多彩な変化を作るMAGNUM COMPと
3kHzに焦点を当てたK COMP
一目でMAAG AUDIO製品と分かるライト・ブルーをまとった1Uの筐体に、2種類のコンプレッサー、EQ、ソフト・リミッターを備えたMagnum-K。まずフロント・パネルの左端がインプット・セクションだ。最大-12dBのINPUT ATTNと最大+12dBのINPUT GAINを備え、十分なヘッドルームを確保した上でコンプレッサー・セクションに適切な信号レベルで送れるようになっている。
続いて1つ目のコンプ回路であるMAGNUM COMPセクションでは、COMP RANGEという聞き慣れないパラメーターが存在する。これは、スレッショルドを超えた信号に対して“最大○dBの幅で抑え込みをしますよ”というリダクション量の設定をするノブである。このCOMP RANGEで設定した範囲内において、どのくらいの比率でリダクションするかをコントロールするのが、その隣にあるRATIO。実際に使ってみると、COMP RANGEの微調整をするような感覚であった。また、RATIOを大きくすることでハード・ニー的な効果も得ることができ、これら2つのノブだけでも幅広い調整が可能である。すぐ右で青く光るLEDライトは照度でリダクション具合を表すのだが、予想以上に反応が把握しやすかった。
ATTACK/RELEASEノブの横にはFB/FF(フィードバック/フィードフォワード)切り替えスイッチがある。反応の速いFFの方が入力信号の挙動に機敏に反応するため、現代的でしっかりとしたコンプレッサーとして動作する。一方、FBは反応がゆったりとしており、ビンテージ・コンプレッサーのようにスムーズで自然なコンプレッションが得られる。とにかくこのMAGNUM COMPセクションのノブの組み合わせだけでも、多彩なバリエーションを作り出すことができる。
音質は非常にナチュラルな傾向で、強くかけてもいわゆる“コンプくささ”は目立たない。音像がしっかりと凝縮されて“グッと前に来る感じ”が得られる。しかし、帯域レンジが広く中域に偏り過ぎないので暴れた感じになりにくいといった印象だ。コンプレッションを強くかけることにより適度なサチュレーション効果を得ることはできるが、音色を生かしたままの圧縮を実現可能にしている。
それでもコンプレッション時にはボーカルやギターなどのピーキーな帯域が増長されることもある。それに対応するのが2つ目のコンプレッサー、K COMPだ(写真①)。K COMPはエッジーで耳障りな3kHzに焦点を当てたコンプレッサーで、THRESHOLDノブのみで調整する。絶妙なかかり具合で割と簡単に嫌な部分を抑えることができ、音像に落ち着きを取り戻すのに有効である。
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![▲写真① K COMPは3kHzにフォーカスしたコンプで、主にハーシュネス(とげとげしさ)やエッジがかった成分、シビランスなどを抑える場面に有効だ]()
▲写真① K COMPは3kHzにフォーカスしたコンプで、主にハーシュネス(とげとげしさ)やエッジがかった成分、シビランスなどを抑える場面に有効だ[/caption]
中低域と超高域をコントロールする
PARALLEL EQ2セクション
フロント・パネルの右半分には、2バンドのPARALLEL EQ2セクションがある。ここでは前述の2種類のコンプレッサーを通っていない、インプット・セクション直後の信号を扱っている。PARALLEL EQ2セクションを通過した信号は、フロント・パネル右端のMAKE UP GAINの手前でMAGNUM COMPおよびK COMPを通った信号とブレンドされる。これにより、コンプレッションで失われるクリアさを補ったり、低域や高域の暴れを軽減することが可能である。LMFおよびAIR BANDは特定周波数にフォーカスした最大12~17dBのメイクアップ・ゲインとして動作する。特に音の“実の部分”となる中域ではなく、ハイエンドを積極的にコントロールしようというAIR BANDの発想は、非常にエンジニア的だと思われる。なぜならば、音像をよりリアルに伝えるためには“できるだけ大きなキャンパスが必要”であり、エンジニアは少しでも帯域レンジを広くしたいと考えるからである。このAIR BANDはそんなエンジニアの欲求を満たしてくれると言えよう。さらに、40kHzをよりブーストすればするほど、はるか下の帯域(200~300Hz辺り)まで上がってくるので、聴感上においても立体的な変化を感じ取れる。
そして、最終段にはSOFT LIMITが備わっており、出力直前で信号のピークを抑えることができる。このピーク管理機能はDAWと組み合わせる際、信号を取り扱う上で非常に有効だ。パネル上にあるすべてのノブはクリック式なので2ミックス・バスやマスタリングでの使用も問題ないだろう。
MAAG AUDIOの設立者でレコーディング・エンジニアのクリフ・マーグ氏。恐らく現場における彼の熟練の知識と経験が、このMagnum-Kにしっかりと反映されているのであろう。いたずらに多機能なわけではなく“入り口から出口まで”信号を大切に取り扱うための厳選されたセクションが、論理的に組み合わされているさまは、好印象であった。それは“チャンネル・ストリップ的”であり、コンプレッサーとしてはほかに類を見ないであろう。まさに、我々エンジニアにとって“かゆいところに手が届きまくる”万能コンプレッサーと言える。この自由度の高さゆえに音源を選ばず、どんな状況でもフレキシブルに対応できるのでレコーディング、ミックス、マスタリングなど、どんな場面でも積極的に使える製品だと感じた。
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![▲リア・パネル。左より電源端子、LINK(TRSフォーン)、SIDECHAIN EXT OUT(XLR)、INPUT(XLR)、OUTPUT(XLR)、INPUT(XLR)]()
▲リア・パネル。左より電源端子、LINK(TRSフォーン)、SIDECHAIN EXT OUT(XLR)、INPUT(XLR)、OUTPUT(XLR)、INPUT(XLR)[/caption]
撮影:川村容一
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サウンド&レコーディング・マガジン 2017年7月号より)