クリアながら芯のある内蔵マイクプリの音
メイン・アウトはワイドな音像が特徴
Studio 192 MobileはMac/Windowsに対応したオーディオI/Oで、USB 3.0接続のモデルです。同社Studio 192のモバイル版ということで、筐体の外形寸法は317(W)×44.45(H)×178(D)mmと少し小さめ。入出力数はアナログ4イン/6アウトで、2つのマイク/ライン・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)や2つのライン・イン(TRSフォーン)、6つのライン・アウト(TRSフォーン)を備えています。またこれらとは別途、ヘッドフォン・アウト(TRSフォーン)を装備。DAW環境にボーカルやギターを取り入れて制作している人がメイン・ターゲットなのでしょう。また入出力の仕様(周波数特性やひずみ率など)はStudio 192と同等の数値なので、可搬性のために音質を犠牲にしていることも無さそうです。
アナログ入出力のほかは、ワードクロック(BNC)やS/P DIF(コアキシャル)、ADAT×2(S/MUX対応)などの入出力を装備。同社DigiMax DP88のようなADATイン/アウトを持ったAD/DAコンバーターと接続することで、最大18イン/18アウトのアナログ入出力を追加できます。この価格帯で18イン/18アウトもの拡張性を持ったオーディオI/Oは、珍しいと思います。
今回はBRIDGETのボーカル、草川瞬君に協力してもらい、制作中だった楽曲の録音に使ってみました。まずは筆者がよく使うNEUMANN M149 Tubeをマイク・インに接続。普段はオーディオI/Oのアウトをキュー・ボックスに送ってモニタリングしてもらっていますが、ヘッドフォン・アウトの確認も兼ねて、ブースの中までケーブルを引き回してモニタリングしてもらいました。
内蔵のXMAXマイクプリのゲインや極性、ファンタム電源のオン/オフは、本体のフロント・パネルや無償のミキサー・ソフトUC Surface(Mac/Windows/iOS)、S1のミキサーからリモート・コントロールできます(ほかのDAWからでもMIDIで制御可能)。マイクプリのサウンドは、ひずみが少なく、非常に透明感がある印象。いつも歌録りに使っている機材群と比べてもそう思いますし、若干太さが増す感じもありました。女性ボーカルやアコースティック・ギターにも試してみたい音質です。ゲイン幅は±0〜+60dBで、1dBステップのデジタル・コントロールができるため、リコールにも便利。オーディオI/Oの内蔵マイクプリは、カーブにくせがあって調整しにくいと感じられるものもあります。そのイメージがあったので、本機のマイクプリには良い意味で裏切られました。
次は出力をチェックします。メイン・アウトの音像は少しワイドな印象。本体フロントの大きなボリューム・ノブには適度なトルク感があり、調整しやすいです。ヘッドフォン・アウトは、単体のヘッドフォン・アンプにも負けない高出力。インピーダンスの高いヘッドフォンも十分にドライブできるので、声量のあるボーカリストもモニタリングの際に重宝するでしょう。草川君いわく“キュー・ボックスからのモニター音よりも圧倒的にノイズが少なくモニターしやすい”とのこと。筆者が所有しているPRESONUSのモニター・コントローラーCentral Stationと似た、適度にパンチのあるサウンドなので、レコーディング時のテンションも上がりやすいですし、色付けが少ないのでヘッドフォン・ミックスにも十分使える印象です。
DSP駆動のFat Channelを
Studio One上で閲覧/エディット可
さて本機には、UC Surface上で扱えるチャンネル・ストリップ=Fat Channelを駆動させるためのDSPが備わっています。なのでUC SurfaceとDAWを同時に立ち上げて、UC Surfaceを“ポストセンド”に設定すれば、Fat Channelのかけ録りも可能。かけ録りをしない場合も、Fat Channelのかかった音をニアゼロ・レイテンシーでモニタリングしつつ録音できます。DAWがS1の場合、このFat ChannelをS1から閲覧/エディットすることが可能。インサート欄の上に“Fat Channel”と書かれた青いタブが出てくるので(
画面①)、ダブル・クリックすればエディットできる状態になります。こうした連携により、DSPを意識せずにDAW上でニアゼロ・レイテンシー・モニタリングできるのは特筆すべき点でしょう。
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![▲画面① DSP駆動しているFat Channelは、Studio Oneのインサート欄の上に青いタブとして表示される(画面上部)。またキュー・ミックスの送りには“Z”マーク(赤矢印)が付いており、ニアゼロ・レイテンシーでモニターできること示している]()
▲画面① DSP駆動しているFat Channelは、Studio Oneのインサート欄の上に青いタブとして表示される(画面上部)。またキュー・ミックスの送りには“Z”マーク(赤矢印)が付いており、ニアゼロ・レイテンシーでモニターできること示している[/caption]
S1のProfessionalもしくはArtistグレードには、ネイティブのプラグインとしてFat Channelが備わっています。これを録音後のトラックに挿して“Link to DSP”スイッチを押すと、DSPで動かしていたFat Channelの設定をコピーできます。モニター音だけにFat Channelがかかっている場合、プレイヤーから“録り音をプレイバックして”と言われても、録り音は完全にドライなので、そのまま再生すると違和感があったりします。ですが、録りのモニターで使ったFat Channelの設定をS1ミキサーにインサートしたFat Channelにコピーできるため、すぐに録音時と同じ音質でプレイバックできるわけですね。
本機を使ってみて、マイクプリの音質や入出力の拡張性などハード面にも心を奪われました。しかし最大の利点は、S1と連携することで、AVID Pro Tools|HDXなどをほうふつさせる低レイテンシー・モニター環境をリーズナブルな価格で構築できることだと感じました。
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![▲リア・パネルには左から、USB 3.0端子(バス電源非対応)、ADATアウト×2、ADATイン×2、S/P DIFイン/アウト(コアキシャル)、ワードクロック・イン/アウト(BNC)、メイン・アウトL/R、ライン・アウト×4、ライン・イン×2(以上、TRSフォーン)が装備されている]()
▲リア・パネルには左から、USB 3.0端子(バス電源非対応)、ADATアウト×2、ADATイン×2、S/P DIFイン/アウト(コアキシャル)、ワードクロック・イン/アウト(BNC)、メイン・アウトL/R、ライン・アウト×4、ライン・イン×2(以上、TRSフォーン)が装備されている[/caption]
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サウンド&レコーディング・マガジン 2016年9月号より)