【ドロップ選手権】コンテスト結果発表!!!
Device 31 Maxで音楽理論を構築する生成的作曲法 by 松本昭彦
Device 31 Maxで音楽理論を構築する生成的作曲法 by 松本昭彦





生成と作曲
“作曲”という言葉は誰もが聞いたことがあると思いますが、“生成”という言葉についてはあまりなじみが無いかもしれません。今回は音楽の生成にフォーカスして、作曲における固定観念を解きほぐします。パッチを通じてどのようにして機械に作曲させるのかを体験し、人間と機械の特性の違いについて考えていきましょう。 “生成”とは、実存しなかったものをプログラミングなどの力を借りて生じさせることです。コンピューターの誕生以降、生成技術を用いることで音楽の様式をデザインしやすくなりました。様式とは、作曲/作品群に共通する音使いの特徴を後から分析し、体系的にまとめたものです。アルゴリズムという形で作曲するための設計図、すなわち音楽の様式そのものをメタレベルで作曲家が記述できるということは、作者独自の作曲理論を構築する上で大きな役割を果たします。 Maxでは、収録されているオブジェクトの簡単な組み合わせで、さまざまな音楽の自動生成を試みることができます。他者とは違う音楽を生み出すための規則をデザインするという意識は、現代の作曲家が独創性を生み出す上で重要になってくるでしょう。 Maxにおける生成の基本は乱数です。オブジェクトの[random]が最も基本的な種となり、それを加工する規則を作っていくことで少しずつ音楽が姿を現していきます。乱数というとコンピューター特有の概念のように思えますが、揺らがせても問題が無いパラメーターに対して無作為な選択をすることも“乱数的”と言えるでしょう。打ち込みと人間の演奏を比較しても、人間の演奏は楽譜に対して毎回不規則に音の強さや長さ、タイミングが揺らぐため、そのことが音楽的にメリットにもデメリットにもなります。その適材適所の選択をするのも作曲家の仕事です。 それでは、さまざまなパラメーターの出現確率をランダムに選択するパッチ「TotalRandom」で生成される音を聴いてみましょう。新ウィーン楽派の時代に作曲家が目指した、特定の音に中心性が無く、すべてが等価の究極の無重力な音楽はこのような響きになるのではないでしょうか? 人間よりも機械が得意な作曲表現の一つであり、ある意味では究極の到達点とも出発点とも言えるでしょう。偶然性を制御し理論を構築する
乱数は、そのままではランダムな数字をただ吐き出すだけですが、確率の考え方を使うことでこれを制御して、乱数に重みを付けることができます。2つ目のパッチ「RandomComposition」のように[itable]を使うと、そのテーブルの分布での乱数生成を行うことが可能です。高い値の出現頻度を上げたり、中央付近の出現頻度を下げたりすることで、さまざまな作曲や音響合成のアイディアにも応用できます。 ある値を別の特定の値にマッピングする方法も乱数を制御するには有効です。3つ目のパッチ「DrunkMelody」内のサブパッチ「sub_DiatonicSet」のように、乱数が吐き出す値をダイアトニック音階のMIDIノート・ナンバーに強制的にマッピングすることで、ダイアトニック音階から外れないメロディの生成が可能になります。このパッチでは[drunk]を使い、過度な音の跳躍が生じないよう制御しました。 確率を使ったアプローチに、前後の数値の関係性から出現頻度をコントロールする“マルコフ連鎖”と呼ばれるものがあります。連続する事象を確率過程で説明できる音楽理論も多く存在しており、例えば和声法や対位法などもその代表です。4つ目のパッチ「TonalHarmony」では、古典的な藝大和声の様式に基づくコード進行のルールを[prob]を使って記述しました。和音構成を変えるだけでも、古典派和声とは全く違った進行の様式を作り出すことができます。メッセージ・ボックスの数字を差し替えるだけで音楽は変わっていきますが、これも立派な作曲。五線譜とペンを使っているだけでは到達できない様式のデザインを考えることが重要です。理論的な仮説を立てて音を聴きながらプログラミングを進めていけることは、Maxを使って作曲をする大きな利点の一つだと思います。 絶対に禁則を犯さないのが機械の作曲です。メリット/デメリットはありますが、作曲のプロセスにおいては人間の頭を使った計算だけでなく、機械計算のほうが得意な場面があります。これはプロセスの話で、最終的にアプトプットされる音楽が人間的なのか、機械的なのかという話とはまた別の次元の話です。人間らしい音楽を生み出したい場合でも、機械的な計算が有効な場面は多々あります。 § 生成的作曲のアプローチはレジャレン・ヒラーのイリアック組曲に始まり、1950年代からさまざまな実験が試みられています。しかし、その学術資産を応用し、音符レベルだけでなく波形レベルからどのようにアルゴリズミックに音楽を生成していくのか……。そこにはまだまだ未知の領域が広がっているのです。読者の皆さんから独創的な発想が生まれることを期待しています。松本昭彦


モンスターストライク リミックスで目指す次世代クリエイター 【第4回】選ばれし9組のサウンド・クリエイター
モンスターストライクとは?

vol.1結果発表
武田真治賞
IRIEWEBさん
Judge's Comment 「せっかくの素敵なアレンジでもサックスがトラックから浮いてしまっていると感じた作品も多かった中、サックスそのもののイコライジングやエフェクト処理が一番凝っていると感じました。僕が聴かせていただいた中で唯一のレゲエ調なのも強く印象に残った理由かもしれません。僕のサックス素材を常に念頭において作品を作り上げてくださったと感じました」 [次点] ミヤジマユースケさん、千石伊織さん五十嵐公太賞
pixieさん
Judge's Comment 「ミュージカル・タッチで変化に富んでおり、場面ごとにいろいろなイメージが広がります。聴いていてとても楽しい。ドラム素材も自然に使われていてうれしいです」 [次点] blowfishman350さん、Daizo MoriさんDÉ DÉ MOUSE賞
KUVIZM & uyuniさん
Judge's Comment 「ムーディなジャズ調と思いきや驚きのシティ・ポップ調ラップ・ボーカル。リリックもモンストを連想するキーワードが散りばめてあり、シンプルだけど1分半という長さでベストです」 [次点] PinotFGさん、Blacklolita & Avansさん近谷直之賞
Blacklolita & Avansさん
Judge's Comment 「攻撃的かつしなやかで作り手の音楽との向き合い方がとても分かる作品。音は多いが無駄無く整理されているように感じた。コード感やサックスのフレーズのエディット、出てくる具合も絶妙。最初のSEとラストのサックスの終わらせ方も映像が浮かぶような流れでとても洗練されている」 [次点] たにぐちじゅりあんさん、Flag Flagさん桑原理一郎賞
PinotFGさん
Judge's Comment 「さまざまなアプローチがある中で、この素材からこの曲想に至る発想がとても新鮮でした。軽やかな曲調と洒脱なコード・ワーク、何より始まりから終わりに至る丁度良い尺感で、飽きず、だれず、物足りなくもなく、変化に富んでいる構成の巧みさがとても印象的でした。詰め込み過ぎず、必要最小限に印象的にまとめたバランス感覚の良さで決めました」 [次点] pixieさん、z-oneさんXFLAG SOUND CREATORS賞
PinotFGさん
Judge's Comment 「仕事柄これまでたくさんのモンストのBGMやアレンジを耳にしてきましたが、今まで無かったファンタジーの世界にモンストを取り込み壮大に作り込まれ、しかも巧みに拍子を変えてきており、感動しきりでした! まさにユーザー・サプライズです! やられました!(XFLAG SOUND統括リーダー/高津戸勇紀)」 [次点] Takuya Wadaさん、echo ghost noiseさんフェイス賞
新井貫玄さん
Judge's Comment 「ビート素材のR&B要素を汲み取って格好良く仕上げています。最初はストレートなジェームス・ブラウン風かと思わせつつ原曲の実は難解なメロディを破綻無く組み立てるコード・センスも相まって、最後まで聴き入ってしまいました。(サウンド・プロデューサー/吉村祐)」 [次点] Blacklolita & Avansさん、安芸章太郎さんBARKS賞
Burn in the edgesさん
Judge's Comment 「明らかにギタリストによる作品。現在格好良いと思っていることを自分のセンスで徹底的に詰め込むんだという、その精神性に惚れました。音楽の基本ってそれだと思います。アニメ映画主題歌みたいでワクワクします。(編集長/烏丸哲也)」 [次点] Blacklolita & Avansさん、pixieさん日本コロムビア賞
Kiyoxさん
Judge's Comment 「静と動。哀愁を帯びたストリングスとEDMサウンドのコントラストが良い。夕暮れ時の野外フェスで爆音で聴きたい。(プロデューサー/向山豊)」 [次点] KUVIZM & uyuniさん、Tokiさんsleepfreaks賞
Blacklolita & Avansさん
Judge's Comment 「今風のサウンドにノリが良く気持ちの良いビートが印象的な作品です。リズムのすき間の使い方や、SEの取り入れ方が絶妙なだけではなく、構成もしっかりと組まれているため、何度も聴けてしまう魅力があります。ミキシングを含めたトラック・バランスのセンスも良いです。(代表取締役/金谷樹)」 [次点] Taiyo Kyさん、Youslessさんヤマハミュージックジャパン賞
Tokiさん
Judge's Comment 「イントロやアウトロで使われる印象的なシンセ・リフ、リード・シンセとサックスの掛け合い、さりげないギターのカッティングや、間奏のエレピ・ソロからサックス・ソロで盛り上げるところなど飽きさせない構成で、サウンドやミックス・バランスも良く何度でも聴くことができました。(スタインバーグマーケティングチーム)」 [次点] たにぐちじゅりあんさん、Youslessさんサウンド&レコーデイング・マガジン賞
Blacklolita & Avansさん
Judge's Comment 「武田真治さんの吹くメロディをうまくカットアップして、そのすき間にシンセをはめ込み、“強い音色の掛け算”に成功。リズムとメロディのユニゾンの縦線がそろっていることがビートの押し出し感につながっています。(副編集長/松本伊織)」 [次点] 池尻喜子さん、Tokiさん『B.B.Q. with SOUND CREATORS vol.1』

【XFLAG公式】リミックスコンテスト vol.2応募受付開始!!
「超絶 咎 ボスBGM XFLAG SYMPHONY 2018 ver.」をリミックス
XFLAGが幕張メッセで行ったリアル・イベント“XFLAG PARK2018”。その中のステージ“XFLAG SYMPHONY”で演奏された楽曲「超絶 咎 ボスBGM XFLAG SYMPHONY 2018 ver.」が今回の課題曲だ。矢内景子(SHADOW OF LAFFANDOR)のボーカル・メロディを必ず使って、リミックスを行うことが条件。リミックス音源を特設サイトにアップロード
応募作品は24ビット/44.1kHz以上のWAV形式で、下記URLからアップロードする。素材のダウンロードやお手本リミックス音源、そのほか詳細な情報、もこちらに掲載されているので参照してほしい。優秀作品は日本コロムビアよりデジタル配信
REMIX JUDGES(審査員)それぞれが選んだ優秀作品は、日本コロムビアよりコンピレーション・アルバムとしてデジタル配信される。さらに、REMIX JUDGESと受賞者でのミーティング・イベントも開催予定。vol.2のゲスト・リミキサーはこの2組
HΛL
[caption id="attachment_78637" align="alignnone" width="351"]![[Profile] 作曲/編曲/サウンド・プロデュース/アーティスト・コーディネート/ライブ・コーディネートなどを行う梅崎俊春のソロ・プロジェクト。これまで手掛けたアーティストに浜崎あゆみ、近藤真彦、Kinki Kids、タッキー&翼、Janne Da Arc、鈴木亜美、上戸彩、伊藤由奈など多数。](http://rittor-music.jp/sound/wp-content/uploads/sites/7/2019/03/Image-from-iOS-351x470.jpg)
予想を上回る奇抜なアレンジを待っています!
「2017年春に“MONSTER STRIKE SYMPHONY 〜Prelude〜”を観せていただいたことをきっかけに、XFLAGと出会いました。今回リミックスコンテストvol.2ということで、僕たちの予想を遥かに上回る奇抜なアレンジを待っています!」SHADOW OF LAFFANDOR
[caption id="attachment_78638" align="alignnone" width="650"]![[Profile] “音で紡ぐファンタジー作品”と題した、音楽とストーリーが融合する新しい形のエンターテイメント・ファンタジー作品。原作/作詞/作曲を矢内景子(写真左)、サウンド・プロデュースを近谷直之(同右)が務める。音楽でロールプレイング・ゲームを感じることのできる新感覚アーティストとして話題を集めている。](http://rittor-music.jp/sound/wp-content/uploads/sites/7/2019/03/%E3%83%A9%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3-650x433.jpg)
枠にとらわれない自由な音楽を楽しみにしています
「2017年のモンスト4周年記念“MONSTER STRIKE SYMPHONY”のサウンド・プロデュースから始まり、“モンスターストライク ウインド・オーケストラコンサート”やXFLAG PARK2018の“XFLAG SYMPHONY 〜PARK SELECTION〜”まで、XFLAGと共にたくさんの音楽を作ってきました。常に挑戦を続けるXFLAGの新しい取り組みに、こうしてかかわることができてうれしく思います。枠にとらわれない、自分自身が格好良いと思える自由な音楽を楽しみにしています」応募締め切りは5月13日(月)11:59まで
特設サイト:https://xflag.com/sound-creators/remix-contest-vol2/
サウンド&レコーディング・マガジン 2019年5月号より転載 [amazonjs asin="B07P9MR83T" locale="JP" title="Sound & Recording Magazine (サウンド アンド レコーディング マガジン) 2019年 5月号 雑誌"]Gonnoが使う Studio One 第3回
第3回 デフォルトの機能からアドオンまで 奥深き“S1ミックス”の世界
サンレコ読者の皆様、こんにちは! 僕は年末にインドでのツアーを無事に終え、帰国してからは矢継ぎ早にイベントでのDJをこなしておりました。毎年ではありますが、さすがに疲れたな……。さて今回は、その疲れからも復帰したところで、PRESONUS Studio One(以下S1)でのミックス・ダウンについて、前回の続きを解説したいと思います。
アドオンのミックスFX=CTC-1で より多彩なコンソール感をゲット
前回と同様に、実際にS1でミックスしてリリースした楽曲GONNO × MASUMURA「In Circles」を題材に話を進めましょう。この曲では、連載初回“レコードのデジタイズ術”で紹介したS1標準装備のコンソール・シミュレーター・プラグインConsole Shaperを使用しています。Console Shaperは“Mix Engine FX”(ミックスFX)と定義されるエフェクトで、バスに立ち上げる仕様です。「In Circles」ではドラムやシンセのミックス・バスに使い、個々にパラメーターを設定した方が良い結果を得られたため、マスターには用いませんでした。そしてこのミックスFX、デフォルトではConsole Shaperしか装備されていないのですが、ほかのものがアドオンとして発売されています。その一つ、CTC-1ではチューブ系など3種類のコンソール・モデルを選べるのだとか……欲しい。 [caption id="attachment_78451" align="alignnone" width="600"]


ミックスFXのかかる先を変えられる “パススルー”という機能
ミックスFXを夢中でいじっていると、プラグイン画面上部の“パススルー”というボタンが気になり出すかと思います。このパススルー、地味に見えて実は効果の大きい機能なのです。例えばマルチトラックを扱うとき、ドラムの各パーツやキーボード類などを属性ごとにまとめたサブバスを作り、それをマスター・バスに送ることが多いと思います。そのマスター・バスにミックスFXを立ち上げパススルーをオフにすると、ミックスFXはマスターに接続された全信号のサミング結果に対してかかります。ドラム・パーツのサミングやキーボード類のサミングにかかるわけですね。 [caption id="attachment_78455" align="alignnone" width="500"]
レイヤー時の位相合わせに便利な トラックのディレイ機能
ミックスFXよりも圧倒的に地味な存在ですが、各トラックの発音タイミングを微妙にズラせる“ディレイ機能”も、僕にとって非常に重要です。「In Circles」ではキックの超低域を増やしたかったため、キック・トラックをコピーしてローパス・フィルターをかけ、低域に寄った成分を作ってオリジナルに重ねています。キックに低域の素材を足す際は、音量はもちろんですが、タイミングを調整して位相を合わせることがとても重要。ですので、トラックごとタイミングを調整できるディレイがあるのは非常にありがたいです。 [caption id="attachment_78456" align="alignnone" width="340"]


キーボード・ミキサーのRADIAL KL-8が登場
ラインアレイ・スピーカーのNEXO Geo M12が4月に発売
SE ELECTRONICSのSHURE製ワイアレス・マイク対応交換カプセル
【第18話】つまみちゃん〜兄がこんなの買えるわけがない〜


「MACKIE. MC-150 / MC-250」製品レビュー:50mmの大型トランスデューサーを搭載したヘッドフォン・シリーズ
制作やリスニングに使えるMC-150 よりプロ用途に向いた設計のMC-250
両モデル共に高精度50mmトランスデューサーを搭載し、スタジオ・モニタリングなどでの使用はもちろん、リスニング用ヘッドフォンとして移動中にも臨場感のある音を再生可能。また、人間工学に基づいてデザインされたイア・パッド、ヘッド・バンドが採用され、長時間のリスニングでもストレス無く装着できる設計です。 MC-150はDJやミュージシャンのモニタリングやポータブル・オーディオ用途向けとして、MC-250はより正確なリスニングが必要なプロフェッショナル用途としてレコーディング、ライブでのミキシング向きに設計されています。低価格ながらプロフェッショナルなサウンドを実現し、コスト・パフォーマンスに優れた製品です。 見た目は、同社のスピーカーなどに共通するいわゆるMACKIE.らしいデザインです。MC-150、MC-250共に一見したところ違いはなさそうなのですが、細かく見てみるとMC-250はヘッド・ピースのロゴの部分が四角にくぼんだデザインになっており、見分けがつくようになっています。ケーブルは着脱式で、ヘッドフォン側はバヨネット式コネクターなのでひねって簡単に着脱可能。3mのストレート・タイプのケーブルが付属し、キャリー・バックも付属しているのがありがたいですね。持ち運びに別途ケースを用意しなくて大丈夫です。 実際に着けてみたところ、装着感はとても良いです。イア・パッドが程良く耳を包み込んでいて、高い遮音性ながら、圧迫感はそれほどありません。イア・パッドのクッション性が優れていて、締め付けられて耳が痛いといったことも無いです。これなら長時間の作業でもストレスが少なく済みそうですね。また密閉性も高いので、大音量の中で正確なモニタリングの必要なライブPAでも十分使えるでしょう。装着感に関してはMC-150、MC-250共にほぼ同じでした。音の定位感や分離感が良く リバーブを含めた奥行きもしっかりと再現
では気になる音質をチェックしていきます。できるだけいろいろな種類のソースで聴き比べてみましょう。最初にダフト・パンクのアルバム『ランダム・アクセス・メモリーズ』をMC-150で試聴。音が出た瞬間、低域の存在感に驚きました。キックとベースがしっかり前に出ていて、重厚なサウンドです。高域成分もちゃんと出ていますが、何といっても低域の質感が良いと感じました。DJやエレクトロニック系のミュージシャンなど、低域重視の方にはお薦めです。 MC-250でも試聴しました。タイトで切れの良いサウンドで、低域から高域までフラットにバランス良く出ている印象です。高域の解像度が非常に高く、シンバルやハイハットの細かいニュアンスもしっかり再生されています。リファレンス・モニターとしても十分な音質だと感じました。 次にピアノ曲、ドビュッシーの「月の光」を試聴。MC-150はとても心地良く、良い意味で“聴き流せる”サウンドだと感じました。ピアノの高域のタッチもキツく感じず、移動中や少し落ち着きたい休憩中など、BGMとして音楽を聴くのにとても相性が良いと思います。このまま眠ってしまいたい衝動にかられました。それに対してMC-250のサウンドは演奏のタッチや強弱がち密に聴こえてきて、一つ一つの音が立ち上がり、演奏の間に意識が研ぎ澄まされ、集中と緊張が高まっていく……音楽に没頭していくような感覚になります。音源を正確に再生しているからこそ、こういう感覚になるのでしょう。繊細な音楽も非常に高いレベルで再現していると感じました。再生するヘッドフォンによって音楽の印象はこんなにも変わるんだということをあらためて認識させられます。 もう1曲、スライ&ザ・ファミリー・ストーンのアルバム『ダンス・トゥ・ザ・ミュージック』を試聴。古い作品なので、普通のリスニング環境で現代の曲と比べると、低域が少し物足りない感じがするはずですが、MC-150で聴くと全くそういった印象は無く、ちょうど良い低域の質感で再生されます。このアルバムは音像定位も特殊で、ホーン・セクションとドラムが左に、ギターやシンセなどのメロディが右に、ボーカルとベースがセンターに位置しているのですが、その音の定位感や分離感がとても良い印象でした。MC-250は、より左右の音像の広がりが増し、リバーブを含めた奥行きまでしっかりと再現。全帯域においてバランスが良く、やはり再現性が高いと感じます。曲の編集ポイントまで気になってしまいますね。 かれこれ3時間ほどMCシリーズのヘッドフォンを着けながら原稿を書いていましたが、耳が痛くなるなどのストレスは感じませんでした。サウンドのクオリティが非常に高く、装着性に優れたコスト・パフォーマンスの素晴らしいヘッドフォン・シリーズだと思います。 [caption id="attachment_78507" align="alignnone" width="300"]

「GRACE DESIGN M801MK2」製品レビュー:リボン・マイク・モードを備えパラレル出力に対応する8chマイクプリ
2dBのステップ・ゲインを採用 入力インピーダンスの切り替えが可能
M801MK2は、基本的に非常にシンプルなモデルです。入出力端子はマイク・インプット(XLR)とライン・アウトプット(XLR)、パラレル・ライン・アウトプット(XLR)がそれぞれ8系統。パラレル出力によってさまざまな状況に対応できるのは、非常にありがたいです。 操作子はゲインのつまみ、48Vファンタム電源、フェイズ、PAD(−20dB)、リボン・マイク・モードのRBNスイッチを装備。これらが8ch分用意されていて、ピーク・インジケーターも備わっています。 [caption id="attachment_78519" align="alignnone" width="650"]
全帯域にわたって素直なサウンド スピード感のあるリボン・マイク・モード
さて、実際に現場で使用してみましょう。第一印象はビジュアルも含め、価格以上にしっかりした作りだと言うこと。操作性の良いつまみとスイッチ、そして分かりやすいパネルの表示が好印象です。 まずコンデンサー・マイクのNEUMANN U87Iでボーカルの収音を試みます。NEVE 1073と比較しても、そん色の無いしっかりとしたサウンドです。サウンドは1073のような色付けが無く、既発モデルのように素直で原音忠実なイメージ。楽器でもチェックしたところ、全帯域にわたって癖のない素直なサウンドになっています。 次は弊社スタジオ・サウンド・ダリにあるリボン・マイクのRCA 77DXでテスト。こちらもボーカルに使用して、通常モードとリボン・マイク・モードの違いを検証していきます。これは驚きで、誰もが聴いても分かるくらいはっきりとした違いがありました。リボン・マイク・モードは周波数レンジが広く、透明感やスピード感が断然優れています。楽器による違いなどの細かい話ではなく、素晴らしいの一言です。 ほかにも44BXやROYER LABS R-121、SAMAR AUDIO DESIGN VL37などのリボン・マイクでもチェックしたところ、同様の結果でした。そしてビンテージのリボン・マイクの方が違いが顕著に表れるようで、リボン・マイクならではのブーミーな低域が減り、低域自体の実像がはっきり伝わってきます。高域はハイエンドが伸びて透明感が増す印象です。 アコギでもチェックしましょう。弾く瞬間のピックが弦に当たる音の存在感とスピード感が、非常にナチュラルに感じます。ダイナミック・マイクでもリボン・マイク・モードを試してみました。リボン・マイクほどではありませんが、スピード感とエネルギー量が増すように感じられました。 1950年代のマイクが今になって本領発揮できるとは、うれしいやら情けないやら……。リボン・マイクに目を向けて製品を開発しているGRACE DESIGNに感謝します。 [caption id="attachment_78518" align="alignnone" width="650"]
「JTS CM-8085」製品レビュー:快適な装着感を追求したヘッドセット無指向性コンデンサー・マイク
最良の収音位置を探れるグース・ネック ヘッド・バンドに柔らかいワイアーを採用
まずはスペックから見ていこう。周波数特性は50Hz〜18kHz。インピーダンスは1.8kΩで、最大音圧レベルは130dB SPLとなっている。マイクとヘッド・バンドは別になっていて、ヘッド・バンドの左右どちらかにマイクを装着できる。XLRミニ(4ピン)端子のケーブルが付属しており、こちらもマイクから取り外し可能。別売りの変換アダプター同社MA-500を使用すれば、XLRミニ(4ピン)端子から通常のXLR端子に変換できるため、ワイアレスでの使用だけではなくワイアードでの使用にも対応している。ちなみに既発モデルのケーブルとは互換性が無いため注意しよう。 [caption id="attachment_78530" align="alignnone" width="300"]


カラッとしたクリアな音色 ハウリング・マージンを稼ぎやすい
実際にナレーターに装着してもらったところ、ちょうど良いサイズ感だった。マイクとケーブルが分かれているのはとても便利で、衣服の中にケーブルを通す作業をスムーズに行える。ケーブル・ホルダーがワイアーに付いているおかげで、ケーブルを後頭部中央からまっすぐ下に垂らせた。マイクはあごくらいの位置まで調節できるので、それほど目立たない。 装着後にマイク・スタンドに立てたSHURE SM58とサウンドを比較。音量感はまるでそん色が無かった。SM58の方が音の太さはあるが、一方CM-8085はカラッとした音色で、クリアさで言えばこちらに軍配が上がる。 次に歩き回りながら、原稿を読んでもらった。500Hzと8kHz辺りにピークがあるように感じたが、無指向性にもかかわらずハウリング・マージンがかなり稼げることが判明。環境にもよると思うが、ピン・マイクと比べたら圧倒的な差である。 ピン・マイクはどうしても口元との距離が生まれてしまうので、高い音圧の中での使用は難しいところがある。それがヘッドセット・マイクだと口元にマイクをセットできるためハウリング・マージンが稼げる、というわけだ。この後何人かに装着してもらったのだが、全員が口元までマイクが届き、かつ圧迫感が無かったのは特筆すべきポイントであろう。 CM-8085は装着感が良く着脱が楽なので、ピン・マイクの代わりに使えるかもしれない。衣服を選ばないことも利点の一つだ。両手を使う必要がある場面でハンド・マイクから急にピン・マイクになると音圧が変わるのでPAは難しくなるが、ヘッドセット・マイクにすることでだいぶ解消される。今回はテストしていないが、単一指向性タイプのCM-808ULもある。こちらでさらにハウリング・マージンが稼げるとしたら、バンドなどでの使用も十分に可能だと思った。 プレゼンテーションなどでは両手をフリーにして話したいシーンやマイクを持ち歩きたいシーンなど、さまざまな状況がある。ヘッドセット・マイクだけだとマイクから離れられないので、例えば水を飲むときなどは不便だ。なのでスタンドに立てた有線のマイクと併用して、歩き回るときだけ生かすと使いやすくなる。話し手が手元でマイクを切り替えられるシステムを導入すれば、さらに話しやすくなるだろう。一方、話すことに夢中になってマイクから離れてしまう人も中にはいる。ヘッドセット・マイクがあればそのような場合でもPA側でのフォローが楽になる。 付け心地が良くコスト・パフォーマンスに優れているので、ミュージカルなど多数必要になる場合の選択肢にも入るだろう。また、エアロビクスのインストラクターなどには必須のヘッド・セット・マイクだが、圧迫感の無い大きなイア・フックを採用したCM-8085はストレスが減るように思う。 (サウンド&レコーディング・マガジン 2019年4月号より)LYNX STUDIO TECHNOLOGY Aurora(n)のAVID Pro Tools|HD用拡張ボードがリニューアル
1列6口の電源タップFURMAN SS-6が復活
UVIの鍵盤楽器ライブラリーKey Suite Acousticが発売
「OVERLOUD Comp670」製品レビュー:往年の名機を再現し独自機能を追加したコンプレッサー・プラグイン
コンプレッション・カーブを調整可能 ひずみ成分を加える独自のHARMノブ
Comp670はMac/Windowsに対応し、AAX Native/AU/VSTとして動作するエフェクト・プラグインで、スタンドアローンでも使用可能です。実機の670は発売以来、今日まで長年使用されている真空管コンプレッサーで、それぞれサウンドに個体差があります。今回OVERLOUDは、Comp670を開発するにあたってロンドン、ロサンゼルス、ミラノのスタジオにある3つの670をセレクトし、第4世代DSPテクノロジーを使ってリアルにエミュレーションしているとのこと。これら3つのサウンド・キャラクターは、画面上段の左端に位置するSTUDIOノブで簡単に切り替えることが可能です。 [caption id="attachment_78543" align="alignnone" width="404"]

ナロー・レンジなロンドンや張りのあるLA サチュレーション豊かなミラノ
670をモデリングしたプラグインは数多くのメーカーから発売されていますが、Comp670の音はどうでしょうか。まずはマスターに挿し、フラットなセッティングで音を聴いてみましょう。STUDIOノブでロンドン、ロサンゼルス、ミラノとサウンド・キャラクターを切り替えていきます。恐らくモデルにした実機を忠実に再現しているのでしょうか、ロンドンでは入出力のレベルに差はありませんが、ロサンゼルスでは+1.5dB、ミラノでは+1dBレベルに違いがありました。ですので、それぞれのレベルを調整して3つのモデルを聴き比べてみました。 ロンドンはナロー・レンジに聴こえ、いかにもUKという印象。ロサンゼルスは低域と高域に張りがあり、ワイド・レンジで前に来るサウンドです。最後のミラノは、説明書によると3つの中で最も修理回数が多く、オリジナルではないパーツを使用した670がモデリングされているとのこと。そのため3モデルの中で一番サチュレーションを含んだサウンドとなっています。それぞれキャラクターが豊かなため、音色を使い分けるのがかなり楽しいと感じました! 信号をコンプレッションすると、その特徴はさらに強調されていくのですが、忘れてはいけないのがHARMノブの存在。ノブが0の位置でも、かなりひずみ成分が足されていることが、メーターでも確認できました。ここがほかの670系モデリング・プラグインと違う、最大の特徴だと言えるでしょう。 プリセットも試してみました。全体的にComp670の特徴をよく引き出している非常にいいプリセットが並んでいると思います。特に気に入ったのは、パラレル・コンプレッションをうまく使ったセッティングです。信号入力を最大にし、内部回路とトランスに過大入力することによってドライブ感を生み出しているのですが、ドライブ感は信号入力の突っ込み具合とPARALLELノブを使ったドライ/ウェットの混ぜ具合で調整するというもの。これを実機で再現しようとすると複雑なルーティングを組まなければなりませんが、Comp670なら一瞬で実現可能なのです。 先述したように、Comp670の最大の特徴はひずみを加えるHARMノブ。私は670のモデリング・プラグインを何種類か持っていますが、どのプラグインも“最高の状態の670を再現”といううたい文句が多かったと思います。しかしこのComp670は、3つのモデルを1つのプラグインに搭載するという新しいアイディア。それにより幅広い音作りが可能となっています。非常に気に入ったので、あるプロジェクトで使用していた670系のプラグインを、すべてComp670に置き換えてしまいました。 (サウンド&レコーディング・マガジン 2019年4月号より)高橋健太郎〜音のプロが使い始めたECLIPSE TDシリーズ
TD510MK2はどんな音源もフラットに再生する
タイムドメイン理論に基づき設計されたECLIPSEのスピーカー、TDシリーズ。2001年に最初のモデルがリリースされるやいなや、ミックスやマスタリングなど正確な音の再現が要求される現場で高い評価を獲得。その後ラインナップが拡充され、現在は12cmのユニットを使用したハイエンド・モデルのTD712Z MK2から、10cmのTD510MK2、8cmの508MK3、6.5cmのTD307MK2A、さらにはアンプや24ビット/192kHz対応のDAコンバーターを内蔵したほか、USB接続やAirPlayにも対応した小型モデルTD-M1まで多種多様。そんなECLIPSE TDシリーズの魅力をトップ・プロに語っていただくこのコーナー、今回登場していただくのは高橋健太郎氏だ。本誌人気連載「History of Sound & Recording~音楽と録音の歴史ものがたり~」の筆者であり、豊富な知識をベースとした音楽評論を展開する傍ら、ミュージシャン、エンジニア、プロデューサーとしても活躍している。そんな氏が自宅でTD510MK2を愛用しているとの情報をキャッチしたので、早速訪ねてみることにした
この記事はサウンド&レコーディング・マガジン2019年5月号から編集・転載したものです。バスレフなのに密閉型のような音がする
高橋氏は自宅近くにプライベート・スタジオを構え、そこではモニターにATC SCM10を使用している。一方、執筆作業は自宅の一室で行っており、そこに置かれるスピーカーは、実にさまざまな変遷があったそうだ。「ROGERS LS3/5AやATC SCM10だったこともあるし、KRKやALR JORDAN、さらにはFOCALのユニットを使った自作スピーカーなど、いろいろなものを使ってきました。ECLIPSEのスピーカーについては、佐久間正英さんのdoghouse studioやオノセイゲンさんのsaidera masteringで聴く機会があって、それでTD307MK2Aを買ってみたんです。最初に自宅のリビングに置いてみたら、マスタリングのチェックができるというか、音源に何かいけないところがあるとすぐに分かった。ローは出ないスピーカーのはずなんだけど、ちょっと重苦しいなと感覚的につかめたりもする。あと、奥が見えるのも気に入りました。BECK『モーニング・フェイズ』のリバーブが奥まで見えたスピーカーは、僕のところではTD307MK2Aだけでしたね」
このように高橋氏のお気に召したTD307MK2Aは、執筆部屋用スピーカーへと格上げされることになる。ただ、低域の不足は否めなかったため、FOSTEXのサブウーファーPM Subminiを加えていたそうだ。「本当に薄く足すくらいでしたけどね。でも、やっぱりもっと低域が欲しいなと思っていたときにTD508MK3とTD510MK2を試聴する機会があって、TD510MK2がすごく気に入ったんです。ハイもローもあんなに出るとは思っていなくて、音色的にもナチュラルで申し分なかった。ということで仕事部屋用のスピーカー変遷は終わり。もう満足というか、TD510MK2以外の選択はないですね」
そのような結果となったのは高橋氏自身にとっても驚きだった。というのもこれまでは密閉型のスピーカーが好みで、バスレフはまったく眼中に無かったからだ。「“バスレフなだけで駄目!”みたいな人間だったんです。遅れて来る付帯音が嫌いなんですね。でも、ECLIPSEのスピーカーってバスレフなのに密閉型的な音がするというか、ディケイが長くなることがない。かつ密閉型の欠点である最初のアタックが来ない感じがTD510MK2だとちゃんと来る。TD510MK2のバスレフは低音を出すためというより圧を抜いているだけで、なるべく音を出さないようにしている感じがしますね」
フルレンジだから空間や定位が見えやすい
執筆部屋での“最終形”となったTD510MK2だが、スタジオでは先述のATC SCM10を使い続けている。モニター用とリスニング用とでスピーカーに求められるものは違う、とはよく耳にする話だが、高橋氏はどう考えているのだろうか?「SCM10はモニターとして使い倒すのには本当にいいスピーカーです。だけど、書き物の仕事部屋ではさまざまな音源を一日中聴き続けることもあるので、SCM10だとちょっと疲れるというか、自分の集中によって聴こえ方が違ってしまう。以前使っていたLS3/5Aはモニター的な音でありつつ疲れないからすごく好きだったんだけど、ソースによって鳴り方が違い過ぎる……特に現代の速い低音には向いていないから、クラブ・ミュージック以降の音楽には使えなくなったんです。その点、TD510MK2はどんな音源でもすごくフラットで、向き不向きも無い。常にニュートラルで、集中しても聴けるし、だらっとしても聴けるというか、自分にかかる負担が少ないのがいいですね」
TD510MK2がリスニングだけではなく、モニターとしての役割も果たしていることを高橋氏は最後に強調する。「スタジオでSCM10で作業して、それをTD510MK2で聴き直すという工程は重要です。TD510MK2はフルレンジだから空間や定位が見えやすく、“あっ、余計な作業をやっているな”というのが分かるんですね。本当にいいスピーカーだと思います」
【PROFILE】音楽評論家として1970年代から健筆を奮う。著書に『ポップ・ミュージックのゆくえ』、『スタジオの音が聴こえる』(DU BOOKS)、小説『ヘッドフォン・ガール』(アルテスパブリッシング)。音楽制作者としても活躍しており、インディー・レーベルMEMORY LABを主宰し、プロデュースやエンジニアリングを多数手掛ける。また音楽配信サイトOTOTOYの創設メンバー/プロデューサーという一面も。TD510MK2

「AUDIOSOURCERE Demix Pro」製品レビュー:定位ベースのアルゴリズムで2ミックスを分解できる音声分離ソフト
クラウド経由で自動分離 残った成分は手動で摘出できる
Demix Proは、分離処理の解析作業をクラウド・サーバー上で行っている。高スペックのコンピューターを所有していなくても、最新の分離アルゴリズムを利用できるというわけだ。そのため、クラウド・サーバーとインターネットを介してのデータ送受信のために、光回線やブロードバンド回線への常時接続が必要とされる。 用意された分離タイプは“モジュール”と名付けられており、Vocals、Drums、Panの3種類に分けられる。 Vocalsモジュールではボーカルとコーラスのほか、リード楽器の抽出を行える。分離精度を向上させるために、定位や登場する頻度などを設定項目から指定する。歌のリバーブ成分だけを分離することも可能だ。 [caption id="attachment_78555" align="alignnone" width="650"]

音数の少ないロック・サウンドや ライブ・ミックスのかぶりに有効
実際にギターが左右に定位するバンドの2ミックスを分離してみた。まずVocalsモジュールで歌と歌のリバーブを分離し、残ったトラックからDrumsモジュールでドラムを摘出。最後にPanモジュールで5分割を指定して、残ったトラックから左右のギターと中央のベースを自動で分離した。クラウドへのアップロードとダウンロードにそれなりの時間がかかるが、処理で待たされる感じは少なかったように思う。 もちろん100%正確に分離できるわけではないので、各トラックを単独で使用できるかは素材次第となるだろう。しかし、今回試したようなギターが左右に定位し中央の楽器が少ないロック・バンドでは、非常にうまく分離できた。分離した後でもフェーダーの位置を0dBに戻せば、分離前とほぼ同じ音質で再生されたのには驚いた。 自動分離では、Panモジュールの精度の高さが印象的であった。ボーカルとコーラスの分離はメロディ・ビューでも賄えるが、定位に30°程度の開きがあれば先にPanモジュールを試すべきだろう。 自動分離後にスペクトラル・ビューを用いて手動での分離を試みた。このときにCtrlキー(Macでは⌘)を押しながら選択ポイントをドラッグするとその部分が再生できるのは、非常に使いやすく感じた。取り除く成分も別のトラックとして残るので、必要になったら統合できる点も使い勝手が良い。 次は作業中のライブ・ミックス素材のケアにも使ってみた。用意したのは、モニター・スピーカーからの返しを多く拾っているコーラス・パート。処理してみた結果、見事に大半のかぶりをカットできた。そのおかげで、その後のピッチ補正の検出漏れが皆無であった。特筆すべきはオケに混ぜた段階の位相の良さ。通常のようにEQで大幅に低域をカットするより、Demix Proで処理する方がずっと良い結果が得られた。ただ少々欠けてしまう部分が出てくるのは避けられないので、そのまま使うのではなく部分的に適用していくとよいだろう。 なお、処理後に書き出したファイルにもタイム・スタンプが残る仕様になっているので、ライブ音源のような長尺でもいちいち波形で位置を確認する必要が無い。元のファイルと位相関係を比べてみたが、ジャストであった。 使用した音源では分離パラメーターがほぼデフォルトのままでも良い結果が得られたが、定位の指定は音源に応じて的確に行うべきだろう。Demix Proの自動分離機能だけを取り出したDemix Essentialsもラインナップされているが、Pro版にしかないPanモジュールと手動編集機能が大きな魅力なので、まずはPro版の試用をお薦めしたい。 (サウンド&レコーディング・マガジン 2019年4月号より)「ZYLIA Zylia Standard」製品レビュー:球体マイクと録音/トラック分離ソフトがセットになったパッケージ
マイク1本で360°レコーディング 後から楽器ごとにトラックの分離が可能
ZM-1は最高24ビット/48kHzでレコーディング可能なマルチチャンネル・レコーディング・マイクロフォン・アレイ。19個ものマイク・カプセルが、手の平に乗るほどコンパクトな筐体へ球面状に搭載されていて、マイク周囲360°のサウンドを録音することが可能です。自立できる足が付いているのでそのまま机の上に置くこともできますし、高さを調整したければカメラ用の三脚などに固定することもできます。録音準備はとてもシンプルで、USBでコンピューター(Mac/Windows/Linux)と接続するだけ。専用ソフトのZylia Studioを使用して、マルチチャンネル・レコーディングを行います。 Zylia Studioを使うことで、録音後のファイルを楽器ごとに分離できます。分離後のマルチトラックはZylia Studioでレベルやパンを調整できますし、DAWなどに読み込んで、さらに音を編集していくことも可能です。 まずは録音の下準備として、ZYLIAのWebサイトからZylia Studioと、ドライバーのZM-1 Driverをコンピューターヘダウンロード&インストール。ZM-1をUSBでコンピューターに接続すると、本体周囲のリング状インジケーターが青く点灯します。ZM-1はUSBバス・パワーで駆動するため、別途電源などは必要ありません。 次にZylia Studioを起動してレコーディング・セッションの準備をしましょう(インジケーターが赤く点灯します)。Zylia Studioの最初の画面には、これまで録音したセッション・データが並びます。新しいセッションを開始するには、左上にある“Start New Session”をクリック。キャリブレーション設定画面に移行します。“Automatic Calibration”をクリックすると、楽器のアイコンが並んだ画面が表示されるので、録音ソースとなる対象の楽器などを選択していきましょう。 [caption id="attachment_78579" align="alignnone" width="650"]
ワンクリックでトラックを分離 自動でレベルとパンが調整される
今回は、筆者が普段行っているフィールド・レコーディングや舞台公演のレコーディングの現場などでZM-1を試してみました。 [caption id="attachment_78569" align="alignnone" width="225"]


