “STUDIO GOLD”に導入してみました。 まずは見た目が良い! インテリアとしても最高だし、さわやかで癒されます。スタジオに設置しているだけで、気持ち良くなるんです。後から知ったのですが、表面にトルマリンを含むシルク素材を使っていたり、トルマリンの入った特殊発泡材によるマイナス・イオンの効果があるそうです。僕はそれを気持ち(心)で感じていました。 レコーディングの現場でも、いろいろと試しています。アコースティック・ベースとピアノの録音のときには、必ず使っているんです。音がより“リアル”に聴こえますし、部屋の中での反射をコントロールしてくれますので、マイク乗りがかなり良くなりました。僕はACOUSTIC REVIVEに頼んで、カスタムで大きなサイズ(高さ2m)のものを作ってもらいました! これを使用すると、例えば多くのバイオリニストの方が楽器の鳴りの違いを感じてくれます。 NK SOUND TOKYO にあるミックス・ルームの“STUDIO SILVER”では、モニター・スピーカーFOCAL SM9の裏にカスタム・サイズのRWL-3を2台置いています。サウンドがデッドになるわけでもないし、ライブになるわけでもなく、表面のシルク素材がちょうど良い“リアル感”を出してくれるので、よくその部屋でミックスを行っている外部のエンジニアの方も大喜び! 6畳しかない部屋なのに、全くそのサイズを感じさせない音になっています。10畳の部屋にも負けないと思います。ACOUSTIC REVIVEのおかげで、たくさんのアーティストの方々に喜んでもらえています。 RWL-3は、価格以上の効果があるので、試したことのない人にはぜひ使ってみてほしいと感じています。元の状態には絶対に戻れなくなるでしょう! あと、空気清浄機を購入するよりも、部屋の空気が奇麗になると思います。   <製品概要> ACOUSTIC REVIVE RWL-3 (アコースティック・コンディショナー) ACOUSTIC REVIVE WS-1 (アコースティック・コンディショナー) (本稿はサウンド&レコーディング・マガジン2018年10月号からの転載となります)

さまざまな現場で多様性を見せるデジタル・コンソール=YAMAHA TF Series

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第2回 TF3×ルフス池袋 esports Arena

マルチタッチ対応のタッチ・パネルを採用し、それに最適化された直感的な操作性を特徴とするPA用デジタル卓、TFシリーズ。今回は、eスポーツ施設のルフス池袋 esports Arena(以下、ルフス池袋)に常設のTF3をピックアップし、eスポーツ・シーンでの有用性に迫る。

コンパクトな筐体に十分な入力数を備え 安定性も望めるのが導入理由

eスポーツとはエレクトロニック・スポーツの略称で、コンピューター・ゲームやビデオ・ゲームでの対戦をスポーツ、つまり競技として解釈したもの。それを大勢の客が観戦する大会も存在し、新しいエンターテイメントの形として定着しつつある。ルフス池袋は、E5esports Worksが2018年にローンチした施設。JR池袋駅から徒歩3分の好立地で、フロアへ入るとハイエンド・ゲーミングPCがずらりと80台並んでいる。前方には貸し切りイベント時にMCや実況解説者らが登壇するステージがあり、両脇に“ボックス型選手席”と呼ばれるガラス張りの遮音室がスタンバイ。2つのチームがステージを挟み対戦する際に使われる部屋だ。 そしてもう一つ特徴的なのが、音響や映像を司るテクニカル・ルーム。「国内にはeスポーツ施設を運営する企業が15〜20社ありますが、テクニカル・ルームを設けているのは一握りです」と語るのは、E5esports Worksの代表で、国内eスポーツ文化の先駆者としても名高い長縄実氏だ。2000年代初頭からのキャリアで培った知見は、ルフス池袋のプランニングにも生きている。 「例えばネットワークの設備は、全コンピューター端末のイコール・コンディションを目指し、専門の企業に協力を仰いで独自設計のハブを導入するなどしています。音響の部分に関しては、インフィニットシステムズの新谷収さんに相談しながら決めました。eスポーツの音響には、選手の声やゲームのSE、MCのマイクといった入力ソースがあり、特にSEについては一つの大会の中でルール形式(対戦の仕方やそれに伴う機器の構成)が変わると内容も一変するため、転換時などに何種類ものゲームの音がPAに流れ込むこともあるんです。だから卓の入力数は、多ければ多いほどいいわけですね

Feature #1 豊富な出力

[caption id="attachment_82732" align="alignnone" width="650"]▲TF3は背面に16基のライン・アウト(XLR)を備えており、LFS池袋ではそれらをフル活用している。パネルを見てみると、メインPAや録音、モニターなどさまざまなセクションに出力されているのが分かる ▲TF3は背面に16基のライン・アウト(XLR)を備えており、LFS池袋ではそれらをフル活用している。パネルを見てみると、メインPAや録音、モニターなどさまざまなセクションに出力されているのが分かる[/caption]   こうした現場にふさわしい卓として導入されたのがTF3である。新谷氏にチョイスの動機を伺った。 「安定性、コンパクトさ、入力数など、さまざまな理由があります。まず安定性については、私もこれまでYAMAHAの卓を各種現場で使ってきましたが、トラブルが無いに等しいんです。自分がここに居らず、音響専門外の方がオペレートしなければならないときにも安心感が違います。コンパクトさに関しては、限られたスペースに十分な入力数の卓を置く必要がありました。当初はTF1を提案しましたが、より多くの入力が要るとのことだったので、本体にマイク/ライン・インを24基備えるTF3を選んだのです。また、ロング・スケールのフェーダーが付いているのも魅力ですね。eスポーツのオペレートではリアルタイムに調整しなければならない点が多く、実際かなり忙しいので、こうしたフェーダーが無いと厳しいでしょうeスポーツの現場に効くAUTOMIXER 音響専門外の人にも扱いやすいタッチ・パネル 現場で重宝している機能として、ch1〜8の音量バランスをリアルタイムかつ自動的に最適化するAUTOMIXERが挙がった。新谷氏は、これを声のソースに活用していると言う。 「本来であればマイクとラインの両ソースを手動で制御するのですが、ラインだけで手一杯になってしまう瞬間もあるため、マイクをある程度任せられるのは良いですね。精度についても満足していて、ルフス池袋では何の不自由もありません

Feature #2 AUTOMIXER

[caption id="attachment_82730" align="alignnone" width="650"]▲DAN DUGAN SOUND DESIGNのオートマティック・マイク・ミキサー。ゲート型の音量制御機能ではなくゲイン・シェアリング型なので、アタック部分への処理が欠けてしまうようなこともない ▲DAN DUGAN SOUND DESIGNのオートマティック・マイク・ミキサー。ゲート型の音量制御機能ではなくゲイン・シェアリング型なので、アタック部分への処理が欠けてしまうようなこともない[/caption]   新谷氏が不在のときにはE5esports Worksのスタッフがオペレートすることもあるそうだが、主要なコントロールをタッチ・パネルで行えるのが功を奏しているという。 「パソコン・スキルにたけた方ばかりなので、タッチ・パネルでの操作には全く抵抗が無いようです。EQなどもマルチタッチで設定できますし、ノブを触るより直感的なのでしょう。ギター用チューナーのような画面表示で入力ゲインを設定できる“GainFinder”なども分かりやすく、気付いたら皆さん、各自のプリセット・データを作って保存していましたよ

Feature #3 マルチタッチ対応の操作性

[caption id="attachment_82731" align="alignnone" width="650"]▲TFシリーズは、本体のタッチ・パネルによる操作のほか、APPLE iPad用無償アプリTF StageMixでのリモート・コントロールにも対応。マルチタッチで直感的に操作できるのがうれしい ▲TFシリーズは、本体のタッチ・パネルによる操作のほか、APPLE iPad用無償アプリTF StageMixでのリモート・コントロールにも対応。マルチタッチで直感的に操作できるのがうれしい[/caption]   出力系に関しては、本体上にXLRのライン・アウトを16基備えているのが魅力だと言う。 「フロア向けのアウトプット・システムだけでなく、ネット配信の部隊にも音声を送りますし、リプレイ再生のために現場を録画しているチームへも別途伝送する必要があります。だからアウトの数が重要になるのですが、TF3はこのサイズと価格で本体アウトが16基もある。これはありがたいですね」 安定性と利便性でeスポーツの現場に貢献しているTF3。オプションのDanteカードYAMAHA NY64-Dで入出力の拡張も可能なため、将来的にも有用な一台と言えるだろう。

Interviewee

[caption id="attachment_82729" align="alignnone" width="300"]▲2000年代初頭から国内eスポーツ・シーンをけん引するE5esports Worksの長縄実氏(左)と、ルフス池袋の音響設備を設計したインフィニットシステムズの新谷収氏(右)。背景はルフス池袋のフロア ▲2000年代初頭から国内eスポーツ・シーンをけん引するE5esports Worksの長縄実氏(左)と、ルフス池袋の音響設備を設計したインフィニットシステムズの新谷収氏(右)。背景はルフス池袋のフロア[/caption]  

TF Series Overview

直感的な操作性を特徴とするPA用デジタル・ミキサー。TF1(250,000円前後)、TF3(300,000円前後)、TF5(350,000円前後)の3機種をそろえ、さらにリーズナブルな価格となった。機能的にはベーシックなプロセッサーのほか、マイク用プリセットやオート・ミキサーを搭載。Mac/WindowsマシンとUSB接続すれば、付属のSTEINBERG Nuendo Live 2などに最大34trの録音が可能だ。(文中価格はオープン・プライス:市場予想価格) TFseries

ラインアレイの特性を生かしたポータブルPAシステム=YAMAHA Stagepas 1K

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第2回 シンプルさと奥深さを備えるミキサー

YAMAHAから8月に発売されたStagepas 1K(オープン・プライス:市場予想価格120,000円前後/1セット)。12インチ径サブウーファーと中〜高域再生用のラインアレイ・スピーカーにミキサーを組み合わせたポータブルPAシステムで、中小規模の音楽ライブから各種イベントでの拡声、音楽再生までさまざまなシーンに対応する。この連載ではStagepas 1Kの有用性に迫るべく、さまざまな切り口からチェックを行う。今月はPAエンジニアであり、尚美学園大学の芸術情報学部情報表現学科で准教授を務める山寺紀康氏にテストしていただいた。 [caption id="attachment_82972" align="alignnone" width="288"]▲Stagepas 1Kをテストした山寺紀康氏。角松敏生や久保田利伸、スピッツなどのPAを担当してきた ▲Stagepas 1Kをテストした山寺紀康氏。角松敏生や久保田利伸、スピッツなどのPAを担当してきた[/caption]

聴きやすい部分を押し出してくれる どんな場所にも対応可能なPA向きサウンド

テストを行ったのは尚美学園大学の教室の一室。アコギ弾き語りライブを想定したセットを作った。「音を出すまでの工程がかなりスムーズにできました」と山寺氏は言う。 「ポイント・ソースのスピーカーでは、持ち上げてスタンドに取り付けることが多く、労力が必要となります。Stagepas 1Kはミキサーが一体になったサブウーファーと高域ユニットを接続するだけなので設置が簡単ですね」 Stagepas 1Kは中高域用ラインアレイ・ユニットに1.5インチのユニットを10基搭載しており、その指向角は170°(水平)×30°(垂直)となっている。 「水平の角度が広いですね。ボーカルの斜め後ろへ設置して鳴らしましたが、サイドの音でモニターができました。ハウリング・マージンもあるので、モニターとメインを兼用する使い方も十分にできます。場所に合わせて、ラインアレイの高さを調節できるのも便利です」 今回は2台のStagepas 1Kを使ってステレオ・モードでの使用も試してみた。マスターとなるStagepas 1Kのリンク・アウトと、もう1台のリンク・インを接続してセッティングする。 「ステレオ・モードの場合、マスター側のミキサーのみで2台のコントロールができます。L/Rで個別に音量を合わせる必要もありません。分かりやすい操作性になっています」
実際に聴いてみた印象についてはどうだろうか? 「使い勝手もサウンドも非常にPA的。バチっと聴きやすい部分が出てきてくれます。同じようなPAシステムは他社からもたくさん発売されていますが、中にはオーディオ的な印象を受けるものもありました。Stagepas 1Kはどんな場所にも対応できるような、PA向きのサウンドで使いやすいと思います」 スムーズなセッティングができる理由の一つとして、1つのノブだけで操作できる1-Knob EQが挙げられると言う。 「こういうシステムでは、大体ローとハイの2バンドEQが多いです。でもStagepas 1Kは、1つのノブでローカットからロー&ハイ・ブーストを調整できます。それがすごく面白いですよね。2バンドの方が細かく調整できそうな気がすると思いますが、実は難しい。演奏者は感覚的に調整する人も居ますから、“抜けが悪いから高域だけを上げよう”とEQして、結果的にキンキンした音になることもあります。そういうことが起きないように、ワンノブのEQになっているのかもしれません」
  [caption id="attachment_82995" align="alignnone" width="626"] ▲ミキサーのパネル。各チャンネルにレベル・ノブや1-Knob EQがあり、ch1~3にはリバーブへのセンド・ノブ、ステレオ・チャンネルにはライン・イン(ステレオ・ミニ)やBluetoothペアリング・スイッチを備える。Bluetooth機器からの信号は、端子に入力された信号にミックスして出力可。マスターには用途に応じて音の特性を調整できるMODEノブなどがある[/caption]   [caption id="attachment_82975" align="alignnone" width="352"]▲音声入出力。ch1にマイク/ライン・イン、ch2と3にはマイク/ライン/Hi-Zイン(いずれもXLR/フォーン・コンボ)が用意され、ステレオ・チャンネルにはライン・インL/R(フォーン)がスタンバイ。そのほかステレオ・ペアで使用する際に必要なリンク・インおよびアウト、モニター・アウト(いずれもXLR)などがある ▲音声入出力。ch1にマイク/ライン・イン、ch2と3にはマイク/ライン/Hi-Zイン(いずれもXLR/フォーン・コンボ)が用意され、ステレオ・チャンネルにはライン・インL/R(フォーン)がスタンバイ。そのほかステレオ・ペアで使用する際に必要なリンク・インおよびアウト、モニター・アウト(いずれもXLR)などがある[/caption]  

ワンノブのパラメーター操作でも 求めている音に近付けることができる

EQだけでなく、MODEという使用シーンに最適な音質補正ができるパラメーターもワンノブでコントロール可能だ。 「MODEは素晴らしいと思います。こういうパラメーターを搭載したPAシステムも増えていますが、Stagepas 1Kはノブでのスウィープが可能で、例えばSPEECHとMUSICの中間にもできる。プロの現場ではパラメトリックEQなどを使って細かく調整していることが、これだけでできてしまいます。ワンノブなので細かく音を詰めていくことができないと思うかもしれませんが、1-Knob EQとMODE、そしてボリュームの調整を組み合わせることで、自分の求めている音に近付けることが十分に可能でした」 REVERBもHALL/PLATE/ROOM/ECHOの切り替えとリバーブ・タイムの調整が1ノブで可能。「PA卓でリバーブをかけるというのはハードルが高いのですが、1つのノブで設定できるのは便利ですね。ただ、モニター・アウトにもリバーブが送られてしまうため、そこが分けられるとより使い方に幅が出ると思います」と山寺氏は語る。
Stagepas 1Kは本体上のミキサーでの操作はもちろん、専用アプリStagepas Editor(iOS/Android)でのリモート・コントロールにも対応している。 「アプリとの接続も素早くできました。音量調整の画面では数値で確認ができるので非常に細かく設定を行えます」 [caption id="attachment_82984" align="alignnone" width="650"]▲情報表現学科の学生、水谷美月さんに協力してもらい、アコギ弾き語りライブを想定してセッティング。メイン・スピーカーとモニターを兼ねるように演者の少し後ろ側へ設置している。写真は専用アプリStagepas Editor(iOS/Android)を使ってリモート操作している様子 ▲情報表現学科の学生、水谷美月さんに協力してもらい、アコギ弾き語りライブを想定してセッティング。メイン・スピーカーとモニターを兼ねるように演者の少し後ろ側へ設置している。写真は専用アプリStagepas Editor(iOS/Android)を使ってリモート操作している様子[/caption] じっくりと音質と操作性を試した山寺氏。最後にStagepas 1Kをこう評した。 「使う人を問わないPAシステムです。学校やカフェ・ライブ、コミュニティやサークルのイベントなどではとても重宝されるでしょう。機能が多いPAシステムだとその見た目だけで抵抗感を持ってしまうと思うのですが、Stagepas 1Kは操作子をできるだけ絞ることで抵抗感の軽減、扱いやすさを向上しています。しかし、シンプルながら音をしっかりと作ることもできる。さまざまな利用シーン、現場のニーズをしっかりと考えて作られているPAシステムだと感じました

【Episode5】シンセサイザーガールズ!!

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サウンド&レコーディング・マガジン2019年9月号より掲載がスタートし、「つまみちゃん」に続く異色のマンガ連載として誌面を混沌とさせている「シンセサイザーガールズ!!」。今月も新しい仲間が増えたから、みんなちゃんとついてきてネ! シンセサイザーガールズ_001 シンセサイザーガールズ_002

【第27話】つまみちゃん〜兄がこんなの買えるわけがない〜

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サウンド&レコーディング・マガジン2017年11月号より掲載がスタートし、本誌としては異色のマンガ連載として各所をザワつかせている「つまみちゃん〜兄がこんなの買えるわけがない〜」。ついに次回は最終回です! つまみちゃん_001-2 つまみちゃん_002-2  

本間昭光 前編〜GENELEC The Ones Load Test

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“ここが足りない”“ここが膨らんでいる”というのが全然無い フラットであることは現場の人間にとって一番ありがたいです

 

今回のテスト・モデル

8331A オープン・プライス (ダーク・グレー:市場予想価格305,000円前後/1基、ブラック/ホワイト:市場予想価格327,000円前後/1基) 8331apk03 同軸ツィーター+ミッドレンジ・ドライバーに、2基の楕円形ウーファーを加えた3ウェイ・ポイントソース構成のThe Onesシリーズのうち、最も小型のモデル。SAMテクノロジーにより設置環境に合わせた自動補正が可能。大型ウェーブガイドの採用でスウィート・スポットの拡大にも成功している    

“小さくても分かるスピーカー”が求められる時代

 GENELECの大型3ウェイ・モニター、1038A(2003年生産終了)が鎮座する本間のスタジオ。以前はニアフィールド・モニターとして1030Aも使用していたという。  「いろいろなスピーカーを試してきていますが、結局落ち着いたのはGENELEC。それとウッド・コーンとラジカセです。以前はここで1030Aを鳴らしていましたが、今は自宅へ持ち帰って使っています」 [caption id="attachment_83046" align="alignnone" width="600"]左の8331Aはスピーカー・スタンドの上に設置。右奥にあるのが普段から本間が使用している1038A。右下にあるのがJVCのウッドコーン・スピーカー 左の8331Aはスピーカー・スタンドの上に設置。右奥にあるのが普段から本間が使用している1038A。右下にあるのがJVCのウッドコーン・スピーカー[/caption]  このようにGENELECに絶大な信頼を寄せる本間だが、しばらくはニアフィールド・モニター無しで作業していた。  「The Onesにも興味はありました。同軸スピーカーの利点はもちろん分かっていましたが、目で見つめられているような外観に苦手意識があったんです。でも、今使っているスピーカーも10年以上になってきたし、小型で良いスピーカーをもう一度試してみたくなった。もちろんヘッドフォンも併用していますが、リスナーがスマートフォンやパソコンのスピーカーで聴いたりする時代なので、小さくてもちゃんと分かるスピーカーが欲しいなと思っていたんです。そこにこの企画のお話をいただいたので、ぜひ試してみたいと思いました」  

ムラが無くしっかりした輪郭と低域

 本間のモニター・システムに8331AとGLM Kitを接続し、測定。わずか2回スウィープ音が鳴るだけで、計測と補正が終了する。このスピード感に本間は、いたく感心した様子。動画で撮影し、Twitterに投稿していたほどだ。設定ができたところで、幾つかの楽曲を試聴し、こう語る。  「ムラが無い。それが一番ですね。“ここが足りない”“ここが膨らんでいる”というのが全然無い。フラットであることの素晴らしさ……現場の人間にとってはたまらなくありがたいです。僕らはアレンジにおける音像を周波数で把握することが多いから、ちゃんとフラットなモニターで作業することで、レコーディング・スタジオへ入ったときに“あれ?違うな?”ということが避けられます」 [caption id="attachment_83044" align="alignnone" width="600"]本間のRobita StudioでGLMを使って測定した結果。左がLch、右がRchで、赤が測定結果、青が補正EQ、緑が測定後の周波数特性。もともとマスタリング・スタジオとして使われていたスペースを改装したこともあり、室内の特性は概ね優秀だと言える。ただ、さまざまな物が置かれているためか、左右の特性差が若干見られる。GLMでは100〜200Hzのピークを主に補正。一方でその前後にあるディップはEQ補正しても解消されないものと判断している 本間のRobita StudioでGLMを使って測定した結果。左がLch、右がRchで、赤が測定結果、青が補正EQ、緑が測定後の周波数特性。もともとマスタリング・スタジオとして使われていたスペースを改装したこともあり、室内の特性は概ね優秀だと言える。ただ、さまざまな物が置かれているためか、左右の特性差が若干見られる。GLMでは100〜200Hzのピークを主に補正。一方でその前後にあるディップはEQ補正しても解消されないものと判断している[/caption]  ファースト・インプレッションはかなり好感触の様子。これから1カ月間はアレンジの仕事が多いようで、そこでThe Onesの真価が発揮されるはずだ。  「この大きさのニアフィールド・モニターで輪郭がしっかりしていて、これだけの低域が出るのは驚異的です。“見た目が……”とか、言っていてはダメですね(笑)。最近はライブの現場に入ると、PAシステムが進化を遂げているのを見て、スタジオ機材ももっと進化すべきだと思っていたのですが、The Onesのように進化していたんですね」  

本間昭光

GENELEC_HONMA_portrait プロデューサー/作編曲家/ピアニスト/キーボーディスト。いきものがかり、ポルノグラフィティ、鈴木雅之、ももいろクローバーZ、THE BAWDIES、渡辺美里、一青窈、関ジャニ∞、家入レオ、chayなどの作品を手掛けている。テレビ朝日「関ジャム完全燃SHOW」などテレビ出演も多数
  ■GENELEC製品に関する問合せ:ジェネレックジャパン www.genelec.jp   [amazonjs asin="B07ZLHWP39" locale="JP" title="サウンド&レコーディング・マガジン 2020年1月号"]

佐藤純之介が使う「Pro Tools」第3回

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ライブや劇伴で多用される ステム作成の流儀

 近年、楽曲が完パケしてから、映像作品やライブなどの用途に合わせてステム・データの書き出し作業を行うことが多くなってきました。クリエイティブな作業に関しては、さまざまなノウハウの情報は本誌を含め豊富にありますが、ステムを含む納品データの書き出し方、注意するポイントなどは受け取り側によってもバラバラで、体系化されていないのが実情です。今回は、一般的でトラブルやリテイクの少ないライブやイベント用のステムの書き出し方と、私が実践している劇伴ミックスの際のスピーディなステム書き出しテクニックを紹介いたします。このやり方がすべてにおいて正解というわけではありませんが、数百という現場で実践してきた実績あるやり方なので参考になれば幸いです。  

ライブ用ステムは メンバーが居るパートも用意しておく

 ミックス・ダウンにAVID Pro Toolsを使うのは今や世界のデファクト・スタンダートですが、ライブ現場ではPro Tools以外のDAWを使用するケースもあります。またPro Toolsシステムを使うケースでも、プラグインの互換性やCPUやDSPの負担を考え、各パートをまとめてプリント(書き出し)し、16〜20tr程度のステム・データとしてマニピュレーターに渡すのが標準的なやり方。バンド+シーケンスの場合は、ミュージシャンの演奏パートを除いたトラックをステージ袖で再生し、PA卓に8〜16ch程度を送出するケースが多いです。 [caption id="attachment_83036" align="alignnone" width="441"]4ピース・バンドにシーケンスが加わる場合の出力分けの例。あくまでこれはPAコンソールへ送出するチャンネルのもので、実際はこれ以外のトラックもステムとして書き出しておく4ピース・バンドにシーケンスが加わる場合の出力分けの例。あくまでこれはPAコンソールへ送出するチャンネルのもので、実際はこれ以外のトラックもステムとして書き出しておく[/caption]  ここでは歌手+サポート・バンド(ds、b、g、k)を想定して話を進めたいと思います。経験が浅いスタッフの現場だと、バンド・メンバーが居るパートのステムを書き出さないケースがありましたが、それは絶対にNGです。スケジュールの都合でサポート・メンバーが欠けても、オケでそのパートを出してリハができますし、パートごとの細かいフレーズの確認もできます。必ず全トラックを必ず書き出してください。  全ステム・ファイルをDAWに並べてフェーダーを0にしたときに、マスターの2ミックスと同じバランスで音が聴けるのが理想となります。私の手順の一例を追ってみましょう。 ①マスター・フェーダーのエフェクトをすべてバイパス ②空間系やミックス・バスに使っているAUXフェーダーをソロ・セーフに [caption id="attachment_83035" align="alignnone" width="600"]トラックのソロ・ボタンをcommand(WindowsではCtrl)を押しながらクリックすると、ソロ・セーフに。他のトラックのソロが有効な場合でもその影響を受けずに出力されるので、AUXトラック(空間系エフェクトのセンド先やバスまとめ)に使うと便利 トラックのソロ・ボタンをcommand(WindowsではCtrl)を押しながらクリックすると、ソロ・セーフに。他のトラックのソロが有効な場合でもその影響を受けずに出力されるので、AUXトラック(空間系エフェクトのセンド先やバスまとめ)に使うと便利[/caption] ③ドラム・キット全体をソロで流して、音を確認してバウンス ④パーカッションやループなどバンド演奏しないフレーズを想定し、パートごとにバウンス ⑤ベースをソロで流し、音を確認してバウンス。ステレオ・トラックの場合はステレオ・ファイルで ⑥ギターはソロ/バッキングなど各パートに分けて複数回バウンス ⑦演奏するであろう鍵盤パートをバウンス ⑧キーボーディストが演奏しないシンセやSEなどパートに分けて複数回バウンス ⑨コーラスやガヤなどをパートごとにバウンス。 ⑩メイン・ボーカルもエフェクトありと無しをバウンス ⑪クリックが無ければ作成し、バウンス。BPMも記載 [caption id="attachment_83034" align="alignnone" width="537"]クリックのクリップにはテンポ(BPM)も記載しておく。作成したステムにも同様に記しておくべき クリックのクリップにはテンポ(BPM)も記載しておく。作成したステムにも同様に記しておくべき[/caption] ⑫テンポ情報やラベルを参照するためにMIDIデータを書き出し。MIDIノートが無くても書き出す  ステム書き出し時のマスター・エフェクトの有無についてもいろいろな流儀がありますが、CD用ミックスのダイナミック・レンジではライブでノイジーな音になってしまうことや、フェスなどでほかのアーティストの曲と並べた場合に音が奥まってしまうケースがあったので、私はマスター・エフェクト無しで書き出し、生バンドとの整合性を現場で調整するようにしています。また、メイン・ボーカルを書き出しておくと、アーティストが不在の場合のバンド・リハ時にエフェクト有りを使ってリハ、本番ライブ時のボーカルに演出的にダブル成分が必要な際にエフェクト無しを使用できます。  全パート書き出しできれば、これらをトラックに並べ、マスター・フェーダーのエフェクトを戻し、フェーダー0でステム・データのみで再生してみて、パートの過不足が無い原曲に近いバランスならOKです。また、納品時には必ずフォルダー名に“正確なアーティスト名、正確な曲名、BPM”を記載しましょう。プロとして最低限のマナーです。 [caption id="attachment_83033" align="alignnone" width="533"]ステムをまとめたフォルダーには、正確なアーティスト名、正確な曲名、テンポ(BPM)を記載しておく ステムをまとめたフォルダーには、正確なアーティスト名、正確な曲名、テンポ(BPM)を記載しておく[/caption]  

2ミックスのオフライン・バウンス時に 並行してステムも作成する技

 アニメや映画のサウンドトラックでは、規模にもよりますが、楽曲数が平均40前後あり、ミックスのチェックだけで丸2日かけてやる場合が多いです。その40曲前後のステム作成作業となると、さらにその何倍も時間がかかってしまいます。  ですので、まず、各パートごとに空間系プラグイン・エフェクトを独立させ、AUXトラックにまとめます。空間系エフェクトを複数のパートで共有してしまうと、例えばストリングスとパーカッションのリバーブが混ざってしまうことになるので、それを回避するためです。そして、Pro Toolsのマルチトラック・バウンスを実行します。 [caption id="attachment_83032" align="alignnone" width="600"]緑色のトラックがリバーブ/ディレイ類がインサートされたAUXで、その右のマゼンタのトラックでステムとしてまとめられる。このように、ステムでまとめる単位ごとに空間系エフェクトを用意しておくと、ステム作成がスムーズになる 緑色のトラックがリバーブ/ディレイ類がインサートされたAUXで、その右のマゼンタのトラックでステムとしてまとめられる。このように、ステムでまとめる単位ごとに空間系エフェクトを用意しておくと、ステム作成がスムーズになる[/caption] [caption id="attachment_83031" align="alignnone" width="337"]バウンス・ダイアログ(筆者は英語表示で使用)。上部のBounce Sourceでバウンス対象となるトラックを追加できるので、ステムをまとめたトラックを指定する。2ミックスと同時にオフライン書き出しも行えるので便利 バウンス・ダイアログ(筆者は英語表示で使用)。上部のBounce Sourceでバウンス対象となるトラックを追加できるので、ステムをまとめたトラックを指定する。2ミックスと同時にオフライン書き出しも行えるので便利[/caption]  これは、CPUやDSPの性能が向上し、同時に複数の空間系を立ち上げることができるようになったからこそ可能になった手法とも言えます。このようにセッション・データを仕込んでおくと、OKミックスのバウンスを行う段階で、ステムも同時に書き出しでき、時間の節約になります。  劇伴のステムは音響監督が映像の演出に合わせて自由にループや抜き差しをできるように納品しています。2ミックスとステム以外にも、リズム抜きバージョンや、音色違いバージョンなども作成して、提案することもあります。Pro Toolsを使う以上、ミックスして納品するだけではなく、場合によってはアレンジやリミックスの提案などもできるのが今の時代のプロデューサー/エンジニアの在り方だと思います。  いかがでしたか? たくさんのプロが読んでいる雑誌で独自の手法を公開するのはなかなか勇気がいりますが(冷汗)、さまざまな議論の始点になればと思います。スタジオ、ライブ、映像現場と、現場が変われば使い方もノウハウも変わってきますが、すべては基本的な技術の応用です。じっくり正しく使い方をマスターすれば、どんな現場に行っても恐くはありません。しっかり基礎を固めましょう。今後も皆様の音楽制作のお役に立てれば幸いです。     サウンドハウスでAVID Pro Tools関連製品をチェックする *AVID Pro Toolsの詳細は→http://www.avid.com/ja  

佐藤純之介

1975年生まれ、大阪出身。1990年代後期より音楽制作の仕事を始める。2001年に上京し、レコーディング・エンジニアとして活動した後、2006年ランティスに入社。音楽プロデューサー/ディレクターとして、多数のアニメ主題歌やアーティストの音楽制作に携わる。シンセサイザーやオーディオ機器にも造詣が深く、新製品開発やモニターにも参加。2020年1月に音楽制作会社Precious toneを設立する。 ※サウンド&レコーディング・マガジン2020年1月号より転載 [amazonjs asin="B07ZLHWP39" locale="JP" title="Sound & Recording Magazine (サウンド アンド レコーディング マガジン) 2020年 1月号 雑誌"]

WAVESの最新プラグインBerzerk Distortionを50名にプレゼント

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Berzerk Distortion

berzerk-distortion 10種類のディストーション波形を備えるプラグイン・エフェクト。フィードバックによる自己発振が可能で、過激なサウンドを生み出す。同時に、M/S処理やダイナミクスでのひずみ具合のコントロールなど、細かな制御も可能となっている 提供:株式会社メディア・インテグレーション MI事業部 様 https://www.minet.jp/ https://youtu.be/4m5yjuezgok https://youtu.be/8IHDZx1BhlU Berzerk Distortionの詳細はこちら→ https://www.minet.jp/brand/waves/berzerk-distortion/  

応募方法

こちらの専用応募フォームに必要事項を記入の上、応募してください(どなたでも応募いただけます)。  

締切

2020年1月24日23:59  

応募に関する諸注意

・賞品は、株式会社メディア・インテグレーション MI事業部様から、同社オンラインストア(https://store.minet.jp/)にて、無償でBerzerk Distortionを入手できるコードとして当選者に提供いたします。コードの送付をもって、発表に代えさせていただきます。 ・ご提供いただく個人情報は、弊社またはメディア・インテグレーション様からお客様とのご連絡のみに使用させていただきます。 ・弊社は、お客様の個人情報を「プライバシーポリシー」に基づき適切に取扱います。 ・おひとり様につき、応募は一度でお願いいたします。

【特集連動】WAVESプラグインだけでミックス

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完成ミックス〜ものんくる「異星人」

 

Drums

 

Drums-Phaze

 

Kick

 

Bass

 

Rhythm Guitars

 

Feedback

 

Fuzz Guitar

 

Strings

 

Vocal

 

トラック協力〜ものんくる

mononkul_photo ジャズを基軸とした独自のサウンドに、詩情豊かな日本語詞をミックスしたデュオ。メンバーは吉田沙良(vo)と角田隆太(b、g、prog、all)。ジャンルを横断するスタイルに定評がある https://mononkul.tumblr.com/  

ミックス〜鈴木鉄也

Suzuki_003 Syn Studio、Rinky Dink Studioを経てフリーランスで活躍中のエンジニア。これまでにCOLDFEETや遊佐未森、Black Velvetsなどの作品に携わり、近年はMONKEY MAJIKの諸作品を手掛けている  

WAVES Berzerk Distortionを抽選でプレゼント!

berzerk-distortion WAVESの最新プラグイン、Berzerk Distortionを50名様にプレゼント!(提供:メディア・インテグレーションMI事業部)。 応募の詳細はこちらから。  

心に届く音を創る ヤマハサウンドシステム Vol.4:YSSが自社製品に込める思い

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数千回にも及ぶテストを重ねた製品開発

 まずは2020年4月発売予定の電動つりマイク装置、HYFAX MHN1を見てみよう。オーケストラの収音などを目的とし、ホールや劇場に設置されるもので、タッチ・パネルの搭載など従来モデルMHL-30からアップデートが施されている。YSSの重永一輝氏に解説していただいた。  「マイクの位置を調整するリモート操作器には、視認性に富み、多くの情報を得られるようにタッチ・パネルを新たに搭載しています。タッチ・パネルからさまざまな操作が行え、その中でも特筆すべきは水平移動モードです。以前は水平方向に移動させたい場合、複数のボタンを押して、位置を調整する必要があり、つりマイク装置の操作に不慣れな方だと狙った位置に動かすことが難しいということがありました。しかし、水平移動モードの搭載により、複数のワイアー巻上げ機をワンタッチで操作できるため、扱いやすくなっています。来場者の方々にもアヒルの人形を使ったクレーン・ゲームという形でMHN1を操作してもらいましたが、難しくて動かせないという方はいらっしゃいませんでした」  リモート操作器のアップデートにより、3点を越える多点づりにも同一の操作器で対応できるようになったと重永氏。  「最大64点づりに対応できるため、ほぼすべてのホールで特注ではなく標準の操作器が使えます」  操作性の面はもちろん、音質面へのこだわりも忘れないのがYSSだ。マイク・ケーブルは耐久性と音質のバランスを取るため、何度もテストを重ねたと重永氏は言う。  「つりマイク装置は、どうしても位置の調整でケーブルが動いてしまいます。そうすると、マイク・ケーブル内の導線のヨレがほどけてきたり、断線しやすくなってしまうんです。さらに、録音用のシステムなので、どれだけ堅牢でも音が悪ければ意味がありません。そのため、何千回とテストを重ねて、耐久性と音質面をクリアするマイク・ケーブルを、完全にオリジナルでケーブル・メーカーに作成してもらいました」  音へのこだわりは、2019年11月に発売されたアコースティック・メジャーメント/EQプロセッサー、HYFAX AMQ3-SRにも表れている。AMQ3-SRは、大規模な劇場やスタジアムに導入されてきたAMQ3の入出力数を32イン/32アウトから、16イン/16アウトにしたモデルだ。高く評価されてきたというAMQ3の音質面はしっかり継承されていると、YSSの松原嵩紀氏が語る。  「16,384タップという高分解能のFIRフィルターを搭載しているため、高精細な音質補正が可能です。さらに4種類のEQを搭載しており、そのうちSEQとAMQという2種類のEQは、RATIONAL ACOUSTICS Smaartなどで測定したインパルス・レスポンスを取り込んでフィルターを作成できます。元の音質はもちろんのこと、今まで手動で行っていたベーシックな音質補正をフィルターの自動生成により効率化することで、より詳細な調整に時間が割けるという点でも高く評価いただけているのだと思いますね」  入出力数のコンパクト化、そしてアプリケーション部分の改善は、AMQ3を利用しているPAエンジニアから出た要望などを反映していると松原氏は言う。  「AMQ3は劇場やホールの常設設備だけでなく、ツアーなどで持ち回る際にも活用いただきたいと考えており、16イン/16アウト程度のコンパクトなシステムが良いというご意見を頂戴していました。また、ホールや劇場からも32イン/32アウトまで入出力数は要らないが使ってみたいという要望をいただいていたため、AMQ3-SRの製品化につながりました。そして、アプリケーション部分でも、コンピューターのディスプレイ上に表示される操作ウィンドウのサイズ変更が可能になったりと、お客様からいただいた要望に則してアップデートしているんです」   [caption id="attachment_83079" align="alignnone" width="650"]▲イーサーネット・ケーブル接続に対応した電動つりマイク装置、HYFAX MHN1。ホールでは観客の頭上に設置されるシステムのため、滑車にモーターを搭載することで錘(おもり)を廃し、安全性を確保している。マイクは別売りで、会場に合った任意のものを使用可能 ▲イーサーネット・ケーブル接続に対応した電動つりマイク装置、HYFAX MHN1。ホールでは観客の頭上に設置されるシステムのため、滑車にモーターを搭載することで錘(おもり)を廃し、安全性を確保している。マイクは別売りで、会場に合った任意のものを使用可能[/caption]   [caption id="attachment_83080" align="alignnone" width="144"]▲MHN1のリモート操作器には、タッチ・パネルに加えマニュアル・スイッチを搭載。電動つりマイク装置は頭上のマイクを見ながらの操作になるため、手元を見なくても正確な位置で止められるようにというユーザーの使用感を配慮した設計だ。YSSブースでは、MHN1をクレーン・ゲームに見立て、アヒルの人形をキャッチするという展示を行っており、多くの来場者が簡易かつ安定した操作性を実感していた ▲MHN1のリモート操作器には、タッチ・パネルに加えマニュアル・スイッチを搭載。電動つりマイク装置は頭上のマイクを見ながらの操作になるため、手元を見なくても正確な位置で止められるようにというユーザーの使用感を配慮した設計だ。YSSブースでは、MHN1をクレーン・ゲームに見立て、アヒルの人形をキャッチするという展示を行っており、多くの来場者が簡易かつ安定した操作性を実感していた[/caption]   [caption id="attachment_83081" align="alignnone" width="650"]▲アコースティック・メジャーメント/EQプロセッサーのHYFAX  AMQ3-SRには、4種類のEQを搭載。実測データとフラット特性の差分を計算し、フラットに近付けるSEQ、ターゲットとメジャーメントという2つの実測データに基づきターゲット・データに寄せていくAMQ、2点間直線の非対称カーブを描くVEQ、そして16バンドのパラメトリックEQ(PEQ)というキャラクターの違う4タイプだ ▲アコースティック・メジャーメント/EQプロセッサーのHYFAX AMQ3-SRには、4種類のEQを搭載。実測データとフラット特性の差分を計算し、フラットに近付けるSEQ、ターゲットとメジャーメントという2つの実測データに基づきターゲット・データに寄せていくAMQ、2点間直線の非対称カーブを描くVEQ、そして16バンドのパラメトリックEQ(PEQ)というキャラクターの違う4タイプだ[/caption]   [caption id="attachment_83082" align="alignnone" width="650"]▲AMQ3-SR用プロセッサーのHYFAX LAP4S-AMQ3SRHR。LinuxベースのOSを搭載し、オーディオ処理に特化したため、低レイテンシーを実現できたとYSSの松原氏は言う ▲AMQ3-SR用プロセッサーのHYFAX LAP4S-AMQ3SRHR。LinuxベースのOSを搭載し、オーディオ処理に特化したため、低レイテンシーを実現できたとYSSの松原氏は言う[/caption]  

ディレイの単位には尺貫法も採用

 ロングセラーのマトリクス・コントローラーLDM1も、ユーザーの使いやすさを優先した設計がなされている。大型タッチ・パネルとつまみが搭載されたLDM1は、操作性と視認性の良さが担保されているとYSSの浜未幸氏は言う。  「タッチ・パネル上ではどの信号がどこに出力されているかが一覧で見られ、確認/調整したい入力があれば、タップするだけで詳細な画面が開けたりと直感的な操作が可能です。また、好評をいただいているのが、タップすることで画面上のノブのサイズ変更が行える機能で、早く調整したい場合はノブを小さく、微調整を行いたい場合はノブを大きく表示することで対応できます。さらに誤操作を防止するため、各信号のオン/オフはダブル・タップで切り替える仕様です」  ミキサー出力を多くのスピーカー系統へルーティングする製品であるため、過度な音の脚色は避けつつも、しっかりと補正が行えるようEQやディレイが搭載されていると浜氏。  「信号経路の中心に来るシステムのため、音質劣化が無いよう細心の注意を払いつつ、入力段では送られてきた信号の補正、出力段ではアウトプット先に合わせた細かな調整がそれぞれ8バンドEQで行えます。さらにマトリクスのクロス・ポイントに加え、最大1,000msのディレイも入出力段両方に備えており、スピーカーの位置に合わせた伝達時間の調整やハース効果を用いたディレイ・パンも行えるんです。伝統的な尺貫法に慣れていらっしゃる方のために、ディレイの単位は尺や間にも対応しています」  そして、YSSブースにはAUDINATEが手掛けるDanteネットワーク管理ソフト、Dante Domain Managerも展示されていた。Danteシステムは、ネットワークにつなぐだけで同一ネットワーク上のDante対応機器の制御が行えるという利便性がある反面、誰でもあらゆる設定の変更が行えてしまうという危険性もはらんでいる。そのリスクを防ぐため、適切な権限を持った者だけが操作できるよう制限することができるのがこのDante Domain Managerだ。Danteネットワーク管理システムの需要はホールなどで高まりを見せていると、YSSの菊地智彦氏は言う。  「ホール全体を一つのネットワークで組んだが、大ホールと小ホールで分けたい、乗り込みのPAエンジニアが来た場合に勝手に接続できないようにしたいという要望をいただいていました。Dante Domain Managerであればすべてのログが残っているので、いつ誰がどのような変更を加えたのか、ということも分かります。さらに別途メール・サーバーを用意することで、一定レベル以上のアラートをE-Mailで受け取ることも可能です」  セキュリティ面の強化だけでなく、遠距離間の通信も可能になったと菊地氏は続ける。  「レイテンシーを40msまで拡大することで、超遠距離の伝送が可能になりました。例えば東京と大阪といった離れた場所であっても、両拠点にGPSタイム・サーバーを設置することで同期したネットワークを組むことができるんです」  Dante Domain Managerと併せ、YSS独自のネットワーク・マネジメント・サーバーHYFAX NMS1も2020年2月に発売される予定だ。ホールや劇場での24時間駆動を想定した設計がなされていると菊地氏。  「Dante Domain Managerはサーバー・ソフトなので、24時間365日稼働させなければなりません。それに耐えられるよう、NMS1は堅牢な作りになっています。さらに音響調整室に置くことも考え、静音性の高いファンを採用しました。IPネットワークのセグメントを超えたルーティングにもDante Domain Managerは対応しており、NMS1であれば別途DNSサーバーを用意すること無く行えます」  ホールや劇場をはじめとしたクライアントからの要望をつぶさにヒアリングし、製品開発にあたっているYSS。ユーザー目線に立ち、時代のニーズに合わせた丁寧な製品作りがこれからも行われていくであろうことを実感した。   [caption id="attachment_83083" align="alignnone" width="650"]▲マトリクス・コントローラーのHYFAX LDM1。最大120イン/240アウトの信号を俯瞰することができ、YSSブースではパッチのオン/オフで令和の文字を描いていた。YAMAHAのコンソール、QLシリーズやCLシリーズと同様のTouch&Turnノブを、左右に1つずつ搭載しており、ユーザーからは好評だという ▲マトリクス・コントローラーのHYFAX LDM1。最大120イン/240アウトの信号を俯瞰することができ、YSSブースではパッチのオン/オフで令和の文字を描いていた。YAMAHAのコンソール、QLシリーズやCLシリーズと同様のTouch&Turnノブを、左右に1つずつ搭載しており、ユーザーからは好評だという[/caption]   [caption id="attachment_83084" align="alignnone" width="650"]▲︎Danteネットワーク管理ソフト、AUDINATE Dante Domain Managerの画面。ドメインごとにデバイスとユーザーを登録し、各ユーザーがドメインに対してどのような操作が可能か、という部分まで制限できる ▲︎Danteネットワーク管理ソフト、AUDINATE Dante Domain Managerの画面。ドメインごとにデバイスとユーザーを登録し、各ユーザーがドメインに対してどのような操作が可能か、という部分まで制限できる[/caption]   [caption id="attachment_83085" align="alignnone" width="650"]▲Dante Domain Managerの運用に最適なネットワーク・マネジメント・サーバーHYFAX NMS1も2020年2月に発売予定だ ▲Dante Domain Managerの運用に最適なネットワーク・マネジメント・サーバーHYFAX NMS1も2020年2月に発売予定だ[/caption]   [caption id="attachment_83086" align="alignnone" width="650"]▲︎ホールや劇場に自然な残響や広がりを与えるYAMAHA独自の音場支援システムAFCの新製品、AFC4もYSSブースに展示されていた。ヘッドフォンとVRゴーグルを装着してAFC4の臨場感を体験する来場者たちの姿が印象的だ ▲︎ホールや劇場に自然な残響や広がりを与えるYAMAHA独自の音場支援システムAFCの新製品、AFC4もYSSブースに展示されていた。ヘッドフォンとVRゴーグルを装着してAFC4の臨場感を体験する来場者たちの姿が印象的だ[/caption]   [caption id="attachment_83087" align="alignnone" width="650"]▲︎左からYSSマーケティング部の浜未幸氏、松原嵩紀氏、菊地智彦氏、開発企画部の重永一輝氏 ▲︎左からYSSマーケティング部の浜未幸氏、松原嵩紀氏、菊地智彦氏、開発企画部の重永一輝氏[/caption]   ■問合わせ:ヤマハサウンドシステム ☎︎03-5652-3600 www.yamaha-ss.co.jp   [amazonjs asin="B081WR7TJX" locale="JP" title="Sound & Recording Magazine (サウンド アンド レコーディング マガジン) 2020年 2月号 (音楽制作ツール購入ガイド(小冊子)『サンレコ for ビギナーズ2020』付き)"] ※サウンド&レコーディング・マガジン2020年2月号より転載  

さまざまな現場で多様性を見せるデジタル・コンソール=YAMAHA TF Series

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第3回 TF1×武蔵野芸能劇場

マルチタッチ対応のタッチ・パネルを採用し、それに最適化された直感的な操作性を特徴とするPA用デジタル卓、YAMAHA TFシリーズ。今回は、16ch+1マスター・フェーダーのTF1が武蔵野芸能劇場で使われるという情報をキャッチしたので、その活用法を取材すべく現場を訪れた。

アナログ出力の多さが小劇場にうってつけ オーディオI/O機能で録音〜確認を一息に

武蔵野芸能劇場はJR三鷹駅から徒歩1分の施設で、伝統芸能や現代劇に対応する154席の小劇場を有している。その小劇場で行われた劇団骸骨ストリッパーの演劇にTF1が用いられた。音響を手掛けたのは、本多企画のPAエンジニア星知輝氏。2年半ほど前にTF1を導入したと振り返る。 「YAMAHAのデジタル卓は、乗り込みの現場でLS9などを使う機会が多かったのですが、自分たちで新しい卓を導入しようとしたときに、LS9はやがて生産完了になるタイミングだったしコスト的にも手が出しづらくて。01Vという選択肢もありましたが、今買うならもう少し新しいものが良いなと思っていました。そんな折、TFシリーズのことを知り、仕様面のグレードがちょうど良く価格も手ごろだったので、デモ機を借りたんです。実際に現場で使ってみたところ“小劇場に向いているな”と感じ、導入を決めました」 どういった部分が小劇場にマッチしているのだろう? 「まずは、本体にXLRのアナログ・イン/アウトが16基ずつ備わっているところです。小劇場では常設回線のマイク入力端子がいろいろな場所に出ていて、マルチボックスとして設置されている場合もあれば、壁に埋め込まれていることもある。それらの回線は大抵、調光室にまとめられていて、パッチ盤を介して客席の方に伝送するのですが、そのパッチ盤と直接やり取りできる卓の方が素早く仕込めるし、何か起きたときにもすぐに対応できます。そしてアナログ・アウトの数。16基あるというのは、もうそれだけでありがたいです。劇場は、メイン・スピーカーでエリア・カバーの大半を賄うライブ・ハウスなどとは違い、さまざまな場所にスピーカーを設置しているんです。例えば小劇場でも、舞台の上方にプロセニアム・スピーカーが3台あって壁にはウォール・スピーカーが6台、天井にシーリング・スピーカー2台と舞台両脇のメイン・スピーカー+α……のような構成。それらに加えて、映像作品の音声収録などのために別途、アウトを数チャンネル確保しなければならないこともあるので、アウトが多いに越したことはないんです

Feature #1 豊富なアナログ入出力

[caption id="attachment_83096" align="alignnone" width="650"]▲TF1のリアには、アナログ・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)とアナログ・アウト(XLR)が16基ずつあり、特にアウトの多さはスピーカー台数の多い劇場にうれしい仕様だそう ▲TF1のリアには、アナログ・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)とアナログ・アウト(XLR)が16基ずつあり、特にアウトの多さはスピーカー台数の多い劇場にうれしい仕様だそう[/caption] 星氏は「入出力と言えば、内蔵のUSBオーディオI/O機能も便利ですね」と続ける。 「お芝居の現場では、劇場に入ってから録音が必要になることもあって。例えば今回は、座長が公演の概要をスピーチするので、それを録って本番前に流す予定です。コンピューターをTF1にUSB接続しておけば簡単にDAWへ録音できますし、録り音を再生するとTF1を経由でスピーカーから流せるため、録音からチェックまでがワンストップなんですね」  

現場に合った構成を組めるカスタム・フェーダー マイクが多い演目に有用なAUTOMIXER

DAWはBGMやSEのプレイバックにも使用されており、やはりオーディオI/O機能が活躍している。「DAWのアウトをTF1のチャンネルに立ち上げて、マイクなどと並列で扱えるのは最高に便利です」と星氏。本番中は、インプットやAUX、マトリクス、DCAなどから任意のものを選びフェーダーにアサインできる機能=カスタム・フェーダーも重宝しているそう。 「YAMAHAの卓は、全般的にカスタム・フェーダーがすごく使いやすいんです。本番中にフェーダーを触らないアウト系のソースもアサインしていますが、EQの設定を見たいときなどにすぐアクセスできるのは便利ですし、マイクが多い現場ならマイク・オンリーにすることもあります」

Feature #2 カスタム・フェーダー

[caption id="attachment_83097" align="alignnone" width="650"]▲16本のフェーダー×2バンクに、インプット系からアウトプット系まで任意のソースを立ち上げられる機能=カスタム・フェーダー。演目に合わせて使用/監視頻度の高いものを配置しておけるのが便利 ▲16本のフェーダー×2バンクに、インプット系からアウトプット系まで任意のソースを立ち上げられる機能=カスタム・フェーダー。演目に合わせて使用/監視頻度の高いものを配置しておけるのが便利[/caption] ch1〜8はAUTOMIXERを備え、マイクのゲイン配分がリアルタイムに最適化される。「役者にはいろいろな声の出し方をする方が居て、演目によっては台詞と歌が混在したりもするので、本番中のマイク音量調整も必要です」と星氏。 「なので特にマイクをたくさん使う現場でAUTOMIXERの真価が発揮されると思います。以前はYAMAHA QLシリーズのAUTOMIXERしか使ったことがなかったんですが、TFもファームウェア・バージョン3.5からAUTOMIXERが8ch分追加されたので、多くの演者がラベリア・マイクを着ける状況になっても音量制御が楽というか、微調整で済むんです」 ほかにも、ボタンLEDの明るさ調整機能やAPPLE iPad用のリモート・コントロール・アプリTF StageMixなど、演劇の現場に有用な要素がそろっているというTF1。「設計がシンプルなので、トラブルが起きにくいのも良いですね。性能とコストのバランスを考えても小劇場にマッチした卓だと思うので、僕はお薦めします」と締めくくってくれた。

Feature #3 iPadアプリでの遠隔操作

[caption id="attachment_83098" align="alignnone" width="650"]▲TFシリーズは本体のタッチ・パネルによる操作のほか、APPLE iPad用無償アプリTF StageMixでの遠隔操作にも対応。「従来は2人でやっていた作業も1人でできるようになりました」と星氏は語る ▲TFシリーズは本体のタッチ・パネルによる操作のほか、APPLE iPad用無償アプリTF StageMixでの遠隔操作にも対応。「従来は2人でやっていた作業も1人でできるようになりました」と星氏は語る[/caption]

Interviewee

[caption id="attachment_83099" align="alignnone" width="300"]▲本多劇場グループの本多企画に所属するサウンド・エンジニア、星知輝氏。「仕事の99%はお芝居の音響ですね」と語る通り、その道のエキスパートである。眼光の鋭さとは裏腹に、気さくに取材に応じてくれた ▲本多劇場グループの本多企画に所属するサウンド・エンジニア、星知輝氏。「仕事の99%はお芝居の音響ですね」と語る通り、その道のエキスパートである。眼光の鋭さとは裏腹に、気さくに取材に応じてくれた[/caption]  

TF Series Overview

直感的な操作性を特徴とするPA用デジタル・ミキサー。TF1(250,000円前後)、TF3(300,000円前後)、TF5(350,000円前後)の3機種をそろえ、さらにリーズナブルな価格となった。機能的にはベーシックなプロセッサーのほか、マイク用プリセットやオート・ミキサーを搭載。Mac/WindowsマシンとUSB接続すれば、付属のSTEINBERG Nuendo Live 2などに最大34trの録音が可能だ。(文中価格はオープン・プライス:市場予想価格) TFseries

本間昭光 後編〜GENELEC The Ones Load Test

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どのモニター・スピーカーで再生しても同じバランスになる その意味で8331Aは“物差し”だと言えます

 

今回のテスト・モデル

8331A オープン・プライス (ダーク・グレー:市場予想価格305,000円前後/1基、ブラック/ホワイト:市場予想価格327,000円前後/1基) 8331apk03 同軸ツィーター+ミッドレンジ・ドライバーに、2基の楕円形ウーファーを加えた3ウェイ・ポイントソース構成のThe Onesシリーズのうち、最も小型のモデル。SAMテクノロジーにより設置環境に合わせた自動補正が可能。大型ウェーブガイドの採用でスウィート・スポットの拡大にも成功している    

アレンジ完成の状態でバランスとレベルがまとまる

 8331Aを預けてから約1カ月。本間はその間、ケーブルを替えるなどいろいろ試してみたそうだ。  「電源ケーブルとライン・ケーブル、そして測定用GLM Kitに接続するLANケーブルもすべてACOUSITIC REVIVEに統一し、117Vに昇圧してみたりもしました。驚いたと同時に納得できたのは、ケーブルの違いがGLMの測定結果として現れていること。今までイメージの世界でしか語れなかったことが、グラフに反映されているんですよ」 [caption id="attachment_83061" align="alignnone" width="352"]電源ケーブル、ライン・ケーブルはもちろん、GLMネットワーク用LANケーブルも本間が信頼を置くACOUSTIC REVIVE製のものを使用した 電源ケーブル、ライン・ケーブルはもちろん、GLMネットワーク用LANケーブルも本間が信頼を置くACOUSTIC REVIVE製のものを使用した[/caption] [caption id="attachment_83059" align="alignnone" width="600"]本間のRobita StudioでGLMを使って測定した結果。どちらもLch側で、左が一般的なケーブルを使ったとき、右がACOUSTIC REVIVEケーブルを使った状態で、赤が測定結果、青が補正EQ、緑が測定後の周波数特性。右のグラフの方が、1kHz辺りに盛り上がった部分が見える。800Hz周辺のディップや2kHzや3kHz付近のピークもやや少なくなっているようだ 本間のRobita StudioでGLMを使って測定した結果。どちらもLch側で、左が一般的なケーブルを使ったとき、右がACOUSTIC REVIVEケーブルを使った状態で、赤が測定結果、青が補正EQ、緑が測定後の周波数特性。右のグラフの方が、1kHz辺りに盛り上がった部分が見える。800Hz周辺のディップや2kHzや3kHz付近のピークもやや少なくなっているようだ[/caption]    そう語る本間はMOTU Digital Performerでアレンジを進め、それをAVID Pro Toolsへ流し込んだものをスタジオに持ち込むスタイルで仕事をしている。そのファイルを開いたエンジニアがこんな指摘をしたそうだ。  「録りのレベルが大き過ぎず小さ過ぎず、すごく良くなったと2回ほど言われました。フェーダーもすべて0dBのままでバランスが取れていて、ダビングしやすいとも言ってもらえました。8331Aのおかげでフラットに聴こえているからでしょうね。何かが足りないように感じたから大きめに入れた、ということがないからだと思います。行った先のモニター・スピーカーは全部違うのに、どのモニター・スピーカーで再生しても同じバランスになる。その意味で8331Aは“物差し”だと言えます」 [caption id="attachment_83060" align="alignnone" width="600"]MOTU Digital Performerで打ち込んだアレンジを、別のマシンに立ち上げたAVID Pro Tools(画面)にパラで録音していくのが本間のアレンジの進め方。8331Aでモニタリングするようになったことで、各パートごとにPro Toolsへ流し込めば、自然と適正なバランス/レベルになるという。この画面では黄色いフェーダーのみ少し下がっているが、これは仮歌録音後に外部スタジオで入れたコーラス・アレンジのパートであるため。それ以外のチャンネル・フェーダーは0dBから動いていない MOTU Digital Performerで打ち込んだアレンジを、別のマシンに立ち上げたAVID Pro Tools(画面)にパラで録音していくのが本間のアレンジの進め方。8331Aでモニタリングするようになったことで、各パートごとにPro Toolsへ流し込めば、自然と適正なバランス/レベルになるという。この画面では黄色いフェーダーのみ少し下がっているが、これは仮歌録音後に外部スタジオで入れたコーラス・アレンジのパートであるため。それ以外のチャンネル・フェーダーは0dBから動いていない[/caption]  

現代的なスピード感ある音が演奏表現にも影響

 本間自身は、8331Aによってどのような違いを感じているのか。あらためてそう尋ねると、こんな答えが帰ってきた。  「スピード感が現代的なので、鍵盤のタッチも変わりますよね。特にエレピやクラビネット。立ち上がりが速い分、デュレーションにも違いが出てきます……以前より鍵盤を押し込まなくなっている感じはありますね」  センター定位の正確さも、本間の気に入っているポイント。「mm単位の世界でセンターが見えるので、それがずれているとしたら自分の耳の調子を疑います」と語る。また、一周り大きな8341Aも気になったものの、再生能力としては8331Aで十分だったともコメントしてくれた。  「低域は8331Aでもよく分かるので、ローエンドの確認以外は、ラージ・モニターの1038Aは鳴らさなくても作業が進められます。ここにラージが無ければ8341Aも選択肢として挙がったかもしれません。でもアレンジ用のモニターとしては、全体が締まった小さなニアフィールドの方が分かりやすいので、8331Aがここにはベストですね」  本間からは、取材後に横置きでのセッティングも試したとの報告ももらった。8331Aのポテンシャルの高さが、彼のそうした興味をそそるのであろう。  

本間昭光

GENELEC_HONMA_portrait プロデューサー/作編曲家/ピアニスト/キーボーディスト。いきものがかり、ポルノグラフィティ、鈴木雅之、ももいろクローバーZ、THE BAWDIES、渡辺美里、一青窈、関ジャニ∞、家入レオ、chayなどの作品を手掛けている。テレビ朝日「関ジャム完全燃SHOW」などテレビ出演も多数
  ■GENELEC製品に関する問合せ:ジェネレックジャパン www.genelec.jp   [amazonjs asin="B081WR7TJX" locale="JP" title="サウンド&レコーディング・マガジン 2020年2月号"]
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