振幅ロスを減少させたウーファー
指向性と定位が改善されたツィーター
まずはユニットを見ていきます。ゼロから開発された新しいウーファー・ユニットは、軽量化と高剛性を実現し、過大な振幅でも分割振動を起こすことなく、リニアな動作を保つことが可能なハニカム構造を採用。高効率かつセルフ冷却機能を持つ磁気回路、振幅ロスの少ないエッジ、ダンパー・システム、そして新形状のフレームなど、新たな技術が多く使われています。S3Vのミッドレンジ・ドライバーは、ドーム型とコーン型の利点を組み合わせたハイブリッドなデザインの“DCH”と呼ばれる新型。優れた指向性、少ないひずみ、高能率、そしてフラットな周波数特性を実現しています。ツィーターは、新たに設けられたアルミ削り出しによるカスタム・デザインのウェーブ・ガイドにより、指向性および音像定位が改善され、スイート・スポットもより広くなっています。
アンプは、90%以上の効率で働き、従来のAB級アンプに比べて少ないエネルギーによる駆動が可能なICEパワー・アンプ(クラスD)をウーファーに採用。ツィーターには、超高域の信号が増幅可能な点や優れた音色のサウンドを得られるという理由でAB級アンプを採用しています。S2V/S3H/S3Vのツィーターは最大で300kHzまでフラットな特性を誇る50Wの低ノイズAB級パワー・アンプを搭載。ちなみにS5HとS5Vのツィーターにはよりパワーが必要なため、100Wの最新世代ICEパワー・アンプ(クラスD)を採用しています。
次にコントロール部分ですが、ADAM初のDSPが搭載されました。最適にチューニングされたクロスオーバーによってさらに優れた周波数特性/ダイナミック・レンジ/解像度を実現。有機ELディスプレイが搭載されており、全体のレベル・コントロール、低域用と高域用の2バンドのシェルビングEQ、6バンドのパラメトリックEQを、画面を見ながら設定します。プリセットは5つあり、そのうち2つはメーカーによって設定されたものです。1つ目は工場出荷時のデフォルト・チューニング“Pure”という設定で、非常に正確な周波数特性とのこと。2つ目は“UNR(Uniform Natural Response)”と呼ばれるADAM独自の設定で、ダイナミックで自然な特性を提供するプリセットになっています。これら2つは書き込み不可ですが、残りの3つは書き込みができるので、ユーザー設定のメモリーとして使用することが可能です。
入力端子はXLRとAES/EBU、出力端子はAES/EBUです。背面に備わっているオプション・スロットには、拡張用にRJ45端子も用意されています。
EQをかけても不自然さは無く
音量の大きさによるバランスの崩れも無い
まずは7インチのウーファーとS-ARTリボン・ツィーターの2ウェイ機、S2Vを試聴しました。SSL SL4000Gのメーター・ブリッジに乗せ、DSPのプリセットはメーカー推奨のPureに設定。再生された音は、タイトな低域とクリアな高域で、これまでのADAMスピーカーの印象とは違う音ですね。誤解を生じるといけないので先に言いますが、とても良い音です。新開発のウーファーとツィーターによって、SXシリーズに代表される“ふくよかで柔らかい低域と伸びた高域”という従来のADAMスピーカーの印象とは別路線に進化しています。次にプリセットを変え、UNRで聴いてみました。こちらはPureとは違ったキャラクターで、立体感のある音作りです。
次に、3ウェイ構成のS3Vを聴きました。音の印象はS2Vと同じ路線で、そのままワイドレンジになったイメージです。まず、コンソール・トップで試聴してみると、音色はダブつくこともなく、とても良いバランスで鳴ります。少し離れた場所にスタンド置きしたところ、リスニング・ポイントの距離が離れたことでバランスが崩れたので、DSPのEQで調整を行いました。EQをかけたことによる不自然さもなく、少しの設定でしっかりと反応します。
DSPで正確な周波数特性の調整が行えるS2V、S3Vは音楽のジャンルを選ぶことなく、クラシックからひずみの多い極悪なサウンドまで、オールラウンドに使えるスピーカーです。低域の長さの表現が的確なので、ROLAND TR-808系の打ち込みキックやMOOG系アナログ・シンセ・ベースでも誇張することがありません。最小のS2VでもSPLは120dB(ペア)にもなり、また音量の大小でバランスも崩れないので、リズム録りからミックスまでこなす数少ないモニターの選択肢になると思います。
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![スクリーンショット-2017-06-21-13.15.41(シャープ)]()
▲S2Vのリア・パネル。上から、OLEDディスプレイ、プッシュ・ボタン/ロータリー・エンコーダー、XLR入力端子、AES3入力端子、AES3出力端子、USB端子、オプション・スロットが並んでいる。USB端子は、専用のソフトウェアを使ってコンピューターの画面上からDSPを制御可能になる予定(近日対応)[/caption]
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![スクリーンショット-2017-06-21-13.16.06(シャープ強)]()
▲S3Vのリア・パネル。入力端子などの並びはS2Vと同じで、オプション・スロットは左側に配置されている[/caption]
撮影:川村容一
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(
サウンド&レコーディング・マガジン 2017年7月号より)