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「ARTURIA MatrixBrute」製品レビュー:マトリクスによる柔軟な音作りに対応したアナログ・モノシンセ

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フィルター・セクションには Steinerとラダー・タイプの両方を用意

MatrixBruteは“プログラマブル・アナログ・モノフォニック・シンセサイザー”です。回路構成は、オーディオ経路がアナログで、ソレ以外はデジタルというハイブリッド仕様。VCOは3基あり、最初の二つはノコギリ波、矩形波、三角波、そしてサブオシレーター波形が用意され、各波形を任意でミックスすることが可能になってます。つまり1つのオシレーターで同時に異なった波形を使えるという意味ですが、うれしいことに、各波形にはウェーブ・シェイピングが行えるノブが用意されているのです。ということは、波形を組み合わせるという以外に、ノブを動かす=倍音構成の変化という選択肢が加わるので、たった一つのオシレーター・セクションだけでも膨大な波形を生成できるし、音次第ではこのセクションだけでかなり追い込むことさえ可能。実際にこのノブの効果は絶大で、例えばノコギリ波に用意された“Ultrasawノブ”の場合、微妙なレベルから大胆にまで、音にハリや厚みを加えることができ、これは使えると思います。なおVCO3は波形選択だけですが、LFOモードを持つので、第3のLFOとして使うことも可能です。VCO以外の音源だと、ホワイト、ピンクに加えてレッド、ブルーまで4種類のノイズが用意されているのが珍しいです。これだけでもARTURIAのシンセに対する意気込みを感じさせてくれますね。ノイズは重要ですよ。 VCO/ノイズ・セクションから出力された信号はミキサーを経由し、VCFに入ります。おっと、音源はもう一つ、外部入力も対応してます(拍手!)。MatrixBruteのVCFは2種類あり、1つは1970年代に開発されたSteinerフィルターで、他方はラダー・フィルター(いわゆるMOOGタイプ)です。いずれもオリジナル回路をベースにしつつ、DriveやBrute Factorと呼ばれるARTURIA独自のパラメーターを追加したスペシャル仕様になってます。 Driveはご想像のとおりひずみを加えるもの。対してBrute Factorはほかのパラメーターとの兼ね合いがあるので単純に“こうなる”とは説明できませんが、ノブを回すにつれ特定のキャラが強調される感じ。例えばレゾナンスを付加したバンドパスやハイパスだと表情が激変する(スピーカーを飛ばさないように注意!)という、病みつき度の高いパラメーターです。もう一つ特筆すべきは、このフィルター構成を直列、並列に使えるという点ですね。それぞれ12dBと24dBを切り替えられるので、24dBを直列にして48dBのローパス・フィルター!なんてことも可能になります。これ、かなり重要です。さらに、ミキサー側でVCOの出力先を指定できるので、VCO1はSteiner+VCO2はラダーや、VCO1と2がSteiner+ノイズはラダーなどといったアサインも可能で、もはやモジュラー・シンセと言える仕様です。 VCFの後はVCAになり、多くのシンセがそうであるように、MatrixBruteもENV1がVCF、ENVがVCAに内部接続されているので、ENV2で音量コントロールが行えます。なお鍵盤はベロシティ対応なので、設定次第では鍵盤タッチでパラメーター・コントロールも可能です。 MatrixBruteは最終段のエフェクト・セクションもアナログです。ディレイ、コーラス、フランジャー、さらにリバーブが用意されており、“てことは、スプリング搭載か?”と早合点しましたが、すべてBBDというアナログ遅延素子を利用した回路でした。リバーブはちょっと不思議なルームという質感で、1970年代のアメリカB級テレビや映画を想起させてくれます。   [caption id="attachment_67976" align="alignnone" width="655"]▲フロント・パネル。左上にあるVCO1、VCO2は“Bruteスタイル”オシレーターで、それぞれにサブオシレーター、ウェイブ・シェイパーを搭載。VCO3は、サイン波、三角波、ノコギリ波、矩形波を内蔵し、オーディオ・ソースとして使えると同時に、モジュレーション・ソースとしても使用可能。その下に複雑なサウンドを生み出すAUDIO MODセクションがある。VCOの右にミキサー・セクションがあり、その隣がSteiner-Parkerとラダー・タイプの2基のフィルターがあり、間にマスター・カットオフ・ノブを備える。そして下にLFO、右に3基のENV(エンベロープ・ジェネレーター)がある ▲フロント・パネル。左上にあるVCO1、VCO2は“Bruteスタイル”オシレーターで、それぞれにサブオシレーター、ウェイブ・シェイパーを搭載。VCO3は、サイン波、三角波、ノコギリ波、矩形波を内蔵し、オーディオ・ソースとして使えると同時に、モジュレーション・ソースとしても使用可能。その下に複雑なサウンドを生み出すAUDIO MODセクションがある。VCOの右にミキサー・セクションがあり、その隣がSteiner-Parkerとラダー・タイプの2基のフィルターがあり、間にマスター・カットオフ・ノブを備える。そして下にLFO、右に3基のENV(エンベロープ・ジェネレーター)がある[/caption]  

多彩な機能に対応した 16×16のマトリクスを搭載

さてここからは、MatrixBrute最大の特徴であるマトリクス・パネルの解説です。まずこのパネルには3つの役割があります。最初はプリセット切り替え。256個のボタンがそのまま256音色とリンクしているので、直接ボタンを押すことで、ただちにその音色へ飛ぶことができます。ボタンを押した直後、わずかにタイムラグがありますが、つい最近のOSアップデートで前より速くなったそう。今後に期待しましょう。 もう一つがモジュレーション・パッチ・ベイ。シンセサイザーにおける音作りの要であるモジュレーションを行うためのパネルになります。縦列がAからPまで16種類のソースで、横列は1から16まで16種類のディスティネーションになっており、LFO1でVCO1のピッチを揺らしたいのなら、E列のLFO1と1列のVCO1 Pitchとの交点のボタンを押し、Mod Amountノブでアマウントを設定するだけ。これは面白い! 複数の行き先にかけることもできるし、もちろんそれぞれアマウントを設定することも可能。どのソースがどのデスティネーションに接続されているかがすぐ分かるのもいいですね。当然演奏中にボタンを押せばオン/オフすることもできるので、さながらモジュラー・シンセのパッチ・コードを抜き差しする感覚のようです。複数の行き先にかけていても、ターゲットとなるボタンがどれなのかが色の違いで判別できるし、そのアマウントもディスプレイに表示されるので非常に分かりやすいです。 個人的に感動したのが、アサイナブル・デスティネーション。変調先は16種類あるのですが、12種類はあらかじめ決められています。残りの4種類は自分で登録可能。例えばエフェクトにあるDryとWetをLFO1で変調したいのなら、まず13ボタンを押しながらDry/Wetツマミを回すと登録ができます。あとはLFO1と13の交点のボタンを押し、アマウントを設定します。さらにビックリなのは、この設定自体もデスティネーションとして登録できる点です。モジュレーション・ホイールを上げていくとLFO1によるDry/Wetの切り替えの深さが変わるようにしたいのなら、まず先ほどの13ボタンを押しながら14ボタンを押すことで登録がされます。そしてH列のホイールと14列の交点ボタンを押すことで実現できるのです(E13のアマウントは0にします)。13ボタンの上あたりにあるディスプレイには“13 FX Dry Wet”“14 ModAmount E13”と表示されるので、付せんに書いてパネルに張り付けたりする必要もありません。この一連のスマートさには唸らされました。 変調はすべてマトリクスというわけではありません。本機にはあらかじめオーディオ・レートでのモジュレーション系だけ、パネルにノブが用意されてます。種類はVCO1でVCO2、VCO3でVCO1かVCO2、VCO3でVCF1かVCF2、ノイズでVCO1かVCF1の4つ。これらを単一、または同時に使うこともできるので、鐘系のFMサウンドなどから複雑な倍音を含むパーカッション・サウンドまで幅広い音作りがパッチを使わずに即座に可能になります。あえて即戦力として使えるよう、パネルに設置し、さらに複雑なモジュレーションを行いたいならマトリクスをどうぞ、というわけですね。良いアイディアです。 そして3番目の用途は、シーケンサー/アルペジエイターです。最初に言ってしまうと、このシーケンサーはとてもよく練られてます。期待していいですよ。まずシーケンス・モードにすると4機能×16列が4段になっているので、最高64ステップのシーケンスを作れます。4つの機能は音階、アクセント、スライド、モジュレーションがあり、当然それぞれの数値をステップごとに設定可能。ステップ数は任意で決められ、タイも“ここからここまで”と、2点間のボタンを同時押しするだけで設定完了。超クールです。アクセントはVCF-VCAに、スライドはグライドにそれぞれ連動してます。なのでタイをつけて“タカ・キュー・タカ・ピコ”なんてパターンがすぐにできますが、これにさらにモジュレーションも追加することも可能です。例えばこのパターンにオーディオ・モジュレーションをかけ、“タガ・ギュー・ギャガ・キン”なんて手動では不可能なことも実現できてしまいます。このときの入力方法がマニア泣かせで、対象となるステップを呼び出すとその音階の音がなり続けるので、この状態でノブを変化させて音を聴きながら設定、完了したら次のステップへ移動という、丸っきりアナログ・シーケンサーの世界が展開できます。作ったシーケンスの保存も可能だし、そのとき使っている音色も一緒に保存するかしないかの選択も行えます。以上はシーケンサーとして使った場合ですが、アルペジエイターとしての使い方は、鍵盤を押さえるだけで構成音階を繰り返してくれます。正、逆、ランダムなど一般的なことは全部できます。さらにユニークなのは、シーケンサーとアルペジエイターを一緒に動かすことが可能な点です。16ステップ、4音までの構成音を3オクターブの範囲で展開し、なおかつシーケンサーの機能も併用できるというもの。いろいろな使い方が考えられますが、シーケンサーで組んだパターンを鍵盤からの信号で移調できる、なんていうのも一つです。これも往年のアナログ・シーケンサー・マニアなら欲しかった機能ですね。   [caption id="attachment_67975" align="alignnone" width="624"]▲16×16のボタンを備えたマトリクス。複雑なモジュレーションの設定(モジュレーション・ソースとディスティネーションをそれぞれ16種類アサイン可能)や、64ステップのシーケンサーの生成、256種類のプリセットの呼び出しをボタン操作ひとつで行うことができる ▲16×16のボタンを備えたマトリクス。複雑なモジュレーションの設定(モジュレーション・ソースとディスティネーションをそれぞれ16種類アサイン可能)や、64ステップのシーケンサーの生成、256種類のプリセットの呼び出しをボタン操作ひとつで行うことができる[/caption]  

さまざまな入出力ポートを備え 外部マシンと柔軟に接続可能

MatrixBruteは拡張性もすごいです。まずニヤリするのが、CV入出力ポートでしょう。マトリクス・パネルにはあらかじめVCO1 Pitchから12のパラメーターがデスティネーションとして用意されています。例えばLFO1でVCO1のピッチにパッチしたとき、リアのVCO1 Pitchのポート・アウトからはLFO1の信号が出てくるのです。逆に手持ちのモジュラー・シンセのLFOでこのポート入力に接続すると、MatrixBruteのVCO1のピッチを揺らすことができます。ほかにもSync IN/OUTやGate IN/OUTもあるので、外部シーケンサーやリズム・マシンなどとのリンクも柔軟に対応することが可能です。他方、デジタル信号の扱いも盤石で、パネル上のノブやスライダー、ホイールはMIDIを介して送受信することができるので、DAWにノブやホイールの動きを記録したり、ほかのシンセのコントローラーとして使えるというわけですね。またUSBポートを介してパソコンと接続し、MIDIコントロール・センターを起動させればプリセット・サウンドを並べ替えたり、交換したりというマネージメントをはじめ、MIDIフィルターの設定や、アルペジエイター信号をDAWに記録したり、文字どおり八面六臂な働きを追加することもできます。 シンセサイザーで多彩な音を作ろうとするなら複雑なモジュレーションとの関係が切り離せませんが、多くのシンセが採用するLCD表示だと、全容がつかみにくいのが悩ましいことでした。しかしこの問題を、MatrixBruteは、マトリクス・パネルを切り替えるという大胆とも思える発想で克服しました。単体のシンセサイザーとしては言わずもがな、拡張性の高さも兼ね備えているのがウリですから、システムの中核として使うのも良いはずです。 MatrixBruteは“簡単である”とさんざん繰り返しましたが、購入してすぐはなかなか難儀するかもしれません。それだけに、慣れてくれば手放せなくなるツールになると思いました。   [caption id="attachment_67977" align="alignnone" width="624"]▲リア・パネルには、左からマスター・アウト、インサート・センド/リターン(以上フォーン)、CVイン/アウト×12(ミニ・ジャック)、インプット(フォーン)、インプット切り替えスイッチ(Inst/Line)、ゲイン・ノブ、オーディオ・ゲート(On/Off)、ゲート・イン/アウト、シンク・イン/アウト(以上ミニ・ジャック)、エクスプレッション1/2(フォーン)、サステイン(フォーン)、メモリー・プロテクション(On/Off)、MIDI IN/OUT/THRU、USB B端子、電源スイッチを備える ▲リア・パネルには、左からマスター・アウト、インサート・センド/リターン(以上フォーン)、CVイン/アウト×12(ミニ・ジャック)、インプット(フォーン)、インプット切り替えスイッチ(Inst/Line)、ゲイン・ノブ、オーディオ・ゲート(On/Off)、ゲート・イン/アウト、シンク・イン/アウト(以上ミニ・ジャック)、エクスプレッション1/2(フォーン)、サステイン(フォーン)、メモリー・プロテクション(On/Off)、MIDI IN/OUT/THRU、USB B端子、電源スイッチを備える[/caption]   撮影:川村容一   link-bnr3サウンド&レコーディング・マガジン 2017年7月号より)

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