CARNHILL製のトランスを装備
ジャンパー・ピンで倍音を調節可能
まずはスペックを見ていこう。大きさは1Uハーフ・ラック・サイズ。2U分のスペースで4chそろえられるのはうれしいところだ。本体の重量は2.7kgとオリジナルの1073モジュールほどで、なかなかどっしりとしている。パネルの色使いも1073と似た風合いで、思わずニンマリしてしまう。
フロント・パネルには正面左の電源スイッチからHi-Z入力に対応するDIイン(フォーン)、48Vファンタム電源やEQイン、DI入力切り替え、LOW-Zのスイッチ群がスタンバイ。そしてマルコーニ・タイプの赤いライン/マイク・ゲイン、3バンドEQと続く。スイッチやマルコーニ・タイプのノブはカチカチと小気味好く、気持ち良いトルク感。EQノブは粘り感のある操作性で、1073と似た手触りだ。EQはLFが55/220Hz、MFが350 or 700Hz/1.6kHz/3.2kHz、HFが10/16kHzを選択可能。MFは内部基盤上のジャンパー・ピンを差し替えて、周波数帯域を350Hzか700Hzに変更できる。そのほかアウト・ゲイン、フェイズ・スイッチを装備し、パワー・インジケーターと4連のレベル・メーターも用意する。
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![▲360と700の部分にあるジャンパー・ピンを差し替え、MFの周波数帯域を変更可能]()
▲360と700の部分にあるジャンパー・ピンを差し替え、MFの周波数帯域を変更可能[/caption]
リア・パネルはラインとマイク入力端子(XLR/フォーン・コンボ)を1系統ずつ用意。出力端子はXLRとフォーン端子を各1基搭載する。
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![▲リア・パネル。入力端子はマイク・インとライン・イン(XLR/フォーン・コンボ)を装備。出力端子はXLRとフォーンが用意されている]()
▲リア・パネル。入力端子はマイク・インとライン・イン(XLR/フォーン・コンボ)を装備。出力端子はXLRとフォーンが用意されている[/caption]
メーカーの説明によると1073のクラスAディスクリート構成の3ステージ・ゲイン・アンプを完ぺきに再現しているという。BC184トランジスターをはじめ、カップリングにタンタル電解コンデンサー、フィルタリングやスタビライザー的な用途にはスチロール・フィルム・コンデンサーなどを採用。オリジナルのプリアンプ・トーンと同様に、精密な電気特性や長期的な安定性の確保を実現している。もちろんトランスが搭載されており、マイク入力はCARNHILL VTB9045M、ライン出力には同社VTB2514を装備。
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![▲上から見た内部基板。左上にある銀色のボックスが、マイク入力トランスのCARNHILL VTB9045M。右下に搭載されている赤いボックスは、ライン出力トランスのCARNHILL VTB2514だ]()
▲上から見た内部基板。左上にある銀色のボックスが、マイク入力トランスのCARNHILL VTB9045M。右下に搭載されている赤いボックスは、ライン出力トランスのCARNHILL VTB2514だ[/caption]
デフォルトではターミネーション抵抗を接続してビンテージ機器のような倍音が加わるように調整してあるが、内部基板上のジャンパー・ピンを外してターミネーションを解除すると、倍音を抑えたクリーンな音質にもできる。
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![▲JP1に挿さったジャンパー・ピンを抜くと、倍音を抑えたクリーンなサウンドに変化]()
▲JP1に挿さったジャンパー・ピンを抜くと、倍音を抑えたクリーンなサウンドに変化[/caption]
現代の音楽にマッチしたキャラクター
倍音豊かで抜けてくるクリアなサウンド
それでは実際に使ってみよう。まずはバイオリンの坂本尚史さんとアコギの福西健実さんからなるインストゥルメンタル・デュオ、multipleにご協力いただいた。NEUMANN U67を使用し、NEVE 1073とPreq-73の聴き比べを実施。内部ジャンパー・ピンはすべてデフォルトの状態で行う。
最初にバイオリンをテスト。1073はとてもスムーズかつ中域にコシのあるサウンドで、一歩前に出る音像といったイメージだ。一方Preq-73は、音像が引き締まり天井高が伸びた印象。中域は1073と比べて若干タイトになっており、倍音豊かでキメ細かく、みずみずしいサウンドを持つ。音像は前に出てくるというよりは抜けてくる感じで、繊細かつスピード感のある演奏のニュアンスをしっかり録音できた。
アコギは繊細なアルペジオや力強いカッティングといった演奏であったが、Preq-73はボディの響きを豊かに抑えながらもスピード感があるサウンド。1073のエネルギーを全面に押し出して音楽をしっかりと構築するイメージに対して、広帯域でバランスの良い音質でとてもリアルだ。そうともなると、指で弦をこする音が強調されてしまう一面もあった。
続いてはエレキベース。協力してくださったのは、超絶テクのスラップ・ベースでおなじみ、Teatro Raffinatoの下野ヒトシさん。1073は腰が強く、整った低域の美しさに中高域が加わって音像が前にググッと押し出される。一方、Preq-73はどっしりとした重みを持ちながらもしっかりと引き締まった低域で、音像がビシッと決まった。かなり原音に忠実で、エモーショナルな中に細やかで正確な音調を有している。ここでEQを使用したところ、どの周波数においても滑らかに効く。LFにおいては55Hzというかなり自分好みの周波数帯域だったので、コントロールしやすく感じた。強いて言えばハイパス・フィルターが欲しいところではある。完成度の高い機材だけにその点は惜しく思った。
セッションの関係上1073との比較はできなかったのだが、ドラムとボーカルにも使ってみた。デモ機が1ch分だったので、ドラムは正面から約1.5m、高さ約80cmのポイントにNEUMANN U87Iをセット。1073だと音の塊のような力強いサウンドが出せるマイキングだが、Preq-73は高解像度で各パーツのディテールがはっきりと再現された。最適なレベルからゲインを1ステップずつ上げていくと、キックなどの低域パーツは音が破たんすることなく迫力が増してくる。音像は決して張り付く感じではなくタイトな印象で、ドラマーのエモーショナルさもしっかりキャプチャーしてくれる。
ボーカルは倍音豊かながらも、クリーンで前に抜けてくる印象。1073ではHFを上げて倍音感を出したいような場面でも、EQを使わずにざらついた倍音感を演出してくれて、とても良い感じ。ラグジュアリーで深々しい質感は、例えるならビロードのようだ。
クローン・モデルはオリジナルの良いところを再現しつつ、最新の技術で現代の音楽にアジャストしたものと、オリジナルの再現を追求したモデルの2通りがあると思う。Preq-73は前者のタイプで、今後新しい名機になり得るポテンシャルを十分に感じた。この手のクローン・モデルで気になるのが、オリジナルとの比較だろう。しかし機材は長年使っているうちに部品が劣化してしまうため、果たして出荷初期の性能が維持されているかという問題がある。一度劣化が始まってしまった機材を完全に元の状態に戻すことは簡単なことではない。このようなことを考えるとPreq-73は最新の技術で作られている新品の製品なので、誰にでも安定して使える良質な機材だと言える。
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(
サウンド&レコーディング・マガジン 2018年12月号より)