DAWでの音楽制作環境は、アプリケーションの高機能化、バーチャル・インストゥルメントの高品質化などによって日増しに“重く”なってきている。これらを快適に操るためには相当に高い処理能力を備えたコンピューターが必要だ。Windowsベースで制作を行うクリエイターの中には、自作のハイ・スペック・マシンを組み上げる者も多いが、一方でワークステーションへの注目度も高まってきている。ワークステーションとは、映像制作など極めて高い処理能力を要求される現場で活用されるコンピューターのこと。これを音楽制作にも活用しようというわけだ。今回、音楽プロデューサーの江夏正晃氏に協力を要請し、インテル® Xeon® プロセッサーを搭載したHP Z820 Workstation(以下Z820)とHP Z420 Workstation(以下Z420)をチェックしてもらった。それぞれ、どのようなユーザーに適しているのか、早速見ていこう。
Photo: Hiroki Obara
高負荷プロジェクトで
処理能力をチェック
今回使用した2機種は、Z820が8コアのインテル® Xeon® プロセッサー E5-2687W 3.1 GHzデュアルCPU(計16コア)に64GBメモリーを搭載、Z420が6コアのインテル® Xeon® プロセッサー E5-1660 3.3GHzに16GBメモリーを備えている。
比較用に、marimoRECORDSで用意したインテル® Core™ i7-960 プロセッサー 3.2GHz/12GBメモリーもスタンバイ。すべてOSはWindows 7、DAWはSTEINBERG Cubase 7.04をインストールしてチェックを行った。
「今回はあえて32ビット/96kHzの非常に重たいプロジェクト・ファイルを作って試してみました。一部SEだけオーディオを使用し、あとはすべてバーチャル・インストゥルメントで制作しています」
使用したバーチャル・インストゥルメントは次の通り。
- STEINBERG Groove Agent One
- STEINBERG Halion Sonic SE×2
- STEINBERG Padshop×2
- STEINBERG Retrologue
- STEINBERG Triebwerk
合計7台。これらをすべて32ビット/96kHz/バッファー・サイズ128サンプルのリアルタイムで動かすのだから、かなり高い負荷がかかるだろう。
▲今回の企画のために制作された楽曲。
「今回の厳しい条件下では、いつも使っている私のマシンはギリギリ処理できるかな?というところですね。しかしインテル® Xeon® プロセッサーはインテル® Core™ i7 プロセッサーに比べて、パフォーマンス・メーターの動きに“粘り” がありますね。ポンポンと跳ねるように動かず、まだまだ余裕がある感じ。
Z820はもちろんすごくパワフルですが、Z420でも十分すぎるくらいのパフォーマンスです」
高いスペックが
もたらすメリット
2機種の“棲み分け”については後ほど語ってもらうとして、まずはハイ・スペックなマシンがクリエイターに与えるメリットについて聞いていこう。
「最近は、バーチャル・インストゥルメントの数がものすごく増えています。一昔前は、1つのシンセをどれだけ使いこなすかということが美学だったりしましたが、今は洋服を着替えるようにバーチャル・インストゥルメントを変えていく。クオリティが良くなった分、CPUパワーを多く消費するものも増えてきました。
ハイ・スペックなマシンならCPUパワーを気にせず、いろいろなバーチャル・インストゥルメントを試行錯誤できる。これはクリエイターにとってとてもありがたいことです。CPUパワーが限界に近づいてくると、どうしても新しいバーチャル・インストゥルメントを立ち上げることに消極的になってしまいますからね。それを気にせずに済む環境はとてもクリエイティブだと思います」
また、このことは作品の精度にも大きな影響を与えるという。
「クリエイターにとっては、思い浮かんだアイディアを瞬時に形にできることがとても重要です。いくつかのフレーズや音色を試すようなとき、処理の重さを気にしてオーディオ化することなく、バーチャル・インストゥルメントをどんどん立ち上げて試行錯誤できるのは時間短縮にも役立つ。実際、今回のチェック用に作った曲はZ820を使って1時間で制作しました。
普段使っている環境だと、使わないバーチャル・インストゥルメントを落としたり、オーディオ化したりという作業が入りますので、2〜3倍はかかる気がしますね。人間の集中力はそんなに長く続かないですし、疲れてくると精度も落ちます。なので、短時間で作れるということは作品の精度としても高いものができるということなのです」
Z820とZ420は
どんなユーザーに適するか
さて、今回使用した2機種の構成価格は、Z820が1,204,875円、Z420が382,410円となっている。かなりの価格差だが、それぞれどのようなユーザーに適しているだろうか?
「DAWでの作業は瞬発力が求められます。複数のバーチャル・インストゥルメントが一気に動き出す局面など、一瞬の高負荷に耐えられる力が必要となる。瞬発力の面だけで見ると2機種とも遜色はないかなという印象ですね。自宅スタジオなどで音楽を作るならZ420でも全く問題ないでしょう。私も自宅で1人作業をするだけならZ420にすると思います。
一方、ある程度の規模のスタジオを構えて、クライアントの前でパフォーマンスする必要があるとか、レコーディングに絶対ミスが許されないということがあるならZ820ですね。marimoRECORDSのスタジオに入れるならZ820にします。これは、時速100キロで高速道路を走るとして、ファミリー・カーを選ぶかスポーツ・カーを選ぶかの違いにも似ていると思います。どちらも時速100キロで走ることは可能だけど、スポーツ・カーの方がパワー的にも余裕があり、ちょっと加速しなければならいときにはその差が出ると思うんです」
また、クライアントの要望を受け入れながら制作を進めていくような場合、1人で作業するときに比べて、より“大きな器”が必要になるという。
「1人で作業するなら、ある程度は理路整然と進めることができますが、クライアントの要望を受け入れながら進めるには、想定以上の試行錯誤が必要になることもあります。
いろいろな音色を聴き比べてもらうようなとき、バーチャル・インストゥルメントを次から次へと立ち上げ、聴き終わってもワン・クリックでいつでも戻れるように立ち上げっぱなしの状態にしておかなければならない。気がつくとその数は膨大になっています。こういう場面を想定すると、Z820くらいの器の大きさが欲しくなりますね」
高性能な制作環境を求めてワークステーションを検討している方々には、大いに参考になったのではないだろうか。それぞれのモデルの中でも、ニーズに合わせて多彩なスペックをチョイスできるので、併せてチェックしてほしい。
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※文中の試聴音源はこの企画のために制作されたもので、商用、非商用にかかわらず、他で使用することはご容赦ください。
※ご使用の環境によって、音源プレーヤーが表示されないことがあります。その場合は、「mp3を再生する」リンクをクリックして視聴ください。
▲使用したバーチャル・インストゥルメント。STEINBERG Groove Agent One、Halion Sonic SE、
Padshop、Retrologue、Triebwerk
▲VSTパフォーマンス・メーターの動きにも余裕が感じられた。「Z420も動きに“粘り”がありますが、Z820はさらに振れない印象です」(江夏氏)
▲今回チェックした2機種。左がZ420、右がZ820。共に水冷式だ。「音楽制作おいては水冷式で静かなこともメリットが大きいですね」(江夏氏)
江夏正晃
音楽と映像をボーダレスに手がけるクリエイティブ集団、marimoRECORDSを率いるプロデューサー。楽曲制作やDJ、アーティスト・プロデュースのほか、関西学院大学にて講師も務める。著書に『DAW自宅マスタリング』(小社刊)。
www.cybermarimo.com
今回テストで使用した機種
HP Z820 Workstation
- CPU/8コア インテル® Xeon® プロセッサー E5-2687W 3.1GHz デュアルCPU(計16コア)
- 冷却方式/水冷
- メモリー/64GB DDR3-1600(8×8GB)
- ハード・ディスク/1TB SATA
- ドライブ/DVDスーパー・マルチドライブ
- OS/Windows7 Professional SP1 64bit
- 上記構成価格/1,204,875円(ディスプレイ別売り)
HP Z420 Workstation
- CPU/6コア インテル® Xeon® プロセッサー E5-1660 3.3GHz
- 冷却方式/水冷
- メモリー/16GB DDR3-1600 ECC(4×4GB)
- ハード・ディスク/1TB SATA
- ドライブ/DVDスーパー・マルチドライブ
- ハードディスク/2TBハードディスクドライブ(SATA、7,200rpm)
- ドライブ/最大16倍速DVDスーパーマルチドライブ
- OS/Windows7 Professional SP1 64bit
- 上記構成価格/382,410円(ディスプレイ別売り)
- HP Z820 Workstationの詳細(日本HP(ヒューレット・パッカード))
- HP Z420 Workstationの詳細(日本HP(ヒューレット・パッカード))
- 問い合わせ:日本ヒューレット・パッカード カスタマー・インフォメーションセンター TEL:0120-436-555
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