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「TK AUDIO DP2」製品レビュー:入出力トランスとドライブ用のゲルマニウム回路を備えるマイクプリ

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出力にCARNHILLトランスを備え 入力側にはLUNDAHLトランスを搭載

 まずは外観を見ていきましょう。フロント・パネルには何やらたくさんの操作子が並んでいますね。本機は2chのプリアンプなので、各チャンネルで操作子の内容は同じです。 [caption id="attachment_82165" align="aligncenter" width="650"]▲インプット・ゲインのツマミ。5dB刻みのスイッチ式で、インプット・レンジは−80〜−25dBとなっている。最大80dBの増幅が可能だ ▲インプット・ゲインのツマミ。5dB刻みのスイッチ式で、インプット・レンジは−80〜−25dBとなっている。最大80dBの増幅が可能だ[/caption]  ツマミはパネル左からインプット・ゲイン(最大+80dB/5dBステップ)、ハイパス・フィルターのカットオフ周波数(30〜400Hzを連続可変/スロープは−12dB/oct)、アウトプット・レベル(最大+26dBm)の3種類。 [caption id="attachment_82167" align="aligncenter" width="650"]▲ゲイン・ツマミの右隣には、ハイパス・フィルターのカットオフや出力レベルを調整するためのツマミがスタンバイ。ボタン類やHi-Zインも並ぶ ▲ゲイン・ツマミの右隣には、ハイパス・フィルターのカットオフや出力レベルを調整するためのツマミがスタンバイ。ボタン類やHi-Zインも並ぶ[/caption]  ボタンは左から48Vのファンタム電源、−30dBのPAD、“A”や“Ge”と名付けられたボタン(後述)、ハイパス・フィルター、位相反転、マイク・インの入力インピーダンス切り替え(400Ω/1.6kΩ)、Hi-Zインをアクティブにするためのもの(2MΩ)が並びます。Hi-Zインが用意されているので、マイクだけでなくギターやベース、シンセサイザーなどを直接接続することが可能。ホーム・レコーディング用などにプリアンプを探している方にとっても、強い味方になりそうです。  さて、AおよびGeというボタンに関してですが、まずAはCARNHILL製トランス仕様のクラスAディスクリート・アウトをアクティブにするものです。これがオフだと、出力は通常の電子バランス・アウトになります。Geは、入力段に備わったLUNDAHL製トランスの後ろにゲルマニウム・アンプ回路をインサートするためのボタン。アクティブにすれば、入力音にハーモニクスを加えて色付けが行えるとのことです。

“A”ボタンでは全体をブライト寄りに “Ge”では中低域を強めにできる

 今回、タイミング的に筆者がホームとしているhmc studioでバンドのレコーディングがあったので、できる限りの楽器で検証してみました。まずはドラムのオーバー・ヘッド。併用したのはコンデンサー・マイクのAKG C414 XLIIです。AとGeのボタンをオフにしたデフォルトの状態で試してみたところ、ドラム・キットの全体感をしっかりとらえつつ、心地良い距離感も演出してくれています。ハイハットやライド・シンバルなど金物の高域成分に十分な伸びを感じるものの、耳に痛い成分は目立っておらず好印象です。またキックやスネア、タム類の低域成分もしっかりと収音しています。  続いてはAとGeをアクティブにしてみましょう。まずはA(CARNHILLトランスのクラスAディスクリート・アウト)のみをオンにすると、中低域が軽くロール・オフし、全体的に少しブライトになると感じました。テンポの速い曲や明るいイメージの曲に合いそうな質感です。次にGe(入力側のゲルマニウム・アンプ)をアクティブにしてみたところ、中低域の押し出しが強くなり、高域が落ち着きました。倍音成分が付加され、力強い音になります。ここで内蔵のハイパス・フィルターを軽くかけてみたところ、低域が自然にロール・オフし、ミックス後のイメージに近いところまで追い込むことができました。  ドラムに続いては、管楽器(サックスとトランペット)でチェック。ダイナミック・マイクのSENNHEISER MD421-U-4を併用してのテストです。筆者は管楽器をレコーディングする際に、プリアンプでサチュレーションをかけることが多いため、今回もインプット・ゲインを上げ目にして突っ込み気味で録ってみました。デフォルトの状態で、管楽器との相性は抜群です。プリアンプによっては、立ち上がりの速い音が耳に痛い感じでひずむことがあるのですが、DP2はキンキンせずに音の存在感を際立たせるひずみ方をします。AやGeをアクティブにしてみたところ、基本的には先述したドラムのオーバー・ヘッドと同じ印象。全体的にブライトな方へ寄る感じですが、今回はデフォルトでの録り音が採用されました。  楽器録りのほかには、1kHzのサイン波とスペクトラム・アナライザーを使って、本機の倍音成分をチェックしてみました。まず、デフォルトの状態およびクラスAディスクリート・アウトのみをアクティブにした状態では、二次/三次倍音共にあまり付加されていませんでしたが、ゲルマニウム・アンプをオンにしてみると、こうした倍音の付加が見られ、特に二次倍音の増加が数値上、著しく見受けられました。  今回、初めてTK AUDIOの製品を使用しましたが、個人的には非常に好みの音を録ることができました。TK AUDIOは、同じ2chのマイク・プリアンプとしてDP1 MK3(オープン・プライス:市場予想価格160,000円前後)というモデルもラインナップしています。DP2は、基本的な機能こそ同じですがハイパス・フィルターが新しく搭載され、価格は5,000円ほどしか違いませんので、コスト・パフォーマンス的にもお得な製品と言えますね。 [caption id="attachment_82172" align="aligncenter" width="650"]▲︎リア・パネルには電源インレット、各チャンネルのマイク・インとライン・アウト(いずれもXLR)が配置されている ▲︎リア・パネルには電源インレット、各チャンネルのマイク・インとライン・アウト(いずれもXLR)が配置されている[/caption]   (サウンド&レコーディング・マガジン 2019年11月号より)

ACOUSTIC REVIVE クロス・レビュー「ショート・ピン&ターミネーター」

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第16回「ショート・ピン&ターミネーター」

ACOUSTIC REVIVE代表 石黒謙、氏の技術解説

DJミキサーやCDターンテーブルの空き入力端子は外来ノイズの侵入源となっており、侵入したノイズは内部回路に悪影響を与え、SN比の悪化やひずみの増大など著しく音質を劣化させます。ですが、RCAピン用のショート・ピンSIP-8QとXLR用のBSIP-2Qを空き入力端子に装着することで外来ノイズの侵入が無くなり、SN比やひずみ率を大きく向上させることが可能に。またこれらは2017S航空グレード・アルミ合金+黄銅+天然スモーキー・クォーツの3種類の異種素材を組み合わせた制振構造のため、端子板や基盤の制振効果による音質向上効果も発揮します。単一素材の一般的なショート・ピンは共振を起こすため、付帯音や雑味が増えるなど逆効果になることがありますので注意が必要です。 最近はパソコンだけでなく、DJミキサーやCDターンテーブル、エレピなどの電子楽器にUSBやLANの端子を搭載した機種が増えています。これらの端子も外来ノイズの侵入源となる上、内部のUSB/LAN回路からノイズが放出され大きく音質を劣化させます。USBターミネーターRUT-1LANターミネーターRLT-1は、ノイズ侵入を防ぎつつUSB/LAN回路からのノイズ放出を抑え、2017S航空グレード・アルミ合金削り出しボディや天然スモーキー・クォーツによる制振効果もあり絶大な音質向上効果を発揮します。   <Price> ●SIP-8Q(RCAピン入力端子用ショート・ピン/写真左上):15,800円(8個1組) ●BSIP-2Q(XLR入力端子用ショート・ピン)/写真右上):10,800円(2個1組) ●RLT-1(LANターミネーター/写真左下):18,000円 ●RUT-1(USBターミネーター/写真右下):18,000円  

Cross Review

DJ/Remixer DJ HIRAGURI HGSA <Profile>プロとしてのDJ歴30年。ハウスやダンス・クラシックスを得意とする。KSR、EMI、ユニバーサルからミックスCDをリリースするほか、リミックスなども手掛ける。

アナログ領域のノイズが軽減され 低域が前に出て音量もアップ

ACOUSTIC REVIVEのショート・ピンとターミネーターは、少し前にその存在を知り興味津々でした。今回はDJミキサーにショート・ピンを装着し、ターミネーター類を付けたパソコンにオーディオI/O経由でレコードの音を録るなどしてチェック。結論から言いますと、現在の楽曲制作環境とDJプレイをワンランク上に押し上げてくれる、とても優れたアイテムです。デジタル領域でとてつもない威力を発揮したのは言うまでもありませんが、特に驚いたのがA/Dにおける効果。アナログ領域のノイズが軽減されることで空間にかなりの余裕が生まれたのか、低域の音圧が前面に出て、音量が上がりました。また、全体の輪郭がよりシャープになった印象もあります。 長年DJとして“いかにして良い音で音楽を再生するか”を命題に、DJミキサーやケーブル、レコード針にこだわってきましたが、今日のDJにとってはパソコンも必要不可欠な存在。それを安定動作させるということが、どれだけ音質向上につながるかということを強く実感しました。     DJ/Producer DJ Watarai WTRISA <Profile>1990年代より国内ヒップホップ・シーンで活躍するDJ/プロデューサー。MuroやNitro Microphone Underground、MISIA、AIらにトラックを提供してきた。

低域から高域まで伸びやかになり 音圧が上がるように感じる

RCAピンとXLRの入力端子用ショート・ピンをSTAXのドライバー・ユニット(ヘッドフォン・アンプ)、SRM-007TAに装着して試しました。ヘッドフォンはSTAX SR-507です。最初に感じたのは、全体的に音の粒が細かくなり、低域から高域までとても伸びやかになったこと。STAXのヘッドフォンは静電型のオープン・エアなので基本的にきめ細かく、とてもフラットなバランスが特徴です。それがさらにきめ細かな音質になったことで、モニター・ヘッドフォンとしての性能がさらにアップした印象を受けました。 次に、DJで使っているAPPLE MacBook AirにUSBターミネーターを装着し、DJ用コントローラーVESTAX VCI-380でプレイした内容を録音。装着前に録ったものと聴き比べてみたところ、STAXのときと同様に解像度が上がり、低域から高域までとても伸びやかになりました。さらにVCI-380にRCAピンとXLRのショート・ピンを装着したところ、さらに解像度が上がり、全体的に音圧も上がったように感じました。     DJ/Producer SUGIURUMN S <Profile>これまでに8枚のアルバムを発表し、シングルも世界各国のレーベルよりリリース。BASS WORKS RECORDINGSを主宰しつつ、国内外でDJ活動を展開する。

UREI 1620特有の音質を保ちつつ 全体的に音が引き締まる印象

空き端子からノイズが混入するだって? そんなことあるわけないじゃない。と、私は思っていました。オカルティックな製品なんじゃないの〜?と、私は思っていたのです。実際に、機材の穴という穴を埋め尽くすまでは……。 まずは、UREI 1620(ミキサー)+DOPE REAL 3300(アイソレーター)+TECHNICS SL-1200MK4(ターンテーブル)から成るアナログDJセットで試してみました。モニターはMUSIKELECTRONIC GEITHAIN RL904で、試聴したのはこれまで死ぬほど聴いたX-PRESS 2「MUZIKIZUM(PART ONE)」です。1620背面のRCAピン入出力計30個、XLR入力1個、3300のRCAピン入力2個にショート・ピンをぶっ挿し1620のマスターを上げていくと……え! マジで良いんですけど! 無音部分でも気付くほど、大幅にノイズが減りました。また高域にかなりの伸びが出て、低域はぐっと締まった感じです。音にうるさい友人のギタリストにも立ち会ってもらったところ、私と同意見でした。1620特有の丸みのある質感はそのままに、全体的に引き締まった感じがします。初めて電源機器をグレード・アップさせたときのような感覚を覚えました。 次にDJシステムでテスト。NATIVE INSTRUMENTS Traktor Kontrol S4 MK2のRCAピン入出力計6個を埋めました。これも変わりましたね。低域が顕著で、先と同様に引き締まって聴こえました。PIONEER DJ DJM-900NXSなどでも試してみたい。このショート・ピン、スタジオ用のオーディオI/Oにも有効なのではないでしょうか。余裕がある人には、ぜひともお薦めしたいです。   <製品概要> ACOUSTIC REVIVE ショート・ピン(RCAピン/XLR用) ACOUSTIC REVIVE USBターミネーター ACOUSTIC REVIVE LANターミネーター   (本稿はサウンド&レコーディング・マガジン2019年11月号からの転載となります)  

「NEKTAR TECHNOLOGY SE25」製品レビュー:モバイル環境に特化したUSBキーボード/DAWコントローラー

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DAWインテグレーション機能で さまざまな操作をボタンにアサイン

 SE25はラップ・トップが入るリュックなら基本的には収納できるであろう大きさで、縦幅のほとんどは鍵盤部分に使われている。なので、ミニ・サイズのキーボードでよくある鍵盤があまりに小さ過ぎて弾きにくいという問題は解消されている。鍵盤のタッチはミニ鍵盤としては軽過ぎず、全体の重量が抑えられていることから考えても十分なものだと言える。  スイッチ類に関しても最小限の数に抑えられているが、ワンタッチでオクターブとトランスポーズを切り替えることもできるし、ベロシティ・カーブを切り替えたりもできるので必要とされる機能は備えていると言えるだろう。オクターブの段階はライトの色で区別できるようになっているので、それらが切り替わっていることを視認することもできる。  接続&電源用のマイクロUSB端子はリア・パネルの端にあり、どのようなセッティングで弾く際にも邪魔になりづらいだろう。USB以外に外部接続端子が無いので、接続が分かりやすく、扱いやすい。モバイル環境に適した設計を細部にまでこだわっていると感じた。こうしたベーシックな機能に加えて、SE25はDAWインテグレーション機能も搭載している。  DAWインテグレーションを使用したい場合は、NEKTAR TECHNOLOGYのWebサイトにアカウント登録をして、専用のドライバー/ソフトウェアをダウンロードする必要がある。OSとDAWの種類を選ぶとすぐに専用のアプリケーションが表示されるので、その表示に沿ってSE25をDAWのコントローラーとして設定できる。  筆者の使用しているDAWはPRESONUS Studio One 4で、普段モバイル制作に使っているAPPLE MacBook Air(macOSはSierra)とWindows機で使用したが、Web上でOSなどの種類を選ぶだけで簡単にダウンロード可能。どちらも問題無く動作した。この機能を使う際は左側上にあるOct−ボタンとPB1ボタンを同時押しすることで、DAWコントローラー・モードへ。   [caption id="attachment_82191" align="aligncenter" width="650"]▲左上のOct−とその下のPB1ボタンを同時押しすることで、DAWコントローラー・モードに入る。トランスポートのほか、PB1ボタン/PB2ボタンは、ピッチ・ベンド、トランスポーズ、ボリューム、パン、トラックもしくはパッチ・チェンジ(使用しているDAWがNEKTAR DAWインテグレーションに対応している場合のみ)を割り当て可能 ▲左上のOct−とその下のPB1ボタンを同時押しすることで、DAWコントローラー・モードに入る。トランスポートのほか、PB1ボタン/PB2ボタンは、ピッチ・ベンド、トランスポーズ、ボリューム、パン、トラックもしくはパッチ・チェンジ(使用しているDAWがNEKTAR DAWインテグレーションに対応している場合のみ)を割り当て可能[/caption]  再生や録音、またStudio One 4では1小節分の早送りと巻き戻しがワンタッチでできる。もちろん、このモードの際も鍵盤は演奏に使用できるので、細かい入力作業の際はモードをうまく切り替えることで作業をよりスムーズにすることができるだろう。設定でそれぞれのボタンをDAW上の別の機能としてアサインすることも可能だ。なので、自分の使用環境に応じて設定することで、モバイル環境などでもより迅速な作業をすることができるだろう。  

複数の機能の組み合わせを ワンタッチで呼び出すパート2ボタン

 さらに、SE25ならではの機能と言えるのがパート2機能だ。“2”と印字されたボタンを押しながら演奏することで、トランスポーズ、レイヤーなどのプリセットをオンにすることができる。例えば、レイヤーなら押している間に鍵盤を弾くと3度上の音も同時に鳴らすように出力することなどができる。ほかには、別のMIDIチャンネルに切り替えることもできるので、フレーズを考えるときだけ別の音源を鳴らしたり、また簡易的なハモリを作る際にも作業のスピード感を高めることができるだろう。例えば、あらかじめ設定されていたプリセットをオクターブに切り替えて、1オクターブ上にシフト、トランスポーズを−3、レイヤーをオンに設定する。さらにレイヤーの音を別のMIDIチャンネルから出力することで、ハモリのラインを簡易的に即興で別のシンセから出力して、録音用のデモ・データを作ったりすることができた。単に作業上で機能的というだけではなく、使い方によっては“音楽的”なアプローチにもそのままダイレクトにつながっていく可能性があるキーボードだ。   [caption id="attachment_82192" align="aligncenter" width="650"]▲パート2ボタン(右)。オクターブ、MIDIチャンネル、トランスポーズ、レイヤー、ラッチ(モメンタリー)を割り当て可能。これらのプリセットを変更し直すことで、複数の機能を掛け合わせて使用できる。サステイン・ボタン(左)は、モジュレーションを割り当てることもできる ▲パート2ボタン(右)。オクターブ、MIDIチャンネル、トランスポーズ、レイヤー、ラッチ(モメンタリー)を割り当て可能。これらのプリセットを変更し直すことで、複数の機能を掛け合わせて使用できる。サステイン・ボタン(左)は、モジュレーションを割り当てることもできる[/caption]  25鍵のようなコンパクトな鍵盤が必要となるモバイル環境においては、重量が軽くて機能的に最低限のものだけが求められる傾向にある。しかし、コライティングなど複数人の作家が集まる現場、作詞家でもある筆者の経験ではレコーディング時にコーラス・ラインをラップトップのDAW上でさっと作って書き出すというシーンにおいて、優れた操作性も求められる。そんな中でSE25は軽量で基本的な機能が可能なだけでなく、楽器的な遊び心で扱えて、実用的なプリセットもアサインできるパート2機能まで搭載している。モバイル環境での制作の幅をさらに広げてくれるに違いない。   [caption id="attachment_82193" align="aligncenter" width="650"]▲リア・パネルには、写真右端のマイクロUSB Type-B端子のみ装備されている ▲リア・パネルには、写真右端のマイクロUSB Type-B端子のみ装備されている[/caption]   (サウンド&レコーディング・マガジン 2019年11月号より)

「VIENNA SYMPHONIC LIBRARY Synchron Bluthner 1895」製品レビュー:アリコート張弦によるBLUTHNER特有の音を収録したピアノ音源

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MIDIコントロール・システムによる 100以上のリリース・サンプルを用意

 ドイツのライプツィヒで1895年に創業され、STEINWAY、BÖSENDORFER、BECHSTEINとともに、世界4大ピアノ・メーカーの一つに数えられているBLUTHNER。ドビュッシー、ブラームス、マーラー、バルトーク、リスト、チャイコフスキー、ショスタコーウィッチ、ラフマニノフがこよなく愛した音色であり、ザ・ビートルズの映画『レット・イット・ビー』でポール・マッカートニーが弾いているピアノとしても知られている。  BLUTHNERのピアノはアリコート張弦を採用している点が特徴。これは通常1音に対し3本の弦が張られるところ、美麗な共鳴を得るためハンマーでたたかれない4本目の弦を追加するという、1873年に考案された機構だ。さらにソフト・ハンマーとの組み合わせによって、クリアで温かく、そしてソフトな音色も再現されている。  VSLの専用スタジオに設置されたBLUTHNERのピアノを、VSLが独自に開発したソレノイド(自動演奏機構)に基づいた精密な動作制御システム、“ロボットの指”に演奏させるという方式で収録。MIDIコントロール・システムによって、さまざまな音符の長さとリリースの速度に応じた100以上のリリース・サンプルを読み出すことができ、スタッカートやテヌートなどのニュアンスのリアルな表現により磨きをかけている。  

ふくよかな中域や箱鳴りを再現 マイクの調整で幅広い音作りが可能

 画面上部中央のタブは、左からPlay、Mix、Editとなっている。Playでは、リバーブ、マスター・ボリューム、ダイナミック・レンジの調整のほか、BodyやSympatheticという項目で共鳴音の調整、Timberで音色の明るさの調整が可能だ。Mixは、マイク・ポジションごとの音量バランスを調整できるミキサー画面になっており、選択したプリセットに必要なマイク・ポジションのサンプルがフェーダーに割り当てられる。   [caption id="attachment_82204" align="aligncenter" width="641"]▲︎Mixセクションにはマイク・ポジションごとにフェーダーが用意されている。各フェーダーにEQ、ディレイ、リバーブが用意されているため、幅広い音作りが行える。なおマイク・ポジションは通常鍵盤の正面に立てられたコンデンサー・マイクなど4種類だが、別売りのエクステンデッド・ライブラリー(18,800円)を購入することにより、奏者の上に用意された球面マイクSCHOEPS KFM6を含む8種類まで拡張可能だ ▲︎Mixセクションにはマイク・ポジションごとにフェーダーが用意されている。各フェーダーにEQ、ディレイ、リバーブが用意されているため、幅広い音作りが行える。なおマイク・ポジションは通常鍵盤の正面に立てられたコンデンサー・マイクなど4種類だが、別売りのエクステンデッド・ライブラリー(18,800円)を購入することにより、奏者の上に用意された球面マイクSCHOEPS KFM6を含む8種類まで拡張可能だ[/caption]  Editでは、ダイナミック・レンジ、MIDIの感度、余韻、そのほか演奏上の詳細な調整が行える。   [caption id="attachment_82205" align="aligncenter" width="650"]▲Editセクションでは、鍵盤ごとにEQ、ボリューム、チューニング、ダイナミック・レンジなどの細かな調整ができる ▲Editセクションでは、鍵盤ごとにEQ、ボリューム、チューニング、ダイナミック・レンジなどの細かな調整ができる[/caption]  音の印象は、きらびやかな倍音が特徴的なVSLのSteinway Dと比較すると、ソフトで落ち着いた印象。アリコート張弦特有の繊細な倍音がほのかな華やかさを加える。テンション・コードが実に気持ち良く溶け合い、ドビュッシーやサティ、スクリャービンのような雰囲気の曲にはぴったりだ。洗練された中域の独特なふくよかさや箱鳴りもよく再現されており、音数の少ないピアノ曲も、しっかりと説得力をもって聴かせることができる。古典派のピアノ・ソナタの緩徐楽章のような曲をしっとりと奏でるにも良い。  先述の通り、Mixタブをクリックするとミキサー画面になり、各種マイク・ポジションのサンプルがそれぞれフェーダーに立ち上がる。各フェーダーを操作してバランスを変化させると、残響感、距離感などを変化させることができる。マイク・アンサンブルをフルに生かし、ステージでの鳴りを再現するもよし、アンビエンス・マイクはオフにし、外部プロセッサーなどを併用して、アビイ・ロードでのあのセッションのような雰囲気を再現するもよし。音作りの可能性は幅広い。  画面下部にあるプリセット・タブは、左からConcert、Intimate、Pop、Ambience、Vintageとなっており、狙う音楽ジャンルやリスニング・ポジションに応じて、演奏フィールやミックス・バランスを手早く直感的に変えることができる。Vintageのプリセットで、シンプルなピアノ・ソナタを弾いてみたところ、1895年にタイム・スリップしたような世界が現れた。  BLUTHNERのピアノは、STEINWAYやYAMAHAのサウンドを聴き慣れた私たちにとって、少し異国の風を感じさせてくれる音である。車であれば“ベンツやBMWは皆乗っているから、あえて自分はシトロエンに乗ろう”というこだわり派の人も居るだろう。このSynchron Bluthner 1895は、ピアノの音にそのようなこだわりを持っている人にぜひ使ってもらいたい音源だ。王道のピアノとは一味違う独特の質感や響きが、あなたの個性となり、新しい作風を開拓するインスピレーションの源となるだろう。   (サウンド&レコーディング・マガジン 2019年11月号より)

「CLASSIC PRO PM08」製品レビュー:軽量&コンパクト200W×2の出力を実現したパワード・ミキサー

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アダプターでマイク・スタンドに設置可能 2バンドEQとリバーブを搭載

 開封しての第一印象は、とにかく想像以上にコンパクト。サイズは290(W)×80(H)×146(D)mmで、大きめのお弁当箱と言えばいいでしょうか。しかも1.9kgと軽量で、片手で簡単に持ち上げることができました。設営の手間も少なくなりますね。それでいてパワー・アンプの出力は、200W(4Ω)×2とサイズに似合わず強力です。パワードなので別途パワー・アンプを必要とせず、ミキサーの出力を直接スピーカーにつなげば音が出るため、配線の煩わしさもあまりありません。さらにマイク・スタンドに取り付けるためのアダプターも付属しており、場所を選ばず簡単に設置できるのも良いですね。ただ一点、一般的なマイク・スタンドのネジとアダプターのネジが合わないため、変換ネジ(5/8→3/8インチ)が必要になります。この変換ネジは一般的なマイク・ホルダーなどに付属しているので、簡単に入手可能です。   [caption id="attachment_82216" align="aligncenter" width="626"]▲マイク・スタンドに取り付けるための専用アダプターが付属。変換ネジ(5/8→3/8インチ)は付属しないため、別途用意が必要だ ▲マイク・スタンドに取り付けるための専用アダプターが付属。変換ネジ(5/8→3/8インチ)は付属しないため、別途用意が必要だ[/caption]  入力は、XLRとTRSフォーンを併装したモノラル・チャンネルが4つ、ステレオ・チャンネル(TRSフォーンまたはRCAピン)を2つ搭載。4chのモノラル入力はマイクとライン両方に対応しているので、ボーカル用マイクや楽器類を直接接続できます。弾き語りや小編成なバンドであれば問題無く対応できそうです。ステレオ・チャンネルには携帯音楽プレーヤーなどを接続してバック・トラックを流すこともできますね。すべての入力チャンネルにHI/LOWのシェルビングEQが付いていて、音色の調整が可能。XLR端子ではファンタム電源(48V)が使用できるので、コンデンサー・マイクやダイレクト・ボックスなどもつなぐことができます。  出力は、メイン・アウト(TRSフォーン)とは別にモニター・アウト(TRSフォーン)も装備しているので、演奏時のモニターを設置したり、出力を拡張することが可能。ただし、モニター・アウトはパワードではありません。また、RECアウト(RCAピン)がありますので、ライブをそのまま録音することができます。メイン・アウトにはNORMAL/SPEECH切り替え式のEQが付いており、催し物に合わせてワンタッチで最適な音質に切り替えが可能です。そしてデジタル・リバーブも内蔵しているので、エフェクターを別途用意することなくボーカルなどにリバーブを簡単にかけることができます。  

高域に特徴のある抜けの良いサウンド はっきりと聴き取りやすく声を再生

 それではメイン・アウトからスピーカー(YAMAHA S55)につなぎ、実際に音を出して各部機能をチェックしてみます。パワード・ミキサーなので、スピーカー・ケーブルをつなぐだけで音が出るのはやはり簡単で楽です。まずAPPLE iPodをステレオ入力に接続していきます。先述の通りステレオ入力は2系統あり、ch5/6がTRSフォーン、ch7/8がRCAピンになっているので変換プラグなどを使用することなく、さまざまな種類のケーブルを接続可能です。例えば、オーディオ・インターフェースの出力をch5/6に接続してバック・トラックを再生し、ch7/8に携帯音楽プレーヤーを接続してBGMを流すというような使い方ができますね。音質は高域に特徴のあるシャキッとしたサウンドで、抜けが良いと感じました。それからゆっくりとパワー・アンプのメーターがリミット点灯するところまで音量を上げていってみました。全体的に低域などのパワー感が少し物足りない印象は否めませんでしたが、コスト・パフォーマンスの点から考えれば十分かと思います。  次にダイナミック・マイクを接続してテストしてみます。使用したマイクは一般的なSHURE SM58です。先にメイン・アウトに搭載されている内蔵EQをNORMALからSPEECHに切り替えておきます。SPEECHにすると余計な低域成分がカットされ、よりはっきりと声が聴き取りやすくなります。声の再生力は先ほどの音源再生よりもベターな印象。重厚さはありませんが、すっきりとしていて聴きやすい音で再生されています。男性より女性の声と相性が良さそうだとも感じました。  ここでHIとLOWの2バンドEQを試してみます。効き具合は非常に良く、変化も大変分かりやすいですね。そのため特に機材の扱いに慣れていない初心者の方には親切な設定だなと感じました。  続いてリバーブもテストしてみます。モノラル・チャンネルにリバーブ・スイッチが付いているので、使用したいチャンネルのスイッチをオンにしてオレンジのREVERBノブを上げていけばかかります。非常に簡単で分かりやすい設計で、操作も大変簡潔です。音色については、リバーブと言うよりはディレイに近い効果になっていますので、こだわりのある方は一度確認しておいた方がよいかもしれませんね。  初心者でも簡単に操作できるような設計になっており、専門知識のあるスタッフが居ないもののちょっとしたPAが必要な場合でも対応可能。トーク・イベントやライブなど、さまざまなニーズに重宝するミキサーだと思います。   (サウンド&レコーディング・マガジン 2019年11月号より)

Chester Beattyが使う Studio One 第5回

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第5回 実機エフェクトの音響特性をデータ化し サウンドに質感を与える音作り

加納エミリのアルバム・ミックスも佳境となりました。この連載で紹介しましたテクニックをたっぷり使っております。11月20日発売、ぜひチェックしてください。

実空間や実機の音響特性を リバーブとして扱えるOpen Air

筆者のPRESONUS Studio One(以下S1)連載は今月で最終回。本稿ではリバーブの質感を使った、ちょっと変わったミックスの方法をお伝えします。その前に、ミックスにおけるリバーブの重要度について。ミックスって、お化粧に似ていませんか? すっぴんの素材を美しく飾るわけですから。例えばコンプレッサー。録音素材のバランスを整える感じは、乳液や保湿クリームといった基礎化粧品に近いかも。ならばリバーブは口紅やアイシャドウ。お化粧をしないので分かりづらい? ならば洋服ではどうでしょう。インナーウェアがコンプやEQなら、最初に他人の目に入るアウターがリバーブ。実はリバーブ、聴く人に最も強い印象を与えるエフェクトとも言えます。 ではお気に入りのリバーブが1台あればいいかと言うと、これも問題だったりします。例えば1980年代ファッションに最適なケミカル・ウォッシュのジーンズは、どれほどの着こなしテクニックをもっても、2020年のスタイルに仕上げるのには無理があります。リバーブも同じで、機種によって音の質感やスケール感、時代感が全く違います。例えばスタジオの定番LEXICONのリバーブは暗い印象で、主役に寄り添う名脇役。対してSONYのDRE-2000はゴージャスかつバブリーで、楽器を一回り大きくします。クリス・ロード=アルジが、ドラムに使う理由がよく分かります。AMS RMX16はリバーブ界のケミカル・ウォッシュ。通しただけでバック・トゥ・ザ80'sです。 [caption id="attachment_82250" align="alignnone" width="650"]▲1982年に発売されたデジタル・リバーブ、AMS RMX16。実際の空間では得られない音響特性を持つ“NONLIN2”などのリバーブ・タイプが搭載されています ▲1982年に発売されたデジタル・リバーブ、AMS RMX16。実際の空間では得られない音響特性を持つ“NONLIN2”などのリバーブ・タイプが搭載されています[/caption]   これら実機リバーブの質感や違いを知ると、リバーブ・タイプで悩んだり、多くのパラメーターをいじる必要はなくなります。なぜなら、実機は通しただけで思い切り質感が付くからです。でも最低限のお約束事はあります。まず、リバーブ・タイプを選ぶときはプリセットの1番。各メーカーいろいろなリバーブ・タイプを作っていますが、最初のプリセットは一番コストをかけたお薦めのものです。次にモダンな音を作るならプリディレイは無し。“バック・トゥ”な音を作る場合は、その楽曲の16分音符の長さのプリディレイを設定します(120BPMの曲なら、4分音符の長さが500msなので、16分音符は125msとなります)。リバーブ・タイムは、曲を聴きながら決めます。2s辺りから始めるのがいいかもしれません。残りのパラメーターは無視。でもリバーブをすべて実機で買うわけにはいきませんよね……大丈夫、S1があれば既にそろっています。 Open Airというプラグインを立ち上げてみましょう。S1には3種類のリバーブが標準搭載されていますが、Open AirはIR(インパルス・レスポンス)を使用するコンボリューション・リバーブです。IRとは、実際の空間やハードウェア・エフェクトの音響特性をデジタル・データとして記録したもの。古今東西の有名ホールやスタジオ、名リバーブなどの響きをデータ化し、コレクション&プリセットできるのです。 [caption id="attachment_82251" align="alignnone" width="650"]▲S1のProfessionalグレードに標準搭載のコンボリューション・リバーブ、Open Air。実空間やハードウェア・エフェクトの音響特性をIR(インパルス・レスポンス)というデータにし、それをプリセットとして扱えます。コンボリューション・リバーブは、音響特性を標本化して使うことからサンプリング・リバーブとも呼ばれます ▲S1のProfessionalグレードに標準搭載のコンボリューション・リバーブ、Open Air。実空間やハードウェア・エフェクトの音響特性をIR(インパルス・レスポンス)というデータにし、それをプリセットとして扱えます。コンボリューション・リバーブは、音響特性を標本化して使うことからサンプリング・リバーブとも呼ばれます[/caption]   [caption id="attachment_82252" align="alignnone" width="650"]▲S1にはPRESONUS謹製のIRが用意されています(赤枠)。チェックするのも楽しい1GB以上のコレクションです。これらがインストールされているかどうか、確認してからOpen Airを使いましょう ▲S1にはPRESONUS謹製のIRが用意されています(赤枠)。チェックするのも楽しい1GB以上のコレクションです。これらがインストールされているかどうか、確認してからOpen Airを使いましょう[/caption] 例えばOpen Airのプリセット“480 Hall”は、LEXICON 480Lのバンク1.1にある“Large Hall”のIRを使ったもの。“Ams Nonlin”はRMX16のプリセットの8番です。お目当てのリバーブが無いなら、インターネットでIRを探しましょう。有志の方々がさまざまなIRを作成し、クリエイティブ・コモンズでシェアしていたり、有料で販売しているWebサイトもあります。それでも見つからないって? では自分で作るのはどうでしょう。   [caption id="attachment_82253" align="alignnone" width="550"]▲AMS RMX16のリバーブ・タイプ“NONLIN2”から作り出されたプリセットを収録。バリエーションとして2種類用意されているところも素晴らしい! ▲AMS RMX16のリバーブ・タイプ“NONLIN2”から作り出されたプリセットを収録。バリエーションとして2種類用意されているところも素晴らしい![/caption]  

IR Makerを活用して 自前のIRを作り出す

S1には、IRを作るための優れたプラグイン=IR Makerが標準搭載されています。これを使えば実機リバーブのIRを作り出し、Open Airのプリセットにすることが可能です。IR Makerは、音響特性を測定するためにスウィープ信号(ぴゅ〜んという音)を出力します。これを実機のリバーブに送ると、そのリバーブが鳴るわけなので、鳴った音をIR Makerに戻せば、計算を経てIRが作成されるという理屈です。ざっくり言うと、IR MakerをS1のオーディオ・トラックに立ち上げ、オーディオI/Oの出力をリバーブの入力に、リバーブの出力をI/Oの入力に接続し、スウィープ信号のセンド&リターンを行う要領。実際にはレイテンシーや入出力レベルの設定など、より多くの手順があります。S1の取扱説明書を熟読してみましょう。 [caption id="attachment_82254" align="alignnone" width="650"]▲自分の好きな空間やハードウェア・エフェクターのIRを作成するためのユーティリティ・プラグイン、IR Maker。︎S1のProfessionalグレードに標準搭載されています。IR Makerはオーディオ・トラックに立ち上げて使用し、自ら放ったスウィープ信号により、対象の音響特性を測定します。例えば、ある部屋の測定をするときにはスウィープ信号をオーディオI/O経由でスピーカーから鳴らし、それをマイクで拾ってI/O→IR Makerに入力する要領。詳細はS1のリファレンス・マニュアルを参照しましょう ▲自分の好きな空間やハードウェア・エフェクターのIRを作成するためのユーティリティ・プラグイン、IR Maker。︎S1のProfessionalグレードに標準搭載されています。IR Makerはオーディオ・トラックに立ち上げて使用し、自ら放ったスウィープ信号により、対象の音響特性を測定します。例えば、ある部屋の測定をするときにはスウィープ信号をオーディオI/O経由でスピーカーから鳴らし、それをマイクで拾ってI/O→IR Makerに入力する要領。詳細はS1のリファレンス・マニュアルを参照しましょう[/caption]   もちろんリバーブ以外のIRも作成可能で、弊社ラダ・プロダクションでよくやるのはディレイのIR。例えばLEXICONのモノラル・ディレイPCM42を使用する場合、通常ならBPMから4分音符の長さを計算し、それをタイムとして設定するのですが、たまに異なる2種類のタイムをステレオで扱いたいときがあります。でも弊社にはPCM42が1台しかありません。そんなとき、IRを作成すればOpen Airで2台使いすることができますね。テープ・エコーのROLAND RE-201もしかり。ボーカル向けのスラップ・ディレイとして活用していますが、随分古い機材なので中のテープが止まってしまったり、スプリングが不調だったりすることも。しかしIR MakerでIRを作っておけば、いつでもRE-201の特性を再現することができます。 [caption id="attachment_82255" align="alignnone" width="650"]▲LEXICON PCM42のようなモノラル・エフェクトも、IR化してOpen Airで使用すれば何台でも使えます。PCM42に関しては、インプット部のアンプに味があると言われているため、その音響特性をIRにしてOpen Airで扱い、ディレイ成分はS1 Professionalに標準搭載のGroove Delay(画面右)などで付加します ▲LEXICON PCM42のようなモノラル・エフェクトも、IR化してOpen Airで使用すれば何台でも使えます。PCM42に関しては、インプット部のアンプに味があると言われているため、その音響特性をIRにしてOpen Airで扱い、ディレイ成分はS1 Professionalに標準搭載のGroove Delay(画面右)などで付加します[/caption]   空間系エフェクトだけでなく、ハードウェア・サンプラーやデジタル・レコーダーのALESIS ADAT、各種コンパクト・エフェクターの特性もIRにすることが可能。例えばE-MUのサンプラーSP1200のザラザラした質感が、サンプリング・タイムに縛られることなく使えるって素敵だと思いませんか?。筆者が作成したSP1200のIRを無料配布していますので、ご関心ある方はダウンロードして使ってみてください。 [caption id="attachment_82256" align="alignnone" width="554"]▲IR MakerにてE-MU SP1200のIRを作っているところ。画面右下に、処理の過程を表すウィンドウが出ています。IRを作るのにはちょっとしたコツが必要ですが、慣れればサクサク作り出すことができます。本文でもご案内した通り、最終回記念にSP1200のIRを差し上げます。こちら雰囲気を楽しむものなので、過度な期待はしないでくださいね ▲IR MakerにてE-MU SP1200のIRを作っているところ。画面右下に、処理の過程を表すウィンドウが出ています。IRを作るのにはちょっとしたコツが必要ですが、慣れればサクサク作り出すことができます。本文でもご案内した通り、最終回記念にSP1200のIRを差し上げます。こちら雰囲気を楽しむものなので、過度な期待はしないでくださいね[/caption]   大滝詠一『A LONG VACATION』を初めて聴いたときに感じた、何とも言えない広がり。あわてて読んだライナー・ノーツからミックス・エンジニアという職業を知りました。以来、音楽を聴くとリバーブを気にするようになり、使い方が分かると欲しくなり、弊社スタジオには実機がゴロゴロしています。しかし、それらもIR Makerに取って代わられつつあるのです。 5回に渡ってお付き合いいただき、ありがとうございました。いつも変わった使い方を紹介しているにもかかわらず、読んでいただいた読者の方々、遅れがちな原稿をチェックいただきました編集部には、とても感謝しております。   *Studio Oneの詳細は→http://www.mi7.co.jp/products/presonus/studioone/

プロの現場で選ばれ続けるMANLEYの常勝アウトボード

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真空管回路で圧縮するコンプ/リミッター Stereo Variable Mu® Limiter Compressor mslchp-ft [caption id="attachment_81955" align="alignnone" width="650"]▲リア・パネル。ステレオの入出力(XLR)を備える ▲リア・パネル。ステレオの入出力(XLR)を備える[/caption] ピーク・リダクションおよびコンプレッションを真空管回路で行う、ステレオ・コンプ/リミッター。パラメーターは入出力ゲイン、スレッショルド、アタック、リカバリー(リリース)を用意し、ハイパス・サイド・チェイン・フィルターも搭載する。通常バージョンに加え、2ミックスのプロセッシングに最適化されたマスタリング・バージョンもラインナップ。どちらのモデルもM/S方式にも対応するMS Modと、五極管の6BA6を一つの三極管として結線し、双三極管の5670(または6386)に置き換えるT-Bar Modというオプションが用意されており、注文時に追加することができる。 オープン・プライス Standard Version(市場予想価格468,000円前後) with T-Bar Option(市場予想価格528,000円前後) with MS Mod Option(市場予想価格558,000円前後) with MS Mod & T-Bar Option(市場予想価格598,000円前後) Mastering Version(市場予想価格598,000円前後) with T-Bar Option(市場予想価格658,000円前後) with MS Mod Option(市場予想価格688,000円前後) with T-Bar & MS Mod Option(市場予想価格738,000円前後)     真空管アンプ+パッシブ回路のEQ Massive Passive Stereo Tube EQ msmp-ft [caption id="attachment_81961" align="alignnone" width="650"]▲リア・パネルにあるステレオの入出力(XLR&TRSフォーン) ▲リア・パネルにあるステレオの入出力(XLR&TRSフォーン)[/caption] 真空管アンプとオール・パッシブ回路を組み合わせた4バンド・ステレオEQ。各バンドは周波数とQ幅の調節が可能で、カーブをシェルフとベルで選択できる。ローパス/ハイパス・フィルターも装備。こちらもS tereo Variable Mu Limiter Compressorと同様に、マスタリング・バージョンが用意されている。マスタリング・バージョンは通常バージョンとは異なる真空管(12AU7×2)やステップ式つまみ(ゲインとバンドワイズ)などがあしらわれており、ブースト/カットの範囲やローパス/ハイパス・フィルターなどに特別なチューニングが施されている。 Standard Version(オープン・プライス:市場予想価格578,000円前後) Mastering Version(オープン・プライス:市場予想価格680,000円前後)  

President Interview エヴァンナ・マンリー

常に時代に求められる製品作りを心掛けています Interpretation:Mariko Kawahara サウンドとデザイン、共に洗練されているMANLEYの製品。その理念と物作りにかける情熱について、同社社長であるエヴァンナ・マンリー氏に聞いた。 evanna ─ MANLEYのアウトボードは、どのようなサウンドを狙っているのでしょうか? マンリー  何十年にもわたって数々のマスタリング・スタジオとかかわってきた私たちは、極めてニュートラルなサウンドを目指しています。一番のこだわりは、優れたサウンドを追求し続けることです。 ─ 時代に合わせた内部機構の変更はしていますか? マンリー  はい、常に時代に求められる製品作りを心掛けています。例を挙げるなら、コンピューター・ベースの音楽制作が普及したことによる改良です。アナログ機材はミスマッチがあるものですが、若いクリエイターからはコンピューターのような精密さを求められますから。 ─ どのようなことを変更したのか教えていただきたいです。 マンリー  かつてのStereo Variable Mu Limiter Compressorにはステレオ・インプットの可変抵抗器が装備されていて、所定のダイアル地点でどちらかのチャンネルが2dBほど大きくなることがあったんです。それを改良してほしいとのご要望をいただいたので、トラッキング・エラーが最悪でも1dBにとどまるように、ポットのマッチングを始めました。それから数年たつとそれでも不十分という意見をいただいたので、ポットを分解して2つの要素を再度マッチングさせて、誤差を0.5dBに向上させました。その後、もっと精密にしてほしいという声があったので、ついにデュアル・ポットを誤差1%の精度を持つレジスターのスイッチに変えたのです。 ─ サウンド面にかかわる仕様の変更はしていますか? マンリー  もちろんです。近年の新製品で導入したスイッチング電源は、近年のMANLEYにおいて最も重要な革新でした。きっかけは世界で最も重要なオーディオ・デザイナーの一人である、ブルーノ・プッツェイス氏と親交を持ったことです。彼はスイッチング電源やクラスDのパワー・アンプの専門家で、私たちは真空管に使えるスイッチング電源の開発を彼に頼みました。プッツェイス氏とそのチームが開発したパワー・サプライは、MANLEYに奇跡をもたらしました。私たちがかつて使用していた古いリニア・サプライよりも優れているスイッチング電源を開発してくれたのです。 ─ なぜ電源部の改良が必要だったのでしょう? マンリー  ノイズ対策のためです。スイッチング電源を搭載したユニットには、もうハム・ノイズは存在しません。 ─ 製造工程についても聞かせてください。どれくらいのペースで製品を製造しているのですか? マンリー  販売実績と予測に基づいて全機種の年間製造プランを立てて、1年間のマスター・スケジュールを組みます。絶えず製造されている製品もありますが、Stereo Variable Mu Limiter CompressorとMassive Passive Stereo Tube EQは1カ月おきに生産していますよ。 ─ 自社で製造している部品はありますか? マンリー  たくさんあります。オーディオ・トランスフォーマーとチョークの設計、および製造はすべて社内で行います。どんな製品にとっても最も重要な構成要素のオーディオ・トランスフォーマーの製造はとても大変です。ワイヤー・ハーネスの前処理と組み立ても社内で行っています。 ─ 筐体はどのように作っているのでしょう? マンリー  弊社の近隣にある協力企業が、森精機という日本の会社のCNCスライス盤を使って、ロービレット・アルミニウムから作っています。その機械は1990年後半までMANLEYが所有していたのですが、現在は彼らに売却してパーツを作ってもらっています。MANLEYでは機械/レーザー彫刻やメタル仕上げ、磨き、そしてライン・グレイニングを行い、細部にまで非の打ちどころの無い外観に仕上げているんです。 ─ 多くのパーツ製造や組み立て工程を社内で行うことで、クオリティ・コントロールをされているのですね。 マンリー  検査も厳密に行っていますよ。出来上がった製品は必要に応じて調整がされた後、数日間の可動試験を行い、その後も2度再検査を実施します。それから梱包されて、日本も含めた世界中への出荷準備が整うのです。    

最後の一味を加えるのに 最高のスパイスです

suzuki User Report 鈴木Daichi秀行 Photo:Yusuke Kitamura ここからはMANLEY製品のポテンシャルについて、実際に日々使用しているプロフェッショナルに伺っていこう。Stereo Variable Mu Limiter Compressor(マスタリング・バージョン)とMassive Passive Stereo Tube EQ(通常&マスタリング・バージョン)を所有する鈴木Daichi秀行氏に、MANLEY愛を語ってもらった。 12年前に自身のスタジオ、STUDIO CUBICを設立した鈴木氏。その2年後からMANLEYの製品を使用しており、制作に欠かせない存在になっている。MANLEYの製品で初めて購入したのは、Stereo Variable Mu Limiter Compressor。現在使用しているのは4年前に購入した個体で、これが7台目になるという。   「製造時期によって内部のパーツや基板が変わっているので、サウンドが違うんです。なのでさまざまな年式のモデルを試しましたが、昔のモデルより今のモデルの方がハイファイなサウンドで、ノイズも少ないです。現代のプロダクションに使うなら、新しいモデルがお薦めですね」 Stereo Variable Mu Limiter Compressorは、主に2ミックスにかけるステレオ・バス・コンプの前段に使用することが多いそうだ。  「基本的にリカバリーはFAST、アタックはSLOWに振り切り、ハイパス・サイド・チェイン・フィルターをオンにして使っています。リダクション量は1~1.5dBくらいです。Stereo Variable Mu Limiter Compressorはコンプレッション感が薄く、サウンドに自然な厚みが付加できます。音色というより音圧の変化といった感じで、実が詰まって大きなサウンドになるんです。かかり具合は非常にナチュラルで、高域が痛くなりません」 高域の特性についてはMassive Passive Stereo Tube EQでも同様の印象だという。  「高域をブーストしても耳に痛いサウンドになりづらいんです。ハイエンドがなだらかに伸びて、リッチな空気感が出てきます。低域と高域のコントロールに使うことが多いのですが、細かくイコライジングするよりも、感覚的にザックリ使う方が向いているように思いますね。Massive Passive Stereo Tube EQは、気持ち良いところが自然に上がってくれる、音楽的なEQです」 Massive Passive Stereo Tube EQの通常バージョンとマスタリング・バージョンの違いについても聞いた。  「どちらもしっとりとした質感ですが、マスタリング・バージョンの方がナチュラルです。最大のゲイン幅が通常バージョンが±20dB、マスタリング・バージョンが±11dBなので、レコーディングで積極的に音作りをするときは通常バージョンを使っています」 どちらも長年使用してきた中で、MANLEYのアウトボードには共通する良さがあると氏は語る。  「ほかのブランドの製品だと破たんしてしまうようなプロセッシングでも、MANLEYのアウトボードだと音楽的になるので、数値を気にせずつまみを回せるんです。例えるならギター・アンプのような感じで、クリエイターにも扱いやすい機材だと思います。最後の一味を加えるのに最高のスパイスです」 問い合わせ先:フックアップ ☎03-6240-1213 https://hookup.co.jp/   201911サウンド&レコーディング・マガジン2019年11月号より転載  

CODA AUDIOがアレイ構成可能なポイントソース・スピーカーを発売

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CODA AUDIOから、アレイとして構成することも可能なパッシブのポイントソース・スピーカー・システムがお目見え。11月13日(水)に発売される。 ラインナップは、6.5インチ径の低域ドライバーを2基備える2ウェイ・フルレンジ・スピーカーN-APS(420,000円)、15インチ径サブウーファーN-SUB(380,000円)の2機種。N-APSは、独自ドライバーが繰り出す低ひずみな音質とウェーブガイドによる位相特性の良さ、139dBという最大音圧などを特徴とし、縦置きと横置きの両方に対応。さまざまな用途に使える。 コンパクトさも魅力で、N-APSは外形寸法518(W)×200(H)×358(D)mm/重量11.2kg、N-SUは518(W)×418(H)×595(D)mm/重量28kgとなっている。     [caption id="attachment_65481" align="alignnone" width="650"]▲N-APS ▲N-APS[/caption]   [caption id="attachment_65482" align="alignnone" width="648"]▲N-SUB ▲N-SUB[/caption]   [caption id="attachment_65483" align="alignnone" width="188"]▲N-APS×3+N-SUB×3のアレイ ▲N-APS×3+N-SUB×3のアレイ[/caption]   製品情報 https://www.hibino-intersound.co.jp/information/5761.html

ソニー独自の空間音響技術を駆使したインスタレーション展『Touch that Sound! in KOBE』開催

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2019年春に御茶ノ水RittorBaseにて行われた『Touch that Sound!』が神戸に上陸。ソニー独自開発の波面合成アルゴリズムによる空間音響技術、Sonic Surf VR(SSVR)を使ったサウンド・インスタレーション展『OS cinemas Presents 聴く映画館 Touch that Sound in KOBE』として、2019年11月15日からOSシネマズ神戸ハーバーランド スクリーン10で開催される。中野雅之(BOOM BOOM SATELLITES)、Cornelius、evala、Hello, Wendy!+zAk、清水靖晃の5組が、SSVRを駆使した新曲や新たにミックスを行った作品を『Touch that Sound!』のために制作。立体音響に造詣の深い5組のアーティストの作品を通して、“音に触れる”という非日常的な体験ができる。 各回につき全5作品約30分のコンテンツを2回上演。コンテンツの合間にインターバルが設けられているため、その間に移動して場所の違いによる聴こえ方の差異を体感することも可能だ。 なお開催期間中、参加アーティストによるトーク・イベントも予定されており、SSVRや書き下ろし作品への理解を深められるだろう。

上演作品

■中野雅之(BOOM BOOM SATELLITES)「untitled #01 -SSVR mix-」 ■Cornelius「あなたがいるなら -SSVR mix-」 ■evala「See/Sea/She -SSVR mix-」 ■Hello, Wendy!+zAk「Katyusha -SSVR mix-」 ■清水靖晃「コントラプンクトゥスI -SSVR mix-」J.S.バッハ「フーガの技法」より

開催概要

名称:『OS cinemas Presents 聴く映画館 Touch that Sound in KOBE』 開催期間:2019年11月15日(金)〜11月21日(木) 上映時間:各回約60分(約30分の上記5作品を2回上演) 会場:OSシネマズ神戸ハーバーランド スクリーン10(神戸市中央区東川崎町1丁目7番2号 神戸ハーバーランドumine サウスモール5F) 鑑賞料:1,000円、トーク・イベント・チケット4000円(通常上映1回無料サービス付き) チケットの購入はこちらから

トークイベント・スケジュール

■11月15日(金)19:00〜21:00 登壇者:evala ■11月16日(土)15:00〜17:00 登壇者:中野雅之(BOOM BOOM SATELLITES)※完売 ■11月17日(日)13:30〜15:30 登壇者:大野由美子(Hello, Wendy!)、zAk ■11月18日(月)19:00〜21:00 登壇者:Cornelius
詳細な情報は公式サイトを参照

東京音楽大学 中目黒・代官山キャンパス 〜イマーシブ環境を実現したスタジオと充実のソフトウェア〜

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イマーシブ・オーディオ/MADIがキーワードの最新鋭スタジオ

Tokyo_Ondai_Studio
 創立112周年を迎えた東京音楽大学(以下東京音大)。今年4月に設立された中目黒・代官山キャンパスには、約400席を備えるTCMホールやオーケストラの練習ができる特大教室など充実の設備が整っている。その中でも特筆すべきなのは、GENELECのスピーカーで統一されたイマーシブ・オーディオ環境を備えるスタジオだ。今回は、企画/提案から携わるミキサーズラボの高田英男氏、同じく構想段階からかかわりエンジニアリングも担当する梅津達男氏、そして東京音大で教鞭を執るレコーディング・エンジニアの佐野秀明氏にスタジオ設立の経緯や機材選定の理由などを伺った。

クラシックと親和性の高いイマーシブ環境 高さを感じられる音場空間が重要

 中目黒・代官山キャンパス3階に設けらたスタジオ。コントロール・ルームには7chのイマーシブ・オーディオ環境が整っている。センターはGENELEC 1238AC、L/Rは1234A、サイドとハイトのL/Rは1238DFという構成で、ニアフィールド・モニターは8351A×2だ。さらにアナログ・コンソールのAPI Legacy AXSが導入されている。  まずはスタジオの設立にあたり、ミキサーズラボが携わることになった経緯を高田氏に伺った。  「東京音大の映画・放送音楽コースで教授を務める小六禮次郎先生からミキサーズラボ会長の内沼映二に相談があったほか、多方面から弊社にお話をいただきました。そこで、私と梅津も携わることになったんです」  高田氏はスタジオ設計にあたり、スタジオを設ける意義や目的を明確にするため、大学側と話を重ねたという。  「東京音大にはエンジニアリングを専攻する課程は無いのですが、演奏と録音は表裏一体。そのため、学生にはぜひレコーディングとはどういうものなのかを学んでほしいと考えました。一つは、録音した自分の演奏を聴いて、演奏内容によってどう聴こえ方が変わるのかを学ぶ機会に。また卒業後、プロの演奏家になったときにエンジニアとのコミュニケーションの取り方も重要になってくるので、その基礎スキルを磨く意味合いもあります」  梅津氏も、プロ・スペックのスタジオ環境や高音質で自身の演奏を聴くことが学生にとって重要だと言う。  「これからプロの演奏家になっていく学生たちにとって、良い音を知るというのは非常に重要なことです。これを学校という場で提供できるのは有意義だと思います。自分の演奏が録音/ミックスされるとこうなる、ということを学んでほしいですね」  スタジオの音響設計にあたり、大学側からはステレオ2chは絶対に高音質でという要請はあったが、イマーシブ・オーディオの必要性を提案したのは高田氏だそうだ。  「世界的にイマーシブ・オーディオへの関心が高まり、特にクラシック音楽はその傾向が強いと思います。音場空間の再現方法として“高さ”を用いる表現を学生の皆さんに体験してほしかったんです。天井の高い特大教室の音場を再現する必要があったのも理由の一つですね。また、打ち込み系の音楽であればサラウンドの立体感を超えたクリエイティブ空間も作り出せるので、やはり高さを表現できるモニターが必要です。後でハイト・スピーカーを足したいという要望が出ても対応するのは大変なので、基本設計としてこのような機能は入れておいた方が良いということもあるので、強く推薦しました。コントロール・ルームの容積から考えて、通常の5.1chにハイト・スピーカーを2ch追加するこのレイアウトがベストだったと思います」  では、数あるスピーカーの中でGENELECを選んだ理由はどこにあるのだろうか? 東京音大では既に、多数のGENELEC導入実績があると佐野氏は言う。  「もともと池袋キャンパスのスタジオに1035Aと1031A、教室には1032Cが導入されていたことが大きいですね。また、学生が将来プロの演奏家や作編曲家としてレコーディングすることになった場合、必ずといってよいほどスタジオのどこかにGENELECのスピーカーがあると思います。その音を学生のころから聴いたことがあるか否かは非常に大きな違いです。“このスピーカーは大学で聴いたことがある!”と思えるだけで気持ちに余裕が出てくるんですよね」  続けて佐野氏は、大学のスタジオ・モニターとしてGENELECを導入するメリットを語ってくれた。  「録音に慣れている学生は決して多くはないので、気持ちよく演奏してもらうためにも出音がシビア過ぎてはいけません。しかし、周囲の方からのアドバイスによって変化していく表現を描き出す繊細さは残さなければならない。GENELECのスピーカーはそのバランスが優れているんです。また、今は圧縮音源に慣れてしまっている学生が多いのですが、GENELECのスピーカーは圧縮音源では聴こえないような高解像度録音の細かなニュアンスもしっかり出してくれるので、良い勉強になると思います。ハイレゾで録りたい、アナログ盤を作りたいというような欲求が芽生えてくれるとうれしいですね」  スタジオに導入されたGENELECモニターは、SAM(Smart Active Monitoring)システムを備えたモデル。ラージはもちろんサラウンド、ニアフィールドもSAMで統一されている。高田氏は導入理由をこう語る。  「以前、ある特殊な環境でなかなか音がまとまらずに困っていたのですが、SAMモニターをGLMソフトウェアでチューニングしたところすぐにまとまったんです。現在のSAMは細かな設定が行え、非常にチューニングの幅が広がりましたね。モニター・スピーカーはスタジオの顔と言っても過言ではないので、そういう意味ではGENELECは最適解の一つだと思います」  SAMモニターにしたことで、ラージとニアフィールドのつながりも良いと梅津氏は証言する。  「ラージ・モニターで調整した音を8351Aで聴いてもニ ュアンスは変わらないですね。ラージ・モニターでこうだから、8351Aだとこうなるだろうと考えながら作業しなくて良いので、大変扱いやすい。このスタジオではピアノやバイオリンなどの生楽器をマイクで録音することが多いので、楽器とマイクの距離が重要になってきます。そのような場合でもブースの中で聴いた生音とモニターで聴いた音が合致するので、大変重宝していますね。また、8351Aには同軸の良さを感じます。ソロはもちろんアンサンブルであっても、位相のずれや変に誇張されてどこかの帯域だけが伸びるということが無く、バランス良く一つにまとまって聴こえるんです」
[caption id="attachment_82317" align="alignnone" width="650"]▲左から、スタジオの企画/提案を行ったミキサーズラボの高田英男氏、同じく構想段階からかかわるミキサーズラボの梅津達男氏、映画・放送音楽コースで講師を務めるレコーディング・エンジニアの佐野秀明氏 ▲左から、スタジオの企画/提案を行ったミキサーズラボの高田英男氏、同じく構想段階からかかわるミキサーズラボの梅津達男氏、映画・放送音楽コースで講師を務めるレコーディング・エンジニアの佐野秀明氏[/caption]
[caption id="attachment_82318" align="alignnone" width="650"]▲最高の音質で学生の演奏を録音/発信するべく導入されたアナログ・コンソールのAPI Legacy AXS。音の抜けが非常に良く、アコースティック楽器に合うと、高田氏は評価する。梅津氏もヘッドアンプの音が太く、説得力のあるサウンドと信頼を寄せる ▲最高の音質で学生の演奏を録音/発信するべく導入されたアナログ・コンソールのAPI Legacy AXS。音の抜けが非常に良く、アコースティック楽器に合うと、高田氏は評価する。梅津氏もヘッドアンプの音が太く、説得力のあるサウンドと信頼を寄せる[/caption]
[caption id="attachment_82319" align="alignnone" width="650"]▲ニアフィールド・モニターのGENELEC 8351A。ラージ・モニターとのつながりが自然と、梅津氏は高く評価する ▲ニアフィールド・モニターのGENELEC 8351A。ラージ・モニターとのつながりが自然と、梅津氏は高く評価する[/caption]
[caption id="attachment_82320" align="alignnone" width="650"]▲L/RにはGENELEC 1234A(写真左がLch)、センターにはGENELEC 1238AC(同右)が採用されている ▲L/RにはGENELEC 1234A(写真左がLch)、センターにはGENELEC 1238AC(同右)が採用されている[/caption]
[caption id="attachment_82321" align="alignnone" width="394"]▲サイド(写真左)とハイト(同右)のL/RとしてGENELEC 1238DFが計4台導入されていた ▲サイド(写真左)とハイト(同右)のL/RとしてGENELEC 1238DFが計4台導入されていた[/caption]

MADIは200mの距離があっても ロスの少ない接近感のあるサウンド

 東京音大のシステムでさらに注目したいのは、RMEのMADIシステムが導入されている点だ。TCMホールや特大教室など、学内の施設からRMEの8chマイクプリ/AD、Micstasy Mなどを経由してMADI(オプティカル)でスタジオへ。そこからコントロール・ルーム内にあるRME M-32 DAでパッチしてアナログ信号としてLegacy AXSに立ち上がる。MADIを採用した理由を佐野氏が教えてくれた。  「大学という一つの建物の中とはいえ各施設からどうしても距離はあるので、一番ロスの少ない方法を考えたときにMADIが最適解でした。アナログの回線も並行して引いているのですが、大学施設なのでどこからどのようなノイズが入るか分かりませんからね」  MADIは狙い通り音質のロスが少ないと梅津氏は言う。  「ホールからスタジオまでだと200m近い配線距離がありますが、音に接近感のあるロスの少ない音だなと強く感じます。アナログ回線も引いていますが、コントロール・ルームまでマイク・レベルで送ってスタジオ内のプリアンプで増幅するというのは現実的ではないですから。もちろんアナログにはアナログの良さがあり、MADI伝達のためにAD/DA変換したことによる音質の変化は当然出てきてしまいます。しかし、音そのもののエネルギーが損失していないという絶対的な良さがあるので、これからMADIを使ってどのようにして音楽を作っていくかが課題だと思います」
[caption id="attachment_82322" align="alignnone" width="650"]▲8ch仕様のマイクプリ/ADコンバーター、RME Micstasy M。スタジオ常設以外にも教室やホールなどに計6台用意されており、MADIへの変換に活用されている。ユーザーにヒアリングし、実績と安定性の面から採用したと高田氏 ▲8ch仕様のマイクプリ/ADコンバーター、RME Micstasy M。スタジオ常設以外にも教室やホールなどに計6台用意されており、MADIへの変換に活用されている。ユーザーにヒアリングし、実績と安定性の面から採用したと高田氏[/caption]
[caption id="attachment_82323" align="alignnone" width="358"]▲ホールなどにあるMicstasy Mから送られた信号をパッチし、コンソールに送るDAコンバーターのRME M-32 DA ▲ホールなどにあるMicstasy Mから送られた信号をパッチし、コンソールに送るDAコンバーターのRME M-32 DA[/caption]
[caption id="attachment_82324" align="alignnone" width="650"]▲MADI対応のオーディオI/O、RME MADIFace XTも導入されていた ▲MADI対応のオーディオI/O、RME MADIFace XTも導入されていた[/caption]
[caption id="attachment_82325" align="alignnone" width="650"]▲STEINWAYのフル・コンサート・グランド・ピアノが置かれたメインのレコーディング・ブース。そのほかドラム、ブラス、ピアノ、ボーカルなど用途に合わせて使用できるブースが4つ併設されている ▲STEINWAYのフル・コンサート・グランド・ピアノが置かれたメインのレコーディング・ブース。そのほかドラム、ブラス、ピアノ、ボーカルなど用途に合わせて使用できるブースが4つ併設されている[/caption]
[caption id="attachment_82326" align="alignnone" width="626"]▲メイン・ブースのモニター用にステレオ2chで用意されているGENELEC 1238DF。非常にバランス良くブース中に音が広がるため、コントロール・ルームでの印象とはほとんど変わらないモニタリングができると、佐野氏は評価する ▲メイン・ブースのモニター用にステレオ2chで用意されているGENELEC 1238DF。非常にバランス良くブース中に音が広がるため、コントロール・ルームでの印象とはほとんど変わらないモニタリングができると、佐野氏は評価する[/caption]
Designer’s Interview

豊島政実

[caption id="attachment_82329" align="alignnone" width="650"]▲豊島政実氏(*) ▲豊島政実氏(*)[/caption]

学生が気持ち良く演奏できるライブな空間を意識しました

 今回のスタジオ設立にあたり、豊島総合研究所所長の豊島政実氏が音響設計を監修している。豊島氏はこれまでにアビイ・ロードやタウンハウス、ビクタースタジオ、ワーナーミュージックスタジオなど国内外250以上のスタジオを設計。現在も江蘇州大劇場録音スタジオなど幾つものプロジェクトに携わっている。ここでは豊島氏に中目黒・代官山キャンパスのスタジオについていただいたコメントを紹介しよう。  インテリア・デザインは戸田建設、建築音響は日建設計、音響内装工事はソナが担当。私は音響仕様の提示とそれを達成するためのアドバイス、スタジオ機器と建築との調整などスタジオ工事全体を音響設計の面から管理するという立場で携わりました。   システムに関しては、ミキサーズラボの高田さんが担当し、私はスピーカーの配置が可能か音響的/建築的にチェック。響きの良いTCMホールと特大教室も併設しているので、大空間の音を表現するためハイト・スピーカーが必要だと高田さんが大学側に提案されました。これにより高精細度の映像と融合した最先端音響の研究が可能となったんです。この設備でどのような空間を表現するかは、これからの研究課題であり、エンジニアの技量も要求されますね。  中目黒・代官山キャンパス以前にも、アビイ・ロードで映画音楽用のスピーカー配置の実験を行ったり、ジャカルタにある映画制作会社、ミトラフィルムのDolby Atmos用天井スピーカーの配置角度調整などイマーシブ・オーディオの設計にも携わってきました。今回、これらと大きな違いはありませんでしたが、大学のスタジオということで、コントロール・ルームに学生が30人近く入ることを想定したレイアウト、音響、空調、照明などの設計が必要でしたね。メイン・ブースは特にクラシック音楽の学生が気持ち良く演奏/収録できるようにライブな空間になるように意識しました。また、GENELEC 1238DFは特性が良い上に小型なので、壁や天井に設置しやすく自由度が高いことに驚きました。

新たにStudio Oneを導入し拡充されたカリキュラム

Tokyo_Ondai_room  スタジオの音響設備もさることながら、中目黒・代官山キャンパス設立後の大きなトピックの一つに、学生指導用にPRESONUS Studio Oneが導入されたことが挙げられる。以前から講義の一環としてMAKEMUSIC FinaleとCYCLING ’74 Maxも使用されており、音楽ソフトウェアの指導に力を入れている印象を受ける。ここでは作曲家で東京音大准教授の土屋雄氏に、各ソフト導入の経緯や講義でどのように使用しているのかを聞いていこう。

Studio Oneで学生の吸収速度が向上 Finaleはオリジナル教材で指導

 東京音大には作曲を学ぶコースがあるが、近年ではピアノやバイオリンなどの楽器を専攻する学生の間でも、自分のプロフィール用にある程度音源の編集能力が問われるようになってきているという。しかし、そのような需要はあるものの、なかなかDAWソフトを講義の中に組み込むことは難しかったと土屋氏は言う。  「DAWを駆使して音楽を作るクリエイターでなければ、どうしても敷居が高い印象が学生の中にあったんです。そのため講義に導入するのはためらっていたのですが、Studio Oneであれば直感的に操作できるということで導入することになりました」  実際に取り入れてみたところ、教員の予想以上に学生の吸収スピードが速く、土屋氏も期待を寄せている。  「扱いやすい上に機能も十分備わっているので、Studio Oneが使えるようになればほかのDAWソフトにもある程度応用が効くと思います。学生が使いたいときに学内のどこでも使えるように、大学としてアンリミテッド・ライセンスを取得しました」  一方Finaleは、1990年代から作曲専攻用に導入されたという。2005年ごろより、楽器を専攻している学生からもFinaleを学びたいという要望が出始め、2008年から作曲専攻以外の学生に向けたマルチメディア演習という講義で扱い始めたそうだ。  「コンピューターでパート譜を作成したり、作曲専攻でなくても作編曲をする必要があるという学生が多かったんです。現在では、学生や若い作曲家のほとんどがノーテーション・ソフトウェアを使って記譜しますからね。Finaleは図形のような譜面にも対応しているので、非常に柔軟性が高くなっています。いくつかあるノーテーション・ソフトウェアの中でFinaleを採用している理由としは、草創期からあったことと、教員を含め専門家が使っている割合が高かったので導入しやすかった、という2点が大きかったと思います」  講義の中ではどのように教えているのだろうか。  「僕が作った独自のテキストを使っています。チュートリアル方式で、実際の楽譜を入力していくという指導方法です。楽譜を書くだけでなく、そこにコードや和声記号、歌詞を入れたり、論文の中に楽譜を挿入する方法なども教えています。ソフトウェアはどんどんアップデートしていくので完ぺきにマスターすることは目標にしていませんが、講義を最後までしっかり受講した学生は全員使えるようになります」
[caption id="attachment_82332" align="alignnone" width="626"]▲作曲家で東京音大准教授の土屋雄氏 ▲作曲家で東京音大准教授の土屋雄氏[/caption]
[caption id="attachment_82333" align="alignnone" width="650"]▲以前ほかのDAWを講義で使用したときに比べ、Studio Oneは学生の吸収ペースが非常に早いという ▲以前ほかのDAWを講義で使用したときに比べ、Studio Oneは学生の吸収ペースが非常に早いという[/caption]
[caption id="attachment_82336" align="alignnone" width="650"]▲MAKEMUSIC Finaleの授業では土屋氏独自のテキストを使用している。Finaleの使い方を覚えることはもちろんだが、楽譜が書けるようになる、どんなノーテーション・ソフトにも対応できるようになるという点にフォーカスしているという。反復学習できるよう、講義中はこのように積極的にメモを取ることを推奨しているそうだ ▲MAKEMUSIC Finaleの授業では土屋氏独自のテキストを使用している。Finaleの使い方を覚えることはもちろんだが、楽譜が書けるようになる、どんなノーテーション・ソフトにも対応できるようになるという点にフォーカスしているという。反復学習できるよう、講義中はこのように積極的にメモを取ることを推奨しているそうだ[/caption]

Maxでまずは音を鳴らすことにフォーカス 授業から目覚め進路をシフトする学生も

 一方Maxは、ダイナミック・ルーティング、モジュール、同期システムの構築を中心に指導しているという。土屋氏いわく指導方法には工夫が必要だそうだ。  「プログラミングになじみの無い学生が少なくないので、楽しいと思ってもらえるようプログラム実習的な部分は避けて、まずは音を鳴らしてみるというところにフォーカスしています。Finaleに比べると習熟度にはどうしても個人差がありますが、興味を持つと爆発的に成長していきます。Maxの授業から何かが目覚める学生もおり、中にはクラシック音楽から進路をシフトする場合もありますね」  伝統は大切だが、時代の流れを意識していくことも重要だと土屋氏は言う。今後はスマートフォンのアプリを作るというような講義を行うことも視野に入れていると展望を語ってくれた。
[caption id="attachment_82337" align="alignnone" width="497"]▲CYCLING '74 Maxに関しては、ダイナミック・ルーティング、モジュール、同期システム構築を柱とするコンサート・パッチ作成を中心に指導 ▲CYCLING '74 Maxに関しては、ダイナミック・ルーティング、モジュール、同期システム構築を柱とするコンサート・パッチ作成を中心に指導[/caption]
[caption id="attachment_82338" align="alignnone" width="470"]▲ある教室に導入されたGENELEC 1237AP。12インチ径ウーファー、5インチ径ミッドレンジ・ドライバー、1インチ径メタルドーム・ツィーターという仕様だ ▲ある教室に導入されたGENELEC 1237AP。12インチ径ウーファー、5インチ径ミッドレンジ・ドライバー、1インチ径メタルドーム・ツィーターという仕様だ[/caption]
[caption id="attachment_82339" align="alignnone" width="650"]▲写真の教室にはGENELEC 8040Bが用意されていた。GENELEC独自のDCW(Directivity Control Waveguide)により、正確な軸上/軸外周波数を再現する ▲写真の教室にはGENELEC 8040Bが用意されていた。GENELEC独自のDCW(Directivity Control Waveguide)により、正確な軸上/軸外周波数を再現する[/caption]
[caption id="attachment_82340" align="alignnone" width="650"]▲こちらも教室に設置されているGENELEC 8050C。池袋キャンパス同様、一流のサウンドに親しんでほしいということで教室にもGENELECのスピーカーが導入されている ▲こちらも教室に設置されているGENELEC 8050C。池袋キャンパス同様、一流のサウンドに親しんでほしいということで教室にもGENELECのスピーカーが導入されている[/caption]
サウンド&レコーディング・マガジン2019年10月号より転載
[amazonjs asin="B07VW3HKLB" locale="JP" title="Sound & Recording Magazine (サウンド アンド レコーディング マガジン) 2019年 10月号"]

Device 36 グラニュラー・シンセシスを応用したリバーブ

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Device 35 ランダム性と周期性を持ち合わせるルーパー

[caption id="attachment_82295" align="alignnone" width="534"]プレゼンテーション・モード ▲プレゼンテーション・モード[/caption]
[caption id="attachment_82296" align="alignnone" width="516"]パッチング・モード ▲パッチング・モード[/caption]   https://youtu.be/rJdOOT2ofGU   ファイルをダウンロードする→ParticleReverb  

[gen~]を使ってDSPを構築

今回紹介するのは、グラニュラー・シンセシスを応用したリバーブ、Particle-Reverbです。まず大まかな仕組みを説明します。グラニュラー部分のインプットは、一定時間[buffer~]に録音。その[buffer~]から、指定したグレイン・サイズ(波形を細かく分割するときの大きさ)、ポジション(分割する場所)、各ランダム範囲に影響を受けてグレイン(波形を細かく分割した粒子のようなもの)が生成されます。従来のリアルタイムのグラニュラー・シンセシスと異なり、Particle-Reverbではグレインの生成量が非常に多いです。設定では、5msごとに指定した長さのグレインが生成され続け、オーバー・ラップして(重なって)いきます。オーバー・ラップ数(同時再生数)が300~400と上がるにつれ、音が重厚になり、リバーブのようなエフェクトとなるのです。CPU性能の劇的な向上とともに誕生した、ハイエンド向けグラニュラーということになりますね。EQやコンプなどに比べるとまだ歴史が浅い分、探求心がくすぐられます。 続いてGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)の解説をします。上部のボタンをクリックするごとに、ランダムにサンプルが再生されます。再生されたサンプルに対し、Particle-Reverbのエフェクトがかかります。Particle-Reverbのパラメーターは、その下にあるXYパッドに集約。横軸がグレイン・サイズで、縦軸がポジションとなっています。⌘キー(WindowsはCtrl)をホールドした状態でドラッグすると、グレイン・サイズとポジションの各ランダム範囲を設定できます。このGUIにおけるXYパッドでは、XとYの範囲を同時に操作することができます。1つずつパラメーターを操作するより、音作りや設定の認識が直感的に行えますね。[jsui]オブジェクトを使用して一から自由にデザインできるMaxならではの操作性です。 続いてDSP部分の解説をしましょう。プレゼンテーション・モードを解除して、XYパッドのbpatcherを開くと[gen~]オブジェクトがあります。[gen~]オブジェクトをクリックすると、gen exprという[gen~]オブジェクト専用のプログラミング言語で描かれたスクリプトが表示されます。[gen~]オブジェクト1つでDSP部分を完結させることにより、サンプリング・レートに正確な挙動を一から作ることができます。さらに処理も軽くなりますね。結果として、適切な処理をすれば再生中にインターフェースを動かしてもクリップ・ノイズが乗ることなく、400ほどのオーバー・ラップ数であっても動きます。 MSPオブジェクトと[gen~]オブジェクトの一番大きな差は、クロックの解像度です。MSPオブジェクトから出力/入力されるbangは、基本的にMaxのAudio Statusで設定されたSignal Vector Size周期で行われます(Audio Interruptがオンの場合)。例えば、Sampling Rateが48000でSignal Vector Sizeが256の場合、その周期は5.333msになります。マイクロ・タイムスケールが基本のグラニュラー・シンセシスではとても致命的なことです。グレイン・サイズや生成インターバルの値が小さいときや、1サンプル・レベルの処理を行いたいといった場合に、MSPオブジェクトでは対応できなくなってしまいます。  

Max for LiveでLive APIも応用可能

僕が感じるMaxの最大のメリットは、GUIとDSP部分のどちらも作りやすい点です。それぞれJavaScript、gen exprと使用言語は異なります。しかし、言語を習得することによりDSPをデザインし、最適化したパラメーターをオリジナルのGUIに落とし込むことが可能です。例えば単純なローパス・フィルターのパッチで、カットオフとレゾナンスを円形の回転するGUIに落とし込んでみます。同じDSP処理でも、従来のスペクトラム・アナライザー系GUIでは見せることのない表情が垣間見えます。DSPからパラメーターの組み合わせ、GUIデザインまでコンパイル時間を挟むことなく制作できることで、開発時間の短縮にもつながります。 また、Maxのプロジェクト・ファイルをMax for Liveとして書き出すことで、ABLETON Liveでも使えます。“モジュール化”によって汎用性が高いだけではなく、Maxを通してLiveのAPIにもアクセスすることも可能。これは市販のプラグインではできないことです。Live APIを利用することで、クリップのリネームやまとめての書き出し、ワークフローの改善につなげることも可能です。LiveユーザーでMaxにも興味がある方は、Max for Liveも強くお薦めします。 今回のParticle-Reverbは、僕が作ったMax for LiveのParticle-Reverbから機能を大幅に制限したトライアル版となっています。本来ならばPitch(−12〜+12)、Chorus、Parametric EQ、Freeze、Feed Backのパラメーターがあり、すべてのルーティングがFeed Backパスに入っています。こちらのパッチでは、よりダイナミックな音作りを楽しんでいただけるでしょう。Max for Live版のParticle-Reverbは僕のWebサイトより購入いただけます(https://gumroad.com/szk_1992)。ぜひMax for Live版Particle-Reverbも触ってみてください!  

suzuki kentaro

profile 【Profile】Technical Sound Designer Twitter: https://twitter.com/szk_1992     max_logo CYCLING '74 MaxはMI7 STOREでオーダー可能 問合せ:エムアイセブンジャパン http://www.mi7.co.jp/  

伝統とモダンが融合するハイファイ真空管マイク MANLEY Referenceシリーズ

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Reference Gold オープン・プライス(市場予想価格:580,000円前後) gold マルチパターン設計に対応した、フラッグシップ・モデル。12AT7管を採用し、出力段にはハム・ノイズなどを防ぐためにミュー・メタル・メースで覆われたMANLEY製トランスを搭載している。指向性はオムニ/カーディオイド/フィギュア8の間で無段階設定が可能。−10dBのPADスイッチも搭載する。 Specifications ■周波数特性:10Hz~30kHz ■感度:17mV/Pa ■ノイズ:−120dB EIN ■最大音圧レベル:150dB SPL ■出力インピーダンス:200Ω ■重量:約1.02kg(本体)       Reference Cardioid オープン・プライス(市場予想価格:328,000円前後) cardioid Reference Goldと同様の電気回路と真空管を採用した、単一指向性のチューブ・マイク。ダイアフラムの厚さもReference Goldと同じで、マイク本体の下部にはPADスイッチ(−10dB)も装備する。ヨーロッパ製のビンテージ真空管マイクの新品時をほうふつさせる、サウンドを有しているという。 Specifications ■周波数特性:10Hz~30kHz ■感度:17mV/Pa ■ノイズ:−120dB EIN ■最大音圧レベル:150dB SPL ■出力インピーダンス:200Ω ■重量:約1.02 kg(本体)       Reference Silver オープン・プライス(市場予想価格:450,000円前後) silver 1977年に発売された真空管マイクSONY C-37Aに触発されたチューブ・マイク。プリ部に5670管を内蔵し、出力段はMANLEY製トランスが担う。付属の専用キーをカプセルに差し込んで回すことで、指向性をカーディオイドから無指向まで無段階で調節可能(電源オフ時のみ)。ローパス・フィルター(−3dB@55Hz)も搭載する。 Specifications ■周波数特性:10Hz~30kHz ■感度:7mV/Pa ■ノイズ:−108dBV(A-Weighted) ■最大音圧レベル:150dB SPL ■出力インピーダンス:200Ω ■重量:約680g(本体)      

President Interview エヴァンナ・マンリー

evanna   チューブ・マイク用の真空管は 最も静かな個体を厳選して使っています Interpretation:Mariko Kawahara   サウンドとデザイン、共に洗練されているMANLEYの真空管マイク。その理念と物作りにかける情熱について、同社社長であるエヴァンナ・マンリー氏に聞いた。 ─ MANLEYではマイクをいつからラインナップしているのでしょうか? マンリー Reference GoldとReference Cardioidは、1990年にAESショウでデビューを飾った、MANLEYの最初期からある製品です。マスタリング・エンジニアの巨匠であるダグ・サックス氏と共にマスタリング・ラボで働いていたエンジニアのスティーヴ・ハセルトン氏が、デイヴィッド・マンリーと共にマイクのオーディオ回路を設計しました。   ─ デイヴィッド・マンリー氏はどのような人なのでしょうか? マンリー MANLEYの共同設立者です。ですが1996年に突然アメリカを去ってしまいました。その後から、私がMANLEYの舵を取っているわけです   ─ 2機種のマイクが誕生してから27年を経て、Reference Silverが発売されました。 マンリー 真空管ブランドGROOVE TUBESの創設者である、今は亡きアスペン・ピットマン氏(編注:今年8月に他界)の“SONY C-37Aカプセルを再現する”という夢を実現したのです。私はReference Goldのカプセルを作成していたJOSEPHSONのデイヴィッド・ジョセフソン氏をピットマン氏に紹介しました。   ─ そこから順調にいったのでしょうか? マンリー いいえ。それからずっと後になっても、ジョセフソン氏は自身のブランドであるJOSEPHSONのために、相変わらずC-37Aカプセルを開発していました。それを知った私は、サンプルを送るようジョセフソン氏に頼み、MANLEYでの製品化に向けて追求を始めたのです。   ─  Reference Silverではスイッチング電源が採用されていますね。 マンリー このパワー・サプライは、これまでにないアップグレードと言い切れます。地球上で最も素晴らしいオーディオ・エンジニアである、ブルーノ・プッツェイス氏がMANLEYのために開発したものです。最初はCoreのために、それからForce、Elop+、Nu Muなど、MANLEYの最新機器に使用されています。その結果、過去に使用してきたリニア・サプライより安定していてかつ静かで、優れたサウンドであることが証明されました。2020年を迎える前に、MANLEYで現在ラインナップしているマイクは3種とも、スイッチング電源を採用する予定になってます。   ─  マイクの開発で最も大事にしていることは何ですか? マンリー それぞれに独特の味わいがありながらも、幅広い音源や楽器に役立つ必要があると考えています。トータル・バランスの良いマイクは、多くの問題を解決できるからです。MANLEYではアフター・ケアも大切にしています。近年小さなプライベート・スタジオのオーナーやミュージシャンが、問題が生じた際にメーカーのバックアップを得られ、何十年も使えるクオリティの高い製品を求めていることが見受けられます。非の打ちどころの無い機材を求めている方に、我々はそれを提供すべく努力していきます。   ─  品質管理で大切にしていることを教えてください。 マンリー 回路が正常に作動していることと、カプセルがその設計にぴったり合ったサウンドであることはもちろん、我々が非常に留意しているのはノイズ・パフォーマンス。Reference GoldとReference Cardioidの回路には低ノイズな真空管が必要なので、真空管をテストを行った中で最も静かだった個体を厳選して使用しているんです。    

突き抜けるハイエンドと リッチな低域が共存するマイクです

ryota User Report 林田涼太 Photo:Takashi Yashima ここからはいろはスタジオの代表兼レコーディング・エンジニアである林田涼太氏に、彼の愛機であるReference Goldについて語ってもらおう。今回はReference CardioidとReference Silverも試用してもらい、それらのインプレッションも伺った。   設立10周年を迎えるいろはスタジオ。その歴史を共に歩んできたReference Goldは、主にボーカル・マイクとして使っているそうだ。 「男女どちらにも対応できるマイクで、ロック・シンガーにもアイドルにも幅広く使っています。声の細いボーカリストでも、声が身体に響いている感じをしっかりキャプチャーしてくれます。バイオリンやアコギにも合いますね」 音色の特徴について林田氏が語る。 「Reference Goldは突き抜けるハイエンドと、リッチな低域が共存する、派手なマイクです。全帯域にわたってグイグイ前にくる感じで、おいしいポイントを引き出してくれます。2ミックスに混ぜても埋もれないので、目立たせたいパートには適任です。低域が特徴的で、ここまでファットに収音できるチューブ・マイクもなかなか無いと思います」 今回試してもらったほかのマイクについても伺った。Reference Cardioidは3機種の中で一番ナチュラルなので、いろいろなソースに使えそうですね。同じ電子回路が使われているReference Goldより低域は控えめで、ボーカル録音への対応力が高そうです。Reference Silverはビンテージ指向のマイクだと思いました。中域に張り出し感があるのが特徴で、低域のもっちり感はReference Goldと似ています。高域成分が抑えめでファットなサウンドなので、ほかの2種類よりターゲットを選びそうです。ドラムで試してみましたが、トランジェントをしっかり保ったまま収音してくれますね。バンジョーも録ってみたところ、ほかのマイクだと録れないような低域までしっかり収めてくれました。今ラインナップされている3種類はすべて違うキャラクターですが、ハイファイでありながら自己主張がある特徴は共通しています。ステレオ・コンプレッサーのStereo Variable Mu Limiter Compressorも同様の印象で、MANLEYのカラーなのかなと思います」 3機種を試してみた結果、やはり所有しているReference Goldが一番好きだと林田氏は熱弁する。 「フラッグシップ・モデルだけあって、ボーカルの存在感が大きく感じます。声のザラザラしている感じもしっかり収音してくれるんです。見た目も音も派手なReference Goldは、ボーカリストのモチベーションを上げて、パフォーマンスを最大限引き出してくれる最高のマイクだと思っています。初めて使った人のほとんどが、“歌がうまく聴こえる”と言ってくれるんです。コンデンサー・マイクの定番機はナチュラルな特性のモデルが多いですが、このような派手な特性のマイクもレコーディング・スタジオに適していると思います」    

Reference Cardioid 限定100台のアニバーサーリー・モデルが登場

cardioid_xxx MANLEY設立30周年を記念して、Reference Cardioid XXX Anniversary Limited Edition(2,999ドル)の発売が決定。ボディは光沢のあるパール・カラーがあしらわれ、Reference Silverと同様のスイッチング電源を採用したモデルとなる。   問い合わせ先:フックアップ ☎03-6240-1213 https://hookup.co.jp/     201912サウンド&レコーディング・マガジン2019年12月号より転載  

【第26話】つまみちゃん〜兄がこんなの買えるわけがない〜

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サウンド&レコーディング・マガジン2017年11月号より掲載がスタートし、本誌としては異色のマンガ連載として各所をザワつかせている「つまみちゃん〜兄がこんなの買えるわけがない〜」。大人の階段を昇るってこういうことよね〜 tsumami26Web1 tsumami26Web2  

【Episode4】シンセサイザーガールズ!!

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サウンド&レコーディング・マガジン2019年9月号より掲載がスタートし、「つまみちゃん」に続く異色のマンガ連載として誌面を混沌とさせている「シンセサイザーガールズ!!」。今月も新しい仲間が増えたから、みんなちゃんとついてきてネ! syn004_Web001 syn004_web002

in the blue shirtが使う Studio One 第1回

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第1回 オーディオ編集の効率を上げる ショートカット&コマンド集

皆さま初めまして。in the blue shirtという名義で音楽制作をしている有村と申します。これまでに2枚のアルバムをリリースしたほか、TVドラマの劇伴、CMやWeb広告の音楽を作ったりもしています。私はPRESONUS Studio One(以下S1)を使い、“カットアップ”と呼ばれるオーディオ編集ベースの手法を積極的に採って制作しています。今月から数回にわたり、この連載で私の制作技法を紹介させていただくことになりました。DAW特有の編集の妙を知ってもらうささやかなきっかけになれば幸いです。

MIDIをドラッグ&ドロップし 瞬時にオーディオ化

私がS1を使い始めたのは2011年。バージョンが2だった時代です。当時Windowsユーザーだった私は、まだ使っている人が少なく、最上位版がより安価に買えるという理由で人生初の有料DAWとしてS1を購入しました。思い返すと、当初は標準搭載のシンセがモノフォニックのMojitoのみ。貧乏学生だったのでサード・パーティのシンセを買い足す余裕も無く、そのことがカットアップ・メインの制作スタイルの形成に一役買っている気がします。ちなみに現在のS1は、NATIVE INSTRUMENTS Massiveなどのサード・パーティ製品とも十二分に渡り合えるポリフォニック・シンセMai Taiをはじめ、音源面でも充実のDAWとなっています。私の制作人生、S1とともに成長してきたという謎の自負があり、愛着は人一倍です。 私の制作スタイルをざっと説明するならば、“ある程度の尺のオーディオ素材をカットアップし(=細切れにし)、切り張りで再構築する”といった感じ。特にボーカルのカットアップとエディットには並々ならぬ情熱を注いでいます。そうした技法の都合上、オーディオ編集の手数が世間一般の平均に比べるとやたら多いです。今回は、クリエイティブな部分に頭と時間を使えるよう、S1でのカットアップ〜エディットを効率化できる機能やコマンドを紹介。読者の中にカットアップ道を突き進みたい方が居るなら、ここで紹介する操作(特にショートカット)は最低限の素養として体で覚えることをお勧めします。 【STEP① インストゥルメント・トラックをオーディオ化】 まずは素材作り。今回は、標準搭載のサンプル・プレイヤーPresence XTに収録の音色“Organ FunFair”(筆者のお気に入り)を立ち上げ、リアルタイム入力で適当に打ち込んでMIDIイベントを作成します。うまく弾く必要はなく、尺もある程度でOKです。MIDIイベントができたら、次に新規のオーディオ・トラックを作成。そこへMIDIイベントをドラッグ&ドロップすると瞬時にオーディオ化され、波形(オーディオ・イベント)になります。S1のナイス機能として、このオーディオ・イベントを元のインストゥルメント・トラックにドラッグ&ドロップすると、なんとMIDIクリップに戻ります。素晴らしき時代。 [caption id="attachment_82642" align="alignnone" width="650"]▲カットアップでフレーズを作る際には、まず素材の用意を。筆者は、MIDIキーボードを使ったリアルタイム入力で適当なMIDIパターンを打ち込み、それを空のオーディオ・トラックにドラッグ&ドロップしてオーディオ化。こうして得たオーディオ・イベントをカットアップ&エディットしてフレーズ・メイクしていきます ▲カットアップでフレーズを作る際には、まず素材の用意を。筆者は、MIDIキーボードを使ったリアルタイム入力で適当なMIDIパターンを打ち込み、それを空のオーディオ・トラックにドラッグ&ドロップしてオーディオ化。こうして得たオーディオ・イベントをカットアップ&エディットしてフレーズ・メイクしていきます[/caption] 【STEP② 範囲ツールの設定をチェック】 ちゃんと弾けているわけでもない、どうしようもないオーディオを編集していきます。ギターやボーカルの録り音、サンプル・パックの素材など、オーディオであれば同じ方法で編集可能です。その実操作へ移る前に設定を確認。有村が編集フリークの方にオススメするのは“イベントエリア上側の範囲ツール”を解除し、代替ツールを“範囲ツール”にするという設定です。あくまで好みですが、イベントエリア上側の範囲ツールを用いると、キーボードを使う頻度が減るのと引き換えに、イベントの端で行う各種操作(後述)がしづらくなります。私のように、細切れ素材を扱う場合は画面中切れ端だらけになるので、この設定はほぼマストです。 [caption id="attachment_82643" align="alignnone" width="300"]▲筆者は“イベントエリア上側の範囲ツール”(ピンク枠)を解除しておく派。また、代替ツールは矢印ツールのプルダウン・メニューから範囲ツールに設定します ▲筆者は“イベントエリア上側の範囲ツール”(ピンク枠)を解除しておく派。また、代替ツールは矢印ツールのプルダウン・メニューから範囲ツールに設定します[/caption]  

2ステップ必要な操作を ショートカットに登録

【STEP③ 素材の一部を切り出す】 次に、カットアップの方法です。オーディオ・イベントの上をcommand(WindowsはCtrl)キーを押しながらドラッグすると、イベントの一部が選択され色が変わります。その部分を任意の場所へドラッグ&ドロップすれば、単体のイベントとして切り出すことが可能です。またcommand(WindowsはCtrl)キーを押しながらドロップすると、元のイベントを変形させることなく切り出せます。私は後者の操作をパレットから絵の具を取り出すようなイメージで、かなりの頻度で用いています。 [caption id="attachment_82644" align="alignnone" width="476"]▲command(Mac)/Ctrl(Windows)を押しながらオーディオ・イベントの上をドラッグすると、色が変わります。画面中央の薄くなっているのが当該部分 ▲command(Mac)/Ctrl(Windows)を押しながらオーディオ・イベントの上をドラッグすると、色が変わります。画面中央の薄くなっているのが当該部分[/caption] [caption id="attachment_82645" align="alignnone" width="703"]▲選択した部分を任意の場所にドラッグ&ドロップすると、イベントの一部が切り取られた形になります(ピンク枠) ▲選択した部分を任意の場所にドラッグ&ドロップすると、イベントの一部が切り取られた形になります(ピンク枠)[/caption] [caption id="attachment_82646" align="alignnone" width="704"]▲選択した部分をドラッグし、command(Mac)/Ctrl(Windows)を押しながらドロップすると、元のイベントはそのままに目的の部分を切り出せます ▲選択した部分をドラッグし、command(Mac)/Ctrl(Windows)を押しながらドロップすると、元のイベントはそのままに目的の部分を切り出せます[/caption] 【STEP④ 切り出した素材を編集】 切り出した素材への編集テクは数え切れないほどありますが、その中で重要度が高いものをピックアップしてみます。 ●位置ずらし 先ほどの素材を選択し、option+command(WindowsはAlt+Ctrl)キーを押しながら左右にドラッグ。すると、車窓から見た景色のように波形だけが動きます。 [caption id="attachment_82647" align="alignnone" width="417"]▲option+command(Mac)/Alt+Ctrl(Windows)を押しながらオーディオ・イベントを左右にドラッグすると、波形だけが動きます。“イベント=枠、波形=枠の中身”と考えれば分かりやすいでしょう ▲option+command(Mac)/Alt+Ctrl(Windows)を押しながらオーディオ・イベントを左右にドラッグすると、波形だけが動きます。“イベント=枠、波形=枠の中身”と考えれば分かりやすいでしょう[/caption] イベントの長さ=窓枠、波形=外の景色という感じで、切り出した後にオーディオの再生位置を変えたいときに便利です。 ●ストレッチ(伸縮) イベントの右端を、option(WindowsはAlt)キーを押しつつドラッグするとストレッチできます。 [caption id="attachment_82648" align="alignnone" width="462"]▲オーディオ・イベントの右端を、option(Mac)/Alt(Windows)を押しながらドラッグするとストレッチが行え、普通にドラッグするとイベントの長さを変えられます ▲オーディオ・イベントの右端を、option(Mac)/Alt(Windows)を押しながらドラッグするとストレッチが行え、普通にドラッグするとイベントの長さを変えられます[/caption]   ●ピッチ・トランスポーズ 画面左上のアイコン“i”を押すと左にインスペクターというウィンドウが開きます。そこにある“トランスポーズ”欄の数字を変えることで、オーディオのピッチを半音単位で変更可能。私はこれを多用するため、option+command+上下の矢印キー(WindowsはAlt+Ctrl+上下の矢印キー)にトランスポーズを割り当ています。 [caption id="attachment_82649" align="alignnone" width="765"]▲筆者は、F4キーでインスペクターを開き、トランスポーズ欄でピッチを調整するという操作をショートカットに登録。画面上部メニューStudio One>キーボードショートカットで登録でき、コマンドはoption+command+上下の矢印キー(Mac)/Alt+Ctrl+上下の矢印キー(Windows)です ▲筆者は、F4キーでインスペクターを開き、トランスポーズ欄でピッチを調整するという操作をショートカットに登録。画面上部メニューStudio One>キーボードショートカットで登録でき、コマンドはoption+command+上下の矢印キー(Mac)/Alt+Ctrl+上下の矢印キー(Windows)です[/caption]   ●反転 イベントを選択し、command(WindowsはCtrl)+Rのキーを押してみてください。オーディオが反転(リバース)します。“Reverse”の“R”と覚えましょう。 [caption id="attachment_82650" align="alignnone" width="493"]▲イベントを選択し、command(Mac)/Ctrl(Windows)+Rキーを押すとオーディオが反転する ▲イベントを選択し、command(Mac)/Ctrl(Windows)+Rキーを押すとオーディオが反転する[/caption]   ●ピッチ補正 イベントを選択し、command(WindowsはCtrl)+Mのキーを押してみましょう。S1に一機能として組み込まれているピッチ補正ソフト=CELEMONY Melodyne Essentialがイベントにインサートされ、ノート単位でピッチの変更ができるようになります。私はボーカル・エディット時に、これなしではいられない体になってしまったため、S1を手放すことができません。 [caption id="attachment_82651" align="alignnone" width="300"]▲command(Mac)/Ctrl(Windows)+Mキーで立ち上がるCELEMONY Melodye Essential ▲command(Mac)/Ctrl(Windows)+Mキーで立ち上がるCELEMONY Melodye Essential[/caption] 駆け足になってしまいましたが、以上の操作は体で覚えるまで繰り返すと、エディット作業が思いのままにできるようになります。かなり特殊な切り口でのスタートでしたが、これらのコマンドを用いて、実際にどのように楽曲を構築していくかを次回以降に紹介します。果たして興味がある人はいるのか!? 引き続き、何とぞよろしくお願いいたします!!     *Studio Oneの詳細は→http://www.mi7.co.jp/products/presonus/studioone/

SONICWIREで振り返る2019年の注目ソフト

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プラグイン・エフェクト〜先進的なテクノロジーの百花繚乱

AIでインテリジェントな処理を実現 ステレオ感の調整もネクスト・レベルに

本題へ入る前に、なぜSONICWIREがプロのクリエイターにも支持されているのか考えてみたい。まずは、海外ディベロッパー(メーカー)の製品であっても日本語で検索でき、説明文を読め、購入手続きを踏めるという点が大きいだろう。クリプトン・フューチャー・メディアが輸入販売を手掛けるソフト音源やプラグイン・エフェクトは、購入者に対して日本語のインストール・ガイドやマニュアルが提供される。また、アップデート概要を和訳して知らせてくれるのもうれしいポイントだ。 製品に関する問い合わせを購入者に代わって行う“テクニカルサポート”も頼もしく、ディベロッパーに英語で直接コンタクトすることを思うと実にストレスフリーだ。まずはテクニカルサポート窓口にメッセージを送り、以降はE-Mailでやり取りしよう。そして極め付きは、良心的な価格。適正な値付けで販売できるよう、マーケットが開いているときには必ず為替レートを参照し価格を更新しているという。 ⭐︎⭐︎⭐︎ そろそろ本題へ入ろう。SONICWIREはソフト音源やライブラリーを中心に展開してきたが、今年はプラグイン・ディベロッパーの陣容がより充実し、“インテリジェントに処理するもの”がミックス・エンジニアやトラック・メイカーの間で盛り上がりを見せたそう。例えばSONIBLE Smart:Comp。独自のAI技術を備えたコンプで、入力信号を2,000以上の帯域に渡って解析し、最適な効果を自動で生み出すというものだ。そのEQ版にあたるSmart:EQ 2や両者のバンドルSmart:Bundleも発売中。このインテリジェント系プラグインには、AIによってミキシングを自動化するIZOTOPE Neutron 3なども含まれ、ユーザーが“自分の音作りのどこを補ってほしいか”によって製品を選んでいる傾向だという。 [caption id="attachment_82661" align="alignnone" width="650"]▲オーストリアのSONIBLEが手掛けるSmart:Comp。独自のAIにより入力信号を即座に分析し、最適な設定を自動で弾き出す。クリアな音質のコンプレッションが特徴で、インテリジェントなサイド・チェイン・ダッキング機能も搭載 ▲オーストリアのSONIBLEが手掛けるSmart:Comp。独自のAIにより入力信号を即座に分析し、最適な設定を自動で弾き出す。クリアな音質のコンプレッションが特徴で、インテリジェントなサイド・チェイン・ダッキング機能も搭載[/caption]   AIではないが、斬新な技術を特徴とするプラグインも注目度が高く、中でもLEAPWING AUDIO StageOneは出色。ステレオ・イメージャーに類するものの、ファンタム・センターへ悪影響を与えずサイド成分のみに働きかけるため、音像をぼかさずにステレオ感を強調できるのだ。また奥行き感を加えたり、モノラル音源を左右に広げて聴かせるような処理も可能。LEAPWING AUDIOはスライダー1つに対して100時間のリスニング・テストを行うなど音質に徹底してこだわった製品を発売しており、ほかにも左右の広がりに影響を与えることなくファンタム・センター成分の強弱を調整できるCenterOne、たった5本のフェーダーで基本的な設定が行える5バンドのマルチバンド・コンプDynOneなどがある。 [caption id="attachment_82662" align="alignnone" width="650"]▲ベルギーのサウンド・エンジニアによるLEAPWING AUDIO。StageOneは、音像をぼかすことなく左右の広がりを得られるステレオ・イメージング・ツール。さまざまなコントロールをスライダー1本で行えるのも現代的 ▲ベルギーのサウンド・エンジニアによるLEAPWING AUDIO。StageOneは、音像をぼかすことなく左右の広がりを得られるステレオ・イメージング・ツール。さまざまなコントロールをスライダー1本で行えるのも現代的[/caption]  

“リバーブ取り”に見る除去技術の進歩 クリエイターを触発する偶然性に富む効果

技術的に斬新なプラグインと言えば、ACCUSONUSの製品もそう。オーディオ修復技術で知られるギリシャのディベロッパーで、ノイズを低減するプラグインやディエッサーなどを手掛けているが、今年特に人気だったのはリバーブ成分を除去するためのEra 4 Reverb Remover。除去できる度合いはソースによるものの、性能の高さが評価され、例えば劇伴の作家らにもユーザーが増えているのだとか。ピアノの部屋鳴りを調整したり、洞窟の中で話しているような声の残響を低減するなど、さまざまな用途に活用されている。6,000円ほどとお手ごろで、動画制作者にもファンが多いそう。 [caption id="attachment_82663" align="alignnone" width="650"]▲リバーブ除去プラグインEra 4 Reverb Removerを含むACCUSONUS Era 4 Bundle Pro。ヒスやポップ・ノイズ、クリップ・ノイズの除去ツールやディエッサーなども入っている ▲リバーブ除去プラグインEra 4 Reverb Removerを含むACCUSONUS Era 4 Bundle Pro。ヒスやポップ・ノイズ、クリップ・ノイズの除去ツールやディエッサーなども入っている[/caption]   リーズナブルかつ先進的な技術を用いたプラグインとしては、AUDIONAMIX Xtrax Stems 2も人気。2ミックスをボーカル、ドラム、その他に分かつもので、非破壊編集を可能としている。つまり、分離させても元に戻せるのだ。この技術から簡易なマイナスワンなどは余裕で行え、類似プラグインが増えつつある昨今にあっても“分離系プラグインの第一人者”の風格を見せている。これを10,000円強で享受できるのだから、興味のある方はぜひチェックを。 [caption id="attachment_82664" align="alignnone" width="650"]▲独自の“ADXテクノロジー”により、2ミックスをボーカル/ドラム/その他に分離させるAUDIONAMIX Xtrax Stems 2。リミックスやアカペラの制作、楽器練習のためのマイナスワン・トラック制作など、さまざまな用途に有用 ▲独自の“ADXテクノロジー”により、2ミックスをボーカル/ドラム/その他に分離させるAUDIONAMIX Xtrax Stems 2。リミックスやアカペラの制作、楽器練習のためのマイナスワン・トラック制作など、さまざまな用途に有用[/caption]   積極的な音作りに使用するものとして、グラニュラー・エフェクトのOUTPUT Portalを紹介しておく。SONICWIRE内のランキングで上位をマークし続けた逸品で、プロ・クリエイターからの反響も大きいそうだ。グラニュラー・エフェクトと言えば、原音と似ても似つかない音を生み出すものも多いが、Portalは“かけ離れ過ぎない”ことを特徴としている。楽曲のキャラクターから大きくブレず、それでいて意外性/偶然性に富んだサウンドが得られるところに、劇伴作家やトラック・メイカーたちが触発されているようだ。 [caption id="attachment_82665" align="alignnone" width="650"]▲アメリカのディベロッパーOUTPUTによるグラニュラー・エフェクト、Portal。250種類以上のハイセンスなプリセットを特徴とし、入力音と関連性が高い結果を得られるという ▲アメリカのディベロッパーOUTPUTによるグラニュラー・エフェクト、Portal。250種類以上のハイセンスなプリセットを特徴とし、入力音と関連性が高い結果を得られるという[/caption]   Category❷

ソフト音源〜ユーザーや用途に応じて特徴を強化

各社の個性が際立つストリングス音源 ギター/ベース系は演奏性重視の傾向

続いては注目のソフト音源について見ていこう。まずは2019年も伸びを示したというSPITFIRE AUDIOの製品から。ストリングス音源のSpitfire Chamber Stringsなどが現在もヒット中だが、コンスタントに新製品がリリースされており、なおかつ各製品で操作系がほぼ共通の仕様のため、安心して使えるのが支持される理由の一つだろう。そして何よりクオリティ。共同経営者のクリスチャン・ヘンソン氏はもともと映画音楽の作家で、仲間とともに“自分たちが一番使いやすい音源を作ろう”という気持ちで立ち上げたのがSPITFIRE AUDIOだ。だからこそクリエイターの目線に立った製品作りができているのだろう。 [caption id="attachment_82666" align="alignnone" width="650"]▲英国SPITFIRE AUDIOから2016年に発売された室内楽ストリングス音源、Spitfire Chamber Strings。サンプルは、一流の弦楽奏者たちによる演奏をロンドンのエア・スタジオで収録 ▲英国SPITFIRE AUDIOから2016年に発売された室内楽ストリングス音源、Spitfire Chamber Strings。サンプルは、一流の弦楽奏者たちによる演奏をロンドンのエア・スタジオで収録[/caption]   オーケストラ系ではVIENNA SYMPHONIC LIBRARYも健在で、とりわけSynchron-ized Special Editionシリーズが人気だという。フル・オーケストラ音源や特定のパートにフォーカスしたものなど、さまざまな製品をそろえており、サンプルは自社の大規模スタジオでレコーディング。いずれもSynchron Playerという新開発のエンジンで運用し、リバーブや響きの特性を楽器ごとに調整できる。ミキシング&ホスティング・ツールのVienna Ensemble Pro 7も今年に発売された製品で、ミキサーにエフェクトを追加したりと前バージョンからアップデートを図っている。 [caption id="attachment_82667" align="alignnone" width="627"]▲VIENNA SYMPHONIC LIBRARYの総合オーケストラ音源、Synchron-ized Special Edition。自社スタジオSynchron Stage Viennaで収録されたサンプルを備え、新たなエンジンSynchron Player(画面)で運用できる ▲VIENNA SYMPHONIC LIBRARYの総合オーケストラ音源、Synchron-ized Special Edition。自社スタジオSynchron Stage Viennaで収録されたサンプルを備え、新たなエンジンSynchron Player(画面)で運用できる[/caption]   次にギター/ベース音源を見ていこう。楽器特有のフレーズをキー・スイッチなどで簡単に演奏できるUJAM Virtual GuitaristシリーズやVirtual Bassistシリーズをはじめ、MUSIC LAB Real Strat 5VIR2 Electri6ityなど演奏性重視の製品が人気だそう。その一方で音の良さにフォーカスして評価されているものもあり、AMPLE SOUND Ample Guitar M IIIが代表例とのことだ。 [caption id="attachment_82668" align="alignnone" width="650"]▲ドイツのUJAMによる、ピック弾きのエレキベース音源、Virtual Bassist - Rowdy。簡単に操作できるのが魅力で、キー・スイッチにて450種類のフレーズ演奏が可能。ロックなどに向けている ▲ドイツのUJAMによる、ピック弾きのエレキベース音源、Virtual Bassist - Rowdy。簡単に操作できるのが魅力で、キー・スイッチにて450種類のフレーズ演奏が可能。ロックなどに向けている[/caption]  

著名エンジニアが開発に携わるドラム音源 シンセは音楽ジャンルの細分化とリンク

ここで変わり種を一つ。和太鼓音源IN SESSION AUDIO Taiko Creatorだ。劇伴で使われるような迫力のある音色が特徴で、映画音楽などにも採用されている。ディベロッパーはサンプリングCDの時代から和楽器音源を手掛けており、制作のノウハウを蓄積していることがうかがえる。 [caption id="attachment_82669" align="alignnone" width="650"]▲シネマティックな和太鼓音源、IN SESSION AUDIO Taiko Creator。アメリカのディベロッパーらしい力強いサウンドのほか、イントロ、フィル、エンディングなど全20種類のMIDIパターン・バンクを有する ▲シネマティックな和太鼓音源、IN SESSION AUDIO Taiko Creator。アメリカのディベロッパーらしい力強いサウンドのほか、イントロ、フィル、エンディングなど全20種類のMIDIパターン・バンクを有する[/caption]   打楽器つながりで、ドラム音源TOONTRACK Superior Drummer 3もピックアップしておきたい。サンプルはイチから作られたもので、何と巨匠ジョージ・マッセンバーグがエンジニアリングを担当している。そのサウンドはもちろんのこと、スタジオをイメージした操作画面や多彩なバリエーションを持つキットも魅力。ゲーム音楽のクリエイターなどには生ドラムと混在させて使う人も居るそうで、デジタルとアナログの旨味を融合させるのが昨今のトレンドだ。拡張音源も興味深く、例えば9月に発売されたSDX – Decadesはアル・シュミットが録音したもの。マッセンバーグのサンプルと併せて持っておけば、向かうところ敵無しか!? SONICWIREにはいわゆるソフト・シンセも充実しており、昨今のランキングで首位独走状態なのがXFER RECORDS Serumだ。2016年の発売当初から大人気で、各社からプリセット集が続々登場。それもあって、細分化を続けるダンス・ミュージックの諸ジャンルに柔軟に対応でき、ついにはひとつのプラットフォームと化した感がある。KV331 SynthmasterVENGEANCE SOUND Avengerといったシンセも売れ行き好調とのことなので、“最近Serum一辺倒だった!”という人にこそ目を向けていただきたい。  

SONICWIRE User’s Comment ① 本間昭光

H <Profile>作編曲家/キーボーディスト/プロデューサー。槇原敬之のバンマス、ポルノグラフィティへの楽曲提供、いきものがかりのライブ・サウンド・プロデュースなどを手掛けてきた。テレビや劇伴でも活躍。

丁寧なアフター・ケアが魅力です

SONICWIREを使い始めてから、どことなく“冷たくドライなイメージ”を持ち続けていた音源のダウンロード販売に対する意識が変わりました。膨大かつユーザー・フレンドリーな取り扱い製品内容も当然ですが、一番の理由はアフター・ケアの丁寧さです。さらに言うと、僕たちプロの現場だと情報収集に一刻を争うような事案が多いのですが、そこにも迅速に対応してもらえるので非常に助かっています。 今年入手したソフトではSPITFIRE AUDIO Spitfire Studio Strings Professional(ストリングス音源) とTOONTRACK Superior Drummer 3(ドラム音源)を特に愛用しています。Studio Strings Professionalはサンプルが出色で、アレンジ後にパート分けしてエクスプレッション・データなどでニュアンスを付けると、生音に引けを取らないイメージのサウンドが出来上がります。さらにSpitfire Symphonic Stringsと合わせ技でゴージャスに仕上がります。 Superior Drummer 3は、やはり進化したドラム音源です。音色の豊富さももちろん驚きですが、特に“位相”への配慮が抜群で、僕たちがずっと感じてきた自然なスタジオの“鳴り”を再現してくれています。なので生ドラムを録り慣れたエンジニアの方と組むときは、このソフトでデータ制作してスタジオに行くと、プロデュース・サイドのイメージも伝わりやすく重宝しています。 [caption id="attachment_82671" align="alignnone" width="352"]▲SPITFIRE AUDIO Spitfire Studio Strings Professional ▲SPITFIRE AUDIO Spitfire Studio Strings Professional[/caption]  

SONICWIRE User’s Comment ② 青木征洋

AO <Profile>カプコンを経て、フリーの作編曲家に。『ストリートファイターV』の作曲のほか、アジアや欧州のタイトルも手掛ける。ギタリストでもあり、レーベルViViXを主宰しつつギター・インストの流布に努める。

シリアル発行やセールへの対応が迅速

海外製品をダウンロード購入する際は、すぐに使いたくてもシリアル・ナンバーが届くのに待ち時間が発生するのが僕の中でネックなのですが、SONICWIREの場合は独自のシステムによってリアルタイムにシリアルが発行されるのが非常にありがたいです。また、本国の急なセールに迅速に対応してくれるのもうれしいポイント。あとはブログやメーリング・リストを使ったり、本国の開発者を招致して製品の詳細をユーザーに伝えてくれるのもうれしいですね。 最近買ったプロダクトとしては、TOONTRACKのSuperior Drummer 3とその拡張ライブラリーは本当に品質が高くて安心して使えます。僕は1999年に発売されたDrumkit From Hell SuperiorからずっとTOONTRACK製品を使い続けているのですが、まずサンプル収録におけるプロデューサーとプレイヤーの選定が絶妙で、収録されたサンプルをライブラリーにするノウハウも業界トップだと思います。最近の拡張音源は特にクオリティが高くて、SDX - The Progressive FoundrySDX - The Rock Foundryのほか、23のグラミー賞を獲得した巨匠アル・シュミットがプロデュースしたSDX - Decadesは常に僕のテンプレート・セッションに入っています。 [caption id="attachment_82675" align="alignnone" width="650"]▲TOONTRACK Superior Drummer 3 ▲TOONTRACK Superior Drummer 3[/caption]   Category❸

ライブラリー〜製品の多様化ゆえ“探し方”が肝に

近ごろは一口に“ライブラリー”と言っても、オーディオのワンショットやループを収めたものからソフト・サンプラーに読み込んで使用するパッチ、先述のようなシンセ用のプリセット、そしてMIDIパターン集などまでを指し多義性を帯びている。またリリース総量も膨大なので、注目すべき製品がめまぐるしく変化するマーケットである。そうした中でも目当てのものを探しやすいのがSONICWIREで、音楽ジャンルやメーカー、楽器、フォーマット、価格帯などでの絞り込み検索はもちろん、他カテゴリーと同じくランキングが出ているので、そこからたどることも可能だ。 また、ページ遷移をしても各製品のデモ・ソングが途切れずに再生される。ある製品のデモを聴きながら、ほかに気になるものを探すことができるのだ。さらに、再生したものがプレイリストとして自動的に蓄積されていくので、“さっきデモを聴いたライブラリーを再チェックしたい”と思ったときなどスムーズに戻れるのがうれしい。 [caption id="attachment_82672" align="alignnone" width="300"]▲フューチャー・ベースの制作に向けて、各種パートの素材をWAVで収めたFREAKY LOOPS FUTURE BASS SESSIONS。サンプリングCDに近い形の製品だ ▲フューチャー・ベースの制作に向けて、各種パートの素材をWAVで収めたFREAKY LOOPS FUTURE BASS SESSIONS。サンプリングCDに近い形の製品だ[/caption] [caption id="attachment_82673" align="alignnone" width="300"]▲ドラムンベースなどに向けたXFER RECORDS Serumプリセットを収めるLOOPMASTERS HARD NEUROFUNK - SERUM PRESETS。こうしたシンセ・プリセット集もライブラリーに入る ▲ドラムンベースなどに向けたXFER RECORDS Serumプリセットを収めるLOOPMASTERS HARD NEUROFUNK - SERUM PRESETS。こうしたシンセ・プリセット集もライブラリーに入る[/caption] 駆け足になったが、SONICWIREをベースに今年の注目製品を振り返ってみた。冒頭で述べた通り、ブラック・フライデーのセールも始まっているので、気になる製品がある方はこの機会に手に入れてみてはいかがだろう。    

「MODAL ELECTRONICS CraftSynth 2.0 」製品レビュー:40種類のオシレーター波形を搭載した小型ウェーブテーブル・シンセ

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スムーズに伸び上がった癖の無い音 パラメーターの心地良い反応具合

 CraftSynth 2.0の大きさは150(W)×68(H)×135(D)mmで、スマートフォンを横に2台並べたくらいのコンパクト・サイズ。本体の重量はわずか278gしかありません。外見はおもちゃのようにも見えますが、中身は本格的です。  簡単にスペックを挙げると、CraftSynth 2.0は2基のオシレーター、フィルター、アンプ、3基のエンベロープ、2基のLFO、2種類のエフェクトなどを搭載しています。ちなみにエフェクトはディレイとディストーションがあり、ディストーションはよくあるビット・クラッシングでなくウェーブ・シェイピングによる仕様です。  また、CraftSynth 2.0はモノフォニック・ウェーブテーブル・シンセサイザーでありながら、最大4台までのCraftSynth 2.0と連結することができ、トータル4ボイスでの演奏も可能です。さらにアルペジエイターを備えたステップ・シーケンサーや、40種類のオシレーター波形も内蔵。同社の無料アプリやプラグインをタブレット端末やコンピューターで使用すれば、すべてのパラメーターにアクセスでき、より視覚的な操作が行えます。  さらに細かく見てみましょう。CraftSynth 2.0には、モーフィング可能な5種類の波形を格納したオシレーター・バンクが8種類用意されています。そして、2基のオシレーターにはこの中から1つをそれぞれアサインすることが可能です。5種類の波形間は、演算による32段階の補完がなされてスムーズにつながるようになっており、ユーザーはこのバンク内の波形を単独で使用するか、任意の波形間をモーフィングさせて使うか、このどちらかの方法が選べます。  ここで一言。CraftSynth 2.0のサウンドと、各パラメーターの反応の良さは特筆すべきことだと思いました。約2万円という価格帯で、スムーズに伸び上がった癖の無い音にはもう脱帽としか言いようがありません。各パラメーターの反応具合も十分です。例えばカットオフを絞っていくときの分解能や、フィルター・エンベロープのディケイをコントロールしたときのサウンドが、プレイヤーの感覚とマッチしていて実に心地良い! このためサウンド・メイクがとても楽しくなります。  ちなみにオシレーター・バンクには、標準的なシンセ波形を筆頭にMODAL ELECTRONICSのハイエンド・シンセ002に内蔵されているバンクも収められているため、いずれも耳新しく、想像力をかき立てる音色で魅力的です。  

クロス・モジュレーションが可能 3つの特性を連続可変できるフィルター

 もう一つの特筆すべき機能は、2基のオシレーターをクロス・モジュレーションさせるオシレーター・モディファイア。片方のオシレーターでもう一つのオシレーターを変調するという考え方を基本とするもので、全部で16種類のモディファイアが用意されています。その内容は、フェイズ・モジュレーションやリング・モジュレーションなど多岐にわたります。正直、この機能は即戦力度が高いです。モディファイアを一つ切り替えてみるだけでも使える音が次々と飛び出しますので、ぜひ試してみることをお勧めします。  フィルターは2ポールのローパスを基本としつつ、バンドパスを経由してハイパスへとモーフィングできるところがみそ。オシレーター・モディファイア同様、“音作りに行き詰まったときの打開策”となるでしょう。  変調ソースとして、エンベロープはフィルター用、アンプ用、そしてモジュレーション用の合計3基を装備。またLFOは2基あり、両者は共にテンポ・シンクが可能です。片方のLFOはさらにオシレーターのフリーケンシーに追従し、可聴範囲でも使える仕様となっています。  CraftSynth 2.0は本体だけでも十分なのですが、冒頭でも触れたように同社は無料アプリModalAppや、そのプラグイン版ModalPluginを用意しています。これらは、CraftSynth 2.0の内容を一画面で把握したり、制御することが可能です。例えば、本体だけでは行いにくいアルペジエイター・シーケンサーの入力などが一瞬で解決できるなど、使いやすさが倍増します。  ほかにも内蔵エフェクトやマトリクス・モジュレーションなど、まだまだ詳しく紹介したい部分がたくさんありますが、とにかく筆者の知る限り、この価格帯でこの音の良さは初めての体験です! 古典的なサウンドから現代的なサウンドまで、ユーザーの好みやスキルに合わせて追求できる飽きのこないシンセだと思います。非常に気に入りました!   [caption id="attachment_82518" align="aligncenter" width="650"]▲リア・パネル。左からMIDI OUT、IN、クロックを送受信するためのSYNCアウト・イン(いずれもモノラル・ミニ)、ライン・アウト、ヘッドフォン出力(いずれもステレオ・ミニ)、USB MIDI対応のMicro USB端子を装備。電源はUSBバス・パワー、または単三電池×3本を選択可能 ▲リア・パネル。左からMIDI OUT、IN、クロックを送受信するためのSYNCアウト・イン(いずれもモノラル・ミニ)、ライン・アウト、ヘッドフォン出力(いずれもステレオ・ミニ)、USB MIDI対応のMicro USB端子を装備。電源はUSBバス・パワー、または単三電池×3本を選択可能[/caption]   (サウンド&レコーディング・マガジン 2019年12月号より)

日本大学芸術学部からのお知らせ【冬期受験準備講習会/音楽科入学試験/情報音楽コースフェス「SWITCH2020」】

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日本大学芸術学部では、来年の音楽学科入学試験に向けて、冬期受験準備講習会を開催する。  

冬期受験準備講習会

日時

2019年12月27日(金)、28日(土)

申し込み受付

2019年11月12日(火)~12月15日(日)

お問い合わせ

Tel:03-5995-8240(音楽学科直通、資料請求など) Fax:03-5995-8249 Web:http://music.art.nihon-u.ac.jp  

音楽学科入学試験

一般入学試験 N方式(第1期)2020年2月1日(土)

●出願受付:2020年1月5日(日)~1月24日(金)郵送必着(作曲・理論、弦管打楽、情報音楽コースのみ) ※1月23日(木)と24日(金)のみ日本大学入試センターの窓口にて出願受付を行います。(受付時間=10:00〜16:00)  

一般入学試験 A方式(第1期)2020年2月4日(火)〜6日(木)

●出願受付:2020年1月5日(日)~1月25日(土)郵送必着 ※1月24日(金)と25日(土)のみ日本大学入試センターの窓口にて出願受付を行います。(受付時間=10:00〜16:00)  

一般入学試験 A方式(第2期)2020年3月3日(火)、4日(水)

●出願受付:2020年1月5日(日)~2月25日(火)郵送必着 ※2月24日(月)と25日(火)のみ日本大学入試センターの窓口にて出願受付を行います。(受付時間=10:00〜16:00)  

出願方法

日本大学公式ホームページ(www.nihon-u.ac.jp)から「一般入学試験要項」をダウンロードし、ご確認ください。

お問い合わせ

Tel:03-5995-8282(芸術学部入試係)  

情報音楽コースフェス「SWITCH2020」

日程

2020年3月21日(土)、22日(日)

場所

芸術学部<江古田校舎>音楽小ホール、他 池袋駅より西武池袋線各駅停車にて「江古田」駅下車 北口より徒歩1分(アクセス)  

「HERITAGE AUDIO Successor」製品レビュー:ダイオード・ブリッジを採用したクラスA回路のステレオ・バス・コンプ

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2種類のサイド・チェイン・フィルターを搭載 原音とエフェクト音を混ぜるブレンド機能

 Successorは、入出力段にCARNHILL製のトランスフォーマーを搭載し、ビンテージ・コンプのNEVE 2254でも採用されているダイオード・ブリッジがベースとなっています。コンプレッションは、マルチモノにはならずステレオ仕様。L/Rのいずれか大きい入力信号に対してコンプレッションが作用するオックスフォード・モードで動作します。   [caption id="attachment_82526" align="aligncenter" width="650"]▲20dBまで表示するゲイン・リダクション・メーター。ダイナミクス・イン・ボタンを押すと、ライトが点灯する ▲20dBまで表示するゲイン・リダクション・メーター。ダイナミクス・イン・ボタンを押すと、ライトが点灯する[/caption]  フロント・パネルから見ていきましょう。左端のゲイン・リダクション・メーターは、右隣のダイナミクス・イン・ボタンを押すと発光するようになっています。ちょっとしたことですが、テンションが上がる仕様です。  スレッショルド(−20~+20dBu)はステップ式で、1dB刻みの合計40ステップ。パラメーターの再現ができるステップ式で、かつこれだけ細かく調節できるのは使い勝手が良さそうです。  続いて右のレシオ(1.5:1~20:1のリミッター)からあずき色のゲイン・メイクアップ(最大10dB)までのノブは見た通りのステップ式で、NEVEらしさが感じられますね。しかし、アタック・タイム(50μs~20ms)やリリース・タイム(25ms~400ms&オート)は超高速にも設定できることや、青ノブのサイド・チェイン・フィルターなど、現代の機材ならではの機能が多く実装されています。  サイド・チェイン・フィルターは定番のハイパス・フィルター・タイプ(80Hz、160Hz、5kHz)に加え、中域のピーク・タイプ(800Hz、3kHz)も完備。ハイパス・フィルターを5kHzにすることで、ディエッサーのような使い方ができるのも面白いところです。   [caption id="attachment_82527" align="aligncenter" width="650"]▲原音とエフェクト音を混ぜる、ステップ式のブレンド・ノブ。ブレンド・ボタンの下部には、外部サイド・チェイン入力を有効にするEXTサイド・チェイン・ボタンがスタンバイ ▲原音とエフェクト音を混ぜる、ステップ式のブレンド・ノブ。ブレンド・ボタンの下部には、外部サイド・チェイン入力を有効にするEXTサイド・チェイン・ボタンがスタンバイ[/caption]  右端に装備されたブレンド・ノブは、外部プロセッサーを使わずにパラレル・コンプレッションが可能です。こちらもスレッショルドと同様、40ステップのノッチがあります。  リア・パネルも見ていきましょう。ステレオの入出力(XLR)と、サイド・チェイン用のセンド&リターン(フォーン)が用意されています。キックで引っかかるサイド・チェイン・コンプとして使うならリターン端子にキックの信号を送り、フロント・パネル右側のEXTサイド・チェイン・ボタンをオンにすればセッティング完了です。  電源は外付けのスイッチング・アダプターから供給されます。アダプターより先の電源ケーブルが着脱可能となっているので、お気に入りの電源ケーブルがあれば使えるところはうれしいポイントです。  

低域が引き締まり中域にパンチが出る 高速設定では1176のようなニュアンスに

 さて、実際にチェックしていこうと思います。このルックス故、NEVEのコンプと比べてしまいたくなるのがエンジニアの性。今回はNEVE 33609B、32264A、プラグインのUNIVERSAL AUDIO UAD-2 Neve 33609、そして筆者の定番機SSL Logic FX G384をリファレンスに比較してみました。  まずはミックス・バスに使ってみます。少しかかるくらいの設定にし、アタック・タイムはNEVEのコンプに近い5ms、リリース・タイムは100msにしてチェック。低域周りが引き締まりながら少し中域のパンチが生まれてくる感じなど、NEVEのコンプとだいぶ似ています。ただ年季の違いからか、ほかのコンプと比べて少々中高域に寄る印象です。ところがアタック・タイムを最遅(20ms)にしてみたら広がりも出て、あまり気にならなくなりました。ゆるくコンプレッションした際のグルー(まとまり)感も良いですね。  次はドラム全体に使用。今度はアタック/リリース・タイムやブレンド機能などをいじり倒してみました。アタック/リリース・タイムを高速にしていくと、UREI 1176のようなFETコンプっぽいかかり方になって驚きました。1176をNEVE系コンプの操作性で使えるのは非常に便利ですね。  そして筆者が個人的に一番良いと思ったのが、ブレンド機能。プラグインやフェーダーでパラレル・コンプレッションを行うより操作しやすく、作業スピードが圧倒的に上がります。オン/オフの調整が瞬時に行えるので、テンポ良く音作りができました。ブレンド機能は特にドラム・パーツ単体に効果的。スネアやハンド・クラップの余韻の混ぜ具合を、感覚的に作り出せます。もちろんミックス・バスやステム・トラックにもハマりました。エフェクト音を少しブレンドするだけでも、ミックスの世界が広がって感じられます。  最後に、各楽器のステム・トラックでもチェック。ボーカルにゆるくかけたときの中域の存在感が好印象で、2ミックスの中でもしっかり聴こえてきました。  もしSuccessorが単なるビンテージの再現機だったら、それなりに良いコンプ止まりだったでしょう。しかし、高速アタック/リリース・タイムやブレンド機能など、現代ならではの機能により、ビンテージ機やプラグインとはまた違った価値を持つモデルになっていると言えます。  パラレル・コンプレッションをよく使う方や広い用途で使えるコンプをお探しの方などに、ぜひ一度お試しいただきたいです。まずはミックスで使うと良さそうですが、モノラルにも使用できるので、慣れていけばレコーディングでも活躍してくれるでしょう。   [caption id="attachment_82528" align="aligncenter" width="650"]▲リア・パネル。入出力(XLR)とサイド・チェイン用のセンド&リターン(フォーン)がステレオで用意されている ▲リア・パネル。入出力(XLR)とサイド・チェイン用のセンド&リターン(フォーン)がステレオで用意されている[/caption]   (サウンド&レコーディング・マガジン 2019年12月号より)

TRITON AUDIO、ゲルマニウム・トランジスター採用のマイク・ブースター

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オンズが取り扱うTRITON AUDIOから、ゲルマニウム・トランジスターを用いたマイク・ブースターFathead Germaniumが発売された。オープン・プライスで、市場予想価格は15,000円前後。 FetHeadシリーズは、ファンタム電源で動作するブースターで、マイクプリ前段でゲインを稼ぐことにより、ローノイズかつ信号ロスの少ない伝送を可能とするアイテム。特に出力レベルの小さなダイナミック・マイクやリボン・マイクに有効で、中域解像度や低域のレスポンスも改善されるという。新モデルのFathead Germaniumはアンプ回路にNOSゲルマニウム・トランジスターを採用し、ビンテージの名機のような風合いのサウンドが得られるというもの。48Vファンタム電源で駆動する。 TRITON AUDIOによる製品情報 https://www.tritonaudio.com/fethead-germanium.html オンズWebサイト http://www.onzu.co.jp/
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