日本のクリエイターが作るパッチはインターフェースがエレガント
千葉 昨日の「Max Conference in Japan」では、日本におけるMax 6の幅広い活用例が披露されましたが、いかがでしたか?
ジカレリ Maxには大きく分けて2つの使い方があると思います。一つはプロトタイピング。これはパッチ制作者がやりたいことをMax6でいかに実現するかというプロセスです。もう一つは少し進んで、プロフェッショナルなミュージシャンがいかに自分に適した音楽制作環境を作り上げるかという点。昨日のカンファレンスではその両側面を見ることができ、とても興味深かったです。
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▲2013年9月3日に昭和音楽大学で行われた「Max Conference in Japan」の模様。多数の女性を含むMaxユーザーが詰めかけ、各プレゼンターのセミナーに熱心に聞き入っていた。ジカレリ氏はGenによるコード・エクスポートのデモを、千葉氏は自作の“常軌を逸した”パッチを披露
千葉 ジカレリさんのデモでは、Gen(Max6の新機能アドオン、サンプル単位のDSP処理、C++言語コード書き出しを実現する)の編集結果が即座にVSTプラグインに反映されるのが驚きでした。昨日はホスト・アプリケーションにABLETON Liveを用いてデモを行っていましたが、あれはほかのDAWでも可能なのですか?
ジカレリ すべてのDAWでテストしたわけではありませんが、恐らく大丈夫なはずです。
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▲Genの“コード・エクスポート”機能を利用すると、Genで作成したDSP処理をC++言語コードとして書き出し、他の開発環境で利用できる。現行リリースではVST/Audio Unitsプラグインなどの開発向けに最適化されており、プロジェクト・テンプレートや概要のドキュメントが用意されている
千葉 近年のアップデートでは、まさにこのGenのように、どちらかと言えば開発者向けの機能も多く実装され、巨大なソフトになってきた感もあります。ビギナーには難解な印象を与えそうなのですが、そのあたりのバランスは意識しますか?
ジカレリ そうですね。Maxが難解過ぎるプログラムにならないよう、新機能のテストには、あまりMaxに習熟していない人に参加してもらうようにしています。ただし、その結果にはガッカリすることが多くて……“ユーザー・フレンドリー”という意味では、私たちがやるべきことはまだまだたくさんあると感じています(笑)。
千葉 日本でのカンファレンスに参加してみて、“独特だな”と感じたことはありましたか?
ジカレリ 特に印象的だったのは、いずれのパッチもルックスがエレガントだったことですね。例えばアメリカのMaxユーザーで、パッチの見た目にこだわる人はほとんどいません。その意味で、日本のユーザーは自分で使うことに加えて、“人に見てもらう”ことを意識してパッチを制作しているように感じました。これまでSound & Recording Magazineの連載に登場したパッチをWebで見ましたが、いずれもそんな感じでしたし。
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▲「Max6で作る自分専用パッチ」で紹介したクリエイターによるパッチは、
http://rdm.ne.jp/sound/magazine/max6にて試聴とダウンロードが可能
千葉 僕はその典型かもしれませんね……確かにインターフェースの見た目にこだわるのは、日本のユーザーに多い特徴なのかもしれないです。
ジカレリ あなたのパッチは、これまで目にしたものの中でも、音質も含めて最高のものの一つです。私たちがMaxを開発した際は、こうしたエレガントなパッチがたくさん作られることは予想していませんでした。自分の作ったプログラムから多様な表現が生まれているのを目の当たりにするのは、うれしいですね。
千葉 ありがとうございます。僕は自身をミュージシャンとエンジニア/プログラマーの中間にいるクリエイターだと考えています。とにかく凝り性なので、もしMax以外の環境……例えばC++言語を使って自分のやりたいことを実現しようとしたら、とてつもない手間と時間がかかってしまいます。つまり僕はMaxのおかげでこうしてアーティストとして活動できていると言えます。
ジカレリ それはうれしい言葉ですね。
Maxを使った音楽制作では“失敗”は意味をなさなくなる
千葉 話は少し変わって、Maxの魅力について。僕はリアルタイムのシンセシス・プロセッシングに対して、ある種の“世界の創造”というようなイメージを持っているんです。コンピューターの中でものすごい速さで計算が行われて、リアルタイムで世界が創造されているというような感覚です。Maxはそれを自由に操れるツールです。
ジカレリ 私も同じように感じることがありますよ。私は幼いころからピアノなどを習いましたが、残念ながら何一つ習熟することはできませんでした。そのうち即興演奏に傾倒していったのですが、そこはルールが無い……すなわち“失敗”も無い世界でした。Maxもそれと同じで、使用法にルールはありませんから、失敗を恐れることなく音楽制作に集中できるようになるのです。
千葉 僕も楽器は全然できません。でも、子供のころからコンピューターは得意で、Maxに出会ったおかげで音楽活動できています。本当に自由で楽しい小宇宙だと思います。
ジカレリ Maxの使い方を学ぶのは難しくなかったですか?
千葉 全然! スッと入っていけました。初めて使ったときは、“これは僕のために作られたソフトウェアだ”と感じたくらいです。当時はまだ日本語のMax解説本なども少ない状況でしたが、感覚的に使うことができました。まさにMaxの利点と言うか、本当にフィーリングで覚えて音楽制作に使えるようになりました。
ジカレリ 大抵のDAWは、曲を作ったらそれを修正したり再生することしかできません。Maxはそこから一歩進んで音を扱えますし、そのクリエイティブな作業自体を定義することもできます。DAWはメーカーが作ったツールですから、“音楽制作とはこうだ”と他人から定義されている状態とも言えます。一方Maxは、まずツールを作るというステップがあり、その自作ツールで音楽を作れる。このように、すべてのステップにおいて音楽制作をユーザー自身が定義できるところが、Maxの最もユニークな点だと思います。
パッチの広がりを背景としたサーバーのサービスを開始
千葉 先日、iPad用のMaxコントローラー・アプリMiraを発表しましたね。
ジカレリ Maxを制御するには、iPadを使う方が簡単だったのです。例えばDAW用に設計されたMIDIコントローラーでMaxをコントロールするには非常に手間がかかります。iPadをMaxのインターフェースとすることは、ユーザーにとって大きなメリットになると考えました。
千葉 iPadのどのようなところがコントローラーとして魅力的だったのでしょう?
ジカレリ まず内蔵のマイクやセンサーを使ってパッチのコントロールが行えますし、マルチタッチ・スクリーンを使ったクリエイションの可能性が広がると考えました。
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▲Max6をコントロールするためのAPPLE iPadアプリMira。“button”“toggle”“dial”“Slider”など24のオブジェクトをサポートし、mira.frameオブジェクトをパッチにドロップするだけで、その領域内の対応UIオブジェクトがMiraに表示され、iPadのタッチ・スクリーンを使ったMaxパッチの制御が可能になる
千葉 またMaxを語るとき、ユーザー・コミュニティの存在というのも欠かせませんね。昔からパッチのシェアが盛んで、ビギナーがMaxを学ぶ際も大きな助けになっています。
ジカレリ “自分が気に入っているものを人に教えたい”というのは、人間の本能です。SoundCloudなどが登場する前から、Maxユーザーはパッチをシェアしてきました。実はそうした背景を踏まえて、パッチをシェアするためのサーバー・サービスを2014年をめどに開始しようと考えています。また最近、私の息子がABLETON Liveの使い方を覚えるのに、マニュアルを読むのではなくYouTubeを見ていて、興味深く思いました。コミュニティ内でユーザー同士が“教え合う”ことで、単にパッチを共有する以上に創造的な状況が生まれるのではないかと考えています。
千葉 コンピューターを使った作品の“持続性”という面でも、Maxにはメリットがあるように思います。例えば現在、Mac OS X 10.8ではPowerPC用に作られたアプリケーションは動かせませんが、10年以上前に制作したMaxのパッチは最新のMax6でも動いたり。この後方互換性は今後も維持されていくのでしょうか?
ジカレリ 以前のバージョンで作ったパッチを今後も変わらず動かせるかというのは、難しい問題です。コンピューターの仕様は変わっていくものですから、私たちとしてはそれに合わせてMaxをバージョン・アップしていくのが最もシンプルなやり方だと考えています。その過程で動かなくなるパッチもあるかもしれません。ただ、現在Maxを使っているアーティストがこれからも安心して創作に打ち込めるよう、努力はするつもりです。バージョン・アップによって動かなくなったパッチがあれば、遠慮なく弊社に知らせてください。
千葉 僕が作るパッチは大きくて複雑なので、Max6にアップしたときも最初はうまく動きませんでした。しばらくしたら修正されて動くようになりましたが……今後はすぐレポートします! 僕は本当にMaxどっぷりなので、ジカレリさんには長生きしていただかないと困ります(笑)。
ジカレリ 長く仕事ができるよう、健康には気を遣っていますよ。秘けつは、一度の食事であまり量を食べ過ぎないことです(笑)。
デヴィッド・ジカレリ
【Profile】1989年よりMaxに取り組み、1997年にCYCLING '74を設立。現在もCEOを務める。スタンフォード大学ではヒアリングとスピーチ・サイエンスで博士号を取得
Katsuhiro Chiba
【Profile】電子音楽家。Max/MSPスペシャリスト。楽曲制作/ライブに用いるソフトから徹底して手掛けることで、独自のサウンドを追求する
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■ Max 6 + Gen
・パッケージ版:46,800円
・ダウンロード版:40,000円
■ Max 6
・パッケージ版:36,800円
・ダウンロード版:32,000円
■ Gen(Max 6用アドオン)
・8,000円
MI7 STOREでオーダー可能
問合せ:
エムアイセブンジャパン
http://www.mi7.co.jp/
※Max6を日本語表示させるための日本語化パッチをエムアイセブンジャパンのWebサイトで公開中