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ラインアレイの特性を生かしたポータブルPAシステム=YAMAHA Stagepas 1K

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第3回 Inter BEE 2019で証明された“現場力”

YAMAHAから2019年8月に発売されたStagepas 1K(オープン・プライス:市場予想価格120,000円前後/1セット)。12インチ径サブウーファーと中〜高域用のラインアレイ・スピーカーにミキサーを組み合わせたポータブルPAシステムで、スピーチから音楽ライブまでさまざまなシーンに対応する。このStagepas 1Kが、11月に幕張メッセで開催された音響/映像/放送機器の展示会“Inter BEE 2019”の企業ブースやイベント・スペースで活用されていたので、現場での使われ方を取材した。

会議室の内外をつなぐ連絡用システムや 最大100人ほどが集まるセミナーに使用

最初に訪れたのはAUDIO-TECHNICAのブース。通常の展示スペースとは別に、Web会議やテレビ会議のための会議室を再現した部屋があり、そこにStagepas 1Kが設置されていた。室内にはAUDIO-TECHNICAのバウンダリー・マイクなども見られたが、Stagepas 1Kはどのような用途に使われていたのだろう? 同社の土屋典之氏に尋ねてみると「やや特殊な使い方ですが」と前置きしつつ答えてくれた。 「この会議室の外にはヘッドフォンとマイクを設置していて、ヘッドフォンではバウンダリー・マイクの音をモニタリングでき、マイクからは室内に指示を出すことが可能です。その指示をStagepas 1Kから出力しています。実際の会議室には無いシステムですが、今回はこの部屋を展示物として組み立てていく際に必要でした。例えば、中のスタッフに対して外から“マイクのセッティングをもうちょっとこうしてほしい”などとリクエストするときです。中と外を行き来していては手間がかかるので、連絡のためのシステムを作ったのです。また、BGMや映像音声の出力にも使っています。Stagepas 1Kはマイク以外の音声ソースにも対応していますから」 土屋氏の言葉の通り、Stagepas 1Kは3つのマイク/ライン・インや1系統のライン・インL/R、Bluetoothの音声入力などを備え、さまざまなソースをサポートする。 [caption id="attachment_83121" align="alignnone" width="312"]▲AUDIO-TECHNICAブースに設置されたハドル・ルーム。Web会議やテレビ会議の場などを想定した小部屋で、外とのやり取りやBGM再生のためにStage pas 1Kが使用されていた(写真左奥) ▲AUDIO-TECHNICAブースに設置されたハドル・ルーム。Web会議やテレビ会議の場などを想定した小部屋で、外とのやり取りやBGM再生のためにStagepas 1Kが使用されていた(写真左奥)[/caption] 「各チャンネルの“ワンノブEQ”も扱いやすいです。スピーチのときは左の方に回すだけですっきりとした音になりますし、音楽再生なら右に回せば迫力が出る。会議室と言えば貸し会議室の市場も成長していますが、ユーザーは必ずしも音響のプロではないので、このワンノブEQは重宝されると思います。また貸し会議室の運営側としても、音響設備にかけられるコストには限度があるでしょうし、必要な機能がまとまっているStagepas 1Kは非常に有用なはずです」 [caption id="attachment_83109" align="alignnone" width="650"]▲Stagepas 1Kの音声入出力。ch1にマイク/ライン・イン、ch2と3にはマイク/ライン/Hi-Zイン(XLR/フォーン・コンボ)があり、ステレオ・チャンネルにはライン・インL/R(フォーン)がスタンバイ。ステレオ・ペアで使用する際に必要なリンク・インとアウト、モニター・アウト(いずれもXLR)なども用意されている ▲Stagepas 1Kの音声入出力。ch1にマイク/ライン・イン、ch2と3にはマイク/ライン/Hi-Zイン(XLR/フォーン・コンボ)があり、ステレオ・チャンネルにはライン・インL/R(フォーン)がスタンバイ。ステレオ・ペアで使用する際に必要なリンク・インとアウト、モニター・アウト(いずれもXLR)なども用意[/caption] [caption id="attachment_83110" align="alignnone" width="650"]▲内蔵デジタル・ミキサーのパネル。ch1〜3の青いノブは内蔵リバーブへの送りで、その下の緑色のノブがワンノブEQ。写真右のマスターにある黄色いノブは、マスター出力の音質を用途に応じて変えられるMODE機能だ ▲内蔵デジタル・ミキサーのパネル。ch1〜3の青いノブは内蔵リバーブへの送りで、その下の緑色のノブがワンノブEQ。写真右のマスターにある黄色いノブは、マスター出力の音質を用途に応じて変えられるMODE機能だ[/caption] このほか「今回は実践できていないのですが、簡単なセミナーにも役立つと思います」と土屋氏。そのセミナーでの使用をINTER BEE IP PAVILIONで目の当たりにすることができた。「ここでは識者の方々によるIP伝送に関してのセミナーを行っていて、拡声のためにStagepas 1Kをステージの左右に1台ずつ設置しています」と語るのは、会場の機器選定に携わったヒビノメディアテクニカルの毛利元氏。INTER BEE IP PAVILIONのセミナー会場は、50余りの座席を並べた20畳ほどのオープン・スペース。座席だけで賄えない場合は立ち見客を含む最大100人ほどにアプローチしなければならず、その際はStagepas 1Kから7〜8mのところまで音を届ける必要がある。 「お客様に万遍なく聴いていただけるよう2台用意しました。周囲のブースにも配慮しなければならないので、音量はそこまで上げていないのですが、それでも前から後ろまで十分に聴こえるところにメリットを感じています。また、軽量なので近くにお客様が集中してしまった場合なども、簡単にスピーカーの振りを変えられる。そして筐体がスリムなため、場に溶け込んで見えるのも良いですね」 [caption id="attachment_83111" align="alignnone" width="650"]▲INTER BEE IP PAVILIONのセミナー会場。登壇者の両脇にStagepas 1Kが1台ずつ置かれ、着席している50名ほどの観客はもちろん、立ち見客を含めると最大で合計100名前後をカバーした ▲INTER BEE IP PAVILIONのセミナー会場。登壇者の両脇にStagepas 1Kが1台ずつ置かれ、着席している50名ほどの観客はもちろん、立ち見客を含めると最大で合計100名前後をカバーした[/caption]   高さの調整が簡単で安定性も高い 出音はまとまりがあって明りょう Stagepas 1Kは中〜高域用のスピーカーがラインアレイとなっており、出音の距離減衰が小さく遠達性が高い。そのエンクロージャーの横幅はわずか7cm未満、奥行きは9cm足らずなので非常にスリムだ。このラインアレイという形式が功を奏し、次に訪れたキヤノン/キヤノンマーケティングジャパンのセミナーでも大活躍だった。「スピーカーは、モデルによっては見た目に圧迫感がありますし、倒れたらどうしようと思うこともあるんですが、Stagepas 1Kは足元がどっしりとしていて安心感が違います」とは、キヤノンマーケティングジャパン阿部芳久氏の弁。氏は、スペーサー(柱状のコンポーネント)の抜き差しだけで高さを調整できる点も高く評価している。 [caption id="attachment_83112" align="alignnone" width="650"]▲キヤノン/キヤノンマーケティングジャパンのブースで行われたセミナーにも、登壇者の左右にStagepas 1Kが1台ずつ置かれた。座席の数は20も無かったが、立ち見客を合わせて50〜60人の規模を想定。当初は1台での運用も考えたそうだが、周囲から常時音が聞こえてくる現場なので、大事を取って2台使いにしたという ▲キヤノン/キヤノンマーケティングジャパンのブースで行われたセミナーにも、登壇者の左右にStagepas 1Kが1台ずつ置かれた。座席の数は20も無かったが、立ち見客を合わせて50〜60人の規模を想定。当初は1台での運用も考えたそうだが、周囲から常時音が聞こえてくる現場なので、大事を取って2台使いにしたという[/caption] 「調整が手軽なので、事前に全3段階の高さをすべて試すことができ、着座と立ち見の両方のお客様に聴こえやすいポジションを選べました。壁に取り付けるような機種だと高さの調整に手間がかかるため、こうはいかなかったでしょう」 セミナーでは、立ち見客も含めて最大50〜60人のカバーを狙っていたという。「展示会ということで周囲に音があふれているため、2台使用することにしました」と阿部氏は続ける。 「音がとても良いですね。聴きやすい帯域にまとまっているというか、雑味が感じられず、非常に明りょうなサウンドだと思います。展示会ではセミナー向けのステージを組むことが多いんですが、聴きやすい環境を作るのには結構苦労するんです。しかし今回は、ご来場の方々からも“すごく聴きやすかった”という声をいただくことが多く、シンプルなセッティングながら十分な効果を上げられました。不思議だったのは、スピーカーの正面からそれた位置でもきちんと聴こえていたところ。かなり広い範囲をカバーできるんですね」  

水平指向角が170°とワイドなので モニター・スピーカーが不要な場面も

阿部氏の印象はStagepas 1Kのスペックで裏付けることができる。中〜高域用のスピーカーが170°という水平指向角を備えているのだ。「思った以上に水平指向角が広く、セミナーの話者にモニター・スピーカーを用意する必要がありませんでした。彼らからも“今日は声がしっかりと出ている気がして気持ち良く話せた”というコメントをもらいましたよ」と語るのは、最後に訪れたINTER BEE SPORTで音響/映像のオペレートを行った清水恭平氏。INTER BEE SPORTはスポーツ・コンテンツに関する製品/サービスを集めた場だったが、セミナーやダブルダッチのパフォーマンスも行っていたため、音響設備を入れる必要があった。そこで採用されたのが2台のStagepas 1Kである。 [caption id="attachment_83113" align="alignnone" width="650"]▲INTER BEE SPORTの様子。セミナー用ステージの両脇にStagepas 1Kが1台ずつ設置されている。INTER BEE SPORTは100名ほどは入るであろう縦長の会場で、四隅にスピーカーをセット。Stagepas 1Kは前方、後方にはYAMAHA DXR10が用意されていた。Stagepas 1Kだけで賄わなかったのは、後方へ届くほど音量を上げたときに、向かいのブースにまで音が達してしまうことを懸念したからだそう ▲INTER BEE SPORTの様子。セミナー用ステージの両脇にStagepas 1Kが1台ずつ設置されている。INTER BEE SPORTは100名ほどは入るであろう縦長の会場で、四隅にスピーカーをセット。Stagepas 1Kは前方、後方にはYAMAHA DXR10が用意されていた。Stagepas 1Kだけで賄わなかったのは、後方へ届くほど音量を上げたときに、向かいのブースにまで音が達してしまうことを懸念したからだそう[/caption] 「水平指向角がワイドながら、遠達性の高いサウンドです。音量を上げると向かいのブースまで音が飛んでいきそうだったので、かなり余裕を持たせて鳴らしました。今回は別途デジタル卓を用意し、マイクなどの音声を処理してからStagepas 1Kに出力したのですが、マスターにEQやコンプをかけたりStagepas 1K側で調整しなくても、素直な音が得られました。詰まった感じがせず、きらびやかな成分まで聴こえます。内蔵パワー・アンプの定格出力が1,000Wというところから考えて、小規模会場はもちろん、ある程度広い場所や野外でも使えそうですね。内蔵ミキサーを専用アプリで遠隔操作できるのも、現場によっては重宝される部分でしょう」 扱いやすい機能と音質で、さまざまなシチュエーションに対応したStagepas 1K。特に中小規模のセミナー/スピーチや音楽再生においては、強い味方になってくれるだろう。 [caption id="attachment_83114" align="alignnone" width="650"]▲外現場への持ち出し/運搬に便利なケース&専用台車も用意されている。ケースは付属品で、サブウーファー部にかぶせて使用し、手前のポケットにラインアレイ部とスペーサーを収納可。背面にはケーブルなどを収められる。台車は別売で、DL-SP1K(オープン・プライス:市場予想価格10,000円前後)として発売中だ ▲外現場への持ち出し/運搬に便利なケース&専用台車も用意されている。ケースは付属品で、サブウーファー部にかぶせて使用し、手前のポケットにラインアレイ部とスペーサーを収納可。背面にはケーブルなどを収められる。台車は別売で、DL-SP1K(オープン・プライス:市場予想価格10,000円前後)として発売中だ[/caption]  

「ARTURIA AudioFuse 8Pre」製品レビュー:単体8chマイクプリ&AD/DAとしても使えるUSBオーディオI/O

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細かなニュアンスまで拾うマイクプリ Boost機能でサチュレーションが可能

 AudioFuse 8Preの入出力はとてもシンプルで分かりやすく、8chのアナログ・イン/アウト、2系統のADAT、そしてスピーカー・アウトとヘッドフォン・アウトで構成されています。最大で16イン/20アウトという入出力数……と仕様には書かれていますが、コンピューターのステレオ出力をDAWへ戻すループバック機能もあるので、実質は最大18入力です。 アナログ入力はすべてXLRとフォーンのどちらも使えるコンボ仕様となっているため、どのような状況でも臨機応変に対応可能。XLR/フォーンのどちらでもマイク/ラインの入力ができるので、切り替えの心配をせず助かります。   [caption id="attachment_83149" align="aligncenter" width="650"]▲リア・パネル。左上からADAT入出力×2(S/MUX対応)とその下にUSB端子(USB-C)、ワード・クロック入出力(BNC)、スピーカー・アウトL/R(TRSフォーン)、ライン・アウト1〜8(TRSフォーン)、インプット3〜(XLR/TRSフォーン・コンボ)、インプット1&2(TRSフォーン)とそのインサート・センド&リターン(各TRSフォーン) ▲リア・パネル。左上からADAT入出力×2(S/MUX対応)とその下にUSB端子(USB-C)、ワード・クロック入出力(BNC)、スピーカー・アウトL/R(TRSフォーン)、ライン・アウト1〜8(TRSフォーン)、インプット3〜(XLR/TRSフォーン・コンボ)、インプット1&2(TRSフォーン)とそのインサート・センド&リターン(各TRSフォーン)[/caption]  また、ライン・アウトとは独立したスピーカー・アウトは、フロント・パネルでボリューム調整が可能で、直感的に触りやすいです。ヘッドフォン出力もステレオ・フォーンとステレオ・ミニの両方が用意されています。最近はイアフォンでモニターする人も増えたので、利便性を考慮した設計と言えるでしょう。  さらに、本機は単体のマイクプリ&AD/DAコンバーターとしても使用できます。そのADATモードでは、すべてのアナログ入力はADAT出力へ、すべてのADAT入力がアナログ出力へアサイン。本機2台をカスケードして、アナログ16イン/16アウトのオーディオI/Oとして使用可能です。96kHz運用もできるように、2系統のADAT入出力はS/MUXに対応していますし、ワード・クロック入出力も備えています。  今回は最もシンプルな方法で使ってみようと思い、APPLE MacBook Proに付属のUSB-Cケーブルで接続し、AVID Pro Toolsを起動してみました。 まずレコーディング・スタジオにてモニタリングしたところ、音の印象はとてもクリアで奥行き感もあり、音像も分かりやすく明るい印象。正直なところ、1Uのオーディオ・インターフェースでここまでのクオリティに仕上がっていることに驚きました。マイクプリもクリアで細かなニュアンスまで拾ってくれる仕上がり。8chすべてのマイクプリについて、ゲイン/48Vファンタム電源/PADがフロントで操作できるのは直感的でとても良いと思います(ch1/2はHi-Zにも対応)。  また、PADはオン(−20dB)/オフでの音の印象が変わらずシンプルにゲインを下げてくれます。さらにマイク入力時に有効なBoost機能(+10dB)もあります。PADボタンを長押ししてオンにすると、ボタンが赤く点灯。若干ではありますが、中低域辺りに倍音が加わり、“アナログ機器でサチュレーションがかかった”というサウンドになります。   [caption id="attachment_83147" align="aligncenter" width="576"]▲AudioFuse Control Centerでは、各入出力のレベル監視やインプットの設定などが行える。各出力はコンピューターからの出力、アナログ入力またはADAT入力の同じ番号のチャンネル、もしくは画面中央で設定したキュー・ミックスを出力可能 ▲AudioFuse Control Centerでは、各入出力のレベル監視やインプットの設定などが行える。各出力はコンピューターからの出力、アナログ入力またはADAT入力の同じ番号のチャンネル、もしくは画面中央で設定したキュー・ミックスを出力可能[/caption]  また、専用アプリケーションのAudioFuse Control Centerを使うと、キュー・アウト用のバランスを変えるなどより細かな操作が可能に。AudioFuse 8Preでは、ヘッドフォンを含む任意の出力をキュー・アウトとして使用できるようになっています。  

プリ/EQモデリングからシンセまで 7種類のプラグインが付属

 AudioFuse 8PreにはARTURIA製プラグイン・バンドル、AudioFuse Creative Suiteが付属しています。プリアンプ&EQをモデリングした1973-Preは少し高域が伸びて感じますが、中域の押し出し感はあるのでレンジが広く感じ、聴き心地の良い印象でした。真空管プリを再現したV76-Preも同様な印象ですが、よりTELEFUNKEN V76の実機に近く、声の細かなニュアンスも消さずにナチュラルに聴こえました。1973-Preと同様にコンソールのプリアンプ/EQを模したTridA-PreはM/S機能がとても直感的で使いやすく、音質を損なうことなくEQ処理ができるので、ドラム・ミックスやトータルにかけるのが良さそうです。   trida-pre-image  そのほかMOOGタイプのフィルターであるMini-Filter、コンプレッサーのComp FET-76、ディレイのDelay Tape-201、ソフト・シンセAnalog Lab Liteという計7種のプラグインが付属しています。  昨今の音楽制作においてアレンジャーやミュージシャンがセルフでレコーディングすることが多い中、この1台があるだけで多様なシチュエーションに対応できそうだと感じました。例えばリハスタに本機とノート・パソコンを持っていくだけで簡易に高音質レコーディングがマルチで行えます。また、ライブ会場でのマルチトラック・レコーディングも可能です。セッティングが簡易なので、ライブでのマニピュレーターのメイン機としてもとても役立つアイテムになる可能性を感じました。加えて、細かなポイントですが電源コネクターがねじ込み式になっているのが親切で、ライブ現場のような仮設での設営でも安心して使用できます。そして、付属プラグインも含め、すべての操作が直感的で、とても使いやすく感じました。   (サウンド&レコーディング・マガジン 2020年1月号より)

【第27話】つまみちゃん〜兄がこんなの買えるわけがない〜

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サウンド&レコーディング・マガジン2017年11月号より掲載がスタートし、本誌としては異色のマンガ連載として各所をザワつかせている「つまみちゃん〜兄がこんなの買えるわけがない〜」。バブル期の日本ってすごかったんですよ!(遠い目……) tsumami27_001web2 tsumami27_002web2    

【Episode5】シンセサイザーガールズ!!

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サウンド&レコーディング・マガジン2019年9月号より掲載がスタートし、「つまみちゃん」に続く異色のマンガ連載として誌面を混沌とさせている「シンセサイザーガールズ!!」。今月もまたまた新しい仲間が増えたから、みんなちゃんとついてきてネ! synthg5_001web2 synthg5_002web2

ACOUSTIC REVIVE クロス・レビュー「ギター/ベース用ケーブル」

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第20回「ギター/ベース用ケーブル」

ACOUSTIC REVIVE代表 石黒謙、氏の技術解説

GB-TripleC-FMは世界初のノイズ除去機能付きギター用ケーブルです。日立金属が開発したノイズ除去素材“FINE-MET”をケーブル内部に搭載することで、ギター/ベースとアンプの間はもちろん、エフェクターやそのほかの機器から発生する伝送上のノイズを一掃できるため、S/Nが劇的に向上。過去のギター用ケーブルとは一線を画すもので、世界初の音響専用導体“PC-TripleC”を迷走電流の発生の無い極太の単線で採用し、絶縁材には現在最も比誘電率の低いテフロンを使い圧倒的な伝送スピードを実現しています。 緩衝材には、静電気の発生を防ぎ有機的な音色を実現する天然シルクを採用。フォーン端子には、磁気ひずみの原因となる鉄心を除去した真ちゅう無垢材からの削り出しに金メッキを施し、伝送特性を極限まで高めています。GB-TripleC-FMは、外来ノイズの影響を受けず正確な位相特性を実現する2芯シールド構造となっており、従来のギター用ケーブルとは別次元のクオリティを実現しています。   <Price> ●GB-TripleC-FM(ギター/ベース用ケーブル):24,000円(3m)、38,000円(5m)、52,000円(7m)、73,000円(10m) ※端子形状は、ストレート/ストレート、ストレート/L字を選択 ※長さの特注可能(要見積もり) ※写真は3mのストレート/L字 ●PC-FM(パッチ・ケーブル):9,800円(15〜30cm) ※完全受注生産 ※発注時に長さや端子形状を指定  

Cross Review

Engineer/Artist 中村公輔 NK <Profile>エンジニア。折坂悠太、入江陽、TAMTAM、ツチヤニボンド、ルルルルズらを手掛ける。アーティストでもあり、ドイツの名門Mille Plateauxなどから作品を発表。

音の鮮度が高くアタックが速い 低域にも十分な伸びを感じる

筆者は普段、コントロール・ルームで音色を確認しながらギター録音を行うことが多く、コンボ・アンプの場合、ブースまでケーブルを引き回すので、どうしても音やせが起こり困っていました。それを回避するためにバッファーを使うなど工夫していましたが、意図しない色付けが生じたり抜けが悪くなるなど弊害も多く、決め手に欠けていました。 その点GB-TripleC-FMを使うと、同じセッティングでも音色がフレッシュで、ピッキングに対する反応が一段速くなる印象。他社製のケーブルと比べてアタック感が増し、モニター・スピーカーで聴いたときに、アンプが一歩前に出て前面に張り付いてくるような違いがありました。 これまでもアタックが出てくると感じたケーブルはありましたが、ほとんどが高域の一部をブーストしたような音色。ディストーション・ギターの場合は特定のノート周辺がヒステリックに聴こえたり、使いどころを選びました。しかしGB- TripleC-FMでは、ひずませたセッティングでも変なピークが出ずに前へ来るので、周波数のバランスはそのままに、従来はそぎ落とされてしまっていたアタックが残るのでしょう。 また、音が太いと言われるケーブルでも、中低域を膨らませて低域をカットするようなまとめ方の製品が多い中、こちらはスッと下が伸びたキャラクターで新鮮に感じました。特に、打ち込みと混ぜたときにギターが奥まってしまって困っている人や、カッティングの粒立ちを良くしたい人、周波数レンジが伸びた現代的なサウンドを作りたい人には最適なケーブルだと思います。   Engineer 池田洋 IK <Profile>hmc studioを拠点とするエンジニア。これまでnever young beach、ペトロールズ、踊ってばかりの国、DENIMSなど多くのアーティストの作品を手掛けてきた。

音の立ち上がりが速く高解像度 ひずませてもコード感が保たれる

7mのGB-TripleC-FMを試しました。まず、ケーブルをつないだ際のプラグの安定性が、細部へのこだわりを感じさせます。普段録りに使うことの多いBELDEN 8412と比べてみたところ、クリーン・サウンドでは本製品の方が音の立ち上がりが速く感じられました。アルペジオについてはタッチのニュアンスが聴き取りやすく、解像度の高さもうかがえます。そしてドライブ・サウンドは、製品の特徴の一つである“低ノイズ”を実感でき、ひずみの量を上げていっても飽和せず最後までコード感が保たれていました。 これらの特徴の要因は、GB-TripleC-FMの“低域の高度な作り込み”なのではないかと筆者は考えます。低域が整理されている分、音の迫力として物足り無さを感じる方が居るかもしれませんが、アンサンブルの中では、しっかりとした存在感を得られるように思います。反面、細かなニュアンスが如実に出てしまいますので、ギタリストの方はプレイが丸裸になることでしょう。音作り/プレイの両面で、自分を見直すきっかけになるのではないでしょうか。   Guitarist/Composer/Producer 関口シンゴ SS <Profile>プロデューサー/ギタリストとしてChara、秦基博、矢野顕子ら多数のアーティストをサポート。12月に新アルバムを発売するOvallのメンバーとしても活躍する。

弦の質感やピッキングを生々しく再現 宅録にも心強いノイズ除去機能

使用してみて最初に驚いたのは、周波数レンジの広さです。よく使っている一般的なギター用ケーブルは中域に偏りがちですが、GB-TripleC-FMは低域から高域までバランスが良く、中域に太さと抜けの良さも併せ持っています。また高域の分離が良く、弦の質感やピッキング・ニュアンスが生々しく感じられます。僕はエレキでソロ・ギターを弾くことが多いので、奇麗に和音を聴かせたいときや歯切れの良いカッティングなどにも重宝しますね。 そして、ノイズ除去機能が付いているため、宅録にも心強いです。微細なノイズであっても、オーバー・ダビングしてトラック数が増えていくと気になりますし、コンプなどを挿すことでも増幅されてしまいます。普段使っているAPPLE Logicに録音してみたところ、音を重ねてもいつもよりノイズが気にならなかったように感じ、コーラスなどの空間系のエフェクトのかかり具合も鮮やかでした。ケーブルはやや太めで安心感があり、プラグの根元もしっかりしているので断線しにくいです。 <製品概要> ACOUSTIC REVIVE GB-TripleC-FM (ギター/ベース用ケーブル) (本稿はサウンド&レコーディング・マガジン2020年1月号からの転載となります)  

「UMBRELLA COMPANY HP-Adapter/BTL-Adapter」製品レビュー:ヘッドフォンの信号伝送と駆動の改善をうながすバッファー・アンプ

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過渡特性や解像度が上がり 演奏がとらえやすくなるHP-Adapter

 HP-AdapterとBTL-Adapterでは“アクティブZEROインピーダンス出力回路”というコンポーネントにより、出力インピーダンスが0Ωになるようコントロールされています。その結果、周波数レスポンスのばらつきが軽減され、フラットな特性を得られるそうです。  まずはHP-Adapterから見ていきましょう。前面にはヘッドフォン端子(フォーン)とゲイン切り替えスイッチ(+10dB、0dB、ミュート)を装備。細かい音量調整は基本的にオーディオI/Oなどの方で行い、本機ではどのレベルで受けるかを選択します。背面は、入力端子(TRSフォーン)と電源端子のみというシンプルな構成。音質劣化の原因になり得るボリューム・コントロールが付いていないところに、リファレンス・サウンドへのこだわりが感じられます。  まずはオーディオI/Oに接続し、マスタリング後の曲を聴いてみます。第一印象は“随分と音が大きくなる”というもの。オーディオI/O側の音量を固定にし、HP-Adapterを使用する前と後を聴き比べているうちに、機材としての実力がだんだんと分かってきました。印象をまとめてみると……。 ①まず音が速い。分解能が高く、一音一音をはっきり、くっきりと再生。よどみが無くなり、タイミングやピッチがとらえやすく、ダイナミクスの表現や演奏のニュアンスも分かりやすい ②さまざまなインピーダンスのヘッドフォンやイアフォンをつないでも、印象があまり変わらない  以上のことから、音楽制作を中心に考えて開発されたのではないかと強く感じました。ご存じの通り、ミックス完了前は比較的小さな音量で作業が進みます。加えて、音をはっきりとさせる処理もミックス後に比べてあまりなされません。なので必然的に、キュー・ボックスには小音量かつ中低域がそこまで処理されていない音が返っています。そこで本機の出番。音量が通常のレベルくらいまで上がりますし、ダイナミクスが分かりやすく、音の立ち上がりが速いのでタイミングもとらえやすい。先述の通り、よどみが無くピッチも取りやすいです。リスニング用途でも、いろいろなヘッドフォンに対してベストなパフォーマンスを発揮してくれるので、複数機種の聴き比べなどの楽しみが増えると思います。   [caption id="attachment_83180" align="aligncenter" width="650"]▲︎HP-Adapterのリア・パネル。ステレオ・フォーンのアナログ入力と電源端子のみをレイアウトしたシンプルな仕様 ▲︎HP-Adapterのリア・パネル。ステレオ・フォーンのアナログ入力と電源端子のみをレイアウトしたシンプルな仕様[/caption]   [caption id="attachment_83181" align="aligncenter" width="650"]▲︎BTL-AdapterのリアもHP-Adapterと同じ構成 ▲︎BTL-AdapterのリアもHP-Adapterと同じ構成[/caption]  

HP-Adapterと同じ傾向ながら さらなる立体感を呈するBTL-Adapter

 次に、バランス接続用のBTL-Adapterをチェックします。外見は、ヘッドフォン端子が4ピンXLRで、BTL(Balanced Transformer Less)駆動になる以外はHP-Adapterと同じです。音の印象は、HP-Adapterより余裕があって定位の再現や分離、立体感がさらに向上している感じ。BTL駆動だけあり、解像度はさすがだと思いました。ヘッドフォンは4ピンXLR仕様のものが必要になりますが、それだけの恩恵はあると感じます。レコーディング・エンジニアは、ミュージシャンに良い演奏をしてもらうための環境作りが第一。特に、演奏しやすいモニターを提供するのは重要な役割の一つです。本機があればリズムやピッチが取りやすいヘッドフォン・モニターで、演奏をサポートしてくれるでしょう。  リスニング用途においても余裕と高級感があり、立体感もHP-Adapterを上回っていると思うので、疲れずに長時間音楽を楽しめそう。解像度が高いため、これまで気付かなかった演奏者の息遣いなどを感じられるかもしれません。   [caption id="attachment_83188" align="aligncenter" width="650"]▲BTL-Adapterのチェック・シーン。キュー・ボックスのライン・アウトを接続している ▲BTL-Adapterのチェック・シーン。キュー・ボックスのライン・アウトを接続している[/caption]  2機種に共通して感じたのは、分解能が高くてダイナミクスの表現が分かりやすく、リズムのニュアンスがつかみやすいということ。そして、ピッチや演奏ニュアンスを忠実に返してくれることです。キュー・ボックスに接続してオーバーダブしてみると思っていた以上に演奏しやすく、作業も音楽的に進めることができました。接続が簡単で、キュー・ボックス操作も今までと変わらないためストレスを感じません。  スピーカーから音を出せない簡易的な宅録システムでは、HP-Adapterが作業の世界をがらりと変化させることでしょう。BTL-Adapterについては、ヘッドフォンをバランス仕様にしなければならず少しハードルが高いように思いますが、ここはUMBRELLA COMPANYのこだわりどころ。一度試聴して、その恩恵を十分に味わってほしいです。エンジニアやミュージシャンの方は、これ一台持っておけば、どんなスタジオに行こうとも自分のいつものモニター環境を整えられるはず。派手ではありませんが演奏の実力を十分に発揮でき、作品クオリティ向上のための強い味方となることでしょう。   (サウンド&レコーディング・マガジン 2020年1月号より)

「ZOOM V6」製品レビュー:ライブ・パフォーマンスに特化したボーカル用マルチエフェクト・ペダル

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ボコーダーなど12種類のエフェクトを搭載 設定キーに沿ったハーモニーを自動生成

 フロント・パネルの中央には、VOICE/HARMONY/EFFECTと書かれた3つのセクションとフット・スイッチを装備。それらの下部には、ルーパーの操作やメモリーの選択に使用する3つのフット・スイッチを備えています。またフロント・パネルの右端にはフォルマント・ペダルを搭載。どれも大きくて視認性が良いため、薄暗いステージ上でもスイッチを踏み間違えることがなさそうです。  フロント・パネル最上部には、左からディスプレイ、設定を保存するためのSTOREボタン、ボーカルにエンハンサーを施すENHANCEボタン、ワンノブ・コンプ、ボリューム・ノブが並びます。誰でも簡単に操作できる仕様です。  それでは、フロント・パネル中央にあるVOICE/HARMONY/EFFECTと書かれた3つのセクションを具体的に見ていきましょう。一番左端にあるVOICEセクションには、ボコーダー/トークボックス/ピッチ補正など、内蔵された12種類のエフェクトを切り替えるノブと、それらの微調整を行うADJUSTノブがあります。トラップでよく聴くシンギング・ラップのような“ケロケロ・ボイス”も簡単に再現できるでしょう。  HARMONYセクションには、キーのルート音を固定するFixedボタンのほか、生成ハーモニーの音高を決定するHigher(+5〜6度)、High(+3〜4度)、Low(−3〜4度)、Lower(−5〜6度)の4つのボタン、生成ハーモニーの音量を調整するMIXノブを備えています。両セクションの中間にあるKEYノブでキーを設定し、それに合わせて最大2声までのハモりを自動生成してくれるとても便利な機能です。  3つのセクションの一番右端にあるのがEFFECTセクション。ディレイやリバーブなどの空間系エフェクトから、ディストーションなど、全10種類のエフェクトを選択できるノブと、そのかかり具合を調整するADJUSTノブが配置されています。個人的には、“ビート・ボックス”というエフェクトが面白いと思いました。このエフェクトではキック/スネア/ハイハットの各周波数帯域が強調され、全体的にコンプがかかったサウンドになります。ボイス・パーカッション用の音作りを一瞬で行えるのが、魅力的と言えるでしょう。  

フォルマント・シフトが可能なペダルを装備 3分30秒まで保存可能なルーパー機能

 次にルーパー機能を見てみます。近年、1人で複数のアカペラやボイス・パーカッションを重ねる即興パフォーマンスが人気ですが、V6ではそれが簡単な操作で行えます。V6では最長3分30秒までフレーズ録音が可能で、先述した3つのフット・スイッチを駆使して録音のスタート/ストップ、アンドゥ/リドゥのなどの設定が行えます。実際使って見ると、一つ前のフレーズをアンドゥできるのは非常に便利で、録音時間も十分だと思いました。  V6に備えられたフォルマント・ペダルについてですが、これがまた最高です。声のキャラクターを変えられるペダルなのですが、これがなかなかありそうで無かった機能! フォルマント・シフトが付いたプラグインはありましたが、パフォーマンス中にフォルマント・シフトをリアルタイムにできるのは、とても面白い機能だと感じます。   [caption id="attachment_83199" align="aligncenter" width="650"]▲付属の超指向性コンデンサー・マイク=SGV-6。シャープな音像で、エフェクトも奇麗にかかる印象だ ▲付属の超指向性コンデンサー・マイク=SGV-6。シャープな音像で、エフェクトも奇麗にかかる印象だ[/caption]  さらにV6には、ショットガン・マイク技術を基にしたSGV-6という超指向性コンデンサー・マイクが付属。自分のお気に入りマイクを使うのもよいですが、ハウリングに強くカブリも少ない仕様のSGV-6は、特にライブ・ステージでは重宝すると思います。  また、V6はSN比がとても優秀。エフェクターにありがちな急な音やせもあまり感じず、録音にも十分対応できるのではないでしょうか。ちなみにV6は2イン/2アウトのUSBオーディオI/O機能を備えているため、DAWへの録音も即座に可能。V6で音作りし、DAW上でサウンド・マテリアルとしてトラックに組み込んだりするのもお勧めな使い方でしょう。  そしてUSBバス・パワーのほか、単三電池×4本で約3時間半の駆動も可能。万が一忘れても、単三電池ならどこにでも売っているので安心ですね。  V6は、ボーカルのピッチ補正はもちろん、ボーカルにハーモニーを足したりエフェクト処理をしたり、さらにはリアルタイムにフォルマント・シフトも可能なマルチエフェクト・ペダル。通常ならプラグインで行うボーカル処理を、ステージ上でもリアルタイムにコントロールできます。声にたくさんエフェクトをかけると音像がぼやけがちになりますが、ENHANCEボタンやワンノブ・コンプが付いているので心強いです。これだけの機能が付いて、ライブはもちろんレコーディングにも使用できるクオリティのV6。正直、期待以上の製品でした。価格が3万円台とは、本当にコストパフォーマンスが優れています。これ一台あれば、誰でも簡単に多彩なボーカル・サウンドを作り出せるのではないでしょうか。   [caption id="attachment_83200" align="aligncenter" width="650"]▲リア・パネル。左からマイク・イン(XLR)、ファンタム・スイッチ、エフェクトのかかり具合を外部ペダルで調整するためのエフェクト・コントロール(TRSフォーン)、USBバス・パワー供給のほか、コンピューターと接続すればオーディオI/Oとしての役割も果たすMicro USB端子、ヘッドフォン出力(ステレオ・フォーン)、ヘッドフォン・ボリューム・ノブ、グラウンド・リフト・スイッチ、ライン・アウト(XLR)、電源オン/オフ・スイッチ、DC電源入力端子が並ぶ ▲リア・パネル。左からマイク・イン(XLR)、ファンタム・スイッチ、エフェクトのかかり具合を外部ペダルで調整するためのエフェクト・コントロール(TRSフォーン)、USBバス・パワー供給のほか、コンピューターと接続すればオーディオI/Oとしての役割も果たすMicro USB端子、ヘッドフォン出力(ステレオ・フォーン)、ヘッドフォン・ボリューム・ノブ、グラウンド・リフト・スイッチ、ライン・アウト(XLR)、電源オン/オフ・スイッチ、DC電源入力端子が並ぶ[/caption]   (サウンド&レコーディング・マガジン 2020年1月号より)

「UNIVERSAL AUDIO UAD-2 Satellite Thunderbolt 3」製品レビュー:Thunderbolt 3接続によるUAD-2用DSPパワー供給ユニット

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電源スイッチをフロント・パネルに搭載 接続状況が確認可能なインジケーター

 以前、僕は同社のUAD-2 Satellite USBを使っていたのですが、それと比べるとST3はデザインがより洗練された印象です。フロント・パネル中央にはロゴが大きく配置され、電源を入れると点灯するところが格好良いですね。また、ホストとの接続を確認するためのインジケーターも見やすくなり、接続状況が把握しやすくなりました。フロント・パネルの色は黒からダーク・グレーになり、同社の最新オーディオI/O、Apollo Xシリーズと並べても相性バッチリでしょう。  背面にあった電源スイッチも、ST3ではフロント・パネルに設置されたため、オン/オフの切り替えが非常に行いやすくなりました。ただ、重さやサイズ感はほとんど変わらないと言えるでしょう。  

最新UAD-2プラグイン群を 無理なく扱えるDSPパワー

 ST3には標準プラグイン・バンドルAnalog Classics Plusが付属しているため、購入してすぐにUAD-2プラグインでのミックスを始められるのも魅力の一つですが、ここからは同社のUA 175B&176 Tube Compressor Collection(以下175B、176)を試してみたいと思います。これらは、1960年に発売されたレコーディング/ミキシング用アナログ・コンプレッサーのUNIVERSAL AUDIO 175Bと176を再現したプラグイン。175Bと176ではノブの配置や仕様は同じなのですが、レシオ・ノブに関しては175BがLOW/HIの2段階設定、176が4段階設定となっています。   [caption id="attachment_83213" align="aligncenter" width="650"]▲上からコンプレッサー・プラグインのUA 175B(上)と、176(下) ▲上からコンプレッサー・プラグインのUA 175B(上)と、176(下)[/caption]  まず175Bと176をボーカルにかけてみたところ、倍音が豊かになり輪郭が強調されたような印象。ウィスパー系のボーカルにおいては、200Hz辺りに厚みが出て、全体的に温かみが足されたような感じです。2つの違いを挙げるならば、175Bはチューブ・アンプ特有の粗さがあり、176はその質感を残しつつもより高域につやがあるように思いました。  次は、175Bと176をキックで試してみます。175Bではアタックが丸くなり、中域が強調されてウォームになる印象。176では想像以上にアタック・タイムが速く、張りのある音になりました。  使い分けとしては、トラックになじませつつキックの芯が欲しいときは175B、とにかくキックを前に強く出したいときは176とすると良いかもしれません。また、これらはトラックに挿すだけでも倍音が豊かになり鮮明度が増すので、“コンプをかけずに通すだけ”という使い方もお勧めです。   [caption id="attachment_83217" align="aligncenter" width="451"]▲リバーブ・プラグインのCapitol Chambers ▲リバーブ・プラグインのCapitol Chambers[/caption]  もう一つ、Capitol Chambers(以下Chambers)も試してみましょう。Chambersは、LAにあるキャピトル・スタジオのエコー・チェンバーをエミュレーションしたコンボリューション・リバーブ。実在するエコー・チェンバーは、レイ・チャールズやボブ・ディランなどの名だたるアーティストが使用してきました。  画面上部にある4つの黄色いボタンでは、4種類のチェンバーを切り替えることができます。それに伴って部屋のイメージ画像も変化。使用するマイクは4種類から選択できるようになっています。また、マイク選択画面の下部にあるスライダーで、マイクとソース・スピーカーとの距離を決めることが可能です。そのほかプリディレイやディケイ、EQ、フィルターを調整するノブや、ドライ/ウェットを決めるMIXノブ、ステレオ幅を決めるWIDTHノブが配置されています。  まずは初期設定の状態でボーカルにかけてみたのですが、聴いてすぐにすごい!と感じました。とてもナチュラルで密度が濃い響き………まさに本物のチェンバーで収音したようなサウンドです。滑らかでつやのあるリバーブが空間中に広がっていくイメージ。リバーブの音作りを、ますます楽しくさせてくれるプラグインでしょう。  175B、176、Capitol Chambersはどれもクオリティが高く、ミックス時に欠かせないプラグインとなりそうです。ST3に内蔵されたSHARCプロセッサーが強力なDSPパワーを提供してくれるおかげで、何不自由なくこれらのプラグインが使用できました。ST3は、大規模なミックスでもDSPパワーを気にせずたくさんUAD-2プラグインを使いたい!という方にお薦めです!   [caption id="attachment_83210" align="aligncenter" width="650"]▲リア・パネル。DCイン、Thunderbolt 3端子×2を搭載している ▲リア・パネル。DCイン、Thunderbolt 3端子×2を搭載している[/caption]   (サウンド&レコーディング・マガジン 2020年1月号より)

「TELEFUNKEN TF39/TF29」製品レビュー:従来のモデルをさらに進化/拡張させた真空管コンデンサー・マイク

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LUNDAHL製の出力トランスを搭載 米国ですべてハンドビルド設計

 TF39とTF29は、基本的に同じ仕様となっている。全真ちゅう製のK67型カプセルやGENERAL ELECTRICの真空管5654W、高品質な出力トランスLUNDAHL LL1935を搭載し、米国にてハンドビルドされている。また両マイクの外形寸法は46(φ)×200(H)mmで、重量は650gだ。   [caption id="attachment_83224" align="aligncenter" width="650"]▲TF39に付属する電源ボックス=M 903 PSU。左からINPUT(7ピン)、OUTPUT(XLR)、3パターンの指向性を切り替えるノブを備える ▲TF39に付属する電源ボックス=M 903 PSU。左からINPUT(7ピン)、OUTPUT(XLR)、3パターンの指向性を切り替えるノブを備える[/caption]   [caption id="attachment_83225" align="aligncenter" width="650"]▲TF29に付属する電源ボックス=M 902 PSU。INPUT/OUTPUTはM 903 PSUと同じ仕様で、右端にはノブの代わりにTELEFUNKENのロゴがあしらわれている ▲TF29に付属する電源ボックス=M 902 PSU。INPUT/OUTPUTはM 903 PSUと同じ仕様で、右端にはノブの代わりにTELEFUNKENのロゴがあしらわれている[/caption]  両マイクの大きな違いは指向性。TF39はデュアル・メンブレンのカプセルを採用し、カーディオイド/オムニ(無指向性)/フィギュア8の3パターンの指向性を付属の電源ボックス側で切り替えることができる。一方、TF29はカーディオイドのみの仕様。本体正面にはそのポーラー・パターンが刻印されている。筐体は重厚な作りのため、無駄な振動などを抑えられそうだ。  先述した付属の電源ボックスは、R-F-Tシリーズのものと比べて一回り小振りになり、ビンテージ感漂う高級な装いに変わった。またTF39/TF29との接続には付属の7ピン・ケーブルを用いるのだが、R-F-Tシリーズ時のものと比べ、よりしなやかで扱いやすいケーブルへと進化している。  

パワーを感じる豊かな中低域 明りょうな輪郭とアタック感

 それではサウンド・チェックをしてみよう。まずは、ビンテージのアコギから。TF39で収録した結果、とても中低域が強調されて実際の音よりパワーが出た印象。ほかの楽器と合奏してもボディの鳴りがしっかりと聴こえるため、コントロールが簡単であった。  続いてはサックス。これはお見事! 中低域の豊かさが幸いし、とても滑らかでありながら力強く、明りょうな輪郭かつ説得力のあるサウンドだ。例えるならば、芯の柔らかい鉛筆で筆圧を込めたときのような太さと濃さ。それでいてアタック感も適度に併せ持っており、非常に好印象だった。  次のピアノでは、TF39が単一指向性になっているのを確認し、TF29とステレオ・ペアのようにして立ててみる。ここでも、力強さは感じるが、素早いレスポンスがピアノ・タッチをクリアにとらえてすがすがしい。輪郭がはっきりし、音の余韻を最後まで逃さない描写力を感じた。  そしてストリングス。今回は1stバイオリン×8をはじめ、2ndバイオリン×6/ビブラ×4/チェロ×4/コントラバス×3と、大きめの編成でオフマイクとして使用した。高さ約3mの位置に1.5mほど間隔を開けてセッティング。結果、全体的にとてもバランス良くまとまった音になり、適度なパワー感を含んだサウンドがキャプチャーできた。瞬発力や圧力は確保しながらも、強調し過ぎない音となった。  フル・オーケストラでもオフマイクとしてテストしてみたが、奏者全員が同時に演奏する部分でも音像が破たんすることはなく、幅広い再現性を確認。特にティンパニーやバス・ドラムの深い中低域は明確にとらえられ、空間における楽器の定位が非常に明りょうであった。  最後はボーカルである。今回、男女数人のボーカリストでテストしたが、ここでも共通したのは“中低域が非常に豊か”だということ。音像としてはやや大きめになり、歌声がまとう色気は若干抑えられがちではあったが、表情やニュアンスはきちんとキャプチャーすることができた。  今回は音楽家である服部隆之氏のご協力もあり、大編成のオーケストラ・セッションにてテストを行ったため、ここには書き切れないほど多くの楽器でTF39/TF29を試すことができた。いずれも共通して感じたことは、繰り返しになるが“非常に中低域が豊か”だということ。どの楽器においても音像がしっかり前に出てくる印象で、時によっては大きくなり過ぎる場面もあった。  筆者は普段R-F-T AR-51を愛用しており、このマイクからは明らかに名機の音調を目指してチューニングされた印象を受けている。しかし、今回のTF39とTF29からはAlchemyシリーズならではのサウンドを感じた。筆者はオムニを多用するのでTF39をチョイスするが、カーディオイドでしか使わないというユーザーであれば、価格が抑えられたTF29を選択できるだろう。上級パーツを採用し、精度に優れたAlchemyシリーズのTF39/TF29。高品位な音質と手ごろな価格が大きな魅力のマイクロフォンであると感じた。     (サウンド&レコーディング・マガジン 2020年1月号より)

サカナクション最新ライブBlu-ray Dolby Atmos試聴会緊急開催 メンバー参加のトークも配信予定

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1月15日にリリースされるサカナクションのライブBlu-ray『6.1ch Sound Around Arena Session -LIVE at PORTMESSE NAGOYA 2019.06.14-』は、昨年6月にポートメッセなごやで行われた6.1chサラウンド・ライブを通常のステレオ音声だけでなく、Dolby Atmosでも収めた作品。 発売を記念して、本誌の極上の音響設備を誇る「御茶ノ水Rittor Base」にて、このBlu-rayをDolby Atmos音声で楽しめる先行視聴会を、サカナクション公式ファンクラブNFmember会員向けに開催する。 なお、上映後は、山口一郎と江島啓一を招いてのトーク・セッションも開催。このトーク・セッションの模様はライブ配信予定(詳細は追って発表)。 【日時】 1月12日(日)16:00開場、16:30開演 第1部 プレミアム視聴会 第2部 トーク・セッション 出演=山口一郎、江島啓一 進行=辻太一(サウンド&レコーディング・マガジン編集部) ※第1部と第2部、通しでのご参加をお願いいたします ※第2部トーク・セッションのみネットでの配信を予定、約1時間ほどの内容を予定しております ※ライブ配信については、インターネットの接続状況等により不安定になる可能性があります。あらかじめご了承ください 【会場】 御茶ノ水Rittor Base https://www.rittor-music.co.jp/rittorbase/ 【応募先】 サカナクション公式ファンクラブ NFmember https://stg-sakanaction.emtg.xyz/nfmember/

「WARM AUDIO WA84-C-N-ST」製品レビュー:往年のマイクを元に設計したペンシル型コンデンサー・マイクのペア

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PADを入れれば最大音圧133dBに CINEMAG製のトランスを採用

 WA84は、スモール・ダイアフラムを搭載したペンシル型コンデンサー・マイク。そのため使用時には、48Vファンタム電源供給が必要です。指向性はカーディオイドで、トランスには、米国の伝統あるオーディオ・トランス・メーカーCINEMAG製のものを採用。最大音圧は123dB SPLですが、本体正面に搭載された−10dBのPADを用いれば133dB SPLとなるため、ドラムなど大音量の楽器にも対応可能です。SN比は78dB、外形寸法は実測値で20(φ)×130(H)mm、重量は122gとなっています。   [caption id="attachment_83234" align="aligncenter" width="642"]▲WA84-C-N-STの付属品。左から専用ハードケース、マイクの先端にかぶせて装着するウィンドスクリーン×2、マイク・クリップ×2、ショック・マウント×2が付いてくる ▲WA84-C-N-STの付属品。左から専用ハードケース、マイクの先端にかぶせて装着するウィンドスクリーン×2、マイク・クリップ×2、ショック・マウント×2が付いてくる[/caption]  さらにWA84には、取っ手のある黒い専用ハード・ケースが付いてきます。頑丈なので持ち運びに便利でしょう。それ以外にはショック・マウントやマイク・クリップ、そしてWA84の先端にかぶせて装着するウィンドスクリーンが、それぞれ2つずつ付属しています。マイク・クリップは、コンパクトなため狭いスペースでのセッティングにも活用できそうです。ただし地面からの振動が気になる場合は、ショック・マウントを使った方がベターでしょう。  

アタック感がありつつ滑らかな高域 原音忠実でナチュラルな印象

 今回は、WA84をアップライト・ピアノ/アコギ/バイオリンの3種類で試してみました。それぞれのインプレッションを以下にまとめてみたいと思います。  まずアップライト・ピアノでは、細かい鍵盤タッチまでしっかり収音することが可能です。鍵盤が指で押しこまれる音、鍵盤同士がこすれる音、中のハンマーがきしむ音、それらがWA84を通しモニターからリアルに伝わってきます。  また、WA84でキャプチャーした音と録音現場で実際に聴く音はほぼ同じです。1kHz辺りの立ち上がりが素直で、150~250Hz辺りの楽器のボトム感をよく収音するので、落ち着いた印象を受ける人も多いでしょう。  4万円前後のクラスのコンデンサー・マイクは、あらかじめ派手気味にチューニングされていることが多いのですが、WA84はそうではありません。ミックス時においていろいろと処理しやすい素直なサウンドだと思います。またノイズ・フロアが低いため、EQやコンプなどを積極的にかけても、あとからノイズが目立ってくる心配も無いでしょう。  次はアコギでトライ。録り音は“カリッ”としたアタック感がしっかりありつつも、高域は滑らかな印象です。ステレオ・ペアで録っても音質/音量のバランスは良く、いずれもミックスにおいて非常にEQ処理しやすいサウンドだと思います。小気味良いストロークを強調するために1~8kHzをEQでブーストしたのですが、耳に痛く感じることはありませんでした。  最後はバイオリンでテストしてみます。中高域は明りょうながらもキンキンせず、バイオリンらしいサウンドを素直に収音することができました。アップライト・ピアノのときと同様、WA84は150~250Hz辺りをしっかり収音する傾向にあるため、スカスカした印象もなく、楽器の芯をうまくとらえているイメージ。クリアな録り音は、解像度が高い近年の音楽にもミックスしやすいことでしょう。  WA84は、どの楽器においても“クリアで色付けが無い”、または“原音忠実でナチュラル”という傾向が感じられました。積極的なEQ/コンプ処理をしやすい素直な音のため、ポップスやロックなどで活躍するのはもちろん、その自然な録り音は、繊細な響きが求められるアンビエントやポストクラシカルといった音楽ジャンルでも活躍するでしょう。WA84だけで幅広く対応することができるので、非常に魅力的です。  唯一ネガティブな意見を挙げるとすれば、WA84の持つクリアさは逆に“無機質”ともとらえられやすいです。そのため、弾き語りやソロといった少数の楽器編成の曲だと、どうしてもサウンド自体に音質的な物足りなさを感じてしまう人も居るかもしれません。より説得力のあるサウンドを求める人は、味付けのためのプリアンプなどを用意するといいと思います。または、お気に入りのプラグインで処理してもいいでしょう。  この価格で、これほどバランス良い音質のステレオ・ペア・マイクが手に入ることにもびっくり。コスト・パフォーマンスに優れていることもWA84のポイントでしょう。従って、多く予算はかけられないけれども、プロ・クオリティの音質を求める人にもWA84はお薦めできるマイクだと言えます。   (サウンド&レコーディング・マガジン 2020年1月号より)

「ACCUSONUS Rhythmiq」製品レビュー:AIによるドラム・サウンド自動分離技術を応用したビート再構築ソフト

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スタッター効果を施すFREEZEボタン 再構築したパターンを最大8つまで保存

 まずRhythmiqの画面左側、縦に区切られたエリアはブラウザーで、プリセットの呼び出しやユーザーが作成したプロジェクトのロード/セーブを行う部分です。この右側にあるのがメイン・エリアで、最上部にあるHOSTボタンをオンにすると、RhythmiqがホストとなるDAWソフトのスタート/ストップに追従します。またDAWが停止中でも、HOSTボタンの右隣にあるスタート・ボタンを押せば、Rhythmiq単体でも再生することが可能です。  画面上部に横一列、波形が表示されているエリア=マスター・ディスプレイには、分離させる対象のドラム・パターン・サンプルの波形が表示されます。その下には、後述する分離された各ステムにさまざまなアレンジを施すBEAT ASSISTANTエリア。さらにその下にはA/B/Cの3つのSTEMエリアがあり、AIによってキック/スネア/ハイハットに近い周波数帯域ごとに自動分離されてできた各ステムがアサインされます。各ステム波形の真下にあるFREEZEボタンを押すと、それぞれにスタッター効果を施すことができ、さらなるアレンジも可能。画面最下部には、再構築したドラム・パターンを最大8つまで保存できるSCENEボタンが配置されています。  

異なるサンプルのテンポを自動調整 素材を4/8/16分音符の間隔で分割可

それでは、手持ちのドラム・パターン・サンプルをRhythmiqのマスター・ディスプレイ上にドラッグ&ドロップしてみましょう。AIによって自動的に分けられたステムが、A/B/Cの各STEMエリアにアサインされます。   [caption id="attachment_83243" align="aligncenter" width="650"]▲サンプルをRhythmiqにドラッグ&ドロップする際、画面上部にあるマスター・ディスプレイか、下部にあるA(黄)、B(紫)、C(緑)のSTEMエリアかを選択できる。STEMエリアに直接サンプルをインポートした場合、自動分離されずにそのままアサインされるため、異なる3つのサンプルをスライスして再構築することも可能 ▲サンプルをRhythmiqにドラッグ&ドロップする際、画面上部にあるマスター・ディスプレイか、下部にあるA(黄)、B(紫)、C(緑)のSTEMエリアかを選択できる。STEMエリアに直接サンプルをインポートした場合、自動分離されずにそのままアサインされるため、異なる3つのサンプルをスライスして再構築することも可能[/caption]  また、別々のサンプルを3つのSTEMエリアに直接ドラッグ&ドロップすることも可能です。この場合、分離されずにそのままアサインされるので、異なる3つのサンプルから1つのビートを再構築することができます。もし各サンプルのテンポが違っていても、Rhythmiq内でDAWのテンポに自動的に合わせてくれるのでとても便利です。また、各STEMエリアにアサインされたサウンドのみを確認したい場合は、それぞれのエリアにあるSOLOボタンをオン/オフすればよいでしょう。  BEAT ASSISTANTエリア中央のIQ ARRANGEノブを回していくと、各STEMエリアで4/8/16分音符の間隔にてスライスされたステムがランダムにポジション・チェンジを行い、あれよあれよと幾つもの新しいドラム・パターンを生成。これは楽しい! IQ ARRANGEの割合を増やすと、より複雑でアグレッシブなビートになる印象で、トリッキーなものが欲しい場合は割合を高くすればよいでしょう。個人的には2〜3割くらいにしておくのが心地良いと思いました。また各STEMエリア上部にある丸いA/B/Cボタンを押すと、IQ ARRANGEをオフにすることができるので、任意のステムにのみIQ ARRANGEを施すことも可能です。筆者の場合、スネアかハイハットへのIQ ARRANGEをオフにして、それ以外を変化させるとちょうど良いアレンジが得られる印象でした。  またIQ ARRANGEノブの左側にあるIQ EVOLVEボタンをオンにすると、IQ ARRANGEノブを回さずともランダムにパターンが再構築され続けます。反対側にあるIQ REVERSEボタンをオンにすると、パターンの一部が自動でリバース再生される効果を得られます。  各STEMエリア内にあるARRANGEノブを操作するとBEAT ASSISTANTエリアでのIQ ARRANGEはオフになり、個別で設定することも可能。逆再生させるREVERSEノブや無音部分を挿入するSILENCEノブも同様で、より細かい調整が行えます。  使えそうなパターンができたら、先述した8つのSCENEボタンの一つに保存。フィルなど幾つかのパターンをここに記録しておくことで、狙ったタイミングで再生させることができます。各ノブはMIDIコントローラーにアサイン可能なため、ライブでも威力を発揮してくれそうです。生成したパターンをDAW上でオーディオとして扱いたい場合は、DAW側でRhythmiqを立ち上げたトラックを書き出せばよいでしょう。  RhythmiqはAIが分離した各ステムをスライスし、ただランダムに並び替えるだけではなく、“音楽的な”再構築が非常に秀逸。シンプルな操作で、今までの自分の発想とは違う領域のドラム・パターンを制作できる、まさに新時代のビート・アシスタント・プラグインと言えるでしょう。   (サウンド&レコーディング・マガジン 2020年1月号より)

「MACKIE. SRM-Flex」製品レビュー:1,300Wのパワー・アンプ出力を誇るコラム型ポータブルPAシステム

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アレイは3段階の高さ調節が可能 クリアな高域とパンチのある低域を実現

 SRM-Flexは、6chデジタル・ミキサーが搭載されたベース・モジュールを最下段に配置。その上に、3段階の高さ調節が可能なタワー式のアレイを設置する構造となっている(最高約2m)。プロのエンジニアが仰々しくセットするような感じではなく、演奏者が自ら設置できるという良い意味で簡素化されたミキサー付きのパワード・スピーカーという印象を受けた。  そして箱から開ける時点で感じたのが、13.4kgととにかく軽いという点だ。別途ミキサーやスピーカー・スタンドが要らない上に、このクラスのスピーカーでは圧倒的にコンパクト。さらに専用のカバーやキャリング・バッグが付属しているのもうれしい。他メーカーの製品の場合、こういった専用のカバー類はおまけ程度の作りのこともあるが、SRM-Flexはかなりしっかりとした構造になっており、持ち運び時の堅牢度もかなり高い。さすがMACKIE.だと思わせてくれる。  SRM-Flexの見た目はスリムなコラム型のため、一見すると音質面が心配になってしまうが、内蔵のパワー・アンプ出力が1,300Wというだけあり、想像を超えるパワフルな音を再生してくれる。高域の明りょう度が高く、低域もかなり重量感とパンチのあるサウンドだ。そのため、繊細なアコースティックから迫力のあるDJサウンドまで幅広く対応できる。  水平方向のカバレージも広く、スピーカーとオーディエンスの距離が近くなってしまうような狭い会場でも、端に座る人にまでしっかりと音を届けてくれるだろう。さらに、このアレイ構造の恩恵か、ハウリングもしづらい印象。SRM-Flexを演奏者の後ろにセッティングしたとしても音量に不足を感じないため、モニター・スピーカーが置けない会場でも位置を工夫  

10個のユーザー・セットを保存 専用アプリからの操作にも対応

 ミキサー部も直感的に操作しやすい構造になっている(写真①)。6chの入力のうち、ch1とch2はXLR/TRSフォーン・コンボ入力端子になっており、マイク以外にもギターやベースなどハイインピーダンスの楽器も直接入力できる。2バンドのEQが付いているため音質補正も可能だ。DI要らずで入力できる点も、運搬の物量が減らせるのでメリットは大きい。   [caption id="attachment_83250" align="aligncenter" width="621"]▲ベース・モジュール上部にあるミキサー。左側のch1とch2の入力はマイク/ライン・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)となっており、上からEQのハイとロー、リバーブ・センド、ボリュームの各ノブ、Hi-Z入力の切り替えスイッチが並ぶ。ch3/4にはボリューム・ノブとライン・インL/R(TRSフォーン)、ch5/6にはボリューム・ノブとBluetooth接続ボタン、ライン・インL/R(ステレオ・ミニ)を備える。ch5/6の下には、ミックス・アウトも搭載。右上部のセクションは、マスター・ボリューム・ノブ、EQモード切り替えボタン、リバーブ・モード切り替えボタンという構成だ ▲ベース・モジュール上部にあるミキサー。左側のch1とch2の入力はマイク/ライン・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)となっており、上からEQのハイとロー、リバーブ・センド、ボリュームの各ノブ、Hi-Z入力の切り替えスイッチが並ぶ。ch3/4にはボリューム・ノブとライン・インL/R(TRSフォーン)、ch5/6にはボリューム・ノブとBluetooth接続ボタン、ライン・インL/R(ステレオ・ミニ)を備える。ch5/6の下には、ミックス・アウトも搭載。右上部のセクションは、マスター・ボリューム・ノブ、EQモード切り替えボタン、リバーブ・モード切り替えボタンという構成だ[/caption]  リバーブも搭載しており、アルゴリズムは全3種類。ch1とch2のみだがセンド・レベルを調節できるので、ボーカルやアコギをつなげばより優れた演出が可能になる。ch3/4はステレオ固定だがTRSフォーンのライン・インL/Rがあるので、キーボードやDJ機器の接続にも対応。インプット数が増えてしまった場合も別途ミキサーを用意し、ch3/4に入力すれば増設することもできる。  ch5/6の入力は、ステレオ・ミニ端子とBluetoothレシーバーを搭載。Bluetooth経由の音源再生に対応しているため、スマートフォンからBGMやカラオケ、バッキング・トラックを再生する用途などで使える。またXLR端子のミックス・アウトも備えているので、SRM-Flexを2台使用したり、モニター・スピーカーを追加することも可能だ。  そして、各チャンネルにはエンコーダー式のノブがパラメーターごとに付いているため本体だけでも調整ができるのだが、iOSやAndroid端末に専用アプリのSRM-Flex Connectをインストールすれば、Bluetooth経由でSRM-Flexの全機能を操作できる。ワイアレスで簡単にリモート・コントロールできるので、演奏者が自分の立ち位置から動かずに調整することも可能な上、PAエンジニアによる客席からのコントロールも実現する。   [caption id="attachment_83251" align="aligncenter" width="650"]▲iOS/Android対応の専用アプリSRM-Flex Connectの画面。SRM-Flex本体と同様のコントロールに加え、10セットまで設定を保存可能だ ▲iOS/Android対応の専用アプリSRM-Flex Connectの画面。SRM-Flex本体と同様のコントロールに加え、10セットまで設定を保存可能だ[/caption]  さらにSRM-Flex Connectにはシーン・リコール機能が付いており、場面ごとにパラメーターの設定をストアできる。例えばリハーサル時にリバーブやEQ、ボリュームのパラメーターを通常の演奏、バラード、MCなどに分けてストアしておけば、本番時はボタン一つで呼び出せてしまう。最大で10シーンの作成が可能だ。ただ、シーン・リコール機能は、その端末のアプリ側に保存されるため、複数の端末を使い分ける場合は注意が必要である。しかしSRM-Flex本体には、最後に使用したパラメーターが記憶されるので、アナログ・ミキサー運搬時にありがちなつまみが動いてしまい、使用していたパラメーター値が復元できないという心配をする必要は無い。  またMusic/Speech/Liveという3種類のプリセットから選択可能なアウトプット・ボイシング・モードという機能を搭載している。DJなどの音楽ソースを扱う場合はMusic、会議室などでのプレゼンテーション時はSpeech、楽器を使う場合はL iveなど会場やシチュエーションに応じて、簡単に出音をコントロールできる。  軽量かつコンパクトでパワフルな上、ミキサーまで備えたオールインワンのSRM-Flex。100人前後のライブから会議室までさまざまな場所で重宝される一台だろう。   (サウンド&レコーディング・マガジン 2020年1月号より)

evala「See by Your Ears」のインビジブル・シネマ1月24日〜26日公開

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「See by Your Ears(耳で視る)」プロジェクトを展開するサウンド・アーティスト、evalaが、新作“映画”「Sea, See, Sheーまだ見ぬ君へ」を1月24日(金)から3日間にわたって、東京・青山のスパイラルで上映する。 上映に先駆けて、立体音響を駆使し暗闇の中で“耳で視る”というこの作品のコンセプトを体現したトレイラーも公開されている。 https://youtu.be/CI6zjoxvl24 ●開催概要● 日程:2020年1月24日(金)〜26(日) 上映時間:約70分 各日6回上映(各回入れ替え制) ①11:00 ②12:40 ③14:20 ④16:20 ⑤18:00 ⑥19:40 ※開場は各上映開始時間の20分前 会場:スパイラルホール 東京都港区南青山5-6-23(スパイラル3F) 主催:See by Your Ears 会場協力:株式会社ワコールアートセンター  チケット 一般 3,100円(税込)/ 当日 3,600円(税込) 全席自由 Peatixにて販売中 https://invisiblecinema.peatix.com ●作品概要● ーこれは目には映らない、「耳で視る」映画ー ことばを持つ前の人類は、どんな物語を共有していたのだろう。 古来、人々は音楽を奏で、ともに踊ることで、共同体の物語を紡いでいたのではないだろうか? 2020年、人間が本来持つ知覚を呼び起こし、音から物語を描く「映画」が誕生する。 遠いどこかの海辺に佇む、老婆にも少女にも見える女性ーー。 溢れ出る豊穣な音に耳をすませるだけで、森の中にも、深海にも、あらゆる時空間へと観客を誘い、それぞれ の心象風景の中に無数のイメージを生み出していく。 音楽家による、世界に類のないインビジブルな「音の映画」。 サウンドアーティスト evalaが仕掛けるのは、立体音響システムを駆使し、暗闇の中で映画を “耳で視る” と いう新たな試みだ。 2019年8月のプレライブ公演を経て、待望のワールドプレミアとなる本作は、 ビジュアル偏重を極める現代社会に一石を投じる、革命的な体験となるはずだ。 インビジブル・シネマ「Sea, See, She―まだ見ぬ君へ」公開決定。 ●制作 音楽・音響・監督:evala(See by Your Ears) 演出:関根光才(NION) 音響エンジニア:久保二郎(アコースティックフィールド) 宣伝美術:田中良治(セミトランスペアレント・デザイン) プロデューサー:田崎佑樹(See by Your Ears) evala Webサイト http://evala.jp See by Your Ears Webサイト http://seebyyourears.jp/

Device 37 マルチチャンネル[reson~]フィルターの実装

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Device 37 マルチチャンネル[reson~]フィルターの実装

[caption id="attachment_83279" align="alignnone" width="700"]▲MC_Reson_Filterプレゼンテーション・モード ▲MC_Reson_Filterプレゼンテーション・モード[/caption]
  [caption id="attachment_83280" align="alignnone" width="700"]▲MC_Reson_Filterパッチング・モード ▲MC_Reson_Filterパッチング・モード[/caption]   ファイルをダウンロードする→MC_Reson_Filter   

新搭載のMCオブジェクトを利用

今回紹介するのは、MCオブジェクトを利用したパッチです。MCはMaxのオーディオ処理の機能をラッピング(ラッパー、Wrapperと同義語)することにより、今までと異なる方法でマルチチャンネル信号を利用できるよう実装されたものです。ラッピングというのは、例えると“Pro ToolsでAUプラグインを使いたい”というような場合に利用する、ユーティリティ的な位置付けのもの。異なる規格の間を取り持って利用できるようにラッピングする、という意味合いでこの名称が用いられています。 MC Wrapper Objectsのヘルプでは、従来の方式とMC方式の比較が記載されています。従来の方式では、周波数の異なる4つの[tri~]オブジェクトが出力する4つの周波数の音を4つの[live.gain~]を通し、[dac~]オブジェクトにステレオ(2ch)で出力する構造がold schoolとして示されています。 一方、MC Schoolと書かれた欄ではMCオブジェクトを使った同様の処理が示されています。[mc.tri~]オブジェクトの引数として“@chans 4 @values 220 221 222 223”とチャンネル数と周波数を指定してラッピングされ、1本のパッチ・コードと[mc.live.gain~]オブジェクトにより、マルチチャンネル化されたオーディオ信号が出力されています。 筆者の自作パッチは、原音に対してフィルターをかける部分に[MC]オブジェクトを使い、マルチチャンネル処理を用いたフィルターとして実装しています。このパッチの使い方はシンプルです。まず、オーディオをスタートし、コンピューター・キーボードのスペース・キーを押すと単音のシグナルが生成されます。鍵盤のグラフィック・ユーザー・インターフェース、[kslider]オブジェクトをクリックすることでフィルターの中心周波数(the center frequency)が[mc.reson~]オブジェクトに送られます。この操作を繰り返すことで、[MC]によるマルチチャンネル・フィルターの効果が得られます。  

1つのオブジェクトでマルチチャンネル化が可能

パッチの構造を見ていきましょう。[mc.gen~]がオーディオ・シグナルを生成し、[mc.tapin~]と[mc.tapout~]でディレイの効果がかかります。原音とディレイ音のオーディオ・シグナルは[mc.dup~]オブジェクトに送られ、6chのマルチチャンネル・シグナルとして生成されます。フィルター部分は、レゾナント・バンドパス・フィルターをMC化した[mc.reson~]オブジェクトにアトリビュート[@chans 6]を指定し、6chのマルチチャンネル化しています。 [mc.reson~]オブジェクトは、従来の[reson~]オブジェクトと同様に、第1インレットにオーディオ・シグナル、第2インレットはgain、第3インレットは中心周波数、第4インレットはQの値をセットします。第3インレットに送る中心周波数の設定は、チャンネルごとに送る仕組みです。中心周波数の元となる音程は、[kslider]オブジェクトから出力されたMIDIノート・ナンバーを周波数に変換しています。鍵盤が押された順に[mc.targetlist]オブジェクトからsetvalueメッセージとして1から6の数値と周波数というメッセージ形式にて、繰り返し出力されます。このパッチでは、分配されたメッセージを周波数としてモニタリングするために、[mc.sig~]オブジェクトでシグナルに置き換えて、[mc.unpack~]オブジェクトで分配する流れを作り[number~]オブジェクトで周波数を表示しています。何度も操作を繰り返すことで、MCによる複雑なフィルターの効果を感じ取っていただけると思います。 Max 8では、マルチチャンネル・オーディオに対応したMCオブジェクトとパッチ・コード、VST/VST3/AUプラグインに対応する[mc.vst~]オブジェクト、Max for Liveデバイスを扱える[mc.amxd~]オブジェクトが実装されました。さらに、マルチチャンネル・ミキシング対応の[mc.mixdown~]オブジェクトではサーキュラー・パンニングやライン・パンニングといったモードが用意されています。内部のオーディオ・ルーティングのマルチチャンネル化、さらに物理的な立体音響空間を前提にしたスペースのコントロールといった多くの拡張性あるわけです。 今回はフィルターを中心に発想しましたが、新しい音響空間の構成やアイディアの実現も期待できます。Max 8の発表時、MC機能のデモンストレーションを見ていて、物理学者である湯川秀樹博士の空間についての言葉を思い出しました。学生時代には実感が得られず、今現在も正確に理解しているとは思えませんが、今までの音楽活動を通して、音響空間について考えるときに指針としている言葉です。最後に引用しご紹介させていただきます。 「しかし、そもそも空間というのは、たくさんな点の集まりであるわけです。数学では、点はいくら集まっても二次元、三次元というような広がりにはならないというようなむずかしい話がありますが、そんなことは気にする必要はありません。もし気になるなら、空間の部分を非常に細かく分け、それをさらにどこまでも進めていった極限が点であると思ったらいい」(出典:湯川秀樹、小沼通二監修『「湯川秀樹 物理講義」を読む』:講談社/2007年)  

大谷安宏

Profile ギタリスト/作曲家。プログラミングを駆使したサウンド音作りを中心に活動する。ロックフェラー財団ACC日米芸術交流プログラム助成アーティストとして渡米。Ars Electronica 2016'/Forum Wallis入賞、2016年ニューヨーク・フィルハーモニー・ビエンナーレ世界初演などを経験し、現在は後世の育成にも尽力している。     max_logo CYCLING '74 MaxはMI7 STOREでオーダー可能 問合せ:エムアイセブンジャパン http://www.mi7.co.jp/  

心に届く音を創る ヤマハサウンドシステム Vol.5:高崎芸術劇場

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マルチユニットのスピーカーによるクリアな拡声

 JR高崎駅から徒歩5分ほどのところに位置する高崎芸術劇場。60年近くの歴史を持つ群馬音楽センターの精神を継承しながらも、現代の多様な公演に対応すべく2019年9月20日に開館したばかりの劇場だ。最大の特徴は、コンセプトの異なる3つのホールを有していること。2,027席を擁し幅広い演目が行える大劇場、7間舞台から平土間まで柔軟にレイアウト可能なスタジオシアター、生音の響きにこだわった音楽ホールの3つだ。今回は大劇場とスタジオシアターを中心に見ていこう。  まずは高崎芸術劇場の顔とも言える大劇場。オペラや歌舞伎なども行えるが、群馬交響楽団の本拠地としてふさわしい響きを有することが大きな条件の一つだったと、高崎芸術劇場の和南城広幸氏は言う。  「大劇場は響きを豊かにし、オーケストラの演奏をサポートするような音響にしたいということになりました。そのため、建築音響の段階からこだわったんです」  理想とするサウンドを音響設備の面からも追求すべく、メイン・スピーカーにはD&B AUDIOTECHNIK製のものが採用された。プロセニアム中央にはV8が6基、V12が2基、サブウーファーのV-Subが1基ずつ、サイドにはそれぞれV8が8基、V12が2基、V-Subが2基ずつフライングされている。V-Seriesを採用した理由をYSSの神谷康平氏が語る。  「マルチユニットのスピーカーを採用することで混変調ひずみを減らし、よりクリアな出音を目指しました。その考えにマッチしたのが3ウェイのV-Seriesだったんです。また、迫力のある音を届けるため高出力であることも欠かせません。そして、普段はスピーカーの性能を最大限に発揮するため露出させますが、持ち込みのスピーカーがある際には格納する必要があるので、フライングで設置することも重要な要素でした」  V-Subに加え、サブウーファーのJ-Subを片側につき3基ずつステージ上に設置することもあるという。迫力のある低域が必要な公演の増加が、導入の理由だと神谷氏は説明する。  「音楽であればロックであったり、演劇では雷のような効果音など、どのような低域であっても十分な迫力が演出できるようなシステムを組んでいます。低域不足とは言われない設備だと思いますね」  さらに、メイン・スピーカーのほかに、効果音再生用として集中シーリング・スピーカーとウォール・スピーカーが客席側に埋め込まれている。集中シーリング・スピーカーは、D&B AUDIOTECHNIK E12が7基、BI6-Subが1基という構成で、こちらも低域に重きを置いた組み合わせだ。主に演劇での効果音再生を目的として、シーリング・スピーカーにもサブウーファーを組み込み低域を補強することが増えてきたとYSSの佐川清達氏は言う。  「頭上からの豊かな低域の響きも非常に重要になってきています。飛行機が飛び去る効果音などの臨場感が増すため、シーリングのサブウーファーが活躍するんです」  一方、コンソールはYAMAHA RIVAGE PM7が採用されている。システム全体のサンプリング周波数を96kHzで構築し、入出力をDanteで接続できる点が大きなポイントだったと神谷氏が説明してくれた。  「ほかのシステムがDanteネットワークで構成されていたので、コンソールも含めてすべてをDante接続にした方が構築しやすいだろうということで採用しました。乗り込みのPAエンジニアの方がDante対応機材を持ち込んだ際にも、容易に接続できるという利点もありますね」  こうして組み上げられた大劇場の音響設備から送り出されるサウンドは明りょう度が高く、来場者からも好評だと高崎芸術劇場の小見直樹氏は言う。  「出音は非常にクリアですし、補助のスピーカーも多数設置されているため、どこの席に座っても遜色(そんしょく)無く聴こえます。演劇では2階席だと声が届きにくいというようなことも懸念されますが、客席各所にある補助スピーカーのおかげでセリフもはっきりと聴こえるんです。お客様からも大迫力なサウンドだと評価いただいていますよ」   [caption id="attachment_83295" align="alignnone" width="313"]▲大劇場のスピーカーはD&B AUDIOTECHNIK製で統一。ステージの左右には、サブウーファーのV-Subを2基、ハイボックスのV8を8基、V12を2基ずつフライング。ステージ上には、サブウーファーのJ-Subも片側につき3基ずつ設置されており、その上にはインフィル用のV10Pが見える。さらにプロセニアムのセンターにはV-Subが1基、V12が2基、V8が6基フライングされている ▲大劇場のスピーカーはD&B AUDIOTECHNIK製で統一。ステージの左右には、サブウーファーのV-Subを2基、ハイボックスのV8を8基、V12を2基ずつフライング。ステージ上には、サブウーファーのJ-Subも片側につき3基ずつ設置されており、その上にはインフィル用のV10Pが見える。さらにプロセニアムのセンターにはV-Subが1基、V12が2基、V8が6基フライングされている[/caption]   [caption id="attachment_83296" align="alignnone" width="650"]▲︎2階席後部の赤いメッシュの内側には補助スピーカーのD&B AUDIOTECHNIK 8Sが7基、サブウーファーのBI6-Subが1基ずつ格納されている ▲︎2階席後部の赤いメッシュの内側には補助スピーカーのD&B AUDIOTECHNIK 8Sが7基、サブウーファーのBI6-Subが1基ずつ格納されている[/caption]   [caption id="attachment_83297" align="alignnone" width="650"]▲大劇場のコンソールにはYAMAHA RIVAGE PM7が採用されている。その右隣には、マトリクス・コントローラーのHYFAX LDM1を設置。モニター・スピーカーはGENELEC 1032Bだ ▲大劇場のコンソールにはYAMAHA RIVAGE PM7が採用されている。その右隣には、マトリクス・コントローラーのHYFAX LDM1を設置。モニター・スピーカーはGENELEC 1032Bだ[/caption]  

V-Seriesによるライブ・ハウスに匹敵する音圧

 続いて、座席を格納することでスタンディングにも対応するスタジオシアターを見てみよう。客席だけでなくステージの規模も演目に合わせて調整でき、黒を基調とした内装などライブ・ハウスを思わせる雰囲気が漂う。そこには高崎ならではの理由があると和南城氏が解説する。  「高崎市はBOØWYやBUCK-TICKを輩出した街ということもあり、公設のレコーディング・スタジオがあったりとバンド活動が盛んなんです。そこでスタジオシアターは小劇場的な利用に加え、スタンディングのライブにも対応するホールにしようということになりました」  こちらもスピーカーはD&B AUDIOTECHNIKで統一。左右それぞれV8を5基、V12を3基ずつフライングしている。サブウーファーはステージ上に片側につきJ-Subを3基設置。さらにセンターには演劇のセリフやアナウンス用にE12-Dを1基、E8を2基設置している。大劇場よりも小規模な空間ながら、それとほぼ同等のスピーカー構成にしているわけを神谷氏が解説してくれた。  「コンセプトの一つがライブ・ハウスだったため、常設設備でありながら、ライブで使用できる迫力でなければということで、V-Seriesを採用しました。ロックのライブなどでは低域も非常に重視されるので、サブウーファーも大劇場と同じJ-Subを導入しています。来場者の方々からも、ダイナミックな音像だという感想をいただいていると伺っていますよ」  スタジオシアターではライブや演劇に加え、月に1回ほど映画の上映会も行っているという。高崎市は2019年で33回目を迎える高崎映画祭が開催されたりと映画にもゆかりのある街だ。映画館に匹敵するような鑑賞環境を整えるべく、7.1chでの再生に対応したと佐川氏は言う。  「フロントのL/Rchはフライングのものを使っていますが、それ以外は仮設のスピーカーを使用しています。こちらもすべてD&B AUDIOTECHNIK製で、E8、E12、E12Dを上映会の規模に合わせて適切な場所に設置しているんです」  このように、各ホールのコンセプトに合わせ最適な音響設備を構築したYSS。和南城氏も非常に満足しているという。  「YSSにはタイトな工期の中で、最大限の設備を手掛けていただけたと思います。今後もお客様の要望を聞き改善していく予定なので、末長くお付き合いいただきたいです」  小見氏もこれからの運用に期待を寄せている。  「YSSに組んでいただいたシステムにより、ホールの可能性が広がったように感じます。まだ開催されたことのないさまざまな公演にも対応できるだろうと思うので、楽しみです」   [caption id="attachment_83298" align="alignnone" width="650"]▲スタジオシアターは移動式の座席を採用しており、座りで最大568人、スタンディングで約1,000人を収容する。ステージの奥行きを3間、5間、7間、そして完全にフラットな平土間まで調整できる点が特徴 ▲スタジオシアターは移動式の座席を採用しており、座りで最大568人、スタンディングで約1,000人を収容する。ステージの奥行きを3間、5間、7間、そして完全にフラットな平土間まで調整できる点が特徴[/caption]   [caption id="attachment_83299" align="alignnone" width="313"]▲スタジオシアターのメイン・スピーカーは、片側につきD&B AUDIOTECHNIK V8が5基、V12が3基フライングされており、サブウーファーは同社のJ-Subが3基ステージ上に設置されている。インフィル用のスピーカーはE12だ。低域がしっかりと再生されるため、ライブが非常に盛り上がると、高崎芸術劇場の小見氏は印象を語る ▲スタジオシアターのメイン・スピーカーは、片側につきD&B AUDIOTECHNIK V8が5基、V12が3基フライングされており、サブウーファーは同社のJ-Subが3基ステージ上に設置されている。インフィル用のスピーカーはE12だ。低域がしっかりと再生されるため、ライブが非常に盛り上がると、高崎芸術劇場の小見氏は印象を語る[/caption]   [caption id="attachment_83300" align="alignnone" width="650"]▲︎スタジオシアターのセンターにはD&B AUDIOTECHNIK E12-Dが1基、E8が2基ずつフライングされている ▲︎スタジオシアターのセンターにはD&B AUDIOTECHNIK E12-Dが1基、E8が2基ずつフライングされている[/caption]   [caption id="attachment_83302" align="alignnone" width="650"]▲︎スタジオシアターのコンソールはYAMAHA QL5。YAMAHAのコンソールは多くのライブ・ハウスで使われており、乗り込みのエンジニアでもすぐに対応できる点などが主な採用理由だとYSSの佐川氏は言う ▲︎スタジオシアターのコンソールはYAMAHA QL5。YAMAHAのコンソールは多くのライブ・ハウスで使われており、乗り込みのエンジニアでもすぐに対応できる点などが主な採用理由だとYSSの佐川氏は言う[/caption]   [caption id="attachment_83301" align="alignnone" width="650"]▲壁面に設置された角材の反射によって、豊かな響きを実現する音楽ホール。建築音響に重きを置いた空間のため、スピーカー類は壁や天井、床へ埋め込み主張しないよう意匠の面も配慮されている ▲壁面に設置された角材の反射によって、豊かな響きを実現する音楽ホール。建築音響に重きを置いた空間のため、スピーカー類は壁や天井、床へ埋め込み主張しないよう意匠の面も配慮されている[/caption]   [caption id="attachment_83303" align="alignnone" width="650"]▲1階席とは音の届き方が異なる2階バルコニー席は、補助スピーカーで対応。客席前の手すりには小型のYAMAHA VXS1MLが、客席の下にはサブウーファーのYAMAHA VXS3Sが設置されている ▲1階席とは音の届き方が異なる2階バルコニー席は、補助スピーカーで対応。客席前の手すりには小型のYAMAHA VXS1MLが、客席の下にはサブウーファーのYAMAHA VXS3Sが設置されている[/caption]   [caption id="attachment_83304" align="alignnone" width="650"]▲左から、高崎芸術劇場の和南城広幸氏、小見直樹氏、YSSの神谷康平氏、佐川清達氏 ▲左から、高崎芸術劇場の和南城広幸氏、小見直樹氏、YSSの神谷康平氏、佐川清達氏[/caption]   ■問合わせ:ヤマハサウンドシステム ☎︎03-5652-3600 www.yamaha-ss.co.jp   [amazonjs asin="B083K46J16" locale="JP" title="Sound & Recording Magazine (サウンド アンド レコーディング マガジン) 2020年 3月号"] ※サウンド&レコーディング・マガジン2020年3月号より転載  

【Episode6】シンセサイザーガールズ!!

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【Episode6】シンセサイザーガールズ!!

 UNIVERSAL AUDIOのオーディオI/Oに、Mac/Windowsに対応する10イン/6アウトのApollo Twin Xと12イン/18アウトのApollo X4が加わりました。このようなThunderbolt 3接続のコンパクト・モデルを待っていた方も多いのではないでしょうか? かくいう僕もその一人で、発売とともに従来機のApollo Twin MKⅡから、Apollo Twin Xに乗り換えました。この2機種との違いを見つつ、Apollo X4をレビューしていきます。

【第28話】つまみちゃん〜兄がこんなの買えるわけがない〜

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【第28話】つまみちゃん〜兄がこんなの買えるわけがない〜

 UNIVERSAL AUDIOのオーディオI/Oに、Mac/Windowsに対応する10イン/6アウトのApollo Twin Xと12イン/18アウトのApollo X4が加わりました。このようなThunderbolt 3接続のコンパクト・モデルを待っていた方も多いのではないでしょうか? かくいう僕もその一人で、発売とともに従来機のApollo Twin MKⅡから、Apollo Twin Xに乗り換えました。この2機種との違いを見つつ、Apollo X4をレビューしていきます。

「UNIVERSAL AUDIO Apollo X4」製品レビュー:4基のUnison対応プリを積む12イン/18アウトのオーディオI/O

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最上位機種のAD/DA部を踏襲 モニターのダイナミック・レンジは127dB

 Apollo X4はラック・タイプのApollo Xと同じく製品名に“Twin”が付きませんが、Apollo Twin Xに似たデザインとなっています。Apollo Twin Xより入出力が多い分、横に大きいですね。またApollo Twin MKIIより筐体の色が薄く、スペース・グレイのMacとの統一感が美しくなりました。   [caption id="attachment_83325" align="aligncenter" width="650"]▲フロントにはインストゥルメント・イン(フォーン)とヘッドフォン・アウト(ステレオ・フォーン)がそれぞれ2つずつ用意されている ▲フロントにはインストゥルメント・イン(フォーン)とヘッドフォン・アウト(ステレオ・フォーン)がそれぞれ2つずつ用意されている[/caption]  まずはアナログ入出力から見てみましょう。入力はUnison機能対応のプリアンプを搭載した4つのマイク/ライン・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)を搭載。入力1/2はフロントに搭載されているHi-Z入力も使えます。出力はモニター・アウトL/Rと4つのライン・アウト、2つのヘッドフォン・アウト(TRSフォーン)を完備。デジタル入出力に関しては、ADATの8ch、およびS/PDIFによる2ch入出力が可能です。そしてUAD-2プラグインを使用するためのSHARCプロセッサーは、4基搭載されています。   [caption id="attachment_83326" align="aligncenter" width="650"]▲リア・パネル左端には、オプティカル入出力(ADAT&S/P DIF)がスタンバイ。その右にはライン・アウト(TRSフォーン)×4、モニター・アウトL/R(TRSフォーン)というアナログ出力が続き、さらに右側にはマイク/ライン・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)×4が搭載されている ▲リア・パネル左端には、オプティカル入出力(ADAT&S/P DIF)がスタンバイ。その右にはライン・アウト(TRSフォーン)×4、モニター・アウトL/R(TRSフォーン)というアナログ出力が続き、さらに右側にはマイク/ライン・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)×4が搭載されている[/caption]  Apollo X4のポイントはAD/DA部。Apollo Twin Xと同じく、ラック・タイプのApollo Xとほぼ同じ仕様になったとのこと。つまり出音と録り音が進化したということです。Apollo X4のダイナミック・レンジをApollo Twin MKIIと比べると、マイク・インは121dBから123dBに、モニター・アウトは115dBから127dBに向上。そのほか最大入力レベルや出力インピーダンスなど、多くのスペックが強化されています。  トップ・パネルで操作できるトークバックやハイパス・フィルターなどの機能は、Apollo Twin Xと同様です。電源部もおなじみ、回してロックするタイプのACアダプター。しっかりロックしないと外れてしまうので注意しましょう。  

高域が伸びたモニター・アウトとプリ部 密度が高くなったヘッドフォン・アウト

 それでは実際に使用してみます。まずはモニター・アウトから。Apollo Twin MKⅡに比べるとハイが伸びていて、奇麗なサウンドです。ハイが伸びた一方でローが減ったということもなく、従来機から確かな進化を感じます。スタジオ常設のAVID HD I/Oとも聴き比べてみましたが、複数人でブラインド・テストをすると意見が割れるくらい高品位なサウンドでした。実際にApollo X4のモニター・アウトでミックスしてみたところ、Apollo Twin MKⅡよりも細かなところまで音が見えて、仕上がりも良くなったように思います。ちなみにApollo X4とApollo Twin Xは、ほぼ同じサウンドに感じました。  僕はスタジオでミックスをする際、オーディオI/Oからミキサーやモニター・コントローラーに“ミックスするための出力”と“リファレンスを聴くための出力”を立ち上げていて、ときどき切り替えることで耳をリセットさせています。ライン・アウトがステレオ1系統しかないApollo Twin Xの場合は、どちらかの出力でモニター・アウトを使うことになるので、その出力は本体のボリュームをかんでしまいます。しかしApollo X4ではライン・アウト1/2をミックス用、ライン・アウト3/4をリファンレンス用の出力にすることで、本体のボリュームをかまないようにできます。微細ながらもうれしいポイントです。  続いてヘッドフォン・アウト。少しハイ上がりな気がしていたApollo Twin MKⅡと比べると密度が高くなり、モニター・アウトの変化とは逆方向の変化だと思いました。大きめな音量で聴いても耳が痛くないし、ローの判断がしやすい。ヘッドフォンを2つ挿せるのも何かと重宝しそうです。こちらもApollo Twin Xと違いは無いはず……と思って聴き比べてみると、若干Apollo X4の方が余裕があるように感じました。これは僕の気のせいでしょうか? 皆さまの意見も聞かせていただきたいところです。  そしてプリアンプ。テストで録音したのはピアノと男女のボーカル。Apollo X4で録ったサウンドは、Apollo Twin MKⅡよりもハイが伸びていて周波数レンジが広く聴こえます。これはモニター・アウトと同じ方向の変化と言えるでしょう。Apollo X4はプリアンプが4系統備わっているので、その気になればバンドの同時録音もできます。このサイズ感で考えるとすごいことです。  全体的に従来機からとても良い方向に進化していると思いました。可搬性に優れつつも、Apollo Twin Xよりラック・タイプのApollo Xに近い使い方ができます。Apollo Twin XとApollo X4は音と機能にほとんど差は無いので、用途に応じて選ぶとよいでしょう。   (サウンド&レコーディング・マガジン 2020年2月号より)

「RME Babyface Pro FS」製品レビュー:次世代クロックを実装した12イン/12アウトのUSBオーディオI/O

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出力レベルの切り替えスイッチと 盗難防止用K-スロットを新たに搭載

 コンピューター(Mac/Windows)との接続はUSB 2.0を採用し、バス・パワーで駆動。電源サプライ(別売り)からの電源供給も可能で、その場合はAD/DAコンバーターや2chのマイク・プリアンプとしてスタンドアローンでも動かせます。   [caption id="attachment_83335" align="aligncenter" width="650"]▲マイク入力(XLR)とライン出力(XLR)をそれぞれ2系統搭載するリア・パネル ▲マイク入力(XLR)とライン出力(XLR)をそれぞれ2系統搭載するリア・パネル[/caption]  モバイル・オーディオI/Oということで、入出力は取り回しやすいシンプルな構成となっています。アナログ入力はマイク・イン(XLR)とライン・イン(TRSフォーン)が2つずつで合計4ch、アナログ出力はメイン・アウトL/R(XLR)とヘッドフォン・アウト(TRSフォーン&ステレオ・ミニ)で合計4chです。ヘッドフォン・アウトは同社のAD/DAコンバーターADI-2 Pro FSと同じオペアンプを備え、メイン・アウトとは別系統の出力端子として設定できます。   [caption id="attachment_83336" align="aligncenter" width="650"]▲右サイドにヘッドフォン出力(ステレオ・フォーン&ステレオ・ミニ)と、ライン入力(フォーン)を装備。右端は盗難防止のK-スロット ▲右サイドにヘッドフォン出力(ステレオ・フォーン&ステレオ・ミニ)と、ライン入力(フォーン)を装備。右端は盗難防止のK-スロット[/caption]  デジタル入出力用にオプティカル端子も搭載しているため、ADAT入出力を備えた外部機器と接続することで8ch分の入出力を拡張可能です。付属のブレイクアウト・ケーブルでMIDIのやり取りにも対応しています。   [caption id="attachment_83337" align="aligncenter" width="650"]▲左サイド。左からUSB、ACアダプター・イン、MIDI入出力、オプティカル入出力と端子が並んでいる ▲左サイド。左からUSB、ACアダプター・イン、MIDI入出力、オプティカル入出力と端子が並んでいる[/caption]  新しく本体裏側に、メイン・アウトのレベル切り替えスイッチ(+19/+4dBu)が付きました。右サイドの盗難防止用K-スロットも今回で初実装です。 [caption id="attachment_83340" align="aligncenter" width="604"]▲本体底面。メイン・アウトのレベル切り替えスイッチ(+19/+4dBu)が新たに実装された ▲本体底面。メイン・アウトのレベル切り替えスイッチ(+19/+4dBu)が新たに実装された[/caption]  

前モデルからさらに解像度が増した出音 800Hz〜2kHzに密度のある録り音

 今回のチェックはバス・パワーで行ってみます。まずはスピーカーの出音から。ハイエンドからローエンドまで、高い解像度で素直に再生しています。特にローエンドの出方が素晴らしく、ジャンルを問わず30Hz以下の扱いが重要となる近年の音楽表現に対して見事に呼応しています。私が前モデルのBabyface Proを購入した最大の理由はローエンドの再生能力の高さだったのですが、Babyface Pro FSもその良点がしっかり継承されていますね。さらに焦点の合い方が抜群に良く、音像の一体感に優れています。それ故に音像が大きく感じられて、小さな音量でも細かなところまで聴き取りやすいです。Babyface Proも十分に高い解像度を有していましたが、さらに磨きがかかっています。新しいクロック・ジェネレーターによる結果でしょうか。  ミックスでも使ってみました。解像度の向上により音が飽和しにくくなっていて、大胆な設定でギリギリまで攻めることができます。例えばサチュレーションは線がくっきりする範囲にとどめることが肝心なのですが、この見極めがかなり楽になりました。コンプでもアタック感のコントロールが格段にしやすくなり、コンプそのもののチョイスも容易です。  ヘッドフォン・アウトも検証してみると、驚くべきアップデート内容です。Babyface Proと比べて周波数レンジが明らかに広くなっていて、ヘッドフォンのグレードが上がったかのような高解像度でクリアなサウンド。例えるならリノベーションによって窓が大きくなり、見える景色が広がったような変化です。私のようなクリエイターの多くは、コンピューターの前でマイク録りをする場面も多いかと思います。そういった点でヘッドフォン・アウトのサウンドは音決めに直接影響してくる部分。この進化は、確実に録り音にも良い影響を及ぼしてくれるでしょう。また、純粋にリスニング用として使っても気持ち良いサウンドで、いつまでも聴いていたいと思えるほどです。  録り音もチェックしてみましょう。入力レベルや48Vファンタム電源の供給は、付属ソフトのTotalMix FXでコントロールできますが、本体のボタンとエンコーダーのみでも素早く行えます。今回の録音ソースはアップライト・ピアノとアコースティック・ギター、バイオリン、シンセサイザーの4種類。どれも素直で濁りの無いサウンドで録れました。単に素直なだけではなくみずみずしさもあり、外部のプリアンプを使わずとも魅力的なサウンドで録れます。特に800Hz~2kHz辺りの密度が充実していて、焦点がくっきりとしている印象です。この傾向はライン入力で録ったシンセサイザーにも顕著に現れていたので、焦点の向上に関しては新たに実装されたクロックの影響が大きいのでは、と思います。  長年Babyface Proを使用してきて人にも薦めてきた私ですが、Babyface Pro FSは単なる後継機種とは思えないほどクオリティが上がっていると感じました。モバイル・オーディオI/Oの購入を検討するすべての人にとって、満足度の高い選択肢となるでしょう。   (サウンド&レコーディング・マガジン 2020年2月号より)
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