ノイズ・リダクションのエンコード特性で
コーラス・パートなどに倍音を加える
アナログ・テープ世代のエンジニアにとってDOLBY Type Aは無くてはならなかった、必需アイテム。いかに原音忠実にテープ・ノイズを少なく、テープ・レコーダーに録音させるかという、テープ・ノイズ・リダクション機器でした。マスター・レコーダーに使用する場合はDOLBY Model 361やステレオ・タイプのDOLBY Model 363がポピュラーで、電源部と操作するためのスイッチやノブが付いているだけ。Type A自体はカードになっていて、それを機器のスロットに差し込んで使うという仕組みでした。マルチトラック・レコーダーの場合はトラック数分だけスロットを持ったモデルがあったり、最終的にはテープ・レコーダー本体の中に内蔵されるようになりました。
Type Aのようなノイズ・リダクションは、アナログ・テープ録音で避けられない“サーッ”とか“シィーッ”というテープ・ヒス・ノイズを低減するものです。テープ・ヒスは一定のレベルで発生するので、小さい音で録音して大きい音で再生すればヒスが強調されてしまいますし、高域が落ちている音源を録音して再生時に補正して高域を持ち上げると、いっそうノイズは大きくなってしまいます。そこで、録音時に小さい音は大きくして、高域は強調して録音し、再生時にその逆を行い、テープ・ヒス・ノイズを低減するのです。Type Aでは単純にEQやレベル補正(エンコード)をするわけでなく。帯域や瞬時の音に対してエンコードするので、実際には圧縮伸張とエンファシス(強調)をしていることになります。ですので、ノイズ・リダクション機器には必ずエンコードとデコード、両方の機能があり、録音時と再生時に必要でした。
しかし、本来無意味なことですが、実際にエンコードした音をデコードせずに聴くと、エンハンサーをかけたような音になります。一般的なエンハンサーとの大きな違いは、存在しない倍音を加えるのではなく、原音を強調したり、レベルをいじるだけ。つまり実存する音だけを加工しているのです。
これで、皆さんもお気付きかと思います。このエンコードされた音を、今回のDopamineが生み出すのです。これを任意のトラックに“エフェクトとして”使用します。本来のノイズ・リダクションとしての機能は無いので、間違えないようにしてください。
筆者も昔はミックスの際に必ずと言っていいほど、アー・ウー・コーラスにはType Aをかけていました。メイン・ボーカルや、いろいろな楽器などにも使っていた記憶があります。当時は、エンハンサーよりもナチュラルにかかるEQのようなニュアンスで使っていました。センドでType Aに送り、原音に足してあげると、オケの中に潜りがちな“アー、ウー”の倍音がよく聴こえて、前に浮き出てきます、若干シンセっぽくなって、ヒューマンさが軽減し、オケによくなじむのです。
DOLBY Type Aの再現に加え
中低域にガッツが出るDBX 180タイプも
さて、久しぶりにType Aのサウンドを体験してみます。Dopamineは2つのモードがあります。筆者にもなじみのあるDOLBY Model 361と、同様のノイズ・リダクションであったDBX 180です。
操作はいたって簡単です。361、180共にDRY(原音)、WET(エフェクト音)のレベル調整のノブと、±15
dBのLEVELノブを装備。361のみ、圧縮伸張とエンファシスの度合いをCOMPというノブで調整できます。実機でいうインプットのレベルに当たると考えられます。
そして、361モードの面白い部分として、カートリッジをType A(プラグイン上ではA-TYPE)からボーカルに特化したNOISE STRESSORと交換できること。カートリッジ部分をクリックすると入れ替わります。
361モードから感じるのは懐かしさと、素晴らしいさです。まず、A-TYPEをボーカルに使ってみました、WETだけを聴くとかなり加工した音ですが、原音といい具合に混ぜると、オケの中では非常にナチュラルかつ一歩前に出た感じになり、あたかも生まれもって素晴らしい倍音を持った、“ボーカリストになるべき人”のような声に大変身するのです。ここでA-TYPEからNOISE STRESSORに変更してみると、原音と混ぜたときに余分な中低域のダブツキが無くなり、よりシャープになります。
また、180モードのサウンドは明らかに361モードとは違います。A-TYPEより中低域にエンファシスがかかったようなサウンドで、よりガッツが感じられました。筆者にとってはこのくらい野蛮なサウンドは非常に好印象です。試してみたのはリズム関係のループやキック。正直、常習性を秘めている“危ない感じ”です。もはや依存性すら感じます。ベースで試してみても、真空管のドライブさせたサウンドに近いのですが、スピード感が失われずに、ソリッドでありながら存在感が増すイメージです。
筆者のスタジオにあるModel 361の実機と比べましたが、Type Aに関してはほぼ実機と同じサウンドと言い切れます。見事にエミュレートされていて、筆者としてはそれだけでワクワクしてしまいました。
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![▲361モードではカートリッジ交換も再現。カートリッジ部分を押すと本体内に吸い込まれ、もう一つのカートリッジが飛び出してくるというギミックも用意されている]()
▲361モードではカートリッジ交換も再現。カートリッジ部分を押すと本体内に吸い込まれ、もう一つのカートリッジが飛び出してくるというギミックも用意されている[/caption]
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サウンド&レコーディング・マガジン 2017年9月号より)