T4Bオプティカル・ユニットや
TUNG-SOLの真空管を採用
WA-2Aは、オプティカル動作の真空管コンプレッサーの名機を再現しています。機種名からして、恐らくTELETRONIX LA-2Aをモデルにしているのでしょう。LA-2Aは過去にも数多くのクローン機が生産されていますが、オリジナルはもとよりクローンも長きにわたって活躍していることから、その設計および音楽的な音色、コンプレッション動作は定評のあるものです。
WA-2Aのフロント・パネルは、仕様/デザイン共にオリジナルにほぼ準じていると言ってよいでしょう。視認性の高い大きめのVUメーター、アウトプット・ゲインやピーク・リダクションのノブ、VUメーターに何を表示させるかを切り替えるためのノブ、電源スイッチなどが共通しています。コンプ/リミッターの切り替えスイッチは、オリジナルのリアではなく、フロントに配置。最も頻繁に操作するアウトプットやリダクションのノブは小刻みなノッチ式で、マーキングすれば精度の高いリコールが可能でしょう。触れてみると高級感があり、良いパーツを使っていることがうかがえます。リアにはメーター・アジャスト用ノブ、PRE-EMPHASISノブ(後述)、ステレオ・リンク用のノブなどを配置。入出力はバランスですが、それぞれにXLRとTRSフォーンの両形状が用意されており親切です。
オプティカル・コンプの音質/動作を大きく左右するオプティカル・アッテネーターには、現行品としてはベストと言えるKENETEK T4Bを使用。マニュアルにも表記されている通り、ビンテージのT4と互換性があるので、もしパーツが手に入ったらそのまま差し替えて音色や動作の違いを楽しむことができます。真空管は、シグナル・パスにTUNG-SOL製の十分なクオリティのものが使用されており、こちらもほかのものに交換して音色変化を楽しむことができます。なおマニュアルは英文ですが、互換球の情報も丁寧に記載されています。このマニュアルは素晴らしい内容ですので、日本語訳されたものもぜひ読んでみたいと思いました。
WA-2Aはオリジナルの回路構成を忠実に再現しているそうですが、電源部の真空管をパーツ供給の関係で一部6P1(現行品)に変更しています。天板から内部をのぞくと、1つ空きの真空管ソケットが配置されています。不思議に思っていたところ、LA-2Aで使われている真空管6AQ5をそこに挿すことで、オリジナルと完全に同じ回路にできるそうです。その場合、初めから挿さっている6P1を抜かないと故障してしまうので注意が必要なのですが、ここまでこだわってオリジナル回路への選択肢を用意していることに敬服しました。入出力には共にCINEMAG製のカスタム・トランスが使われており、音質への配慮がうかがえます。
本機はパーツや回路構成、仕上げなどにおいて、コスト面における妥協は全く感じられません。価格を考えると驚くべきことですが、生産ロットや宣伝費を削減することでこのコスト・パフォーマンスを実現しているとのこと。素晴らしい企業努力だと感じました。
しっかりかけてもつぶれた感じが無く
つやのあるミッドローが実に魅力的
それでは肝心のサウンドをチェックしていきたいと思います。今回は、女性ボーカルの録音にてテストの機会がありましたので、本機を使ってみました。マイクはNEUMANN U67、プリアンプとしてNEVE 1073を用いています。一聴して感じるのは、真空管オプトコンプらしい滑らかな音色。しっかりかけてもコンプくささは皆無で、つやのあるミッドローが非常に魅力的です。ひずみ感は少ないものの倍音は豊かで、扱いやすいと思います。またメーターのかかりよりも、ピークは抑えられている印象です。
続いてミキシングでも試してみます。ウッド・ベースにしっかりとかけてみたところ、かなり良い感じでまとめてくれました。あらゆるソースに言えることと思いますが、本機はアウトプット・ゲインを上げめにして使うことで本領を発揮します。メーターをアウトプット監視に切り替えて確認しつつドライブ感を調整すると、良い結果が得られるでしょう。
ここでリアのPRE-EMPHASISを調整してみます。これはサイド・チェイン・フィルターに近い機能で、反時計回りに動かしていくとローへのコンプレッションが浅くなるとともに、高域へのかかり具合が深くなっていくようです。このノブではかなりの音色変化が得られるのでサウンド・メイクに有効なのですが、惜しいのはリアに配置されている点で、ぜひこれはフロントに持ってきてほしかったところです。そのほかギターやストリングスなどでも素晴らしい音を聴かせてくれました。難しい操作も無く簡単に良い音が出せますので、初めてアウトボードのコンプを購入する方へも安心してお勧めできます。価格のことを抜きにしても、非常に完成度の高いコンプ/リミッターです。
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![▲リア・パネルには左から、メーター・アジャスト・ノブ、PRE-EMPHASISノブ、ステレオ・リンク・ノブが並ぶ。続いてステレオ・リンク端子、ライン・アウト、ライン・イン(共にXLRとTRSフォーンが1つずつ)がレイアウトされている]()
▲リア・パネルには左から、メーター・アジャスト・ノブ、PRE-EMPHASISノブ、ステレオ・リンク・ノブが並ぶ。続いてステレオ・リンク端子、ライン・アウト、ライン・イン(共にXLRとTRSフォーンが1つずつ)がレイアウトされている[/caption]
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![▲WA-2Aの内部。写真中央の黒いユニットがオプティカル・アッテネーターKENETAK T4Bで、左隣にはCINEMAGのトランスが入出力に1つずつ配置されている。これらを囲むように4本直立しているのはカバーの付いた真空管だ。写真右手前の真空管の左側には、モデルとなったLA-2Aの真空管6AQ5を差し込むための空きスロットが用意されている]()
▲WA-2Aの内部。写真中央の黒いユニットがオプティカル・アッテネーターKENETAK T4Bで、左隣にはCINEMAGのトランスが入出力に1つずつ配置されている。これらを囲むように4本直立しているのはカバーの付いた真空管だ。写真右手前の真空管の左側には、モデルとなったLA-2Aの真空管6AQ5を差し込むための空きスロットが用意されている[/caption]
製品サイト:
http://www.warmaudio.com/tube-opto-compressor-wa-2a
(
サウンド&レコーディング・マガジン 2016年9月号より)