アナログ・シンセの基本を押さえながら
独自の機能を加えたぜいたくな仕様
いそいそと梱包を解いてみると、まず意外だったのはその重さ(約8kg)。49鍵で奥行きもそれほどないボディにしてはズッシリくる。ハンドリングに関しては軽い方が助かるのが本音だが、なぜかこの意外なズッシリ感がうれしい。BEHRINGERというとその圧倒的なコスト・パフォーマンスの反面、多少チープな作りの部分もあるのかな……というこちらの失礼な先入観をまずいきなり覆してくれた。この“重さ”には、シャーシや電源部もしっかりしているだろうという、ハード自体に対する期待ももちろん含まれる。
DeepMind 12は、BEHRINGERが作った初めてのシンセサイザーとなる。49鍵、リアル・アナログ(モデリングではない)の12ボイス・ポリフォニック・シンセに4スロットのエフェクト、32ステップのシーケンサー&アルペジエイターを持つ。各ボイスあたり2つのVCO、2つのLFOに3つのエンベロープ・ジェネレーターという、コンベンショナルかつかなりぜいたくな仕様である。
パネル・レイアウトは大変分かりやすい。基本はアナログの音作りの流れ通りに左から右へ並んでおり、中央にディスプレイとモードなどの集中コントロールがある。その隣にデータ・ダイアル、4方向キー。そして鍵盤左にはマスター・ボリュームとポルタメント・コントロール、ホイール×2がまとめてあるという非常に使いやすく実戦的なレイアウトだ。各セクションは、代表的なパラメーターのスライダーが分かりやすく並び、細かいエディットをするにはそのセクションのEDITボタンを押してディスプレイを見ながらの操作、というこれもまた非常に使いやすい作りになっている。日本語のクイック・ガイドとPDFの英文説明書を見ながらのテストだったが、音作りに関してアナログの基本を押さえているユーザーならばまず問題なく入り込めるだろう。
オシレーターを見てみよう。OSC1はノコギリ波と矩形波(パルス幅可変)の2つ。OSC2は矩形波をベースにしながらTONE MODというパラメーターがあり、倍音の変化をスライダーでコントロールできるようになっている(画面①)。また、OSC1に対してOSC2は独自にピッチ設定ができ、シンクも可能だ。
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![▲画面① DeepMind 12のディスプレイは、触れたパラメーターに連動して切り替わる。この画面中央ではOSC2のTONE MODとLFOによる矩形波パルス幅の変化の様子が表示されている。画面下部は3系統のエンベロープ・カーブ]()
▲画面① DeepMind 12のディスプレイは、触れたパラメーターに連動して切り替わる。この画面中央ではOSC2のTONE MODとLFOによる矩形波パルス幅の変化の様子が表示されている。画面下部は3系統のエンベロープ・カーブ[/caption]
VCFは、4ポール/2ポールの切り替えなのがうれしいローパス。カットオフもレゾナンスも、リアル・アナログらしい切れ味だが、変なクセもなく使いやすい。フィルター専用のエンベロープをセクション内に持っており、ボタンひとつで逆相にすることもできるのは筆者好み! また、独立したハイパス・フィルターと、BOOSTボタンも実装する。このBOOSTは、ローパス→ハイパスの順に追い込んでキャラクターを作って行った音色へ、最終的に低域をプラスする機能。一見矛盾するような作りだが、実戦に即した“かゆいところに手が届く”機能だと感じた。
VCAは、特にパラメーターを持たないシンセが多い中、DeepMind 12はしっかりレベルが独立して付いている。実はこれには理由があったので、後述する。
エンベロープは普通のADSR型だが、トータルの効きのカーブを3種類から選べるのがミソ。かなりタッチが変わってくるので、試してみてほしい。
モジュレーション・マトリクスは8系統
TC伝統のものを含むエフェクトを搭載
さて、ここまでは割とぜいたくな仕様とはいえ、ごく普通のアナログ・シンセという成り立ちであるが、DeepMind 12には、各セクション間でごく普通にかけられる代表的な変調とは別に、ソース8系統、デスティネーション8系統のモジュレーション・マトリクスがある。この内容というのが膨大なシロモノで、ソースが22種類というのはまだ“お!やるな!”レベルなのだが、デスティネーション先がなんと122種類! ビックリを通り越してもうゴメンなさいするしかない感じである。何しろ、パンやエフェクトの細かい設定まで、ほとんど考えられるすべてのパラメーターが対象になっているのだから。下手なモジュラー・シンセでは太刀打ちできないパッチの幅を持っていると言えるだろう。また、こうして徹底的に可能性を追い込んだ上で、よく使う代表的な変調に関してはパネル上のスライダーですぐイジれるという点も心憎い。
ここでちょっとエフェクトを見てみよう。BEHRINGERの親会社であるMUSIC GROUPはTC ELECTRONICとKLARK TEKNIKを傘下に収めたのだが、DeepMind 12にはその資産が最大に生かされている。TC ELECTRONIC NovaシリーズやG-Systemで聴き覚えのある気持ちの良いリバーブ/ディレイなどをはじめ、エフェクトは総計なんと34種。それを最大4つ、並列にも直列にも組み合わせて使える。面白いところではMOOGのVCFにそっくりな“Mood Filter”、ちょっと聴いたことがない味わいの“VintagePitchShift”、思わずアラン・ホールズワースに手を合わせたくなる“Decimator Delay”など、後述するエディターからいじっていると時間を忘れて楽しんでしまうエフェクトが目白押しだ。
先ほど、VCAのセクションにレベルが付いていると書いた。ちょっと説明しておくと、DeepMind 12はリアル・アナログ・シンセサイザーだが、お分かりの通りエフェクト部分はDSPによる処理である(トゥルー・バイパスが可能)。なので、エフェクトへの入力で信号がひずんでしまうことがある。よくできたモデリング・シンセだと、こちらが意図しないひずみを避けるような演算をする。一方、“セクション間で意図しないひずみが出る可能性がある”というのはまさにリアル・アナログなシンセである証拠でもあるのだが、それを最も手っ取り早く解決する方法は、VCAの出口であるボリュームを調整できるようにしておくことなのだ。今回、プリセット音の幾つかにかなりレベル突っ込み気味に作ってある音色があったので気付いたが、そういうわけでVCAのレベル、大事なのである。
Wi-Fiルーターを内蔵し
タブレット+エディターとワイアレス接続
DeepMind 12は、専用エディター・ソフトが無償提供されている(Mac/Windows/APPLE iPad/Android対応:画面②)。これがまた大変便利かつ面白い出来だ。筆者はiPadで接続してみた。接続はWi-Fiで、DeepMind 12がホストになるので特にルーターは必要としない。まず、DeepMind 12のGLOBALページでNETWORK設定をAccess Pointに、Wi-FiをEnableにする。すると、iPad側のWi-Fi接続先にDeepMind 12が現れるので、これを選択し、DeepMind 12のディスプレイに表示されているパスワードを打ち込む。しばらくして認証されると、Wi-Fiでシェイクハンドされる。
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![▲画面② DeepMind 12のエディターのOverview。本体ではEDITを押して階層に入らなければアクセスできないパラメーターも表に出ている]()
▲画面② DeepMind 12のエディターのOverview。本体ではEDITを押して階層に入らなければアクセスできないパラメーターも表に出ている[/caption]
エディターは非常に高機能。シンセ全体のパラメーターを見渡せるOverview、音色管理をするPreset Manager、4つのプリセットを混ぜる(!)ことができるPreset Blenderのほか、Effects、Control Sequencer、Arpeggiator、Settingsという7つのページから成る。
何と言っても面白いのはPreset Blender(画面③)。正方形のパッドのコーナーにプリセットが1つずつアサインでき、指一本でブレンドがコントロールできるのだ。今まで、2音色間のモーフィングとかはあったが、Blenderは4音色。しかも、楽器側のレスポンスが非常に速いので、演奏しながらグリグリ動かしてもバッチリ追従してくるのが楽しい。願わくばバージョン・アップで、指のモーションをレコーディングできるようになるとなお良し!
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![▲画面③ Preset Blender画面。指定した4つのプリセットを任意のバランスでミックスすることができる]()
▲画面③ Preset Blender画面。指定した4つのプリセットを任意のバランスでミックスすることができる[/caption]
Effectsページも大変分かりやすく、一度エディターを使ってしまうと本体でコントロールするのが面倒になってしまうほど。シーケンサー/アルペジエイターについてここまで触れられなかったが、最大32ステップでゲート・タイムやパターンを選んだりできる。これもやはりエディターからのコントロールが本命だろう。
アプリに対する本体側の反応が速くスムーズで、没頭していると、よくできたソフト・シンセをいじっているような錯覚に陥ることが何度もあった。これがリアル・アナログ・シンセなのだから良いこと尽くめと言っていいと思う。
音色のキャラクターとしては、オシレーター/フィルター共に“これがリアル・アナログだ!”的な太さや押し付けがましさはなく、エディターを使っている際はつい、よくできたモデリング・シンセを扱っているような気になるほど、破たんが無い。しかし、エンベロープやモジュレーションを生かしたダイナミックな音作りになると、一変してアナログらしいにじみや揺れ、膨らみなどが感じられ、生き生きしてくる。
DAWやソフト・シンセしか知らない世代にとっての最初のリアル・アナログ・シンセサイザーとしても良し、ベテランが追い込んでもなかなか使いきれない奥の深さも良し。そんなDeepMind 12の実勢価格は、なんと118,000円+税だから驚きだ。
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![▲リア・パネル。接続端子は右側に集中している。順にアウトプットL/R(TRSフォーン)、ヘッドフォン(ステレオ・フォーン)、サステイン・ペダル(フォーン)、ペダル/CV(TRSフォーン)、MIDI IN/OUT/THRU、USB(MIDIクラス・コンプライアント)]()
▲リア・パネル。接続端子は右側に集中している。順にアウトプットL/R(TRSフォーン)、ヘッドフォン(ステレオ・フォーン)、サステイン・ペダル(フォーン)、ペダル/CV(TRSフォーン)、MIDI IN/OUT/THRU、USB(MIDIクラス・コンプライアント)[/caption]
撮影:川村容一
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(
サウンド&レコーディング・マガジン 2017年7月号より)